外国人労働者の新在留資格

これについても意見照会をいただきましたので書きたいと思います。骨太の方針に織り込まれたのをふまえて検討組織を設置するという流れになっているようですね。

 菅義偉官房長官は11日の記者会見で、外国人労働者の受け入れ拡大をめぐり、必要な法整備などを話し合う関係閣僚会議を月内にも設けると表明した。「受け入れ業種や日本語教育の強化などを政府全体で検討する。7月中にも立ち上げたい」と述べた。2019年4月から外国人労働者の新たな在留資格の運用をめざす方針も示した。
 菅氏は記者会見に先立ち、都内で開いた講演で「一定の専門性、技能を持った即戦力の外国人材を幅広く受け入れられる仕組みをつくりたい。来年4月から実現できるよう早期の法案提出を準備している」と話した。新たな在留資格に関しては「単純労働者ではなく、移民政策とは異なる」と強調した。政府は今秋の臨時国会にも入国管理法改正案を提出する。
(平成30年7月12日付日本経済新聞朝刊から)

骨太の方針には具体的な業種は書かれていないのですが、建設、農業、介護、宿泊、造船が念頭におかれているとの報道がありました。また、経済産業省は昨日(12日)「製造業における外国人材受入れに向けた説明会」を開催し、「製造業においても、IT投資等を通じた生産性向上や国内人材の確保の取組を行ってもなお、外国人材の受入れが必要と認められる業種であれば、業種別の受入れ方針等を策定した上で対象となり得る旨などを説明し」たとのことです。
さて、私もまだ十分に議論をフォローしきれていないのでかなり荒っぽい議論ではありますがご要望でもありますので若干の感想を書こうと思います。外国人労働者の問題も非常に論点が多いわけですが、明らかに違法な就労は論外として、まず現状指摘されている技能実習生などの一部に見られる劣悪な労働環境の問題は早急に解決がはかられるべきです。実はこれについても労基署はたいへんにがんばっているのですが(たとえば参照https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212372.html)、やはり更なる体制強化が望まれるところでしょう。さらにいえば、こうした問題が発生する企業の多くは輸入品との競争に敗れるなどして、存続のために背に腹は代えられず劣悪な労働に依存せざるを得ないのでしょうから、なるべくダメージの少ない形で「たたむ」ことを支援することも必要ではないでしょうか(業態転換や救済合併で対応できればそれにこしたことはないでしょうがなかなか難しかろうとも思う。このあたりの政策は詳しくは知らないのですが)。いっぽうで、大企業が現地事業体の従業員を対象に実施している企業単独型の技能実習はほとんどが制度の趣旨に沿った有意義なものとなっていますので、新しい在留資格をつくるなら団体監理型は廃止してもいいんじゃねえかなどとけっこう乱暴なことを考えたりもする。
資格外活動についても首都圏を中心にかなりの増勢にあるわけですが、就学のかたわらアルバイト就労すること自体は否定しなくてもいいのではないかと思います。なんでも欧米諸国では留学生の就労はかなり制約されているらしく、こうして就労できることが日本に留学することの大きなメリットのひとつとなっているようなので、まあそれで特権階級ではないけれど有望な若者が日本で学べるようになっているということであれば一概に悪い話でもなく、日本人で十分に充足できるまで賃金を上げなさいと言って彼ら彼女らを追い出さなくてもいいんじゃないかとは思うわけだ。もちろん一方で外国人の弱い立場につけこんで不当な利得をはかる人というのもいるわけなのでそれはしっかり取り締まるべきですし、逆に在留資格は留学だけど本当の目的は就労ですというような人も大抵は許された枠を逸脱して就労するなどの違法状態にあるでしょうからやはり取締りの対象でしょう。
ということで、そういう前提の上で今回の在留資格新設についてですが、まず重要なのは骨太方針で「新たな在留資格による外国人材の受入れは、生産性向上や国内人材の確保のための取組(女性・高齢者の就業促進、人手不足を踏まえた処遇の改善等)を行ってもなお、当該業種の存続・発展のために外国人材の受入れが必要と認められる業種において行う。(強調引用者)」とされているところでしょう。要するに低賃金労働者が足りないから外国人、という話にならないような仕組みをきちんとする必要があると思うわけです。賃金が上がれば自動化投資やITを活用した効率化投資などによる人手不足対策も進みやすくなるはずです。
でまあ問題は人件費増を効率化で吸収できるかというとそう簡単ではないわけで、それを価格転嫁したときになにが起きるかといういつもの話です。値上げはけしからんとか物価が上がったから節約するとかいうのが国民の意思だとすれば外国人に依存するのも仕方ないよなと。そこで注目したいのが運輸業の取り組みで、あれほど人手不足が言われているのに上記の5業種には入っていないわけですね。商慣行の見直しと価格改定で人手不足の緩和に取り組もうとしているわけで、他の業界にもそうした努力の可能性は相当にあるのではないかと思うわけです。
業種固有の事情というのももちろんありそうで、たとえば建設は2020年に向けていまは猛烈な人手不足ですが、その後もずっと同じ状態が続くとは考えにくいものがあります。まあそれでも(建設業では賃金水準もそれなりに高く、また上昇が続いていることも考え合わせると)人手不足が続くのだろうとは思いますが、一過性で不足する部分の一部は外国人で、というのはそれなりに合理的な考え方のようにも思えます。ただこれはその後円滑にご帰国いただくための対応が必要になるわけですが。
農業も食糧安保の観点から一定規模の国内生産が必要だということであれば、それは考慮する必要があるのかもしれません(よくわかりません)。介護については過去も何度か書いたように需要サイドの支払能力の問題が大きいので、これについては社会政策として(外国人労働力を考える前に)公的支出の拡大をはかるべきでしょう(もちろん程度問題はありますが現状はさらに増額してよいものと思います)。
宿泊はインバウンドの拡大で急速に需要が拡大したので追いつけていないという面はあろうかと思います(すでに主に資格外活動で相当数が就労しているという話もあります)。こちらは建設に較べると将来もまだ拡大余地はありそうですが、やはり2020年の一時的ピークで外国人の手を借りるというのはありうる考え方でしょう。
造船については製造業同様に技能実習制度に相当程度依存している実態はあるようであり、一部国交省が関与して適切な運用がはかられていることもあって就労実態も劣悪というほど悪くはないようです。キモになる高度熟練技能を継承していくためにはその周辺の技能については外国人を頼るというのもあるのかもしれません。要素技能的にも建設業との人材の重複もあるようであり、建設と造船はセットという話でもあるのでしょう。
ということで、問題の中心は外国人というよりは、内外人平等を確保できるのかとか、出入国管理をきちんとやれるのかとか、違法状態を適切に取締是正できるのかとかいったオペレーションというかガバナンスの問題なのだろうなあとはかなり思います。もちろん生活習慣が違うとかいった問題ももちろんありますし特に自治体の負担が重くなるわけですが、たとえばそのための財源として受益者である企業から雇用税を徴収するという考え方もあるでしょう(内外人平等という観点からはかなり微妙ですが)。
今回は来年4月には新在留資格を設けるということで、明らかに2020年を意識した動きではあるのでしょう。とりあえずは2020年を乗り切るのに必要最小限な受け入れにとどめて、その後の動向を見極めた方が賢明なのかもしれません。