売り手市場続く

 今朝の日経新聞で、新卒就職戦線の近況が報じられていました。

 日本経済新聞社が14日まとめた2019年度採用状況調査で、主要企業の大卒採用の内定者数(19年春入社)は18年春入社実績比で1.4%増だった。8年連続の伸びだが、業務の自動化を進める銀行は16.1%減だった。半数の企業で内定者数が計画を下回り、とくに陸運などサービス業は計画未達が相次ぐ。学生の売り手市場が続き、理工系人材が争奪戦になるなど人材確保はさらに難しさを増している。
(平成30年10月15日付日本経済新聞朝刊から)

 これに続いて業界別の状況が記載されているのですが、銀行が採用を減らしているという話が詳しく書かれているのに続いて「業種別で最も充足率が低かったのは陸運。…福山通運グループは計画の300人に対し、内定が57人と充足率は2割弱。」「百貨店・スーパーの充足率も0.4ポイント減の88.9%だった。食品スーパーのサミットといなげやはいずれも計画を4割下回った。」「外食・その他サービスも充足率が89.3%にとどまった。和食料理店を展開する木曽路の充足率は2割。」など、苦戦する業界の紹介が続いています。まあ、時期的に考えても採用力の高い業界・企業は早々に必要数を確保していて、公務員からの進路変更組や留学帰国組などの分を残してほぼ撤退していると想定され、現状も採用活動を実施しているのは基本的に厳しいところだというところでしょうか。いずれにしても学生さんには選択肢が拡大し良好なマッチングが実現しているということでしょうからご同慶です。
 企業面では理系人材が特に好調と書かれています。

 2019年度採用状況調査では、理工系の大卒内定者数が18年春入社実績比で約6%増え、7年ぶりに文科系を上回った。自動運転やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」など次世代技術の広がりを背景に、大手製造業が理工系を積極採用する。好調な技術者派遣もけん引した。文科系は業務の自動化を進める大手銀が採用を絞っており、技術革新が採用の姿を変え始めた。
(平成30年10月15日付日本経済新聞朝刊から)

 ということで、日経電子版では理系の博士課程修了者も就職が好調だとも伝えられています。

 「博士、求む」――。理系の就職前線に変化の兆しが見えてきた。これまで博士の採用に消極的だった企業が、一転して採用へと動き始めている。グローバルな競争が激化し、新規事業などをおこすために即戦力となる優秀な人材が必要になってきたからだ。大学も10年ほど前から企業で博士にイノベーションを創出する能力を身につけさせる教育に力を入れてきたことも企業の採用を促している。分野にもよるが「博士に進むと就職できない」という声は、あまり聞かなくなってきた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36273030Z01C18A0000000/(有料ご容赦)

 これに続いて「大学も10年ほど前から企業で博士にイノベーションを創出する能力を身につけさせる教育に力を入れてきた」といった努力が紹介されているわけですが、まあやはり理系人材が不足しているという供給不足の要因が大きいのではないかという感はあります。学士、修士で充足できなければ博士にも手が伸びるというわけですね。もちろん大学や院生さんの努力で博士の就職力が高まっているということもあると思います。
 私として注目したいのは、これまで博士をあまり採用してこなかった企業が博士を採用することで、それに応じて人事管理が高度化していくのではないか、というところです。能力面でも意識面でも博士と修士はかなり異なるでしょうから、それに適した人事管理も違ってくるでしょう。ここのノウハウがうまく獲得・蓄積されて効率的な人材活用が可能になれば、この先も継続的に博士の就職が堅調に続くことが期待できるだろうと思われます。
 逆に、それでやはりうまくいかないということになると、景気が後退して研究開発投資を絞らざるを得なくなり、理系人材の採用も縮小のやむなしになった時に、博士から採用を減らすということになりかねないだろうとも思われます。おそらくは博士は修士より多様性も高いと思われ、そこへの対応がポイントになりそうな気がします。

「架空の労働者」

 朝日新聞DIGITALが昨日こんな記事を配信していたのですが…

 働き方改革関連法で企業に求められる「同一労働同一賃金」について、厚生労働省は10日、派遣社員の待遇を比較する派遣先の労働者の具体案を公表した。まずは同じ仕事などの正社員としたが、最終的に対象となる人がいなければ、派遣社員と同じ仕事をする正社員を雇ったと仮定した待遇の「架空の労働者」でもよいとした…
https://www.asahi.com/articles/DA3S13717540.html

 続きは有料(残り:358文字/全文:507文字となっておりますな)なのでなにが書いてあるかわからないのですが(笑)、まあこの具体案がすばらしいという話ではなかろうなとは思いますが…。
 さてこれは記事にあるように10日に開催された厚生労働省の第12回労働政策審議会職業安定分科会/雇用・環境均等分科会同一労働同一賃金部会という長い名称の会合に提出された「派遣先から派遣元への待遇情報の提供について」という資料について報じたものです。
 具体的には、改正労働者派遣法26条条7項・8項でこう定められています。

7 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第一項の規定により労働者派遣契約を締結するに当たつては、あらかじめ、派遣元事業主に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。
8 前項の「比較対象労働者」とは、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする者に雇用される通常の労働者であつて、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるものをいう。

 ここで連呼されている「厚生労働省令で定めるところにより」をどう定めるのか、という提案になるわけですね。特に重要なのは8項の最後の「その他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるもの」であり、前段で例示されている「通常の労働者であつて、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるもの」は典型例として、「その他」をどうするのか、という議論になるわけです。
 これに関しては、前段で例示するような比較対象労働者が存在すればいいのですが、現実には多くの企業・職場ではここまで典型的な比較対象は存在しないだろうことは容易に想像されるところでしょう。一方でではいないから仕方ありませんで済ませることも政治的になかなか難しかろうというも思われるわけで、これに関しては過去このブログでも懸念を表明しておりました。

…特に「当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。」との定めについては国会審議の中で「比較対象労働者は存在しないということは認められない」との政府答弁があったようでかなり困るだろうと思います。現実にはいないものはいないわけですからねえ。
働き方改革関連法案、成立」2018-07-11

 さて実際の国会でのやりとりはどういうものだったかというと、具体的には5月18日の衆院厚生労働委員会でのこうしたやりとりです。

○高橋(千)委員 …派遣労働者の均等待遇の問題なんですね。…不合理な待遇差を解消するための規定の整備とありますけれども、派遣労働者と派遣先の労働者の均等・均衡待遇を実現するためには、派遣先事業主から比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報を得る必要があります。
 派遣先の企業は、情報の提供を拒むことはできません。拒むと派遣労働者を受け入れることができないというふうに書いています。だけれども、派遣先が、比較対象労働者はうちにはいないよというのを情報として提供した場合はどうなるでしょうか。
○宮川政府参考人 情報提供に係る比較対象労働者につきましては、均等・均衡待遇規定の実効性を高める観点からは、職務内容等が派遣労働者と近い者とすることが考えられますが、他方で、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであるとして、職務内容が類似する派遣先の労働者が存在しないケースがあるなど、派遣労働の実情を踏まえたものにする必要がございます。
 比較対象労働者につきましては、厚生労働省令で定めることとしておりますが、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更範囲が当該派遣労働者と同一である者がいない場合に情報提供が不要になるわけではなく、そのような者がいない場合には、職務の内容は派遣労働者と同一であるが、職務の内容及び配置の変更範囲は異なる労働者ですとか、職務の内容は派遣労働者と異なるが、職務の内容及び配置の変更範囲は同一である労働者などに関する情報提供を義務づけることが考えられます。
 このため、お尋ねのように、派遣先が、比較対象労働者がいないという情報を提供することは認められないこととなると考えておりまして、いずれにいたしましても、比較対象労働者につきましては、改正法成立後に、労働政策審議会における議論を経た上で考え方を明確にすることとしておりますが、職務の内容等が類似する派遣先の労働者がいない場合にも、不合理な格差が解消されるよう取り組んでいきたいと思っております。
○高橋(千)委員 まず、認められないという答弁をいただきました。これは確認をしたいと思います。…
(国会会議録検索システム 衆 - 厚生労働委員会 - 20号 平成30年05月18日)

 ということで、政府答弁(当時の宮川晃厚生労働省雇用環境・均等局長)は「職務内容が類似する派遣先の労働者が存在しないケースがある」「職務の内容は派遣労働者と同一であるが、職務の内容及び配置の変更範囲は異なる労働者ですとか、職務の内容は派遣労働者と異なるが、職務の内容及び配置の変更範囲は同一である労働者などに関する情報提供を義務づけることが考えられます」と具体的に述べたうえで「比較対象労働者につきましては、改正法成立後に、労働政策審議会における議論を経た上で考え方を明確にすることとしております」と回答しており、まさにこの回答どおりのことが行われているといえると思います。
 それでもなお私などはいないものはいないよねえと思っているわけです。そもそも、労働者派遣の意義のひとつとして「社内には必要な能力を有する人がいない場合に、それを確実に持つ人材を迅速に確保できる」というマッチング効率化があるわけで、こうした場合には特に「比較対象労働者」といっても簡単ではないというのは見やすい理屈ではないかと思います。
 このあたりを整理したのが今回の資料ということと思われ、「比較対象労働者については、省令で次のとおりとする。」として、こう提案しています(例によって丸付数字(機種依存文字)は括弧付数字に変更しています)。

(1) 「職務の内容」並びに「職務の内容及び配置の変更の範囲」が、派遣労
働者と同一である通常の労働者
(2) (1)に該当する労働者がいない場合には、「職務の内容」が派遣労働者
同一であるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」は同一でない通常の労
働者
(3) (1)・(2)に該当する労働者がいない場合には、(1)・(2)に掲げる者に準ずる労働者
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 そして、(3)についてはさらに詳細にこう書かれています。

派遣労働者と「業務の内容」、「責任の程度」のいずれかが同一である通常の労働者
イ アがいない場合には、「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同一である通常の労働者
ウ ア・イがいない場合には、これらに相当するパート・有期雇用労働者
エ ア~ウがいない場合には、派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 ということで資料には一切「架空」なる語は出てこないのですが、この「エ」をさして朝日新聞は「架空の労働者」と称しているのでしょう。まあたしかに実在するわけではないので架空には違いないとは言えますが、しかしさすがにそこは厚労省もさるものであってこう注記しています。

…当該労働者の待遇は、派遣先の待遇の実施基準に従って決定したものであり、派遣先の通常の労働者との間で適切な待遇が確保されている必要がある。
…労働者の標準的なモデル(新入社員、勤続○年目の一般職など)を比較対象として選定することが考えられる。
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 つまり、必ずしも賃金に限った話ではありませんが、賃金を例にとれば、通常の労働者に適用されている賃金制度を適用し、同一の職務に従事させる場合に想定される雇用管理区分・勤続年数における標準的なモデルの賃金、ということになるでしょう。人事管理の実情からすれば一般的にはむしろ勤続年数ではなく企業内資格を使うのが実態に即しているかもしれません。
 もちろん、ほとんどの場合は責任の範囲やキャリアの見通しなどについては通常の労働者とは相違があるでしょうからそれをふまえた均衡判断ということになるわけでしょうが、しかしこれ実在のパート・有期を比較対象にするより有利なんじゃないかなあ(もちろん実在のパート・有期を比較対象にする場合には通常の労働者との均衡が確保されていることが前提になっているわけですが)と思わなくもない。まあないものをどうしても出せと言われればこうでもするよりないよなという話であり、架空といえば架空ですがなにも資料に使われてないことばをあえて使って報じるようなことかとは思う。というか、実在者の労働条件を開示するよりモデルのほうがはるかにマシという部分もあるのであり、当然ながら今回の一連の議論でも実在者の処遇を開示する際には個人情報としての取り扱いに十分に注意すべきみたいな話は繰り返されてはいるわけですが、しかし職場レベルのミクロな話であって簡単に特定できてしまうケースというのも多いんじゃないかと心配にはなるわけです。もちろん労働条件のすべてが開示できないわけではなく、求人情報としての労働条件はむしろ正確かつ幅広く開示することが望ましいというのが世の中の流れだと思いますが、しかし個人レベルとなると話はまったく別なわけで。この話とは直接関係ありませんが説明義務との関係では人事評価の結果まで開示しなければならないのかとか、実務家は心配しているんじゃないかなあ。
 ということでバックグラウンドにある諸般のあれこれを考慮すれば今回の厚労省の資料は概ね妥当だろうと思います。思いますが、しかし「派遣先との均等・均衡」という筋悪な道に踏み込んでしまったせいで不要な手間がすいぶんかかる破目になっているなあともしみじみ思う。「派遣元での均等・均衡」という本来あるべき筋にとどまっていれば、これもこれ以外のあれこれもみんなしなくてすんだ苦労なわけですよ。まあ派遣労働者にしてみれば気になるのは実際に就労している派遣先職場の人たちでしょうし、したがって政治的にこうならざるを得なかったのだというのもよくわかる話なので、誰を責めるというつもりもないのですが…。

「設備投資か外国人か」フォロー

 読者の方から、10月9日のエントリ「現実は「設備投資か外国人か」ではないのでは?」でご紹介した自動調理機「ロボシェフ」が、なんと同じ日(10月9日)のNHKの朝のニュース「おはよう日本」で報じられていたとの情報をいただきました。ありがとうございます。

ベテラン料理人の味 “助っ人マシン”が再現(動画へのリンクもあります)。

 私は朝はテレ東のモーニングサテライトを見ているのでおは日は見ないのですが、ウェブで見るかぎりではその後の配膳機の話もふくめて大変わかりやすい情報提供と思いました。まあ、先日書いたようにロボシェフは遅くとも2007年に展示会に出品されていてそれほど新しいものではなく、配膳の自動化に至ってはすでに天下の加賀屋が1981年と1989年に導入している先進事例として有名)わけなのでなんか今更だなあという気もしますが、まあ外食産業が人手不足対策としてバックヤードの機械化を進めているということは世間ではあまり知られていないのかもしれません。できればユーザーだけではなくメーカーも紹介してくれるといいのになあとは思うのですがそこは時間の関係で仕方ないのでしょうか。
 それはそれとして私がおやと思ったのはロボシェフを入れているのが大阪王将だというところで、えっと大阪王将ってアレじゃなかったかしらと思って調べてみたらやっぱりそれでした。2014年9月の記事なのでもう4年以上前ですが、日経新聞のサイトにまだ記事が残っていました。

 人手不足に直面する外食各社が外国人アルバイトの活用を増やすため、教育・研修体制の拡充に乗り出した。中華料理店「大阪王将」のイートアンドは1カ月間有給で教育する制度を導入。牛丼店「すき家」のゼンショーホールディングスは外国人専用の研修施設を設けた。…
大阪王将の外国人アルバイト比率は現在15%。「都市部の直営店に限れば今後30%まで高まる」(同社)とみる。育てた外国人アルバイトは人材確保に悩むフランチャイズチェーン店や「他の飲食店にも紹介する」と文野直樹社長は話す。
…ただ、外国人アルバイトの採用を強化する企業は少数派。…
https://www.nikkei.com/article/DGKDASDZ19HHJ_Z10C14A9TJ2000/(有料ご容赦)

 まあ4年前の記事ですが現状どうかというと、FNNのウェブサイトで10月3日と4日に配信された記事(テレビ放送があったかどうかは不明)でも大阪王将の機械化の話が紹介されていました(https://www.fnn.jp/posts/00402329CXhttps://www.fnn.jp/posts/00402329CX)。大阪王将の広報がんばってるなと思うわけですがそれはそれとして、おは日でも登場した大阪王将の林淳司スーパーバイザーも登場されていて、どうやら大阪王将の外国人活用路線はさらに強化されており、そのための機械化という面もあると説明されています。

(10月3日配信)

 3日のランチタイムも大盛況だったのは、中華の人気チェーン店「大阪王将」。
 人気メニューの1つ、「チャーハン」。
 実は、普通のチャーハンとは違いが。
 ランチ客「おいしいですよ、すごい。(最新のハイテクマシンで作られたんですけど)そうなんですか。これ、鍋で料理人が作ってないの?」、「普通に手で作ってると思いました」…
…これまでは、通常5人から6人で営業していたのが、3人から4人で切り盛りすることが可能になったという。
 大阪王将スーパーバイザー・林淳司さん「都内で言いますと、だいたい8割から9割が外国人の方(スタッフ)で構成されています」
 ハイテク化により、外国人スタッフも即戦力として働いてもらえるようになった。
“職人レス”ハイテク進む 飲食店人手不足に対応

(10月4日配信)

 中華チェーン「大阪王将」で提供される、おいしそうなチャーハン。
 作ったのは、中華なべを自動で振ってくれる装置、その名も「チャーハンマシン」。
 あらかじめ味つけされた食材を鍋に投入するだけで、およそ2分でチャーハンが完成する。
 これまで、5~6人で営業していたが、マシンの導入などで3~4人で回るようになった。
 さらに、もう1つのメリットが。
 大阪王将スーパーバイザー・林淳司さんは「都内で言うと、(従業員の)8~9割が外国人で構成されてます」と話した。
 まだ日本に慣れていない外国人スタッフでも、簡単に調理することができるため、即戦力として働けるようになったという。
 ベトナム出身・勤務歴8カ月のトゥアンさんは「超簡単です。(失敗したことは?)失敗はないです。(完璧?)はい、完璧」と話した。
飲食チェーン“ハイテク化”で対応 増える外国人労働者

 でまあFNNの記事の下にはごていねいにバイトルドットコムの求人広告のバナーがあり、リンク先を見ると「We will assign a job fits you.」「More than 50% are foreigner.」などと呼びかける大阪王将志木店の求人情報などが出てきたりするわけですよ。ほらね、やっぱり現場で起きているのは「設備投資も外国人も」なんですよ。
 この先は同じ話になりますので長々とは繰り返しませんが、要するに大阪王将の餃子1人前241円(関東甲信越エリア)というのはこうやって実現しているわけです。消費者に絶対にそれしか払いたくありません値上げしたら買いませんといわれたら企業も経営者もどうしようもないということは、政策を考える際にも外してほしくないところだとは思います。

日本能率協会コンサルティング『続・企業内研修にすぐ使えるケーススタディ』

 (一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、日本能率協会コンサルティング『続・企業内研修にすぐ使えるケーススタディ-自分で考え、行動する力が身につく』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 1998年刊の続編ということで、今日的な設定に工夫がこらされています。初級~中級監督職の勉強会などでもっとも有効に活用できそうです。
企業内研修にすぐ使えるケーススタディ

企業内研修にすぐ使えるケーススタディ

産政研フォーラム2018秋号

 (公財)中部産業・労働政策研究会様から、同会の機関誌『産政研フォーラム』秋号(通巻119号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
http://www.sanseiken.or.jp/forum/
(まだ最新号は掲載されていませんが、まもなく掲載と思われます)
 30周年記念号とのことで、中部産政研が範をとった産研センターはすでにないわけですが、そんな中でも活動を継続して30周年を迎えられたことはまことにご同慶です。本号ではその記念シンポジウムのもようが紙幅を割いて紹介されています。呼び物の大竹文雄先生の連載エッセイ「経済を見る眼」は「無意識の偏見」と題して、最近話題になった某医大女性差別入試などもふまえながらアンコンシャス・バイアスについて紹介されています。巻末には機関誌の総目次など中部産政研の活動記録がまとめられています。歴代役員の名簿のあとに歴代事務局スタッフの名簿もついているのですが、自動車総連の組織内議員の名前があったりしてははあという感じです。

就活ルール見直しの危うさ

 中西会長会見での見直し発言から1か月そこそこという拙速さもとい迅速さで経団連の採用活動ルール廃止が決まったようです。日経新聞から。

 経団連は9日、大手企業の採用面接の解禁日などを定めた指針を2021年春入社の学生から廃止することを決定した。今の指針は大学3年生が該当する20年入社が最後の対象になる。新たなルールづくりは政府主導となり、大学側や経済界と月内に策定する。経済界が主導するルールがなくなることで、横並びの新卒一括採用を見直す動きが企業に広がる可能性がありそうだ。 経団連の中西宏明会長が定例記者会見で、21年春入社以降のルールはつくらないと正式に表明した。「経団連は会員企業の意見を集約して世に訴えていくのが主な活動だ。ルールをつくって徹底させるのが役割ではない」と説明した。
 指針の廃止に踏み切ったのは、経団連に入っていない外資系企業や情報技術(IT)企業などの抜け駆けが広がり、人材獲得への危機感を抱く会員企業が増えたためだ。中西氏は会見で「会員企業はものすごく不満を持ちながらも(指針を)順守してきた」と話した。
(平成30年10月10日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

 「ルールをつくって徹底させるのが役割ではない」「会員企業はものすごく不満を持ちながらも(指針を)順守してきた」…うーん、1996年に当時の根本二郎日経連会長(日本郵船会長)が就職協定廃止に踏み切った際を思い起こすと、あまりにも既視感の強い議論です。
 以下、ざっと探した限りではいい資料が見つからず私の記憶に大幅に依存した記述なので誤りなどあるかもしれませんのでご容赦願いたいのですが(いい資料があればご教示ください)、当時の根本氏が主張したのも「正直者が損をする事態を看過できない」でした(これは日経の「私の履歴書」に記述がある)し、当時すでに廃止の理由として事業の国際化や通年採用の拡大、日経連非会員企業、特にマスコミに協定を守らせることができないことが上げられていたと記憶しています。とりわけ、「学生に対し企業がルールを守らないのが当然というのは教育上よろしくない」と主張していたのは根本氏らしい主張として印象に残っていますが、それを除けば正直マスコミが外資・ITに代わっただけであとはなにも変わってねえなとの感を禁じ得ないわけです。
 でまあたしかこの時も「通年採用が拡大しているからかつてのような青田買いにはならないだろう」という意見もあったとは思うのですが、実際には周知のとおり翌年から一気に早期化して翌年には新たに倫理憲章の制定を余儀なくされたわけです。
 ということで、日経新聞の記事もこう指摘しています。

…今後は実質的な就活の早期化が進む可能性がある。
 例えば、時期を問わずに学生を採用する通年採用の拡大だ。ソフトバンク楽天などが導入済みだが、リクルートキャリアの調査では、19年卒採用で実施予定の企業は26.3%と、前年実績から7.2ポイント上昇した。
 システム開発などのガイアックスは大学3年生の秋ごろから面接。早い学生は3年生の12月には内定を得ている。…
 経団連は就業体験(インターンシップ)と採用を直結させないよう企業に求めてきたが、こうしたルールもなくなる。今後はインターンを通じた実質的な青田買いも広がる可能性がある。

 実際問題「通年採用だから早期化しない」ではなく「通年採用だから早期化する」というのが現場の実態でしょう。有名な事例としてはファーストリテイリングの「グローバルリーダー社員通年採用」があり、その募集サイト(https://www.fastretailing.com/employment/ja/fastretailing/jp/graduate/recruit/allyear/)を見ると「大学1年生で内定を取得し、ゼミ、部活中心に学生生活を送り、その後、半年間海外留学。7月に帰国して9月に入社」という事例が紹介されています(強調引用者)。ほかにも楽天やらソフトバンクやらIT関連企業に類例が目立つようですね。
 インターンシップについても、やはり有名な事例としてワークスアプリケーションズの入社パス制度(インターンシップを通じてこれという学生には1年生でも希望すれば採用する「入社パス」を付与)があり、早期化をもたらしています。現実にはインターンシップに関しては経団連も「採用を直結させない」ことを求めながらもいわゆる「ワンデー・インターンシップ」を解禁前に実施することは認めていて大学・学生サイドからは「会社説明会となにが違うかわからない」と受け止められており、これで事実上の採用選考を前倒し実施することで先行する外資・ITに対抗しているのではないかというウワサも業界ではしきりにささやかれていたわけです。
 ということで記事にもあるように「大学側からは学生への悪影響を懸念する声が出ている」のはもっともであって大学さんにはご迷惑がかかるでしょうし、学生さんたちも少なくとも混乱はするでしょうし、企業の人事担当者のみなさんも採用の早期化・長期化と、内定者フォローの長期化はまあ避けられないだろうと思われるわけでこれいったい誰が得するんでしょうかねえ。就職/採用コンサルタントの方々にはビジネスチャンスなのかしら。まああれかな、1年生・2年生で三井物産とか東京海上とかの内定を獲得してしまうような就活の猛者であれば、その後は安心して仕事を意識した勉学に励んだり留学したり部活動に勤しんだりできるのかもしれませんが…。
 でまあなんでそうなるのという話ですが、新卒採用/就職マーケットの構造の問題としては、採用力が劣る企業が優れた人材を確保しようとすれば出し抜けを食らわしたり抜け穴を狙ったりしたくなるという話はついこの間も書きました(https://roumuya.hatenablog.com/entry/2018/09/25/181912)ので繰り返しません。それに加えて日経の記事にもありますが、こういう話もあるわけです。

 新卒一括採用は年功序列・終身雇用とあわせて日本独自の雇用システムを形づくってきた。しかし企業活動のグローバル化で海外採用や外国人登用が進み、処遇の公平さなど欠点も目立つようになってきた。足りない人材を中途の即戦力で補う例も増えつつある。中西会長は「政府の新ルールで中途採用に不自由が出るのは困る」と述べた。
 政府は新たな就活ルールづくりと別に、こうした雇用全般のあり方を未来投資会議で議論する方針だ。就活のあり方を再構築するには雇用制度全体を見渡す視点が必要になりそうだ。

 俗に年功序列や終身雇用といった語が用いられるわけですが、ここの核心は内部昇進制ということだろうと思います。少々手抜きですが過去エントリを参照させていただくとして、当ブログの2009年5月11日のエントリ「「一度しか来ない列車」でいいのか」(https://roumuya.hatenablog.com/entry/20090511)からの引用です。

 とりあえず現実をみれば、「各ポストの人員の需要が発生したときに随時、」人事異動や内部昇進といった内部労働市場からの調達が行われるわけです。たとえば、人事部に人事課と労務課があり、人事課に採用係と人事係、研修係があるとする。ここで人事課長ポストがあくと、典型的には3人の係長のうちの誰かが昇進する。3人の係長のうち、人事係長だけは採用係長の経験もあり、他の2人は他の係長の経験がないということなら、人事係長が「順当に」人事課長に昇進する。あるいは、将来的な人事部長候補を育てるために、労務課長が人事課長に異動するかもしれません。このように、人材育成機能を持った内部労働市場での調整がまず行われます。そのうえで、組織規模を維持するなら退職者の分は外部から人材を調達しなければなりませんから、それは必要に応じて新卒や中途で採用することになりますが、内部労働市場(人材育成機能)がうまく働いていれば外部から採用するニーズはエントリージョブに集中しますから、これは上で紹介した以前のエントリで説明したようにポテンシャル重視、新卒・第二新卒中心にならざるを得ません。
https://roumuya.hatenablog.com/entry/20090511

 これが10年近く前の2009年5月の話なんですが現在でもそれほど大きく変わってはいないのかなあ。ただ引用でも「内部労働市場(人材育成機能)がうまく働いていれば」という話なので、たとえば新規分野に進出するとか、新技術を採用するとかいった局面で内部調達ができなければ外部からの採用になるわけですね。それが拡大している(とりわけITまわりで)ことは事実だろうと思います。
 とはいえ内部労働市場もまだそれなりに健在なわけではあり、その人材育成力が競争力の源泉だという企業もかなりの割合で存在するだろうと思われます。となるとエントリージョブにポテンシャルの高い人をという採用ニーズも(少子化で若年人口が減少していくこともあり)引き続き旺盛であろうことも明らかだろうと思われ、それがあるかぎり新卒一括採用も早期化も継続せざるを得ないわけです。そして、これは見落としてはならない観点だろうと思うのですが、未熟練の学生を採用して内部育成する新卒一括採用は新卒者こそが最大の受益者なのであり、それはわが国の若年失業率を他国と比較してみれば一目瞭然であるわけです(ただし新卒採用が不調だとその後の問題が大きくなるという面もあり、それが上記引用先エントリの中心的関心です)。
 ということで「就活のあり方を再構築するには雇用制度全体を見渡す視点が必要になりそうだ」から「雇用全般のあり方を未来投資会議で議論する」のだそうですが、現実の問題としてどうしても新卒一括採用をやめたいというのであれば企業の内部育成・内部昇進もやめなければならないわけで、良し悪しは別として可能ですかという話はあろうかと思う。移行コストが高すぎて現実的でないのではないかと。
 一方で漸進的な変化の結果として新卒一括採用のシェアが縮小していく可能性というのはあるのであり、なにかというと日本企業の(特に大企業の)人事管理の特徴はこの内部昇進制、「中卒者でも叩き上げて工場長に」という「青空の見える人事管理」が、いわゆる正社員を対象として非常に広汎な徹底されているところにあるわけです。これは企業組織が拡大を続ける中ではきわめて有効に機能しましたが、長時間労働をはじめ拘束的な働き方になるという弊害もとみに指摘されるところであり、また近年ではつい先日も書いたようにポストの数を適任者の数が上回っているという人事管理の隘路に(もはや慢性的に)直面していることも間違いないからです。
 その対応策として、現状では内部昇進制に乗らない非正規雇用が増加しているわけですがこれにも弊害はあることから、企業横断的な専門職、しかし現行の非正規雇用に較べれば雇用も安定し、緩やかながらキャリアも労働条件も向上していくスローキャリアの雇用形態などが提案されています。こうした働き方が漸進的に拡大していけば、結果として新卒一括雇用のシェアは低下するだろうとは思われます。
 いずれにしても急激な変化は避けて時間をかけて取り組むことが望ましく、労使でしっかり議論しながら進めていくべきものだろうと思います。でまあ今回は未来投資会議でとか言っているわけですが大丈夫かそれで。もともと政治的には短期的な成果がほしかろうと思われるところ、なんかこれに関する中西経団連会長の言動を見ていると短気をおこしてもといスピーディに結論を出したがりそうな印象があって、未来投資会議みたいな労働者代表が入っていない場でやろうというのは危なっかしいことこのうえない。まあおかしなことをやりだしたら連合も黙ってはいないと思いますけどね。現状に問題があることは事実ですし変化していかなければならないことも間違いないわけですが、急いては事をし損じることも確実だろうと思うわけです。

現実は「設備投資か外国人か」ではないのでは?

 週末の日経新聞にこんな記事が掲載されました。

 吉野家ホールディングスが5日発表した2018年3~8月期連結決算は最終損益が8億5000万円の赤字(前年同期は13億円弱の黒字)になった。主力の牛丼店「吉野家」は増収を確保したが、人手不足を背景にした人件費高騰が響いた。吉野家は外食業界のなかでもコスト全体に占める人件費の割合が比較的高く、人件費上昇が業績に与える影響は大きくなっている。安さを売りにした戦略の限界に直面しつつある。
…人手不足に弱い損益構造を考えると、「業績回復には値上げなど、より踏み込んだ策が必要になるのでは」(国内証券アナリスト)との声もある。
吉野家のシステムを支えてきたのは熟練の店長やアルバイトたちだ。…ただ、店舗の運営に優秀な従業員を大量に必要とするビジネスモデルは「高度経済成長期の豊かな労働力を前提にしたもの」(河村社長)だ。…この逆境をどうはね返すのか。模索が続く。
(平成30年10月6日付日本経済新聞朝刊から)

 なかなか力の入った長文の記事であり、上記は大半を省略していますのでぜひオリジナルにお当たりください(現状https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36212100V01C18A0TJC000/に掲載あり、有料かもご容赦)。今回中間決算のポイントとしては販売は比較的堅調で売上は増収であり、原材料費の高騰などは売上増で吸収して粗利は確保しているものの、人件費など販管費の負担が重く営業利益は97%減、これに不採算店撤退などにともなう特損を計上したことで赤字転落したということのようです。今後は「キャッシュ・アンド・キャリー」型店舗(配膳・下膳がセルフサービスの店舗)の拡大などに取り組むとのこと。
 さてこの記事に対して自民党の安藤裕衆院議員がこうツイートしておられます。

あんどう裕(ひろし)衆議院議員 @andouhiroshi 10月6日

安い人件費で利益を上げるデフレ経済型のビジネスが終わりを告げようとしている。人手不足に対応して徹底的な処遇改善と人材育成、省力化と設備投資に踏み切るか。デフレ経済型のビジネスに執着して安い人件費を求めて外国人労働者に活路を見出だすか
https://twitter.com/andouhiroshi/status/1048013361324032000

 もちろん前者を採用すべきとのご主張だろうと思いますし私も基本的には同意見です。いっぽうで、こうした「設備投資か外国人か」的な単純な二項対立の議論はよく見かけるように思いますが、なんとなく違和感がありますので以下少し書きたいと思います。
 外食産業における「省力化と設備投資」の好事例としてかねてから有名な例として長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」があり、昨年3月にも日経新聞で紹介されていました。

 リンガーハットの店で新たな働き手が活躍している。長崎ちゃんぽんを調理する2つのロボットだ。
 注文をとってから最初に稼働するのが、野菜をいためるドラム型の「自動野菜炒(いた)め機」。キャベツやモヤシ、タマネギなどをいためる時間は1分足らず。ムラなく火を通す。
 野菜の入った鍋はIHヒーターがついた「自動鍋送り機」に乗せられ、右から左に自動で流れる。人が厨房でする作業は、鍋に入れた冷凍麺をひっくり返したり、具材とスープをかき混ぜたりするくらいだ。
 重い中華鍋をふるう負担がなくなったうえ、複数のちゃんぽんを同時につくれるようになった。「昔は1年の修業が必要だったのに、今は1日の研修で済む」。秋本英樹社長は目を見張る。
 ロボットが働く店は全体の9割に達した。設置にそれなりの費用はかかったが、人件費抑制の効果は大きく、2017年2月期の売上高経常利益率は30年ぶりに7%台を突破したもようだ。
 思わぬ副産物もある。ロボ導入は少人数での店舗運営を可能にし、ショッピングモールにあるフードコートへの積極出店を後押しした。フードコート店は右肩上がりで増え、今では全店の過半を占める。
(平成29年3月17日付日本経済新聞朝刊から)

 この取り組みはそれほど最新という話でもなく、2014年には日本生産性本部の企業分析レポート(https://www.jpc-net.jp/analysis_report/ar06_jp.pdf)で詳しく紹介されており、その書きぶりを見るとかなり以前から導入されていたものと推測されます。人手不足感が高まっていった時期であり、機械化でうまく対応した事例といえるでしょう。ちなみにリンガーハットの設備は自社開発のようですが、汎用機化したものもあり(商品名「ロボシェフ」こちらに動画ありhttps://www.mik-net.co.jp/detail/index/id/67/)、これは遅くとも2007年には展示会にプロトタイプが出品されていたようです。ほかにも、麺茹で機とか餃子焼き機とか、探すとあれこれ出てきますね。
 その一方で、上記リンガーハットの企業分析レポートには「同社のパートタイム比率(89.6%/2012年度)が業種平均(79.4%)を大きく上回っている」との記述もあります。業務が省力化されて「重い中華鍋をふるう負担がなくな」り、標準化されて「1日の研修で済む」ようになった結果でありましょう。それに加えて、リンガーハットのウェブサイトにあるパート・アルバイト募集のページ(http://www.ringerhut.co.jp/recruitment_n/part/)をみると「外国人の方も安心の研修システム」との記載があり、外国人パート・アルバイトの採用に積極的であることがわかります。実際、同社の統合報告書(https://www.ringerhut.co.jp/csr/csr/pdf/2018.pdf)をみると「リンガーハットグループでは、944人の外国人社員に対して、店長や外国人講師による勉強会を実施し、指導を行っています」との記載があります。同社ウェブサイトによると同社のパート・アルバイトは正社員の所定労働時間換算で4,859人となっていますので、かなりの比率といえるでしょう。ちなみに食材工場には31人の外国人技能実習生もいるようです。
 ということで、省力化と設備投資の優等生といわれているリンガーハットにおいてすら、起きているのは「設備投資か外国人か」ではなく「設備投資も外国人も」なんですよ。
 たしかに、人手不足には処遇改善と人材育成、省力化と設備投資で対応することが望ましいと私も思います(まあ「徹底的」(笑)かどうかは別として。いやお気持ちはわかります)。とはいえ、「踏み切るか」と、あたかも企業や経営者がその気になれば簡単にできることであるかのように述べ、返す刀で「デフレ経済型のビジネスに執着して安い人件費を求めて外国人労働者に活路を見出だすか」とそうした企業や経営者をバカ扱いすることにはやはり抵抗を感じます(やだねえ「執着」なんて上から目線で)。まあ、そういう企業や経営者もあったりいたりするかもしれません…というか、あったりいたりするのでしょう。ただ、それにはそうならざるを得ない事情というものがあることも多いのです。むしろ「デフレ経済に執着」しているのは値上げに対して消費抑制で臨み値上げを許さない消費者であり、河野外相などのように値上げするなら賃下げせよと主張する政治家https://roumuya.hatenablog.com/entry/20120502/p1https://roumuya.hatenablog.com/entry/20130331/p1)ではないかと思いますし、公務員や議員を減らす数を競ったり給与を抑制しようとしたりどういうデフレ脳かとも思う(すみません安藤先生がそう言っておられるかどうかは知らないのでたぶん言いがかりだと思います)。
 ただまあこれには企業の自業自得だという面もあるかなとは思っていて、なにかというと企業にしても資源価格上昇とか外生的なコストアップが発生した時には価格転嫁を回避するためにあれこれ効率化したり節約したりして吸収してきたわけです。その過程で賞与が減るとか具体的な実害を被る経験をした人も多々いると思われ(まあ業績が悪化しているのでやむを得ないのではあるが)、そういう人にしてみればそんな簡単に値上げするのは許さないぞという話になるのもまあ普通の話だろうなとは思うわけです。これまた労働者は消費者でもあるといういつもの話ですね。
 吉野家に戻りますと、吉野家は価格面では(同業と較べても)かなりがんばっていて(モノが同じではないので単純比較はできませんが牛丼並は吉野家380円、大手同業の相当品は350円、330円)、健康志向などを売りにして比較的高価格・高付加価値な商品展開も進めています。とはいえ人件費がさらに高騰した場合には記事中にもあるように「業績回復には値上げなど、より踏み込んだ策が必要になるのでは」ということになるでしょうが、実際に値上げした場合には、過去を振り返れば牛丼チェーン各社ともに過去値上げ→売上減→値下げというパターンを繰り返しているわけで、今回もまた懲罰的な買い控えが起こる可能性は、経営としては考慮しないわけにはいかないでしょう。吉野家だってすでに外国人アルバイトはかなりの数いるわけですし(わりと最近、アルバイトから正社員登用されて海外展開の仕事をしている吉野家の外国人社員の記事を見た記憶がある)、これからも消費者が吉野家の牛丼には381円以上払うつもりはないんだよと言うのであれば吉野家としても外国人をいっそう頼りにするしかなくなるかもしれません。
 このあたりはまことに悩ましいところで、もちろん人件費アップを価格転嫁したら成り立たなくなるようなビジネスはつぶしてしまえばいいのだというのも一つの考え方だろうとは思います。そんな低価格外食ニーズにこたえることの社会的必要性というのをどう考えるのかという話もありそうですが、そんなものにこたえる必要はないのだという割り切りも十分ありうるだろうとも思います。ただこのあたりは最低賃金などとはまた話が違うだろうとも思われ、景気後退期における貴重な雇用機会を喪失してしまうことになる可能性は考慮する必要があると思われます(逆に言うと最低賃金以下の労働力として外国人に依存しなければならないようなケースは周囲のご迷惑を最小限にしつつ上手にたたむことを考えるべきだろうと思っています)。
 一方で、介護労働のように「そんなものにこたえる必要はない」とそうそう簡単には割り切れない分野というのもあるわけです。現状では介護サービス利用者の支払能力に応じた価格の介護サービスが供給されるべく事実上の公定価格的なものになっていて、それが介護労働者の処遇改善を難しくしており、結果として深刻な人手不足→外国人労働者の導入という議論になっているわけです。これはまさに日本人介護労働者の処遇改善を阻害し・現状の処遇を固定化しかねない話であり、こういうところをなんとかするのが政治家の仕事じゃないかなあ徹底的な処遇改善とかさ。牛丼チェーンの経営に口出しするのも悪いたあ申し上げませんが優先順位としてはどうかと。
 ということで、賃金も価格も需給で(市場原理で)決まるのが基本だとはもちろん思うのですが、本当にそれだけでいいのかは難しいなあと。逆に言えば、相当の専門性のある職業でも大幅な供給過剰であれば最低賃金でいいのだということになってしまいかねないわけですね。たとえば図書館司書の話はこのあたり(https://roumuya.hatenablog.com/entry/20171228/p1)で少し書いたわけですが、司書の処遇改善に使う税金は増やしたくない、知る権利も学ぶ権利もその程度でけっこうですというのが国民の大勢なのであれば、まあ残念だけど仕方ねえなと思うよりないわけです(本が好きな私としてはそれでいいのかと悲しく思うわけですが)。
 最後に誤解なきようもう一度繰り返しておきますが(くどい)、人手不足には処遇改善と人材育成、省力化と設備投資で対応することが望ましいと私も思っておりますので為念。安易に外国人に頼るべきではないとも考えています(以前書いたhttps://roumuya.hatenablog.com/entry/20180713/p1)。ただ、それを企業や経営者が簡単には実行出来ない事情というのもあるんですよと、まあそういう話です。そこで誰がどこでどのように踏み出すのか、というのは、一律ではなく個別の細かい話になるのだろうと思っています。