本年の賃上げ

 本年の春季労使交渉も最初の山場を越え、各社ともおおむね円満な解決がはかられているようでまずはご同慶です。連合の1次集計結果によればまずまずの健闘ぶりのようで、週末の日経新聞から。

 連合は15日、2019年春季労使交渉の第1回回答集計の結果を発表した。定期昇給と基本給の底上げ部分を示すベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は平均2.16%で、18年交渉の1次集計と横ばいだった。定期昇給が伸びに寄与した一方、世界経済の先行き不透明感が増し、ベアの伸び率は前年を下回った。
 労組が経営側から受けた回答を15日午前10時時点で集計した。対象は626組合。6月下旬に最終集計をまとめる。賃上げ額は前年より138円多く、6653円だった。
 賃上げのうちベアと定昇を区別できる405組合をみると、ベアの引き上げ率は0.62%で18年交渉を0.15ポイント下回った。米中貿易摩擦の激化など世界経済の先行きが読みにくく、経営者はベアに慎重になったようだ。
 企業別の回答を見ると電機や自動車などの製造業大手は6年連続でベアを実施するものの、多くが18年実績を下回った。電機大手は統一交渉で月額3000円以上のベアを求めたが、18年より500円低い1000円で妥結した。自動車ではホンダやスズキなどのベアの妥結額が18年より下がった。自動運転や電動化への対応には巨額の投資が必要で、固定費の増額となるベアには「慎重にならざるを得ない」(ホンダ)。
 一方、福山通運がトラック運転手1万3500人を対象にベアを18年比3倍の7500円に引き上げた。「餃子の王将」を展開する王将フードサービスは労組の要求(9500円)を大きく上回る1万2677円で妥結した。
平成31年3月16日付日本経済新聞朝刊から)

 記事にもあるように金属労協各社をはじめとする製造業が昨年を下回る一方、運輸やサービスでは高額回答も目立ち、業種などによる違いが大きくなったのが今のところ今年の特徴といえそうです。
 そこでこの結果の評価ですが、とにもかくにも6年連続で有額のベースアップが実現したことは労使の努力の成果として高く評価すべきでしょう。2002年から2011年まで10年にわたって有額のベアがほとんどなかったわけなので、とにかくいくらかでもベアを毎年続けて、ベースが上がる、1歳1年上の人より賃金は高くなるのが当たり前という感覚を取り戻していくことが大切でしょう。
 日経新聞などは金属労協のベアが縮小したといって騒ぎ立てているようですが、しかし過去のベアが当たり前だった時代においても景気循環に応じてベアは拡大したり縮小したりしてきたわけで、今回も中国経済の減速などの要因でベアが縮小したのはまあ自然な成り行きではないでしょうか。日経は例によって生産性ガーと言い立てているようですが循環要因を軽視しすぎだと思うなあ。
 それに対して、まあ記事になっている福山通運王将フードサービスは最高額の事例だろうとは思いますが、人手不足の業界で正社員の賃金が力強く上がりはじめたのだとすれば歓迎すべき動きでしょう。人手不足下になったとしても、まずは時間外労働が増加することで残業代が増え(これが案外大事)、労働市場の需給が引き締まることで非正規の時給が上がり、企業業績が好転することで正社員の賞与が上がり、といった段階を踏んで、しかるのちに正社員の賃金が上がりはじめるわけで、なんとか現状のような人手不足状態を持続していくことが大切だろうというのは過去繰り返し書いたとおりです。前回の景気回復時においても、非正規の正社員転換や正社員の賃金上昇が始まったあたりでサブプライムリーマンショックが来ておじゃんになってしまったわけで。
 一方で、福山運輸はおそらく賃上げ分をそれなりに価格転嫁する目処があるのでしょうが、王将フードサービスについてはその点やや不安が残るところではあります。まあ王将の大幅ベアは正社員対象なので、価格に大きく影響するようなコスト増にはならないのかもしれませんが…。
 というのも、生産性が大好きな日経新聞が今朝の朝刊でこんな記事を載せているわけですよ。

…なぜ生産性が上がらないのか。逆説的だが、日本の企業が賃上げに慎重な姿勢を続けてきたことが生産性の低迷を招いたとの見方がある。
 「賃上げショックで生産性を一気に引き上げるべきだ」。国宝・重要文化財の修復を手がける小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長はこう訴えている。
 ゴールドマン・サックスの名物アナリストだった同氏による主張の根拠はこうだ。低賃金を温存するから生産性の低い仕事の自動化・効率化が実施されず、付加価値の高い仕事へのシフトが進まない。その結果、生産性が上がらずに賃金も上がらない。いわば貧者のサイクルに日本は陥っているというわけだ。
 アトキンソン氏は最賃の毎年の上げ率を現在の3%台から5%台に加速させるべきだという。低生産性の象徴とされる中小企業に、省力化の設備投資や事業の変革を迫る起爆剤になるとみる。英国は99年に最賃を復活させて18年までに2倍超に上げた。低い失業率のまま生産性が高まった。
平成31年3月19日付日本経済新聞朝刊から)

 「低生産性の象徴とされる中小企業」ってえのがどんなものをイメージしているのかはいまひとつ明らかでないのですが、まあ中小企業の7割はサービス業であり、製造業のようには自動化投資が進みにくいことは念頭に置いておく必要があるでしょう。そうした中でも、昨年もいくつか紹介しましたが(https://roumuya.hatenablog.com/entry/2018/10/09/162719https://roumuya.hatenablog.com/entry/2018/10/11/171659)省力化投資、自動化投資もそれなりに進められているわけですよ。その省力化投資の成果のほとんどが消費者(低価格)に分配されていることが問題なのではないかと思うわけです。消費者に安くなければ買いませんといわれたらそういう経営努力をするしかないわけであってね。逆にいえば、賃金を上げて、投資もして、それを価格転嫁して値上げして、一方で政府が国債をジャンジャン発行して期限付き・換金不可の金券をバリバリとばら撒いて値上がりした商品を国民こぞって従来以上に消費すれば生産性はぐんぐん上がるだろうという話でもあります。
 いやもちろん企業としては高値でも売れる魅力的な新商品・新サービスを提供すべく努力すべきなわけですが、続けて日経が上げている事例はといえば、

 賃金の変革に動き出す企業も出てきた。
 フリマアプリのメルカリ。16年からエンジニアらの新卒採用を本格的に始めた。面接で候補者のインターン経験や学術論文などを含めて能力・技能を見極める。具体的な金額を役員に諮り、初任給を決める。最大で数百万円の差がつく。18年は70人あまりが入社した。
 「賃上げなくして成長はない。ただしもうかるビジネスモデルがあってこそだ」。「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービス一瀬邦夫社長は断言する。1月にベアと定昇で平均6.18%を賃上げした。18年は230店を純増。賃上げで事業を拡大する好循環につなげる。
(上と同じ)

 これだもんなあ。セコハンと低価格外食チェーンというデフレ的なご商売を担ぎ出されてもなかなか、ねえ。なおメルカリについては従業員数百人の企業が新卒を70人採用するということなので、まあ処遇を個別判断するというのは特段不思議でもないですし、「学術論文」というからには博士号持ちも採用するのでしょうから専門学校卒のSEとかと「最大で」数百万円の差がつくのはむしろ当然でしょう(200万円でも数百万円だしな)。ペッパーフードサービスの社長さんの「賃上げなくして成長はない。ただしもうかるビジネスモデルがあってこそだ」というのは全力で同意するところですが、しかし同社の2月の既存店売上高は2割を超える大幅減であり、海外の不採算店舗の閉鎖などもあって最終黒字は確保する見通しとのことですが大丈夫なのかしら、とまあこれは余計なお世話。まあ賃上げは正社員の話で店舗の現場はおそらく別物という、これは王将と同じような話かもしらん。
 ということで、まずは賃上げを価格転嫁できる産業・企業は値上げすることがまずは第一と思われ、実際問題この年度末は引っ越し料金が大いに上昇したりもしているわけだ。しかしそれが適正価格だということではないでしょうか。ところが、日経新聞と来た日には運送業者が悪いことをしているように書くんだからなあ。

…「いつからこんなに高くなったのか。妻に言えない」。北九州市の会社員、塚本智也さん(31)は2月末、転職に合わせて三重県四日市市から単身で引っ越しした。インターネットの見積もりサイトを通じて複数社と交渉。単身で荷物量が少ないため料金は数万円と思いきや、回答はいずれも30万円前後と高かった。
 ある大手には「作業員が足りず受けられない」と断られた。結局、一部の家財を宅配便で送ることで荷物を減らし、14万5000円で別の大手に決めた。「レンタカーを借りて自分で運べばよかった」と憤る。
 4月に妻と2人で横浜市から川崎市への転居を予定する会社員(27)の場合、業界大手から示された見積額は30万円。「時期をずらせば15万円でできる」と言われたが納得できず、8社ほど探しようやく11万円で請け負う中堅で折り合った。
平成31年3月17日付日本経済新聞から)

 これではデフレマインドは払拭できないし生産性も上がらないよねえ。なに考えてるんだか。
 サービス業の方はなかなか直接的な価格転嫁は難しいのかもしれませんが、まずは営業時間の短縮とか休日の増加とか、実質的な値上げから取り組むということなのかなあ。これは用役費などでコストダウン効果も大きいのですが、ある程度地域や業界で足並みを揃える必要もありそうなので、そのための仕組みづくりに知恵が要るかもしれません。
 なおそれに関連する話としてこんなニュースも流れていたわけですが、

 コンビニエンスストアの加盟店主(オーナー)について、厚生労働省の労働紛争処理機関である中央労働委員会は15日、オーナーを独立した事業者と判断し、本部がオーナーとの団体交渉に応じないのは「不当労働行為には当たらない」と認定した。中労委は「オーナーは労働組合法上の労働者に当たる」として本部に団体交渉に応じるよう求めた都道府県労働委員会の救済命令を取り消した。コンビニのオーナーの立場について、中労委が判断を示すのは初めて。
平成31年3月15日付日本経済新聞朝刊から)

 妥当な決定だと思います(中労委は三者構成なので労働者代表の意見も反映されている)。ただ、これも過去繰り返し書いているように、労働者にはあたらないとしても力関係の差は歴然としているので対等性確保のしくみは別途必要だろうと思います。上でも書いたように営業時間や営業日を見直すとなるとセブンイレブンだけでやっても効果は限定的で(ローソンやファミリーマートを利するだけに終わる可能性あり)、フランチャイズオーナーの中間団体が業界団体と協議できる場が必要ではないかと思います。
 なお最低賃金つながりではさらにこんな話も世間を賑わせていたわけで、

 厚生労働省都道府県ごとに異なっている最低賃金について、一部の業種は全国一律とする検討に入った。7日の自民党議員連盟会合で説明した。4月に新たな在留資格が創設され、外国人材の受け入れが拡大するなか人材を定着させる狙いがある。早ければ年内にもルールを整備する。
 厚労省は介護など新たな在留資格の対象となる14業種に限り、全国一律の最低賃金導入を検討する。関係する省庁と連携し、各業界団体からも意見を聞く。都道府県ごとに最低賃金を決める現在の仕組みだと、外国人材は最低賃金の高い都市部に集中し、地方の人手不足対策にならないとの指摘があった。このほか厚労省は全国一律化を議論する有識者会議を設置する方向で検討している。
平成31年3月7日付日本経済新聞夕刊から)

 私としては都道府県別最賃が確立定着した中では産別最賃は屋上屋を架すものであって不要という立場であり、かつ各地の経済の実情を踏まえて公労使三者で決定することが望ましいとも考えているので「職種別全国一律最賃」というのはいかにも筋が悪いと思いますし、なんか新在留資格の労働者が都市部に集中しないように最賃を調整するというのも妙な話だとは思ったわけですが、まあ地方選出の先生方には地元の商工業者から「そうしてくれ」という陳情もあるのかなあなどと思っていたわけです。
 ところがこれを見た中小企業団体のロビーは逆方向の「最賃引き上げ困ります」であったらしく、いやしかし賃金は上げたくありません高い賃金のところに行ってしまうのも困りますってのはどういう了見なのさと思うわけですが、それはそれとして菅官房長官が記者会見で「現時点においては検討していない」と回答したところ、こんなニュースが流れてきて目を疑いました。

 厚生労働省は8日、全国一律の産業別最低賃金を検討しているとした同省賃金課長の発言について、「混乱を生じさせていることについて、おわび申し上げる」とのコメントを発表した。「発言はあくまで課長の個人的な見解」とした上で、「厚労省として具体的な検討や調整を行っている事実はない」と改めて否定した。
 コメントは労働基準局総務課名で発表された。賃金課長は7日、自民党議員連盟の会合で、外国人の受け入れを拡大する業種に関し、全国一律の最低賃金の設定を検討する考えを表明した。菅義偉官房長官は7日午後の記者会見で「現時点においては検討していない」と否定していた。
JIJI.com「最低賃金で混乱、おわび=課長の個人的見解-厚労省コメント」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019030800892

 まあ厚生労働省としてみればただでさえ信頼が失墜していて国会やらマスコミやらで連日叩かれている中なのでなにごとにも敏感になるのは致し方なかろうとは思うので同情しなくもないのですが、それにしても課長が所管の政策について「今後検討したい」と発言するのはまあまあ常識的な話であろうと思われ、それについてわざわざ「あれは課長の個人的見解であって(今現在)舞台的な検討や調整はしていない」と文書で発表するというのもいかにも過剰反応のように思います。普通に考えれば今後検討して組織としては「やはりやめましょう」ということになるのが自然な成り行きでしょう。それをわざわざ「個人的な見解」と発言者ひとりを切り捨てるかのような対応が取られるということになると、まあなかなか闊達な議論は望めないでしょう。不祥事の再発防止であれこれ過剰反応するあまりますます組織の風通しが悪くなってしまうという悪循環に陥ってしまうとすると最終的に迷惑を被るのはわれら国民であるわけで。いや叩かれるのは自業自得だと言えばそれはそのとおりなのですが、しかし叩き方もいかがなものか(お、使ってしまった)とは思うので、多少の同情は感じなくもありません。
 ということで話があれこれ右往左往して最後は思わぬところに到達してしまったわけですが、とりあえずこの間の主要なトピックスについてひととおりは言及できたのではないでしょうかと開き直って終わります。なんだかしまらないなあ。

季刊労働法鼎談「働き方改革関連法と人事管理」

 労働法の専門ジャーナル「季刊労働法』の2019春号(通巻第264号)の標記鼎談に登場しております。

季刊労働法 2019年 04 月号 [雑誌]

季刊労働法 2019年 04 月号 [雑誌]

 某所で私が水町先生をいじめている(笑)との憶測が流されておりますが(笑)、現実には佐藤・水町の両大御所の間でいたって存在感が薄くなっております。季労なので法定休日の特定とか労働時間の通算とかいった細かい話もしていますが、今後の人事管理の課題と方向性みたいなざっくりした話もけっこうあります。まあ紙幅が限られている中で、存在感が薄いながらも言いたいことはかなり言えたかなと思っています。営業に支障のなさそうな範囲で(笑)一部私の発言をご紹介します。
 まず上限規制について。

…「優秀な人が8時間働くのであれば、平凡な私は16時間働いて上回ってみせる」といったことを美徳のように考える風潮がまだ残っているのではないでしょうか。会社として、「君は平凡だから競争はあきらめて、ムダな努力はやめて8時間で帰りなさい」と言えるのかどうかですね。それをどれほどの人たちが望んでいるのか。
(中略)
…少なくとも時間外・休日に200時間働いてキャリアの競争をするということはダメだということになった。100時間超えて残業して、体を壊して、周りに迷惑をかけてまで、競争に勝ちたい、というのがフェアな競争ではない、ということにはなってきたのでしょうね。

 次は同一労働同一賃金の、賞与に関する部分です。

…日本の正社員は、課長以上に限らず、経営方針に基づいて、仕事が割り当てられてPDCAを回すことが責任となっていて、収益計画にリンクしている。それが、企業業績に貢献するということだと思います。そういった仕事をしている人と、収益計画とは切り離された仕事をしている人というのは、当然違うわけです。
 ただ、現状はそうした違いが明確になっていない企業もあると思いますので、そうした企業はきちんと方針管理、収益計画のブレークダウンをやる必要が出てくるでしょう。

 最後のまとめの部分では働き方に関するいつもの話を。

…質的な問題ではなく、量的な問題だと思っています。これまでは経営幹部や上級管理職を目指して競争する人が多数だったわけですが、そういう人は、これからもいるでしょうがだんだん減っていく。その分、そうではない人が増えていくということで、働き方改革が実現していくのだと思います。
(中略)
…4時、5時に帰って社長になれる人はいると思いますし、そういう人も社長になれることは大事だと思います。ただ、そういう超人的な人は全体の0.1%もいないだろうということは忘れてはいけないと思います。

 佐藤先生が同一労働同一賃金ガイドラインにパートタイム労働法での蓄積が活かされていないことを鋭く追及する部分など読み応えありますのでぜひご一読を(宣伝)。

小室淑恵『働き方改革』

 (株)ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんから、ご著書『働き方改革-生産性とモチベーションが上がる事例20社』をご恵投いただきました(昨日お会いした際に手渡しで頂戴しました)。ありがとうございます。

働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社

働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社

 まだざっと拾い読みした程度での雑駁な感想なのですが、基本的に事例集なので楽しく読め、やっていることの多くは業務の優先順位づけや標準化といった基本というか王道なのですがそれぞれに業種業態を反映して個性的でもあって、営業ツール(失礼ご容赦)としてもなかなか効果的なように思われます。共通項としてはトップが不退転の決意で取り組むこと、中間管理職のパワーアップが必要なこと、全員の意識改革、というところになるのでしょうか。
 中でも中間管理職の役割というのがかなり大事なように思われ、もともと日本企業では上位からあれやこれやと業務指示が来ると下位の中間管理職や監督者、さらには担当者レベルでも優先順位が低そうなものはとりあえず着手だけしてあとは催促されるまでは放置し、なにもいわれなければそのまま流してしまう、といったことが割と行われてきたわけですが(高橋伸夫先生の名著『できる社員は「やり過ごす」』は文庫化されてますね)、どうも中間管理職のプレイングマネージャー化が進んだのと、例の成果主義騒ぎなどもあって、リソーセスが慢性的にショートしてきてかえってそういう余地も失われてしまったというところでしょうか。まあ考えても見れば年功賃金と年功昇進であればわりと「やり過ごす」こともできやすかったということも言えるのかも知らんな。本書内では評価の問題についても指摘されているのですが、これも評価そのものの問題もあるでしょうがポスト詰まりで高い評価を受けて高いポジションにつける機会が限られてきて競争激化したという問題も大きいのではないかと思料。
あとはまあまだじっくりと読めてはいないのですが、事例の中に大東建託というのが出てきておや大東建託ってアレじゃなかったかしら?と思ったのですがモデル職場では効果があったけれど全社展開・定着までは至らなかったのかなあ。それからいたく細かい点なのですがもうひとつ、このブログで以前取り上げた話との関係で、静岡県教育委員会の事例の中で、授業以外のことに膨大な時間が割かれていることが問題だということを指摘した上で、

…ちなみに、イギリスでは1998年に教育雇用省が「教員がしなくてよい業務として次の25項目を上げました。

(中略、25項目を列挙)

 このリストを見た日本の教員は「自分の仕事の8割だ」と言ってショックを受けていました。(pp.223-224)

 と、同じ間違いが記載されていることを発見しました。正しくは「自分はこの8割をやっている」とのことで、さすがに直観的にも授業やその準備などが2割ということは考えにいわけですが、しかしこうした勘違いが起きるくらいに教員の仕事の実態は大変だということなのだろうと思います。ということで、これはあれだなこの時期この界隈でそういう資料が流通していたのかなと思って妙に納得する私。いや最後はなんかしまらないオチになってしまいましたが、しっかり読んで勉強したいと思います。

「毎月勤労統計調査」フォロー

 2月25日のエントリについて、専門の研究者(大学プロパー)の方から「もともとは全数調査の建前なのに回収率が低くなってしまったものをどう修正しようか悩んでいたのが発端だろうと思う」とのコメントをいただきました(ありがとうございます)ので、フォロー記事を書きたいと思います。
 たしかに回収率の低下は各統計の悩みの種であるようで、調査員が全世帯を絨緞爆撃する国勢調査でも回収率は100%ではなく、総務省の資料(http://www.stat.go.jp/info/kenkyu/kokusei/houdou2.html)によれば平成17年度調査の未収率は4.4%、東京都では13.3%に上っている(これを見ると世帯と企業の違いはあるにせよ今回の問題も東京都だったのは納得いくところ)そうですから、本当に全数調査を実現しようとしたらリソーセスがいくらあっても足りないというところではないでしょうか。毎勤統計についてはそれでも月例の調査票は1枚であり、回答者への配慮もそれなりにされていると思いますが、それでも毎月となるとかなり大変であり、このところ話題になっている2015年の厚労省有識者検討会でも相当の脱落があることが議論されています。賃金計算ソフトの中には毎勤統計の調査票記入のためのデータを集計・出力してくれる気の利いたものもあるくらいで(たとえばオービックSCSK。ソフトウェアベンダーの手先かお前は)、やはり面倒な作業だということなのですね。
 回答者の理解・協力が得られにくくなっているというのは社会的な趨勢で致し方のないことだろうと思いますが、それは当然ながら調査に要するコスト・リソーセスの増加を意味します。一方で、だから全数調査をサンプル調査にしますというと手抜きであるとか効率化努力が足りないとか言い出す人というのもいるわけです(そういえばかつて行政のムダをなくせば財源はいくらでもあるとか声高に言っていた人たちもいたよな)。また、(まあ専門家の大勢はサンプル調査でも適切に復元すれば大差はないという意見のようですが、それでもなお)全数調査のほうが統計としての質がいいことは間違いないわけで、総務省としても「ではサンプル調査に変えてもいいです」とはいいにくいという事情もあるでしょう。もちろん、だから法に定められた手続を省略して勝手に変更していいわけはないわけですが。
 また、仮にそうだとすると気になるのが、まあ回収率が9割とかであれば復元の必要性も低いのでしょうが、仮に7割とか6割とかになっていたとすれば、その時点ですでに一定の復元は必要だったのではないかという点です。もし復元が行われていなかったとすれば、さらにさかのぼって誤った(おそらくは低すぎる)数字が出ていたことになると思うのですが…。まあ2004年よりさらに以前の話であり、データが残っているかという問題もありますし、15年、20年の古くまで遡って数字を修正しなければならないほどの違いはないような気もするので、あまり気にすることもないのかもしれません。このあたり実際のところがわからないのでなんともいえず、たぶんそのあたりも含めて今後の課題なのでしょう。

バイトテロと損害賠償

 積み残しシリーズ第3弾です。この件についても意見照会を頂戴しましたので簡単に書きたいと思います。このところ電子版で気合の入っている読売新聞オンラインから。

 飲食店などのアルバイト従業員による不適切行為の動画がSNSに投稿され、騒ぎになるケースが相次いでいる。食品を取り扱う場での悪ふざけに対し、一部の企業は法的措置をとる動きを見せている。専門家は「悪質な場合は刑事責任を問われることもある。代償は大きい」と指摘している。
 回転ずしチェーンの「くら寿司」で、ゴミ箱に捨てた魚を再び、まな板に戻す様子を映した動画がツイッターで拡散したのは2月上旬。仲間内でSNSに投稿し、数時間後に削除した動画だったが、問題視した利用者がツイッターに転載したとみられる。
 運営する「くらコーポレーション」は今月4日、顧客からのメールで動画の存在を知り、社内調査に着手。すぐに動画が撮影された大阪府内の店舗と、動画を撮影したアルバイト2人が特定された。大きな騒ぎになることを想像していなかった2人は社内調査に対し、受け答えができないほど、憔悴していたという。
 同社は今月8日、2人を退職処分にした上で、偽計業務妨害容疑での刑事告訴や損害賠償請求の準備を進めていると公表。「全国で働く従業員の信用回復と、同様の事案への抑止力にする」と説明した。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20190220-OYT1T50221/

 これに関してはウェブ上をざっと見てみたところ賃金が低すぎるからこういう不祥事が起きるのだ、それを棚に上げて損害賠償請求するなど弱いものいじめでけしからんといった言説があちこちで発せられていてまあねえと思ったわけですが、あれそういえば私以前この話書かなかったっけと思って探してみたところ5年以上前に書いていました。
アルバイトの悪ふざけ(2013年8月26日)
 ということで前段(低賃金)については現状でもここに記載したとおりでよろしいかと思います。シャピロ/スティグリッツの効率賃金仮説は私が学部生だった1980年代前半、ラジアーの保証金仮説はさらにその前だったはずで、今では学部の教科書にも載っていますね。なにやら最近の事例では「クビかくご」と宣言しているものもあるそうで、まあ失っても惜しくないような労働条件であればそういう輩が出てくるというのも想定すべきリスクでしょう。もちろん雇う側としてもそうしたリスクがなくなるまで時給を上げられるかといえばと当然ながら採算を考慮しなければならないわけで、その兼ね合いを考えながら処遇を決めることになります。どうしてもリスクが残る中ではなんらかの対応が必要になるわけで、それが後段(損害賠償請求けしからん)の話につながってくるわけですね。
 ここについては5年前にはあまり書いていないので少し敷衍したいと思いますが、使用者が労働者の故意や過失によって自ら直接損害を受け、あるいは第三者への損害賠償責任を負った場合には、労働者に対して損害賠償請求を行うことは当然できます。その一方、使用者は労働者を雇用して事業を営み、これに指揮命令しあるいは管理監督しているわけですから、就業中の過失などによる損害については使用者もそのリスクを応分に負うべきだともされています。したがって、軽度の過失であれば損害賠償を認めないのがまあ一般的であり、故意や重過失がある場合でもケースバイケースで減額されるのが普通です。業界で有名な茨石事件という最高裁判決があるのですが、これは労働者が運転業務中に交通事故を起こしたことで社有車と事故相手の車両との修理代が損害として発生したという事件で、労働者の損害賠償額は全損害額の1/4とされています(別の事件ですが地裁レベルでは悪質な故意を認めて全額の賠償を命じたケースもあります)。
 そこでこの最高裁判決ですが「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる。」と判示していて、しっかり労働条件が考慮要素として挙げられています。常識的に考えて労働条件が高くなければ損害賠償も多くは求められないというのは大方の同意を得られるでしょう。ちなみにこの間にはバイトテロで閉店の余儀なしとなった事業主がアルバイトに損害賠償を求めた事件も実際に起こっており、200万円(4人)で和解しています。主犯格は100万円を超えていたはずで、まあこれがどの程度の打撃かは家庭環境に大きく依存するでしょうが、それなりに抑止力にはなるとしても5年前のエントリのとおり「「人生を壊してしまう」ほどの打撃を与えうるかというと、かなり疑問」ということではないでしょうか。
 ちなみに刑事については、偽計業務妨害や威力業務妨害は微妙としても軽犯罪法の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」を使う手もあり、告訴することは可能でしょう。ただまあ偽計業務妨害だとしても、熊本地震の際にツイッターで動物園のライオンが逃げたというデマを流したという悪質な事例でも起訴猶予で終わっており、こちらはそれに較べれば故意ではあるものの軽率な悪ふざけであり、仲間内で眺めて喜んだら削除したり、そもそも24時間で消去されるインスタストーリーを利用したりしていて加害の意図もさほど強くないということになれば、警察でみっちりと油をしぼられしっかりとお灸を据えられるでしょうが、送検され起訴にいたることは考えにくいでしょう。まあ再発防止策としての効果はあるでしょうが。
 このあたり、何年も前からの話ですし、各社ともアルバイトの採用時の研修でこうした不始末を起こさないよう注意し、起こした場合には刑事罰に問われたり損害賠償責任を負ったりする可能性があると警告もしているでしょうから、いざ現実に起こされてしまったら、弱い者いじめと叩かれるレピュテーションリスクはあるとしても何もなしではすませられませんという事情もありそうな気がします。いやまったくの推測ですが。
 むしろキツそうなのは社会的制裁であり、上記のように短時間の掲載であっても即座にウェブ上で広まり、当事者の氏名や個人情報が特定されて拡散されるという状況なわけで、このあたりは5年前と較べてもいっそう強烈になっているのではないでしょうか。となると先々もついて回る話でありどんな不利益を受けるかもわからず、かなり厳しい制裁と言えそうに思えます。逆にいえばそうした社会的制裁を受けていることで民事や刑事の責任は軽減されそうなわけですが。
 なお以下の件についても意見照会をいただいているのですが、独立のエントリを立てるのもどうかという感じなので、アルバイトの時給とか損害賠償がとかいう点で関連しているということでここでついでに書きます。こちらは電子版で先行した日経オンラインから。

…セブン―イレブン東大阪上小阪店のオーナー、松本実敏さん(57)は1日、24時間営業を午前6時から翌午前1時までの営業に短縮した。松本さんは21日、日本経済新聞などの取材に応じ、営業短縮に関して「本部から違約金は1700万円と言われた」と話した。
 同店では2018年6月から2月までの間に、13人の従業員が辞めたという。松本さんは「1人で28時間働いたこともあった。24時間営業が基本というが(人手不足の)現状を見てほしい」と述べた。
 対する本部側はオーナーとの話し合いの中で、契約に違反した状態が続くと契約解除の理由になり得るといった点のほか、違約金が発生する可能性について説明したという。ただ実際に契約解除の通告や違約金の請求はしていないとしている。…
 セブンイレブンではこれまでもオーナーとの話し合いで一時的に24時間営業をやめる事例はあったという。今回は両者の事前の合意が十分にされない状態で営業時間が短縮されたようだ。
 松本さんは21日、本部側から改めて支援の申し入れがあったと明らかにしたが「対応に不信感がある」として「24時間営業の契約を見直さないならば話し合いには応じない」と述べた。今回セブンイレブンの店舗で起きた摩擦が、コンビニの深夜営業を巡る議論に発展する可能性もある。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41571240R20C19A2TJ3000/

 記事中「セブン―イレブン」と「セブンイレブン」が混在しているのですがそれはそれとして、正直事実関係が明らかでない(オーナーと本部で主張に隔たりがあるようですし)のでコメントしにくいのですが、とりあえずセブンイレブンは24時間営業を保証して高価格を維持するビジネスモデルなので、それを一時的にやめるにしても商圏の顧客に十分な周知期間を取るなど「開いてると信じていたのに閉まっていた!」ということにならないようにしたいというのは理解できる話で、したがって本部に相談せずに黙って24時間営業をやめてもらっては困るというのはうなずけます。
 とはいえ、いかにフランチャイズ契約は雇用契約とは違うと言っても本部とオーナーの間には経営方針の指示とか店舗運営の指導とか支援とかいう話はあるでしょうし力関係というものもあるのでやはりオーナーにあまり重い責任を負わせることは適当ではないでしょう。違約金1,700万円というのはいかにも高額でどこからそういう数字が出てくるのかと思いますが、このあたりは言った言わないの話らしいのでよくわかりません。
 ただまあちょっとどうなんだろうと思って調べてみたところこの店舗の近辺、徒歩10分圏内くらいにはセブンイレブン以外も含めて6~7軒のコンビニエンスストアがあるようで、それらの求人広告サイトを見てもこの店舗のものとほとんど違いはありませんが、この店舗以外は24時間営業を維持できるアルバイトを確保できているようです。どうも配偶者の方が亡くなられて確実に計算できる人手が一人減ったという同情すべき事情はあるらしいのですが、それにしても近隣の同業が人手を確保している中で「2018年6月から2月までの間に、13人の従業員が辞めた」ということだと、この店舗に特有の事情があるのではないかと考えるのが妥当なような気はします。
 ということで、このブログでも過去営業時間の短縮や深夜価格の導入などで人手不足対策や生産性向上を図る余地はあるのではないかと書いたことがありますが(たとえばこのあたりhttps://roumuya.hatenablog.com/entry/20150127/p1)、この件はこの店舗の個別問題であって一般論として「コンビニの深夜営業を巡る議論に発展する」というほどの話でもなかろうという感想です。

毎月勤労統計調査

 積み残し整理の続きはこの話です。過去このブログで「みなさん調査・統計をナメすぎ」とかいうエントリを何度か書きましたが、まさかいちばんナメてたのは当の役人でしたというオチになるとは思いもよりませんでしたよ。中でも一番ナメてると思ったのは復元していなかった(普通に考えて誤った)データを「誤差の範囲」で片付けようとしていたというところでしょうか。もちろんそれ以外にもひどい話は多々あり、私も一応は統計ユーザーの端くれであるわけでちゃんとやってくれえと思うなあ。
 事情はいろいろと込み入っているようで詳細はよくわからないのですが、わかる範囲で雑駁な整理を試みると、まず(1)変更当初の問題としては(1)a「調査方法を変更するときに総務省と調整せずに勝手にやってしまった」といった手続の問題と、(1)b「サンプル調査に変更したのに復元を行っていなかったために誤ったデータになっていた」といった方法論の問題があったようです。
 次に(2)訂正時の問題としては、やはり(2)a「公開せずにを訂正はかった」といった手続の問題と、その結果として(2)b「必要なデータが一部散逸しており、過去データの修正がされず、誤ったデータが残った」という方法論の問題があったということでしょうか。あとはまあ(3)後処理の問題として、「厚労省幹部が同席した調査を第三者委員会の調査と説明した」という話で、これも手続の問題でしょうが、やや次元が異なるような気はします。以下これら一連の問題を人事管理面から考えてみようと思うわけですが、まあこなみかんレベルの話にしかなりそうにないのであらかじめそのように(だから日記タグにした)。
 さて背景としてはまず(1)abについてはもちろん組織や担当官のモラルや能力の問題がある(一部統計法違反にあたりそうな内容もあるわけで)としても、結局は「マニュアルは決められているがそれに必要なリソーセスが割り当てられていなかった」という話になるのでしょう。もちろん統計は重要であって十分なリソーセスが割り当てられるべきだというのは正論であり、きちんと検討・議論してほしいわけですが、ただ一方でリソーセス不足自体は役所に限らず世間一般にザラにある話であってあまり同情しようという気にもなりません(もっとも民間も立派にやっているかといえば往々にして不払い残業で対応してますとかいう話もありそうでそれほど威張れるわけでもない気もしますが。いやこれは官民を問わないかも)。
 事情が異なるとすれば、民間であれば(1)bの「至急システムの変更が必要になりましたが当座内部には使えるリソーセスがありません」という場合にはとりあえず手近な業者に発注して、費用はまあ現場の課長さんなり部長さんなりの権限で(価格により異なる)他の費目から流用したり、赤字を計上して開き直ったりできるのに対して、お役所の場合は少額の調達でも複数業者から相見積もりをとってとか何かと不自由だという話はあるのかもしれず(よく知らないので推測です)、となると内部のリソースが使えるようになるまで先送りするかと考える人もいるのかもしれません。(1)aも似たような話は想定され、総務省との調整がどの程度の手間なのかはわからないのですが、当方も先方も審議会やら委員会やらを開催してという話で持ちかけられた総務省の担当者もいい顔をしないということになると、まあ大した変更ではないのだし(復元をすれば、ですが)そのうち他の案件があるときにでもということで先送りしたいと思ってしまう人もいるのかもしれません。このあたりもちろんきちんとやってくれなくては困るわけですが、しかしまあリソーセス不足対応が手間ひまがかかるわりには評価されないという状況だと若干気の毒な感はなくもないかなと。でまあ良く言われる話ですが(これ自体は必要性もあるのでしょうからすべて悪いとまでは言えないでしょうが)比較的短期で異動する役所の人事の中では、引き継ぎが繰り返される中でうやむやになっていく、これは先般の障害者雇用「水増し」と似た構造の問題があろうなと思うわけです。
 そして冒頭でも書いたように(2)のところが大問題だと思うわけで、まあ役所としては「復元をしないというかなり初歩的なミスで間違った数字を十数年間出し続けてました」「修正しようにも必要なデータがなくてできません」というのはあまりに格好悪くて表ざたにできません(あくまで私のまったくの推測ですが)というところかもしれませんが、まあ手前勝手というか、統計をなんだと思ってるんだという話でしょう。もちろんこの間歴代の関係者が責任を問われることは免れないでしょうし、表ざたにした人たちがおそらくは最も叩かれるであろうという点に若干の理不尽はあるわけですが、それにしても、再発防止に加えて、リソーセス確保をはかる上でも統計業務の地位向上をはかる上でも一度は実態を白状しておいたほうがよかったのではないかと思います。また、現時点ではデータが残っている分しか修正されていないようですが、データがなくなっている部分についても、不十分であっても修正したほうがマシではないかという気もします。まあこのあたりは専門家の判断に任せるべきところでしょうが。
 なにやら他省庁ふくめ毎勤統計以外の統計調査でもあまり適切でない状況が見られるらしく、統計ユーザーとしては適切な統計情報が提供される体制整備を進めてほしいと思うところですが、なんかもうすっかり政争の具と化している感があって体制整備どころか統計の改良を言い出すことも難しくしてしまうのではないかなどと懸念することしきり。いやほんとちゃんとやってくれえ

経団連「2019年版経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解

 中央の講義期間中に積み残した仕事というのが相当にあり、さらに「講義が終わってから」という案件もいくつかあって消化に追われていたのですが、なんとか一段落となりました(と信じたい)。先週、今週と働き方改革の関係でまとめてしゃべる機会があってご紹介したい内容もあるのですが、まずはここでも昨年末以降の積み残し案件から書いていきたいと思います。
 ということですでに春闘も始まって金属労協大手を中心に交渉が進んでおりかなりいまさら感はあるのですが、まずは経労委報告に対する連合見解について簡単にコメントしたいと思います。これで間接的に経労委報告へのコメントにもなるでしょう(安易な道)。
 ということで今年の連合見解は以下になります。
https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/article_detail.php?id=1024
 経労委報告はというと、例年同様経団連出版さんのご商売との兼ね合いということと思われますがウェブサイト上では全文は公開されておらず、経団連タイムズのバックナンバーのページで要約を見ることができますね。
http://www.keidanren.or.jp/journal/times/2019/0124_01.html
 さて連合見解は8,000字近い長文でなかなかに力が入っているわけですが、基本的には経労委報告が連合の闘争方針について「経団連と方向性は一致している」「企業労使が広い視野に立って真摯に議論することは、建設的な労使交渉の実施に寄与する」と記載していることについては以下のように同意しています。

 基本的な考え方については連合と「経団連と方向性は一致」しており、「建設的な労使交渉の実施に寄与する」との考えも、認識のとおりと評価する。

 たしかに経労委報告を概観すると連合と一致している部分もかなり見受けられますし、交渉の方便として乗れる部分には乗ってしまうというのも有力な考え方ではあるのでしょう。ということで連合見解の反論は一致していないいくつかの部分が中心であり、かつ書かれていることよりは「書かれていないこと」に対する異論が多いのが今年の特徴といえそうです。
 一方で、上記に続けてその最初の論点としてこう書かれてしまうと「あれ、なんかずれてないか」という印象も受けないではありません。

…働く者の月例賃金引き上げへのこだわりに応えずにきたことが、結果として失われた20年を生み、いまだに日本経済がデフレから脱却できない素地を作ってしまったことへの反省が、まったくみられない。

 いやまあもちろん月例賃金へのこだわりがなかったと申し上げるつもりもないのですが、しかしそれ以上に雇用維持に強くこだわってきたというのが現実ではないでしょうか。「応えずにきた」と経営サイドが一方的に無視したかのように書いていますが、実際のところは(特に単組レベルでは)労使合意の上で月例賃金引き上げより雇用維持を優先してきたのではないかと思います。それが「結果として失われた20年を生み、いまだに日本経済がデフレから脱却できない素地を作ってしまった」というのがそのとおりだとしても(まあ結果論だとは思うが全否定もしない)、いっしょに反省してくれないと困るとは思うなあ。でまあこれが「反省が、まったくみられない」と主張しているわけでまさに「書かれていないこと」への反論になっているわけですね(別に悪いたあ言いませんが)。いずれにしても現状は当時とはかなり環境も異なっているわけなので今年については「月例賃金へのこだわり」をもって交渉されればよろしいのではないかと思います。つか、こんなことを書くと怒られそうな気がひしひしとするのですが、経団連はあれほど(なぜ?)消費増税をプッシュしているわけですから、当然ながら消費増税の条件整備として消費増税相当のベースアップは実施するんでしょうねと、ツッコむならここではないかと思うのですが。
 大手・中小の格差についてはこう書いているのですが、

 規模間格差の是正については、「中小企業の労働生産性が向上し、・・・結果として、規模間格差が縮小していくことが望ましい」としている。「中小企業の生産性向上は、サプライチェーン全体の問題として捉える必要がある」「中小企業に対する取引価格の適正化や人的支援に大企業が積極的に取り組む」としているにもかかわらず、失われた20年の間に大手と中小の絶対額でみた賃金格差がなぜここまで広がったのかについて一切言及せず、マクロでみた賃金格差是正を否定する姿勢こそ、主張の一貫性を欠いているのではないか。
 日本の企業の99%は中小企業である。現存する大幅な賃金水準格差が中小企業における深刻な人手不足の要因となり、労働時間を代表とする働き方の格差にもつながっていることに鑑みれば、サプライチェーン全体の労働条件格差をいかに是正していくのか、そこに向けた考え方こそ示されるべきである。

 これまた「書かれていない」ことを批判している(というか、引用している生産性のくだりでは書かれているようにも思うのだがまあ思うようなことは書いてないということなのだろう)わけですが、それはそれとしてこれって素直に読むと「大手の賃上げを抑制して中小の賃上げの原資を確保せよ」と書いているように読めるのですがいいのかしら。まあ考えてみればそれ以外に方法はないようにも思えるのでそういうことなのかもしれませんが。賃金で閉じずに取引価格の適正化とかまあいろいろ手立てはあるのでしょうが、しかしその相当部分はいずれ賃金に帰するわけでもあって。なおどうでもいいことですが「日本の企業の99%は中小企業である」というのは事実には違いないですがこの手の議論では雇用者数の7割を担ぎ出すほうが適当ではないかと思います。
 あとは個別項目に対する具体的な見解がずらずらと並んでいるのですが、柔軟な働き方の項では、企画業務型裁量労働制の対象業務拡大については「長時間労働につながるおそれがあり、行うべきではない」と一刀両断しているのに対し、あれだけ徹底抗戦した高プロに関しては「万が一、導入される場合でも、本人同意等の手続きや健康管理時間の適切な把握、健康確保措置の着実な履行など厳格に運用することが不可欠である」と条件つきながら導入を容認しているように読めるのは、まあ制度が導入されちゃったんだから仕方ないということなのかな。あるいは、労働界にも一部には容認論から歓迎論までが存在することをふまえた記述なのかもしれません。
 その後もかなりの部分で「連合と共通するが、これこれも書いてほしかった」というパターンが目立ち、まあ気持ちはわからないではないけれど全部は書けないよねえとも思う。もちろん、以下で指摘されているように、

…「報告」では多様性が強調されつつも、前年に取り組みを促していたいわゆる「LGBT」に関する記載がなく、現在も各職場で様々なトラブルが発生している中、違和感を禁じえない。

「これまで書かれていたことが書かれなくなった」ということには一定のメッセージ性があるので、書かれなかったことに留意することも大事だろうとは思います。実際、LGBTについては一言くらい書いてもよかったんじゃないかとは私も思いますし。
 いずれにしても、連合自身の集計結果をみてもここ数年間はそれなりに実態のある有額のベアが実現しており、今年も経団連・経営サイドにその流れが継続しているように思える状況下では、連合としても交渉前に高めのボールを投げるばかりではなく、ある程度は抱きついていくという作戦は十分にありうるものでしょう。時すでに個別労使の交渉は進みつつあるわけで、労使が十分なコミュニケーションのもとに互いに誤りのない合意に至ることを期待したいものです。