ポストコロナ時代の「働く」を考えよう

 昨年末に開催された「倉重公太朗の労働法実践塾出版記念シンポジウム」のダイジェストがYahoo!ニュースに掲載されておりました。私も中央大学客員教授の肩書で参加しております。
ポストコロナ時代の「働く」を考えよう(前編)
ポストコロナ時代の「働く」を考えよう(中編)
ポストコロナ時代の「働く」を考えよう(後編)
 当日のテーマは「これからの「はたらく」を考えよう」だったのですが、昨今の情勢をふまえて目を引くタイトルに差し替えられていますね。なお一昨日にはすでに閲覧可能になっていたらしく、やはり登壇されたhamachan先生のブログでもさっそく紹介されていました(倉重さんの実践塾でわたしや労務屋さんが喋ったこと)。
 内容についてはリンク先をぜひごらんいただきたいところですが、当日の登壇者(倉重先生含め7人)の中で民間企業で雇われている人は私ひとりであり(まあhamachan先生は機構からサラリーを貰っているとは思いますが)、残りの方は当日もhamachan先生が言っておられましたが「とってもキラキラした」キャリアの方々だったので、あえてそういう方面ではなく、起業とも独立ともあまり縁のない、しかし社会的には多数派を占めるであろう方々のキャリア、「これからの「はたらく」」を中心に発言してみました。正直つまらん奴だと思われたのではないかと思うのですが、まあそのあたりのバランサーとしての役割が期待されていたのだろうと。
 さてhamachan先生は中高年に関する先生と私の議論をご紹介いただいていますが、実は他の登壇者からもこれに関係する興味深い発言がいくつか出ていたのでご紹介したいと思います。
 パネルはまず最初にhamachan先生と私が「実は日本的な雇用システムは、普通の人が会社に身を委ねると、すごくうまく力を引き出して活躍させてくれるシステム」という話から始まったのですが、途中、日本マイクロソフトの澤円さん(株式会社円窓社長、「プレゼンの神様」という二つ名のほうが通りがいいかも)からこんな発言があり、

…固定された価値観を持ち続けるのは、マネジメントの問題がすごく大きいと思っています。日本は「管理職」という言葉を使うでしょう? 僕は大嫌いなのです。管理ってただのタスクではないですか。そういうのはAIにやらせればいいのです。マネジメントというのは、僕からすると対訳がありません。なので、マネジメントという概念がもう少し浸透すればいいなと思うのですけれども。
…日本って、名誉職としてマネジメントをやらせますよね。これがそもそもの間違いです。マネジメントは、それができる人、もしくは志している人で、なおかつ人格者であることが求められるべきだと思っています。

 これを受けて、グローバルな研修事業の会社を経営しておられる豊田圭一さん(株式会社スパイスアップ・ジャパン代表取締役)が海外の実情をもとにこう述べられました。

…海外に駐在する日本人の一番のストレスは何かといったら、英語ができないことでも、外国人とうまく交流できないことでもなく、マネジメント経験がないことなのです。
…役職が付いていなくてマネジメント経験がない(引用者注:35歳くらいの)若手が初めて海外に駐在をすると、ポジションが2つぐらい上がっています。そのときに日本人は真面目ですから、「自分は初めての駐在でマネジメント経験もないので、一生懸命頑張りますので教えてください」と言うのです。向こうの人から言わせれば、「冗談じゃない」と思います。マネジャーとして初心者の若者がやって来る。でも35歳は向こうの感覚ではシニアなのですよ。カンボジアでは平均年齢が24歳です。フィリピンだってそうですし、インドは27歳です。そういう中で35歳の若手などあり得ないのです。でも日本は平均年齢が高いので、仕方がないですよ。

 さらに転職エージェントの森本千賀子さん(株式会社morich代表取締役)はこの発言をダイバーシティ・女性活躍の観点からこう受け止められました。

 めちゃくちゃ共感します。ぜひ、「前倒しキャリア」を推奨してほしいです。特に女性の出産前教育です。20代、30代、40代と私も過ごしてきましたが、一番時間が自由で、なおかつ知的好奇心と体力があるのはやはり20代です。そのときに思い切りいろいろな経験をさせてほしいのです。今所属している会社や組織の信頼預金残高をとことん高めていただきたいのです。

 ということで、自覚的かどうかは別として、日本的な「遅い選抜、遅い昇進」に対しては明確に否定的で早期選抜を志向する見解が次々と示されました。これを受けて、hamachan先生と私が(hamachan先生のブログでも紹介されているように)日本企業の人事管理における「管理/マネジメントとはなにか」について発言するという流れだったわけですね。
 でまあ結論的にはhamachan先生は途中明確に「普通の人が腐らずにいくにはどうしたらいいのか。その答えが、正直に言うとなくなりつつある」と率直に述べておられますし、私も例によって「どのように変わっていくにせよ、ゆっくり進んでいくことが大事」という、まあ情けない話になっているわけですね。しかし現時点で誠意ある回答をしようと思うとそうなってしまうというのが現実ではないでしょうか。
 このあたり、hamachan先生のブログのこの記事なんかにもつながってくる話なのですが、この日はそこまでは進みませんでした。

それが本当の終身雇用

 このところ新型コロナ対策で在宅勤務続きだったのですが、先週木曜日に久々に出社したので広報で『日経ビジネス』先週号の「働かないおじさん特集」をコピーして週末に読んでみました。権利関係で問題ありかもしれませんがまあいいよね。実は電子版にもアップされていたのですが有料記事なのでスルーしていたのでした(笑)。地元の図書館がクローズしているのが痛い。
 さて内容は私の本務先の話なども取り上げられていて(笑)いささかコメントしにくいところもあり、最後の中西経団連会長のインタビューをご紹介して感想など書きたいと思います。4ページの記事なのですが写真とタイトルを除くと実質2ページというところでしょうか。でまあ最初に昨年の闘病の話があり(寛解されたようでご同慶です)、最後のほうはコロナ、米中関係、原発の話になっていますので人事管理の話は実質1ページくらいですね。
 でまあ相変わらず日立の人事制度の具体的な話がないのが残念なのですが(特集のはじめの方でも日立の話がかなり長く書かれているのですが「年功をやめる」ばかりでやはり制度の具体的な説明はない)、まず春闘について「大前提は「賃上げすべきだ」という意見」だと述べたうえで、ただし年功序列や全体の底上げはできない、リーダー層など、中国などと較べて賃金水準が負けている人たちの賃金を上げるべきだと主張しています。まあ、データ人材とかAI人材とかで、組合員層の高度人材を高く処遇したいということでしょうか。
 さてここでインタビュアーから「年功序列も一律賃上げも終身雇用の問題」と問われたのに対し、中西会長は「雇用を大事にする仕組みには非常に価値がある」と前置きしたうえで、「終身雇用を前提とした人生設計は見直さないといけない」と言っています。これはずいぶん簡単に言ってくれるなという感は否めず、もちろん企業規模や就労形態などによる違いは大きいとしても、やはり日本社会のしくみが長期雇用慣行のもとでの雇用と収入の安定を前提にしているわけなので、そうそう簡単な話ではない。社会保障制度も基本的には長期雇用慣行をベースにしているわけですし、職業訓練は企業に多くを依存しているわけですし、子女の教育費を保護者が負担する制度になっているのも長期雇用慣行のもとでそれが可能な処遇がなされているからでしょう。勤労者財形、特に住宅ローンなども長期的な雇用と収入の安定を前提にしてきており、「人生設計を見直せ」というのであればこうした社会のしくみもあわせて見直す必要があるはずで、さて経団連にそこまでの覚悟があるのかという話ではあります。いや生活扶助とか職業訓練とか住宅扶助とかを政府が全国民対象にやることになるわけで、経団連はそれでいいのかね。
 続いてジョブ型の話題に移るわけですが、中西会長はここでは「明確な職務規定があって、働き手をそこにアサインすることで、価値が市場で決まる。報酬が足りないと思う人はよその会社に行く。流動性も上がる。このような仕組みに徐々に移っていくことに晴朗性はある」と述べておられます。まあこれはやって悪いたあ言いませんが徐々に移っていくということが最重要だろうとは思います。
 そこで日立のジョブ型の話になるのですが、年功的には賃金を上げない、上位のジョブグレードに上がれば賃金が上がる、そこで「職務規定はオープンにしているので…手を挙げてもらう。規定と合っていれば仕事をいつまでやってもらっても構わない」ということだそうです。やはり「職務記述書を作成し、それが該当するジョブグレードの賃金を支払う」というもののようですね。
 ただ日立さんがどうかはともかく、一般論としてはおそらく「手を挙げてもらう」となると何本も手が挙がるというのが実態でしょうから、何らかの判断で一人選んで、あとの人はまた今度ということになるでしょう。ところが「いつまでやってもらっても構わない」という話だと、選ばれた人が上のグレードへのチャレンジに成功するまで、選ばれなかった人はいつまでも次のチャンスがないということになりかねない。別にジョブ型にしたところで職務等級給にしたところでポストや上位のジョブグレードの仕事が増えるわけではないですからね。まあでも賃金は上げてないから選ばれなかった人も「働かないおじさん」にはならないし、「いつまでも次のチャンスはない」のは仕方ないんだから、それが気に入らないならどこへでも出ていけという話になるわけか。なるほど。
 いっぽうで中西会長は逆に「ジョブがなくなるとその人は職を探す」とも言っておられて、なるほどジョブ型というのは労働契約に記載されたジョブがなくなれば相応の補償を受けて解雇され、次の「職を探す」というのが通り相場ではあります。もっとも日立さんはそうはしないようで、中西会長も後のほうで解雇規制については「規制緩和を声高にいうつもりはない」「私がやってきたオペレーションの中でも「いきなり解雇」はしてきていない」とのことですから、まあ職を探すのは企業のほうがなにか別の仕事を、という話のようです。要するに雇用は維持するけれどそのために衰退分野を温存することはしたくない、ということですね。だから別分野にチャレンジしろと。まあ、人事権を手放すつもりがないのなら解雇規制の緩和も難しいといういつもの話ではあります。
 そうなるとよくわからないのが定年制の話で、中西会長はここで「定年という仕組みは終身雇用、年功序列があるからついてくる。本当の意味で、ジョブ型雇用が浸透すれば定年なんて関係はなくなる」「日立において、(引用者注:ジョブ型を導入している管理職層は)定年制自体があってないようなもの、なんです」と、こちらは欧米で典型的なジョブ型が前提の話をしておられるのですね。ただ、欧米で定年制がないのは(欧州では事実上の定年制がある例が多いですが)ジョブがなくなったり加齢によってジョブを遂行する能力を喪失したりした場合には解雇されるからであって、人事権を手放さず解雇規制の緩和を求めないのであれば、そうした場合でも解雇の前に社内の別業務への配置転換を行う必要が出てきます。もちろん、それによって転換した仕事のジョブグレードが下がるのであればそれに応じて賃金を引き下げることはできる可能性が高いでしょう。とはいえ、定年がなくなって働ける仕事がある限りは雇用されるということだと、それって文字通りの意味での終身雇用じゃないかと思うわけだ。
 ということで中西会長の議論はいささか混乱気味のように思われますが(まあ日経ビジネスの編集の問題も多々ありそうな気はしますが)、基本的にその問題意識は長期雇用がどうこうというよりは賃金の問題で、経営上必要な稀少人材であれば高い賃金を提示して採用して囲い込みたいし、逆に能力が高くてもそれ相応の仕事についていないのであれば、現実の仕事に応じた以上の賃金は払いたくないということのようです。でまあそれは理解できないではないし、日立の労使がそれでいいのならそうすればいいという話ですし、それで他社に較べていい人材が採れるならそれでいいのではないかと思うわけです。
 なお特集全体についていえば、「働かないおじさん」=「若い頃から意欲も能力も低いのに終身雇用と年功賃金に安住して年功的に賃金が高い人」という従来のステロタイプはどうやら脱して、「働かないおじさん」=「能力はあるけど出世に敗れた人」という理解には一応達しているようなので若干の進歩は認めたいと思います。ただまあ書いてあることは要するに「働かないおじさん」を恫喝しつつ「能力の高い人が高リスク低賃金の仕事に移れば歓迎される」(これを流動化と称するらしい)という拙劣な話がほとんどで(もちろん中原淳先生の談話のように有意義な記事もありますが)、まあやはりカネ払ってまで読むもんじゃなかったなと。

経団連提言「Society5.0時代を切り拓く人材の育成」

 先週金曜日に発表されておりましたので読んでみました。副題は「―企業と働き手の成長に向けて―」となっておりますな。こちらで全文がお読みになれます。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/021_honbun.pdf
 まず第1章は「企業と働き手をめぐる現状と課題」で、現状については「グローバル化やデジタル化の進展により、企業の経営環境は、厳しさと複雑さを増している。…人材の採用・育成には時間と費用を要する。加えて、スキルが陳腐化するスピードが早い」「働き手の意識や就労ニーズは大きく変化している。…多様な人材の活躍が進むにつれて、個人のキャリア観も多様になってきている。特に、若年・中堅層を中心に、仕事を通じて社会課題の解決に貢献しながら、自身の成長を実感・実現することを重視する人材が増えている」と述べています。その上で、課題として「前例主義的な意識や内向きの組織文化の変革」「会社主導による受け身のキャリア形成からの転換」「デジタル革新を担える能力の向上」の3点があげられています。
 続く第2章は「Society5.0を実現する人材の育成」となっており、「エンプロイアビリティ」というまことになつかしい語が登場するのに加えて、企業サイドが従業員を雇用できる能力としての「エンプロイメンタビリティ」という語を担ぎ出してきて、労使ともにこれらの向上に取り組むべきだと主張していて、それが「企業と働き手の成長」なのだと、まあそういうストーリーのようです。取組事項としては「意識と組織文化の変革」「自律的なキャリア形成の支援」「デジタル革新を担える能力開発」のまたしても3点が柱とされています。
 そして第3章は「学びと成長を促す環境整備」となっていて、「有益な情報の提供」「経済的な支援」「評価と処遇」「学びと成長のための時間の確保」「学び合うプラットフォームの整備」「エンゲージメントの把握と改善」「HR Techの活用」の7つがあげられています。
 そこで具体的な施策ですが、本文に続いて20社の企業事例があげられていてページ数も本文より多く、まあこれは旧日経連時代からよくある話ですが(かの『新時代の「日本的経営」もそうだった)、先進事例を収集してそれを追認的に整理したものとなっているようです。
 したがってお題目はなかなかに勇ましいのですが具体的な中身はといえばかなり拍子抜けであり、たとえば「2020年版経労委報告」その他であれだけジョブ型ジョブ型と連呼したわりにはその話はまったく出てきません。あるいは「はじめに」で「「人生100年時代」の到来により、職業人生が長期化し、キャリア・トランジションを経験する働き手が増えていく」と問題提起しているのに、最近話題の「65歳以降の就業」については本文でも事例でも一切言及されていません。また、第2章では「デジタル分野などにおいて、高い専門能力と成果を評価して、処遇することが適した職種が増えている。こうした職種に就く人材は、比較的流動性が高く、世界的に人材獲得競争が激化し、日本企業が求める人材を確保できない状況も起きている。こうしたことを背景に初任給から高額な報酬を設定する企業も出てきている」と書いているのですが、初任給どころか賃金に関する言及は本文ではここだけですし、企業事例も話題になったNTTデータ(ADP制度)の1例のみです。これに関しては第3章にも「評価と処遇」という項目があるのですが、「社員の「学ぶ姿勢」や「部下・後輩の育成」を適正に評価し、処遇へ反映することが重要」「どのように評価し、処遇へ反映するかは、人事処遇制度や人材育成方針などを踏まえて、労働組合等と議論しながら検討していくことが求められる」と書かれているだけです。なにこれ
 第1章で柱のひとつとされた「会社主導による受け身のキャリア形成からの転換」は私としては大いに注目するところなのですが、第2章の「自律的なキャリア形成の支援」を見てみますと、はじめに意識改革の話があり、次に「社員の意向を踏まえた人事異動の実施」が来るのですが、まずは「企業は、「組織の要員管理」と「社員の選択」とのバランスをとりながら、適材適所を実現していく必要」を確認したうえで「自己申告などによりキャリアビジョンを確認」「異動できる範囲・期間を柔軟に」「本人の意向を踏まえた選択制の異動」、具体的には「社内公募制度や国内外留学制度」「グループ企業や他企業等への出向制度」「フリーエージェント制度」「社内インターンシップ制度」などをあげていて、あれだなこれ人事権を手放すつもりはさらさらないな。まあもちろんそれが悪いということもまったくないわけであって、2020年版経労委報告でも「「メンバーシップ型社員」を中心に据えながら」と書かれているのとも整合的です。さらに続けて「効果的なOJTに向けたコミュニケーションの充実」として「業務経験を通じて社員の成長を促すOJTは、今後も人材育成の中心的施策」と書かれているので内部育成・内部昇進をやめるつもりもないらしい。具体的な施策も「定期的な目標管理面談」「数週間おきに仕事の進め方や課題について1on1ミーティング」「メンター制度」そして「管理職層のマネジメントスキルの向上」で、まあ「自律的なキャリア形成の支援」にならないたあ言いませんがしかし迫力には著しく欠けるよなと。
 ということで、まあこれが経団連主要企業の実情というか本音ということなのでしょう。もちろん新しい施策でまだ結果が出ておらず評価も難しいということで紹介を避けた企業もあろうかとは思いますが、やはり長期雇用基軸で行こうという姿勢は鮮明なように思われ威勢のいい会長さんとの温度差は相当にありそうだと邪推をめぐらす私。ちなみに日立製作所さんの事例もあるのですがほぼ全面的にeラーニング含むHRテックの活用の話ですし。

ビジネスガイド4月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』4月号(通巻884号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

ビジネスガイド 2020年 04 月号 [雑誌]

ビジネスガイド 2020年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 雑誌
 今号の特集は「最新 法改正と実務への影響」ということで、今次国会に上程されている法改正の解説です。賃金債権の消滅時効が注目されましたが、労働保険関係の法改正も実務対応が必要となってきます。70歳までの就業確保については、基準制度がどうなるのか、これは政省令が出てこないとなんとも言えない感じですね。
 それにしても厚生労働委員会は新型コロナで大変な状況でしょうから、これらの改正法案の審議への影響も心配されるところです。まあ必要な法案は別途淡々と審議して成立させるのだろうとは思うのですが…。
 前号から始まった八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は、今回は男女間賃金格差、特に統計的差別の解消を取り上げて解説されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は高年齢者の雇止めが取り上げられており、現在審議中の高齢法改正についても触れられています。

水町勇一郎『労働法第8版』

 水町勇一郎先生から、『労働法第8版』をご恵投いただきました。ありがとうございます。
(在宅勤務と出張が続いたため御礼がたいへん遅くなり申し訳ありません)

労働法 第8版

労働法 第8版

  • 作者:水町 勇一
  • 発売日: 2020/03/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 学部向けのテキストとして定評ある基本書ですが、ほぼ2年ごとに改訂されて第8版となりました。今回はこの間の諸動向を反映して、長澤運輸事件とハマキョウレックス事件の最高裁判決を受けた不合理な待遇の禁止や、さすがにベルコ事件までは手が回っていませんがコンビニ店長の労働者性などについて記載されているのが目を引きます。あと細かい話ですが第7版では「この(長期雇用)慣行の労働者側からみた大きなメリット」となっていたのが第8版では「長期雇用慣行の労働者側のメリット」となっていたり、第7版では「非正規労働者の状況と学説・裁判例の展開」となっていたのが第8版では「非正規労働者の問題状況と学説・裁判例の展開」となっていたり、人事管理に対する評価がやや辛くなっている印象を受けます(まあこれもこの間の世間の雰囲気の変化を反映したものかもしれませんが)。
 また、はしがきによれば「本書を適度な分量でより読みやすいものとすることを試みた…全体で約1割近い減量を行った」とのことで、コラムがかなり間引きされたほか、図表などもだいぶカットされています。人事管理を長年やってきた立場からすると、第7版では4ページが割かれていた企業内紛争解決に関する解説が第8版では丸ごと消えてしまったのは非常に寂しいものを感じるわけですが、まあこれは労働法じゃなくて人事管理だろうと言われればそのとおりではあるのでしょうが…。

「ジョブ型」への道のり

 世間は新型コロナ禍と市場の混乱で大騒ぎですが、そうした中でも春季労使交渉は行われ、この水曜日には金属労協主要各社の回答が出そろって第一の山場を越えました。各労使ともに円満な解決がはかられたようでご同慶です(他人事)。
 さて今次交渉で私が注目しておりましたのが他ならぬ日立製作所労使であり、開始前にこう報じられていたわけです。

 日立製作所労働組合は13日、2020年春季労使交渉での要求を経営側に提出した。基本給のベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分として、前年と同水準の月3000円を要求した。経営側は従業員の職務を明確にする「ジョブ型雇用」への転換などの議論を進めたい考えだ。
(令和2年2月14日付日本経済新聞朝刊から)

 私はここでもかねてから「日立の労組がそれでいいならそうすれば」という趣旨のことを書いてきたわけですが、いよいよ組合と話をするらしく、さてどうなりますかと注目していたわけですね。
 そこで回答も出たということでこれについてはどうなったのかと思っていたのですが、日経ビジネスオンラインで報じられていました。「1分解説」というコラムなので本当に短いものですが、タイトルは「「ジョブ型」への道のり遠い? 日立労担が春闘を総括」となっておりますな。

 「職務記述書(ジョブディスクリプション)」に基づいて、それぞれのポストの役割と報酬を決める「ジョブ型」の雇用モデルへの転換を目指す日立製作所。すでに管理職では同モデルを取り入れているが、約10万人いる国内の一般社員に広げられるかが課題だ。3月11日に集中回答日を迎えた春季労使交渉春闘)ではどこまで議論は深まったのか。日立の労務担当役員が総括した。
 「遅くとも2024年度には定着させたい」。…次の中期経営計画の最終年度にあたる24年度にジョブ型の人材管理への転換と、それに必要な意識や行動の定着を終えたいとの見通しを示したかたちだ。
 20年度からは一般社員の職務記述書の作成に着手。まず4部門で先行し、その成果を踏まえて全部門に広げる段取りだ。…
 管理職では13年度にジョブ型への移行を始めた日立。全世界の管理職5万ポジションをランクづけし、翌年に日立本体の管理職の処遇をランクに合わせるかたちに変えた。世界各国の社員が世界の市場に製品やサービスを届けるためには、世界の標準に合わせた人材管理が必要だと考えたからだ。

 日立グループ労組も経営側に理解を示す。「グローバル化で人材が多様になる中で、いつまでも日本のあうんの呼吸でやっていくのは難しい。仕事を定義して見える化をしていこうという方針には反対するものではない」。ただし、「拙速に進めると色々な問題が出てくる」(同)。実効性を持ちつつ適切にメンテナンスできる職務記述書をつくれるのか、などをチェックしていく必要があるとみる。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/031101141/

 全体像がわからないので何とも言えないのではありますが、この記事やとりあえずウェブ上から拾える情報などから推測すると、日立さんの「ジョブ型」は「職務記述書があること」と「賃金は職務等級制度で決まること」が核心のようです。これはまあ「職務(記述書)が賃金などの労働条件と同様に労働契約の一部になっている」欧米のジョブ型に似ているように見えなくもありません。
 とはいえ、核心部分で大きく異なっているようにも思えるわけで、欧米のジョブ型の雇用契約はまさに「職務も契約の一部」なので職務の変更には双方当事者の合意が必要になるわけですが、はたして日立さんの「ジョブ型」はそういうものなのかどうか。
 ここからはほぼ想像になりますが、「まず4部門で先行」ということなので、「ジョブ型」導入の必要性・緊急性の高い部署や、職務記述書が作成しやすい部署などが先行するのでしょう。必要性・緊急性が高いのは昨今稀少性の高いデータ処理やら人工知能やらサイバーセキュリティやらの部署だと思われ、そういう部署であれば初任配属部署・業務だけではなく先々も職務変更には同意が必要になってもいいのだと割り切っている可能性はありそうです。ちなみに職務記述書が作成しやすい部署というのは圧倒的に現業部門であり、一方でホワイトカラー職場では欧米でも職務記述書を詳細に記載することがで難しくなってきて現状ではかなり大雑把なものになっているわけですね。
 さて日立さんは組合員については今後4年間かけて全体を整備するという計画のようですが、職務記述書についてはホワイトカラー職場の多くではまあ現状も職場単位で作成されている業務分担表を少し詳しくしたようなものが作成されるのでしょうか。それはそれでいいとして、これを職務等級にクラス分けしていくことは、まあ労使ですり合わせながらやっていくのでしょうが、かなり大変な作業になりそうです。さらに労組が「適切にメンテナンスできる職務記述書」と言っているように業務分担変更(タスクの組み合わせの変更)は想定されているらしいので、だとするとその都度変更後のグレードが定まるような仕組みも必要になるわけです。でまあ普通に考えて業務分担変更したら職務等級が下がって賃金も下がりましたというのはやられた方はたまらんわけで本当にやるんですかこれ。しかも組合員レベルとなると今現在は稀少な技術でも数年後には珍しくなくなってくる可能性もあってそれも「適切にメンテナンス」しなければならない。結局のところ、まだしも幹部ポストであればまあ重要性とか難易度とかいったものはそれなりにランク付け・グレード分けしやすいでしょうし、万一職務等級が下がって賃金が下がってもそれなりに高いレベルの処遇にはどどまるわけで、だから日立さんに限らず他のの企業でも管理職対象というのが多くなっているのでしょう。
 もちろん人事異動も業務分担変更もやりませんという制度変更を断行するというのであれば(まあそのほうが普通のジョブ型だ)そういう心配もないでしょうが、しかしこれまでの人事管理との継続性は労組としては当然主張するはずですし、結局のところ人事異動や業務分担変更を企業の都合で柔軟にやりたいのであれば、その分賃金の安定性を確保しなければならないといういつもの話ですね。
 あとはまあ初任配属だけは約束する「ジョブ型採用」(≠ジョブ型雇用)というのは考えられているのかもしれません。これについては今年の経労委報告で提唱されている(これまた独自定義の)「ジョブ型」(これについては以前のエントリhttps://roumuya.hatenablog.com/entry/2020/01/28/164053で書いたので繰り返しません)に通じるものなので現実的な施策だろうと思います(というかすでに現状が先行していて経団連が追認している感もあり)。
 ということで組合員レベルに関しては職能資格制度を職務等級制度にして職務の空き具合に応じて昇等級させるという感じになるのではないかと思われ、あれだなそれほど大きく変わるという感じはしませんが年功的ではないぞというメッセージとしては意味があるのかな。まあ職務が高度化していることを反映して昇等級(特に若手抜擢)が増えて賃金水準も上がるということになればご同慶ですが、いずれにしても労組がいうとおり「拙速に進めると色々な問題が出てくる」でしょうから4年間かけて漸進的に進めようという姿勢は適切なのではないかと思います。なにをやってもいいけどゆっくりやれという、まあこれもいつもの話ですね。それやこれやでタイトルにあるように「ジョブ型への道のりは遠い?」ということだろうと思います。欧米型のジョブ型になるには、仮になるとしてもはるかに遠い道のりがあろうとも思う。
 なお乏しい情報をもとに推測に推測を重ねていますのでなにかと的外れや読み違いがあろうかと思いますので関係者の方は怒ってもいいです(笑)。というかご叱責とともにぜひとも全体像をご教示いただきたいというのは本音なので、なにとぞぜひともそのようにお願いいたします。

末啓一郎『テレワーク導入の法的アプローチ』大久保幸夫『マネジメントスキル実践講座』

(3月4日追記)『マネジメントスキル実践講座』著者の大久保幸夫先生からもご恵投いただきました。ありがとうございます。

 (一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、経団連出版の最新刊、末啓一郎『テレワーク導入の法的アプローチ-トラブル回避の留意点と労務管理のポイント』と、大久保幸夫『マネジメントスキル実践講座-部下を育て、業績を高める』の2冊をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 テレワークについては東京五輪に加えて昨今の感染症対策としても注目が集まっており、情報通信技術の進歩もあいまって、法的な課題は積み残されたままで実態としてなし崩しに拡大が進んでいるのが実態といえましょう。そうした中で、本書は経営法曹の末先生がさまざまな法的論点を整理し、紛争を招かないようなテレワークの制度や運用についてまとめています。今後どのような法的整備が進むのかは読みにくいわけですが、本書では労働弁護団の見解をひいて課題を指摘しているのが(経営法曹の本の中で)目をひきます。
  こちらは新任マネージャーのための解説書という趣きで、読みやすくわかりやすい記述が心がけられており、初任者の教材としてはたいへん良好なも
ののように思われます。もちろん現実は教科書どおりにはいかないわけですが、そこは組織や職場の状況に応じてそれぞれに苦心して対応するしかないわけです。そういう意味ではややないものねだり的にはなりますが、マネージャーの役割としての「部下のキャリア管理」についてあまり言及がないのがやや残念に感じられました。