日本労働研究雑誌12月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』12月号(通巻773号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今回の特集は「労働移動」ということで、Googleの検索窓に「成長分野」と入れると「成長分野への労働移動」が第一候補として提示される(これって私だけ?)ご時世にあってまことに時宜にかなったものであり、内容も集団的労使関係や競業避止義務、M&Aなど幅広いテーマを網羅しています。寺本ほか論文では名刺管理ソフトに蓄積されたビッグデータで企業間/内の労働移動が役割変化まで含めて分析できることが紹介されていて、言われてみればそうかなと思いますが知らなかったなあ。勉強させていただきます。

倉重公太朗ほか『企業労働法実務入門三訂版』

 経営法曹の倉重公太朗先生から、先生が編集代表を務められた『企業労働法実務入門三訂版ー労務対応の基礎を学び、人事のエキスパートへ』をご恵投いただきました。ありがとうございます。改訂版から副題が変更になっていますね。

 表紙には執筆者として錚々たる弁護士・社労士が名を連ねており、専門家の手になる信頼できる実務書として定評のある一冊です。2014年の刊行以降、2019年、今回と5年毎に改訂が実施されており、実務家が座右に置いて参照するのに最適な本と言えましょう。

武石恵美子『「キャリアデザイン」って、どういうこと?』

 武石恵美子先生から、ご著書『「キャリアデザイン」って、どういうこと?ー過去は変えられる、正解は自分の中に』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 岩波ブックレットの記念すべき?No.1100で、72ページの中にキャリアを考えるための大切なポイントがコンパクトにまとめられています。「人材版伊藤レポート」や「三位一体の労働市場改革」などに見られるとおり、企業による働く人のキャリア形成の行き詰まり・限界が明らかになり、キャリアの見通しが非常に不透明になってきている中では、自らキャリアを選択することがよりよいキャリアのためには必要であると説き、クランボルツやシャインなどの代表的なキャリア理論も引きつつキャリアデザインとキャリア自律が論じられます。
 その中核的なメッセージは副題にある「過去は変えられる、正解は自分の中に」であり、「過去は変えられる」というのはやや不思議な感じがしますが、「過去の出来事は、自分のキャリアの中にどう意味づけるかという視点で捉えなおすことができる」ということのようです。サンクコストにとらわれ(過ぎ)るな、というのはよく聞く話ですが、実はこれもサンクコストにとらわれ(過ぎ)ないための知恵なのかもしれません。「正解は自分の中に」は要するに他人との比較や他人の評価より自分自身の納得を大事にしようということのようで、これこそ企業によるキャリア形成が期待できなくなった中では最重要の考え方と申せましょう。人によっては従来の価値観を大きく転換することになりかねないので困難はあるのかも知れませんが。

日本労働研究雑誌11月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』11月号(通巻772号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 11月号ということで、例年どおり「ディアローグ労働判例この1年の争点」が掲載されております。今年も神吉知郁子先生と富永晃一先生で、昨年と同じですね。冒頭で「ジョブ型」絡みで話題になった滋賀県社会福祉協議会事件の最高裁判決が取り上げられ、今回職種限定合意のある労働者への配転命令は解雇を避けるためであっても無効であるという判示については妥当としつつも、それでは職種限定合意があることが整理解雇の有効性を基礎づける方向に働くのか、そうでない場合には(労働条件の明確化という政策方針に反して)使用者が職種限定を回避する方向に働きかねないのではないか、といった議論もされています。その他、ホットイシューではもう一つアメリカン・エアラインズ事件の東京地裁判決が取り上げられ、フォローアップでは昨年度の3判例、ピックアップでは最近の4判例が取り上げられています。『ビジネスガイド』12月号で大内伸哉も論じられていたAGCグリーンテック事件も取り上げられており、論調の違いに興味深いものがあります。
 特集は珍しく?集団的労使関係を正面から取り上げた「生活を守るアクターとしての組合」で、米英独瑞韓各国の実情が紹介されていてこれまた興味深く、勉強になります。

ビジネスガイド12月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』12月号(通巻952号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「最低賃金引上げ対応の実務」と「フリーランス保護法に対応した就業規則の改定ポイント」で、最賃については助成金の紹介はもとより、大幅引き上げが続く中で既存労働者とのバランスや月給者でも最賃を下回る危険性などについても実務的に記載されています。後者はフリーランス新法を受けて従業員によるフリーランサーへのハラスメントを防ぐための就規改定などを解説しています。毎度のことながら人事担当者は大変だ。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は「解雇回避努力義務の再考」を取り上げられ、「解雇される労働者と残留できる労働者の利害対立/公平性」という視点を提示されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は「間接差別概念」について、さる5月のAGCグリーンテック事件の判決をふまえ、直接差別との相違や間接差別概念の法的必要性などについて論じておられます。

中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』

 元厚生労働省の小川誠さんから、中村二朗先生との共著『賃上げ成長論の落とし穴』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 まだざっと眺めただけなのですが、署名にもかかわらず賃上げそのものについては否定的なものではありません。「賃上げ成長論」が登場してきた背景と経緯、その間のわが国労働市場と賃金の実情や労働政策との関係性などを検証したうえで今後の労働市場を展望し、「賃上げ成長論の落とし穴」として留意すべき点、具体的には意図せぬ物価上昇や賃金格差の拡大、雇用の不安定化などへの目配りを提起しています。しっかり読み込ませていただきたいと思います。

坂本貴志『ほんとうの日本経済』

 リクルートワークス研究所の坂本貴志さんから、ご著書『ほんとうの日本経済ーデータが示す「これから起こること」』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 労働市場の観点から、多くのデータをていねいに参照しながら日本経済の現状を確認し、その先の見通しを展望しています。過去2冊は高年齢者にフォーカスしていましたが、本書では日本経済全般に視野を広げ、さらに具体的な企業事例を織り込みながら論じられています。第1部が現状確認で、データをもとに「今起こっていること」が冷静かつバランスよく整理されており、世間ではともすれば混乱や誇張が見られますので、この部分だけでも値段の価値がありそうです。続く第2部はざっくり言えば省力化の事例集で、建設、運輸など現に人手不足にある業界の取り組みが紹介されていて地に足のついた議論になっています。第3部がこれらを踏まえての将来展望と論点整理で、著者の前2著と同様に過度に楽観的でも悲観的でもなく、いわば「等身大」の見通しが述べられていて好感が持てます。日本経済をめぐる議論にモヤモヤするものを感じている方は多いと思いますが、ぜひおすすめしたい本です。