高仲幸雄『同一労働同一賃金Q&A』/関島康雄『改訂チームビルディングの技術』

 (一社)経団連事業サービスの讃井暢子さんから、経団連出版の最近刊2冊、高仲幸雄『同一労働同一賃金Q&A-ガイドライン判例から読み解く』と、関島康雄『改訂チームビルディング-みんなを本気にさせるマネジメントの基本18』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

同一労働同一賃金Q&A-ガイドライン・判例から読み解く

同一労働同一賃金Q&A-ガイドライン・判例から読み解く

 まず前者の高仲著は、来年以降順次施行されるいわゆる「同一労働同一賃金」の経営法曹による解説書です。これについては繰り返し書いているとおり政策として極めて筋悪であり、ガイドラインも実務で使うには不明確な部分が多すぎ、裁判例もあまり多くない上に個別にかなり振れていて、ようやく昨年ハマキョウレックスと長澤運輸の最高裁判決が出てなんとなく目鼻がつき始めたかなという状況であり、まあ実務家の疑問や不安のあれこれに歯切れよく答えるのは無理なご注文としたものでしょう。
 そんな中で、この本は現状得られる限りの情報を駆使して主要なポイントをQ&A形式で網羅的に解説しており、その努力と苦心には感服せざるを得ません。一方で、地裁・高裁判決に対しては明確に疑義を呈している部分も何カ所もあり、また「今後の動向に注視が必要」という趣旨の記述も散見され、いずれ時間をかけながら整理されていくのでしょうが、やはり「同一労働同一賃金」のやり方はいかにも拙速だねえと再認識したところです。
 なお経団連出版の類書と同様、後半部分は資料集となっていて法令やガイドラインなどが収載されているのですが、最後の部分では判例・裁判例を分解して住宅手当、家族手当、精勤手当、…、割増賃金、賞与…などに細かく分類して整理しており、なかなか有益かもしれません。
 後者の関島著は2015年に刊行されたものの改訂版ということで、マネージャーを対象とした職場運営の指南書です。文章が平易で分量も多くないので読みやすく、人により職場により、なんらかのヒントが得られるのではないかと思います。

経済同友会代表幹事、終身雇用と新卒一括採用を語る

 経団連会長があれこれ放言問題提起して以来、いわゆる「終身雇用」なるものに関する議論がかまびすしいわけですが、有意義な論調も見られるのに対して、率直に申し上げてストライクゾーンを外れたところでバットを振り回しておおいに空振っている人というのもいるかなあという印象です。まあそもそも「終身雇用」なんて用語は専門家はあまり使わないわけであってな(いやもちろん「いわゆる終身雇用」ということで定義付きで使う人はいるわけですが)。
 ということで、今日は昨日の櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見を材料にこのあたりを検討してみたいと思います。経済同友会のウェブサイトに会見録がアップされているのですが(
櫻田謙悟経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨 | 経済同友会
)、これに関連する質疑応答はふたつあります(別途高齢者雇用に関する質疑応答もある)。まず1問め、終身雇用についての見解を問われてこう答えておられます。

櫻田: 日本最大の課題はいくつかあるが、日本経済が持続可能性を持って成長していくことが大前提としてある。その次に、日本(企業)の生産性、特にサービス産業の生産性向上が不可欠だ。生産性を上げるために(世界に比して)何よりも見劣りするのが労働の生産性であり、ここを見直すほかない。日本に特徴的なことは新卒一括採用、終身雇用、年功序列とそれに伴う社会保障制度だ。これらは戦後70年間、特に昭和の時代にはよく機能したが、経済そのものが大きく変化したこの30年間において、制度疲労を起こしたことは言を俟たない。その中の一つとして終身雇用を捉えれば、やはり制度疲労を起こしており、(このままでは今後)もたないと思っている。ただ、終身雇用制度だけを取り上げるのではなく、広い意味での働き方改革イノベーションダイバーシティインクルージョンを進めていくために、パッケージとしての日本型雇用を見直していくべきで、その中の一つが終身雇用だと考えている。

 これは一読して開いた口がふさがらなかったわけですが、いやすでに飲食・宿泊業では非正規雇用労働者比率が7割、サービス業全体でも5割を突破しているわけであってな…?(すみません今ウラ取りしてないので数字が間違ってたらご指摘ください)
 でまあサービス業の生産性が低い理由としてとみに指摘されているのがその規模の小ささであり、さらに小規模事業所ほど非正規比率が高い傾向があると言われているわけであってサービス業の生産性向上と終身雇用の見直しはほぼ無関係と申し上げざるを得ないと思います。つか経産省あたりは「非正規比率が低い産業ほど、全要素生産性の伸びが大きくなっている」と主張しているわけで(これはすぐに見つかったhttps://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/kaseguchikara/pdf/004_03_00.pdf)、近年の動向としては医療福祉系で正社員比率が上がったことで生産性にも好影響が出ているとかいう話もあるらしいわけですよ(これも聞いた話でウラ取りしてませんが)。経済同友会の事務局なのかSOMPOホールディングスの中の人なのか知りませんが、しっかりしてほしいなあ。
 制度疲労と連呼しているのも残念なところで、これは過去繰り返し書いているように制度そのものの質的な問題ではなく、量的な問題だと考えるべきでしょう。長期雇用自体はなくさなければいけないわけでもないし、おそらくなくならない。ただ、「昭和の時代には」正社員が9割くらいを占めて「よく機能した」していたところ「経済そのものが大きく変化したこの30年間において」それを漸進的に6割くらいまで縮小させてきたわけですね。今後さらに非正社員や限定正社員のようなものが増えて、従来型の正社員がもっと減っていく可能性も十分あると思いますし、多様性の観点からはそれが好ましいというご意見には私も同感ですが、いずれにしても長期雇用については量的な問題には違いありません。なおかつて9割を占めた正社員の中に内部育成・内部昇進の典型的な長期雇用がどれほど含まれていたかというのも別途の論点としてあるわけですが、まあこれは損害保険会社の大企業の人の視野に入らないのは致し方ないのでしょう。
 さてもうひとつの質疑応答は新卒採用についての見解を問うものですが、こう回答されたそうです。

櫻田: 日本だけ、閉じた世界で検討するのは誤りだろうと思う。世界のなかで、在学中に就職先が決まる(学生の)割合は日本が圧倒的に高い。80%超である。米国では50%程度だ。つまり、世界の中でも珍しい仕組みであるということを前提におき、日本の今の採用のあり方が、理由はともかく、世界と競争していくには少し特殊であることを認識しておく必要がある。それを続けていく証拠(必要性)が十分にあるのかを考えた際、私としては証拠不十分で、ダイバーシティインクルージョンを含め、学生個々の考え方に沿って企業も採用を進めていくのが正しいのではないか(と思う)。通年採用が前提にあり、キャリア採用を中心として、その一つに新卒採用があるべきだ。(採用に占める)割合も、今は圧倒的に新卒採用が多い。当社・SOMPOホールディングスでも約80%が新卒一括採用で、キャリア採用は20%程度に過ぎない。これではいけない、変えていく必要があると思っている。

 いやいやいやいや「日本だけ、閉じた世界で検討するのは誤り」というのが誤りだと思うぞ。多々ある市場の中でも労働市場は基本的にローカルなものであり、生身の人間というのは右から左に簡単に動かすことはできないし、旋盤やボール盤で手軽に加工できるものでもない。日本においては学校から職業への接続が(国際的に見て)比較的円滑であり、結果として日本の若年失業率の低さは多くの海外の専門家・有識者から高い評価を得ているということはご承知おきいただきたいところで、これまた中の人にはもう少しがんばってほしかったかなあ。
 いっぽうで「通年採用が前提にあり、キャリア採用を中心として、その一つに新卒採用があるべきだ」というのは非常に有意義な問題提起で、ご自身のお会社について「当社・SOMPOホールディングスでも約80%が新卒一括採用で、キャリア採用は20%程度に過ぎない。これではいけない、変えていく必要があると思っている」と言及しておられるように、これまた質的な問題ではなく量的な問題なんですよ(長期雇用と新卒一括採用が表裏一体であれば当然そうなる)。でまあ多様性の観点からも採用・就職にバリエーションがあったほうがいいというのは私も同意見ですし、あとは、たとえば新卒と中途のバランスをどう考えるかとかいった話は各社のポリシーということになるのでしょう。「学生個々の考え方に沿って企業も採用を進めていくのが正しい」というのは、まあ一応は正論としてもどの程度まで「考え方に沿って」やるのかは人により企業により異なるでしょう。実際問題としては「こんな感じの人を100人くらい」といった採用ニーズであればそうそう個別にコストはかけられない一方、そうしないと採れませんという一部の職種についてはすでに学生個々の考え方に沿って個別にコストをかけて職種限定でのジョブ型の採用というのもすでにかなり広く行われているわけです。
 一方で「学生個々の考え方に沿って」という話だと従来型の新卒就職を望む人のほうが多いのではないかという気もひしひしとするわけですが、そこはやってみないとわからないし変わっていくのだということもあるでしょう。繰り返しになりますが個社のポリシーであり、つまり両社の労組もそれでいいと言っているのであれば外部からあれこれ口出しする筋合いではないわけでまあ日立さんとSOMPOさんがおやりになればいいのではといういつもの結論に到達して終わります。

あずさ監査法人スポーツビジネスCoE『スポーツチーム経営の教科書』

 あずさ監査法人の戸谷且典先生から、同監査法人『スポーツチーム経営の教科書』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

スポーツチーム経営の教科書

スポーツチーム経営の教科書

 書名のとおりスポーツビジネスに携わる人のための初級入門書であり、平易な表現でわかりやすく読みやすい本になるようくふうされています。ほとんどの内容はスポーツに限らず一般的に通用する話であり、本来ビジネスを始める際には当然理解しておくべき内容ばかりなのですが、ことスポーツの世界では「これまでノンビジネスだった組織をビジネス化することになりましたが運営にあたるのはこれまでと同じ人たちです」というシチュエーションが発生しやすいと思われ、そういう場合に非常に有益な本だといえましょう。
 したがってスポーツに限らず類似のケースであれば同じく有益な本であり、題材がスポーツという身近なものである分楽しく学べるのではないかと思います。いやなにかと問題含みの競技団体の役員の方々などはこれで顔を洗ってこらこらこら。

採用と大学教育の未来に関する産学協議会中間とりまとめ

 これに関しては先週から日経新聞大騒ぎ熱意をもって報じておられ、昨日はついに社説でもこれを取り上げておりますな。

 新卒一括採用が企業の成長を阻んでいる

 経団連と大学側が専門性を重視した通年採用の拡大など、人材採用の多様化を進めることで合意した。現在の「新卒一括」方式に偏った採用は学生の能力の見極めが甘くなりがちな問題があり、その見直しが前進し始めたことを歓迎したい。企業は採用改革を推し進めてほしい。
 経団連と大学関係者らから成る「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が中間報告をまとめた。企業の採用活動について、専門的なスキル(技能)をみる通年型の「ジョブ型採用」を取り入れるなど、「複線的で多様な採用形態」への移行を提言した。
平成31年4月24日付日本経済新聞朝刊から)

 まあ先週の段階では実物を見てみないとなんともわからないなあと思っていたところ、こちらに全文が掲載されましたので読んでみたのですが、全体的な感想としては無難だねえというところでしょうか。たぶん経団連会長のご発言がなにかとミスリーディングなんじゃないかと思う。
 まず気を付けなければいけない(というか嫌でも目に入る)のが、この文書の1丁目1番地(1.Society5.0時代に求められる人材と大学教育の(1)Society5.0時代に求められる能力と教育)にこう書かれていることでしょう。

 Society5.0時代の人材には、最終的な専門分野が文系・理であることを問わず、リテラシー(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミケーション力など)、論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決能力、未来社会の構想・設計力、高度専門職に必要な知識・能力が求められ、これらを身につけるためには、基盤となるリベラルアーツ教育が重要である。

 いやそれってどういうハイスペック人材なのさと思うわけで、いかにSociety5.0の世の中とは言えども、大卒者に限ったとしても全員がそんな人材になれるわけもなければなる必要だってないでしょう。大学だって入学者全員をそのように育てられるとか育てなければいけないとか、考えていないと思うなあ(いやそれはなるべく多いに越したことはないのでしょうが)。
 要するにそういうかなり限られた人材について議論された文書であり、そう考えると記述内容もかなり常識的とまでは言わないまでもすでに先行事例の存在する現状追認的なもので、だから無難だねえと思ったわけだ。
 でまあ中西会長というお方はこの限られた人材にしかご関心がないらしく、それがすべてであるかのように語られるものだから日経が真に受けて舞い上がってしまったのだなたぶん。なおこれについてはどうやら事務局から水がかけられたらしく、中間とりまとめが発表された日の定例記者会見ではこのように軌道修正しておられます。

…報道にあるような、大学と経団連が通年採用に移行することで合意したという事実はない。複線的で多様な採用形態に秩序をもって移行していくべきであるという共通認識を確認したという趣旨である。

 ということで、ジョブ型雇用についてはこう書かれているわけですが、

 今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用(メンバーシップ型採用)に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用(以下、ジョブ型採用)も含め、学生個人の意志に応じた複線的で多様な採用形態に秩序をって移行すべきである。

 まあ要するに従来の事業分野においては従来型のメンバーシップ雇用が継続されているのに対して、AIとかビッグデータとかサイバーセキュリティとかいった新規分野についてはその分野・職種に限定したジョブ型雇用もやっていきましょう(いくしかない)というわけですね。これはすでに多くの企業で取り組まれていることだろうと思います。ひとつご紹介しますと明大の永野仁先生がJIL雑誌に書かれた「企業の人材採用の変化-景気回復後の採用行動」という論文があるのですが、そこにはこういう記載があります。

 ⑤職種別採用
 新卒一括採用の場合には, 事務系・技術系というような大きな括りはあったものの, 特に事務系では採用後の職種や部門を決めずに採用が行われていた。 それに対し, 職種別採用とは, 採用時に採用後の職種や部門を決めて採用する方法である。
 このような職種別採用を導入する企業は増加傾向にあるが, 導入企業における大卒総合職採用者に占める職種別採用者は多くない。 例えば,A3社では数字上は半数近くが職種別採用ではあるが, そのほとんどは金融再編で新たに加わった事業領域の担当者として採用された新卒者で, 従来からの事業領域での職種別採用は30人に過ぎない。

 これ2007年の論文ですよ。すでに10年以上前に新規分野での職種別採用(まあこちらは分野別か)は増加傾向にあったというわけですから、まあそれほど目新しい話ではない。目新しいとしたら一部で採用時からかなり刺激的な労働条件が提示される例があるところでしょうか。
 というか、高度専門職のジョブ型雇用って日経連の自社型雇用ポートフォリオの「高度専門能力活用型」そのものじゃん。そうか二十数年の時を経てついに日経連の予言が実現する時が来たのかその先見性たるやまあまあまあまあそれはそれとして、これ自体は雇用形態の多様化、しかもそれなりに良好な雇用機会が増える形での多様化なので望ましい方向だろうとは私も思います。いっぽうでこの文書ではそれは労働市場のかなりの上澄み部分が想定されているわけで、だから長期雇用慣行やメンバーシップ型雇用や新卒一括採用がなくなるだろうとかなくなるべきだとかいう話でもないわけですね。
 ちなみに中西会長は上述の記者会見でこう持論を展開しておられるのですが、

 人生100年時代において、一つの企業に勤め続けるということは難しくなる。リカレント教育は、テクノロジーの再教育だけでなく、新しい人生の再設計もターゲットとしている。社会を多面的なものにしていく必要がある。

 中間とりまとめにはこの「一つの企業に勤め続けるということは難しくなる」という趣旨の記載はないことにも注意が必要でしょう。中西会長は近年欧米の現地法人のトップを長く務められたらしいので、まあICTビジネスの最前線での人材争奪戦を目の当たりにしてこられたのでしょうか。いささかアメリカかぶれしておられるのかも知らん。
 さてこれに関しては、私はさまざまな場面でかの池田信夫先生も絶賛しておられたhttp://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51301281.html、なお他のおすすめにはダメなのも多い)八代尚宏先生の名著『日本型雇用慣行の経済学』(日本経済新聞社、1997)にある次の一節を紹介しているのですが、

 一般に、「日本的」と称される雇用慣行の特徴としては、長期的な雇用関係(いわゆる終身雇用)、年齢や勤続年数に比例して高まる賃金体系(年功賃金)、企業別に組織された労働組合、などがあげられる。これら企業とその雇用者の間の固定的な関係は、かつては雇用者の企業への忠誠心を確保するメカニズムとして理解された時期もあった。しかし、欧米の企業でも、雇用の固定性は必ずしもめずらしいわけではなく、日本と欧米諸国との雇用慣行の違いは、質的な違いよりも、それがどの程度まで企業間で普及しているかの量的な違いにすぎない。
八代尚宏(1997)『日本的雇用慣行の経済学』p.35)

 まさにそのとおりで、日経新聞などが唱道するような質的な違いではなく、量的な違いにすぎないのですね。でまあ実際問題としてメンバーシップ型の比率は(主として非正規雇用の増加という形で)傾向的に縮小しているのであり、それが今後はさらに専門職のジョブ型が増えることによってさらに縮小するのだろうという話でしょう。繰り返しになりますがそれは好ましい変化ではないかと思います(非正規の拡大まで好ましいと言っているわけではないので為念)。
 したがってこの中間とりまとめをみてもメンバーシップ型がなくなるというような記述はありませんし、それこそ解雇規制がどうこうという話には一切言及がないわけであってやはり無難なものといえそうです。実はこれについても八代先生の上掲書でこう記述されていて、

 本書は、日本の雇用慣行を含む企業システムが全体として戦略的な補完性をもつため、大幅な革新なしには変わらないという見方に対して、より漸進的な変化の可能性を指摘する。それは、従来の日本的雇用慣行の対象である企業活動のコア的な雇用者の比率が低下し、それを取り巻く流動的な雇用形態の労働者が徐々に高まる「雇用のポートフォリオ」選択の変化である。これは従来の固定的な雇用慣行が不要となるのではなく、むしろその逆を意味する。すなわち、流動的な形態の雇用者の比率が高まるほど、固定的な雇用慣行の対象となるコア労働者の責任は高まるという「労働分業」の進展でもある。
八代尚宏(1997)『日本的雇用慣行の経済学』p.252)

 多様性が進展する中で従来型雇用の役割も重くなるという指摘であり、おおむね実際そのとおりにもなっているわけで、日経連とは違ってさすがの先見性というべきではないかと思います。
 なお中間とりまとめにはこの他にも多数の提言が記載されていますが、それらについても比較的無難かなあという印象です。私は客員でお客さんなのでなかの人と言っていいかは微妙ですが、それでもここで記載された取り組みの多くはCBSの内部に入り込んで眺めればすでに見える光景だなあとは思います。

城繁幸氏の就職氷河期論

 一昨日久々に長めのエントリを書いたところ読者の方からネタ提供をいただいたので書きたいと思います。いや城繁幸なんですが、就職氷河期世代についての総括(就職氷河期世代とはなんだったのか)がウェブに掲載されているとのことでしたので読んでみました。以下若干のコメントを。
 まず前段の「就職氷河期世代はなぜ生まれたのか」から「就職氷河期世代はなぜ固定されたのか」までについては、概ね業界のコンセンサスになっている事項が要領よくまとめられていて案外まともです。
 ただまあ合格点かというとやや微妙な点もあり、なにかというと城氏の常としてご自身の論旨に好都合な誇張が目立つのですね。たとえば「日本企業はただ新卒採用を抑制することで雇用調整を実施し続けました」と書かれていますが、もちろん企業は「ただ新卒採用を抑制」していただけではなく、他にも早期退職や希望退職、あるいは(これは城氏ご自身が直前に言及しているのですが)有期契約雇用の雇止めなどをやっていたわけですね。あるいは、まあこれはタイポではないかとは思うのですが「2000年には新卒求人倍率は0.99倍と1.00倍を下回ったほどです。学生一人につき0.9口の求人しかなかった」とか書かれていて、いや0.99と0.9はだいぶ違わねえかと思うわけです。あとは結論として「まとめると、就職氷河期世代は終身雇用を守るために人為的に生み出された世代だということです」と書いておられて、まあそう書いた方が都合がいいというのはわかりますが、現実には長期雇用慣行の中で成立した法規を守るためだったことは言うまでもありません。更に後段ではキャリアの問題を「年功序列」と連呼しているのも気にはなりますが、まあこの程度なら許容範囲でしょう。
 いっぽうで後段の「何をすべきだったか」以降になるとまあ相変わらずですねえという話になっていて、まあもはやご自身でもどうしようもなくなって信念と化しておられるのでしょうな。以前書いたことの繰り返しが多くなりますが以下は文章に沿って解説したいと思います。

 では、社会は何をすべきだったのか。答えは、解雇規制を緩和し、特定の世代ではなく幅広い世代で雇用調整を請け負うことです。新卒採用を減らす、停止するのではなく、生産性の低い従業員を解雇することで、組織全体の生産性も上がります。“派遣切り”のように特定の雇用形態の人たちに雇用調整を押し付ける必要もなくなり、格差の是正も進みます。

 「特定の世代ではなく幅広い世代で雇用調整を請け負う」とか「特定の雇用形態の人たちに雇用調整を押し付ける」とか、負担は凡そ全ての人民が等しく分かち合うべきだみたいなことが繰り返されてていてどこのソ連邦かしらと思うわけですが(ぱっと読むとすげえ正論のように見えてしまうのでレトリックとしては巧妙だとも思いますが←ほめている)、本当に幅広い世代で雇用調整を請け負わせるのであれば10歳毎の年齢階層別に失業率が同じレンジに収まるように企業に採用/解雇を行わせるということになるわけでそんなんできるわけないよねえ(適職探しをする年代と生計費負担が重い年代の失業率が同じでいいかどうかは別問題として)。ここ数年のように新卒採用が絶好調の時には逆に「新卒の失業率が他世代を下回らないように企業に採用規制を実施します」とかいう話になるわけでな。
 いやもちろん氷河期世代の人というのはたまたまその時期に当たってしまったわけでその点は不運であり、冒頭紹介されているような重点支援は当然行われてしかるべきものですし、成果は十分ではなかったにせよ従来も行われてきたことでもあります。そしてその財源はわれら人民が負担した税なのであり、そういう形で負担は分かち合われてもいるわけで、まあそれが公共政策というものでしょう。
 「新卒採用を減らす、停止するのではなく、生産性の低い従業員を解雇することで、組織全体の生産性も上がります」というのも、まあそういう状況も想定することは不可能ではないでしょうがかなり無理がありそうです。新卒者は賃金を支払いながら仕事を教えなければいけないので基本的に生産性は高くないわけであり、だから諸外国では若年失業率が高く、インターンシップという名のタダ働きをして仕事を覚えてからでなければお給料をもらえる仕事にはつけないわけだ。城氏は例によって賃金水準が貢献度を上回っている中高年を重視しているのだろうと思いますが、しかし2000年前後の成果主義騒ぎを通じてその乖離は解消されないまでも縮小しているでしょうから、城氏の主張する「中高年を解雇して新卒を採用すれば生産性が上がる」という状況はなかなか考えにくいように思います。さらに、中高年は十数年も経てば定年到達で賃金水準をガッツリと下げられるのに対して、新卒はこの先40年以上雇わなければならたいうえ30年後の生産性については特段の保証もないということになると、ますます「中高年を解雇して新卒」とはなりにくいでしょう(いやまあこれについては新卒が30年後に生産性が高くなかったら解雇するからいいんだという話かもしれませんが、それって新卒にとってうれしい話なのかしら)。
 なお格差についてはよくわかりませんが、派遣労働者正規雇用労働者の格差は縮小するかもしれませんが、すでにemployment at willになっている米国の現状を参考にすれば、労働市場全体での格差は拡大する方向じゃないかなあ。

 くわえて、年功ではなく職務で評価されることになるため、社会に出た後に躓いてしまった人にも、後からいくらでも挽回するチャンスが与えられることになります。

 まあなんとなく書いているんだろうなとは想像するわけですがマジレスすると、ここは整理して議論する必要があるところで、大雑把に分類すると労働市場には年功(キャリア)で評価される人たちと職務で評価される人たちがいるわけです。で、キャリアで評価される人と言うのは基本的に幹部候補生でエリートコース、職務で評価される人は基本的にノンエリートというのがまあ欧米の労働市場の通り相場と言っていいと思います。そこで日本と欧米の労働市場を比較すると、欧米では前者はMBAホルダとかグランゼコール卒とかで全体のせいぜい1割という少数なのに対して、日本では正社員の相当部分が前者(高卒であっても工場長に昇進したりする)であるという量的に大きな差異があるわけですね。さらに、欧米では後者でもparmanent workerが多数を占めて労度市場の主力を形成しているのに対して、日本の後者はほとんどが非正規雇用となっているわけで、まあ日本の現状がすばらしく良好かと言うとそうでもないなという話になっているわけです。
 そこで「年功ではなく職務で評価されることになる」というのがどういうことかというと、まあ前者が減って後者が増えるということになるのでしょう。それにともなって、後者の中に現状の非正規雇用とは異なった、雇用もそれなりに安定してキャリアもそれなりに開発されるという雇用形態が拡大していくことは十分に想定されるところです。実際、有期5年で無期転換した人たちの中には、当面は職務も処遇も従前としても、先々はより高度な職務・処遇になっていく人も出てくるのではないでしょうか。そうした人たちはキャリアで評価される従来型正社員に較べれば雇用保障も強くないだろうと思われるので、城氏が唱道する解雇規制の緩和はそうした形で実現していくのかもしれません。
 ただしこの場合、後者から前者に移動するというのは相当に大変で、大陸欧州ではかなり稀少であり、米国でもMBAを取ってこいという話にはなるようです。したがって「社会に出た後に躓いてしまった人にも、後からいくらでも挽回するチャンスが与えられる」の「挽回」が後者から前者への移動を意味しているのだとすると、それは非常に難しいことに変わりはないということになりそうです。

 ついでに言えば、65歳までの雇用を死守するために賃金抑制する必要もなくなりますから、内部留保は減って昇給もずっと進んだことでしょう。

 これもまあなんとなく書いてるんだろうねえという感じですが、さてこれはなにかな?「昇給もずっと進んだ」というのは個別の労働者の賃金水準が上がるということですよね。でまあ城氏としては城氏のいわゆる「生産性の低い従業員」の「雇用を死守するために賃金抑制する」のではなく、城氏のいわゆる「生産性の低い従業員を解雇することで」その人たちに支払っていた賃金を解雇されない人たちで分けあえば「昇給もずっと進んだ」だろうと言いたいのだろうななどと推測するのではありますが、あれこれって内部留保は減らないよね…。いや私も企業に有効な投資先のない資金が積み上がっているなら従業員に配ってしまったほうがいいのではないかと思いますしその話はつい前回のエントリでも書きましたが、城氏のご所論はどうやらそういう話ではないらしい。

 といった話を筆者は10年以上前から言い続けていますが、しばしばこんな反論を受けてきました。
 「若者は可哀そう論はウソだ。年功序列ではない新興企業や、キャリアを気にしない中小企業はいくらでもある。本人にやる気さえあればなんとでもなるはずだ」
 その言葉、そっくりそのまま世の正社員全員にお返ししたいと思います。解雇規制が緩和されて正社員の地位を失ったとしても、新興企業や中小企業に目を向ければいくらでも就職口は見つかるはず。特定の世代にだけそうした努力を押し付けるのはやはり理不尽というものです。

 まあ実際そういうとんちんかんな反論をする人というのも実際にいたのでしょうからわら人形だと申し上げるつもりはありませんし、普通に考えて人材育成やキャリア開発のしくみが確立した大企業に入社できなかったとしてもそうした仕組みのない新興企業や中小企業で「やる気さえあればなんとでもなる」わけはありません。ただまあ一部の珍妙な人たちがそう言っているからと言って、そんなこと思っても見ない人たちにまで「そっくりそのまま」「お返し」いただいても困るだろうと思うなあ。城氏が例示したような「若者は可哀そう論はウソ」がウソだったとしても、それが「若者は可哀そう論」が正しいことを証明するものではありませんし、「世の正社員全員が努力不足論」の根拠にもなりません。これもぱっと読むともっともらしく見えるのですが、ここまで来るともはやレトリックではなく詭弁の域かも知らん。「特定の世代にだけ」云々は上で書いたのと同じレトリックなので(ry
 さてこれ以降は「過去の支援策より効果が期待できる理由」が述べられていて、これについては前半部分と同様で都合のいい誇張などは見られるものの大筋では間違ったことは言っていないという評価でいいと思います。ただまあ大筋で間違っていないということはたとえば

 新社会人の数が団塊ジュニア世代と比べて5割程度まで落ち込む現在の状況では、“ぴちぴちの新人”にこだわると人材レベルで大幅な妥協を求められることになります。
 そうした影響もあって、現在では“転職35歳限界説”のような年齢をベースとした区切りは影が薄まりつつあります。

 おいちょっと待てよあんた新卒は生産性が高くて中高年は生産性が低いとかさんざん言ってなかったっけ。なんかねえ、まともなことを書くと自爆になるってのはもう円熟の芸だねえと思うところ。
 最後の締めも、けっこういいこと書いてるんですよ。

 一言でいうなら社会全体が緩やかに、“年功”から“職務”に軸足を移しつつあるということです。そうした状況であれば、職業訓練や雇用助成金には一定の効果が期待できるでしょう。
 くわえて政府には、解雇規制緩和による採用ハードルの引き下げも期待したいところです。

 城氏がどういう意図で書いているかはわかりませんが、前半は私が上で書いた変化に通じるものですよね。で、ここでやめてとけばいいのに、最後結局は解雇規制にこだわっちゃうんだなあ。いや実際それさえ諦めれば残りはけっこうまともになりそうなので惜しいなあと本気で思う(だから今回はネタタグではなく雇用政策タグにした)。
 ということで特定世代云々とか言いながら結局は中高年が痛い目にあうのを見たいという本音がいまだに透けて見えるように感じるのは私の心がヨコシマだからかしら。別にもう城氏が暴露本書いた当時の中高年はほとんどリタイヤして逃げ切ってんだからいつまでも根に持たなくてもと思うのですが、まああれだないまさら引っ込めるわけにもいかないかな期待してる人もいるだろうし。ということで相変わらずですねえというこなみかんを述べて終わります。いやはや。

低価格依存症

 なんか毎回同じ話を繰り返しているような気はするのですが、昨日の日経新聞朝刊にこんな記事が掲載されていました。物流業界の働き方改革にともなうコストアップが価格転嫁されつつあるという話です。

…アイス、ヨーグルト、冷凍食品――。今春に相次ぐ食品値上げは15年以来の規模で広範囲にわたるのが特徴だ。4年前の値上げの理由が円安による原材料価格の高騰などだったのに対し、今年の値上げの要因として各社が挙げるのが物流費の高騰だ。
 運転手不足で商品を配送するトラックが確保できない。物流量の少ない地方では共同配送などで効率化を進めるが、深夜時間帯の配送など長時間労働を強いられる食品配送そのものを敬遠する物流会社も出始めている。

 共働き世帯の増加などで冷凍食品は成長を続ける。市場規模は17年に7180億円で、09年比で13%増えた。だが店頭でPB商品のシェアが高まり競争は激しい。メーカーは自社商品の値上げを求めるだけでなく、PBも同様に引き上げてもらう必要がある。自社商品だけ値上げできてもPBとの価格差が広がり、自社商品が売れにくくなるジレンマを抱える。
 都内の中堅スーパーの担当者は「消費増税を前に消費者の節約志向が高まっている時期に、PB商品の価格を上げられるはずがない」と憤る。包装資材の削減でコスト増を吸収するなど、あらゆる知恵と工夫で値上げしないよう製造を委託するメーカーに訴える。ニチレイフーズの言葉は切実だ。「そうはいっても現在の契約額では作るほど赤字だ」
 国内の人手不足に起因する物流費や人件費の上昇は今後も続く見通し。値上げを浸透させたい食品メーカー、値上げを受け入れてもPBの価格は維持したいスーパー。価格に敏感な消費者を巡り、神経戦は続く。
平成31年4月16日付日本経済新聞朝刊から)

 物流費と言っても車両や物流拠点が足りないとかいう話ではないでしょうからつまるところは人件費ですね。物流業界は人手不足にともなう賃金上昇を価格転嫁できた(まあ全部ではなく一部でしょうが、以下同じ)ところ、食品メーカーは対小売りでそれを価格転嫁できていないというのが現状のようです。でまあ食品メーカーが「作るほど赤字」でも小売が価格転嫁を容認しない理由が「消費増税を前に消費者の節約志向が高まっている」と言ういつもの図式になっているわけですね。
 つまりこれは毎度の話で、食品メーカーが「包装資材の削減…など、あらゆる知恵と工夫」で実現したコストダウンを、物流コスト上昇の吸収=卸売価格の上昇抑制≒小売価格の上昇抑制というルートで消費者が享受しているということになります。もし物流コストが価格転嫁できれば、このコストダウンを賃金上昇に振り向けることも可能だったはずで、そうなればこのコストダウン努力が生産性向上として計測されることになるのでしょう。
 したがって付加価値そのものを増やす、消費者が「高くても買います」というような商品やサービスを開発するイノベーションがとても大事だということになるわけですがそれはそれとして、「賃金上昇ではなく価格抑制」という現状は、実態として労働者≒消費者であることを考慮すれば安くなければ買わない、値上げしたら買わないという消費行動を通じて労働者自らが選択した結果だという見方もできるという、これまたいつもの話になるわけです。
 そこでこうした一種の不具合な均衡のような状態から誰がどう踏み込んでいくのかという議論になり、もちろん企業が価格戦略を見直すことも大事だろうと思います(有効な投資先がないのに積み上がっている資金というのがあるなら賞与などで労働者に配分してしまえばいいのではないかというのもこれまで繰り返し書いたとおりです)。ただまあこの記事を見ると消費者もいささか行き過ぎているのではないかと思うところもあり、この記事でも冒頭にこんな事例が出てくるのですね。

 「子どもたちは『ピノ』が好きなので、正直いって値上げには困っている。特売を待とうかな」。愛知県安城市の主婦(39)は日常的に購入していた森永乳業のアイス「ピノ 6粒入り」の値上がりにため息をつく。
 全国約460店のスーパーの販売データを集計する「日経POS情報」によると3月に出荷価格を引き上げた同商品の同月の平均店頭価格は約94円。前月比で3%程度値上がりした。家計のやりくりに日々、頭を悩ませる主婦層はわずかな値上がりにも敏感に変化を感じ取る。
(上と同じ)

 「ピノ」というのは10mlのアイスクリームまたはアイスミルクをチョコレートやキャラメルなど多様な素材でコーティングしたお菓子であるらしく、10mlと小粒ではありますが6個の箱入りで小売り価格が94円ならまずまず大衆的な部類に入るのでしょう。それが3%値上がりしたということなので1箱あたり3円弱という話であり、5人の子どもが毎日10箱食べたとしても150円の負担増であり、なんとか苦笑交じりにでもご容赦いただけないものかと正直思うわけです。もちろんその痛さ感というのも想像しないではありませんし、ミクロの事例なのでこの方にとっては本当に切実な話かもしれず、あるいは愛知県安城市では10円15円値上がりしていたという実態があったのかもしれませんが…。しかし「値上がりするなら今のうちに買っておきます」ならわかるのですが「値上がりするなら今後特売でしか買いません」というのはもう少しお手柔らかに願えないかと、供給サイドでは思っているのではないかと思うのですが…。
 これが、またいつもの話になるのですがこの案件にも関係してくるわけで、こちらは本日の日経新聞朝刊です。

 外国人労働者の受け入れを広げる改正出入国管理法が1日施行され、資格試験や受け入れ準備が進んでいる。人手不足に悩む外食などの業界が歓迎する一方、自民党に対象業種拡充などを求める声も寄せられ始めた。
…人手不足の解消には程遠い。政府は5年間で最大約34万人の受け入れを見込むが、人手不足の見込み数は約145万人に上る。14業種で最も多い6万人を受け入れる介護業界でも、円滑な運用やさらなる拡充を求める声が出ている。
…当面、特定技能の資格は既に日本で働く技能実習生が取得するケースが多くなる。2月、宮城県気仙沼市内で、小野寺五典前防衛相が開いた地元の水産加工業者との会合。新制度を巡り参加者から「4月以降に都市部に流出する可能性がある」と懸念する声が出た。
 日本フードサービス協会の高岡慎一郎会長は「大都市部の方が給料もよく海外の労働者も働きやすい」と指摘する。自民党合同会議の木村座長は地方の懸念を踏まえ「大都市への集中をいかに防ぐかが重要だ」と話す。
平成31年4月17日付日本経済新聞朝刊から)

 これを企業・経営者の低賃金依存症と断じて嘲笑するのは簡単ですが、その原因は消費者の低価格依存症だというところに踏み込まないと解決は難しいのではないでしょうか。特にサービス業では(介護ロボットなどの開発や導入は熱心に進められてはいるのですが)省人化投資と言ってもかなり高コストになるわけで、現状それを価格転嫁するとなると相当大変でしょう。現実にはサービス業の現場では以前も紹介したように未熟練労働者を支援する省力化投資というのが積極的に行われているわけですし、加賀屋の省力化投資というのも、顧客からあの高価格でかっぱげるから成り立っているのではないかともけっこう本気で思う(すべての事業者があのビジネスモデルでやれるわけもないですしね)。
 なお「大都市への集中をいかに防ぐか」については、賃金に限らずさまざまな就労条件のトータルで大都市部より魅力的と思ってもらえるような処遇をするしかないと思います。なにもカネがすべてではなく、業務指導が懇切であるとか、外国人が尊重されて人間関係が良好で居心地がいいとかいった魅力を訴求するという方法もあるでしょう(食事がおいしいとか、いろいろ考えられると思う)。現状の技能実習制度で発生している問題の多くが実習生が事実上移動できないことに由来していることを考えると、制度的に移動を妨げることはすべきでないと考えます(そもそも職業選択の自由とか人身拘束・強制労働の禁止とかいった基本的な価値観にも反しますし)。

労働新聞「リレー方式紙上討論 解雇無効時の金銭救済」(4)

 労働新聞で掲載中の標記連載ですが、第4回が掲載されて無事最終回となりました。編集部がつけたタイトルはこうなっていますが、今回は少々脱線して有期雇止めの金銭解決を中心に書いています。
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