金井勇人『伝わる文章の裏ワザ・表ワザ』

 (一社)経団連事業サービスの大下正さんから、経団連出版の最近刊、金井勇人『伝わる文章の裏ワザ・表ワザ』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 実は私は企業内スピーチライターという一面も持ち合わせており、頼まれるままに多種多様な文章を作成しているのですが、確かにいろいろと心がけていることというのはあり、本書でも類似の指摘があると少しうれしく(笑)、また、意識してなかったけど言われてみればそうしてるなという指摘もあり、まあ実践的なノウハウを体系化・形式化するとこうなるのかと非常に勉強になる部分の多い本でした。
(と、ここまで1本の長い文になっていて悪文の見本みたいですな(笑))

日本労働研究雑誌8月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』8月号(通巻757号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「入職前後の労働関係ー試用・徒弟」というものですが、試用・徒弟に限らず入職前後の人材育成や人事管理などに関する幅広い分野の論文が集められています。特に創価大の大場先生の論文は私自身も実務としてさまざまな側面から関わりを持ってきた(事例として多々ご紹介いただいており感謝です)養成工制度に関するもので、非常に有り難く拝読しました。

ビジネスガイド9月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』9月号(通巻937号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は3本で、「改正労基則等対応」「労働審判・裁判上の和解解決金額の実態と決定ポイント」「ハラスメントグレーゾーン事案」となっています。今回の労基則改正は絶対的明示事項が追加されたので人事担当者は対応必須なのですね。ハラスメントについても実務家の最も悩ましい問題の一つであり関心の高さが伺われます。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は先般発表された新しい将来人口推計を取り上げ、その問題点と、来年予定されている年金財政検証に向けての課題などが論じられています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」は今回はいつもの位置に戻り、先般の「三位一体の労働市場改革」でも優遇税制見直しやモデル就業規則の変更などが示された「退職金」が取り上げられ、企業の人事管理・賃金制度に行政が介入することへの疑問を表明されつつ、実態としては行政による退職金制度の禁止に近い性格があると指摘され、今後の動向について考察されています。

濱口桂一郎『家政婦の歴史』

 JILPTの濱口桂一郎先生から、最近著『家政婦の歴史』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 女中とか家政婦とかいうのは大半の日本人にとってはフィクションの中でしか目にすることのない「関係ない」存在であるわけですが、そんな彼女たちの知られざる歴史と実態が描き出された本です、というとなにやら怪しげな気配もただようわけですが(笑)、基本的には家事労働者供給事業の法制史の本です。とはいえ小説や論評、事件などその時々の風俗もふんだんに盛り込まれており、背景としての(建設労働者や沖中仕といった)労働者供給事業の悪弊なども描かれていて読み物としても興味深く、私のような労働政策周りの人間にはまるで歴史ミステリーのような面白い本で、実際ほぼ一気読みしてしまいました。しかしまあまったくの善意に立脚した法規制が想定外の弊害をもたらすという図式は近年も繰り返されていて派遣労働というのはそういうものなのかもしれません。
 なお私は本書で主役級の扱いで出てくる大和俊子という起業家にたいへん興味をひかれたのですがざっと調べた限りでは伝記とかの資料はないのね。ちょっと今夜聞いてみるかな(謎)

産政研フォーラム夏号

 (公財)中部産業・労働政策研究会様から、『産政研フォーラム』夏号(通巻138号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
www.sanseiken.or.jp
 今号の特集は「リモート時代の組織開発のあり方」となっていますが立命大の高橋潔先生の論文はリモートとはあまり関係がなく、まあこれからの、という意味ではまあリモート時代ということでしょうか。一橋大の加藤俊彦先生の論文はまさにリモートワーク下でのコミュニケ―ションに関する調査結果が紹介されていて興味深いものがあります。本誌呼び物の連載、大竹文雄先生の「社会を見る眼」は「伝え方で変わる」と題して多元的無知とその解消について述べておられます。

ビジネスガイド8月号

 (株)日本法令様から、『ビジネスガイド』8月号(通巻936号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今号の特集は「生成AIと人事労務管理』の一本です。最初に生成AIをテーマにした大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」がきて法的な論点が解説され、それに続いて実務的な対応や留意点が解説されています。仕事によっては非常に便利に使える一方でなにかと間違いも多く、当分は相当に気をつかう必要がありそうな感じで、現代の人事担当者は本当に大変だなあというか、恐ろしい時代になったものだと思うことしきり。八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保障」は先般の三位一体の労働市場改革指針を取り上げ、悪くはないもののまったく物足りないという評価を下しておられます。

上野善久『成熟産業の連続M&A戦略』書評

 経理担当者向け専門誌『旬刊経理情報』5月1日号(https://keirijouhou.jp/bn_new/1676.html)に上野善久著『成熟産業の連続M&A戦略:ロールアップ型産業再編の手引き』の書評を寄稿しました。経理とはほとんどご縁はないのになぜ私と思ったところ著者のご要望ということで大変に光栄であります。だいぶ期間も過ぎましたのでこちらにも転載しておきます。

 「成長産業」という語を聞かない日がない。「わが国経済の閉塞感を打破するには、衰退産業から成長産業への労働移動が必要だ」などという。「衰退産業」呼ばわりされた人々の内心はいかばかりか。「我々は衰退産業ではない、成熟産業なのだ」という声が聞こえてきそうではないか。
成長産業を育成することは大切だ。そのためにも、今現在現実に大きな付加価値を生む成熟産業が、引き続き活発な経済活動を営み続けることは、同じくらい重要であろう。
 成熟産業の活性化には、業界再編・産業再編が欠かせない。その戦略のひとつとして重要なのが、ロールアップだ。ロールアップとは、同業他社多数の合併を通じて規模の拡大をはかるもので、業界再編の有力な手法とされている。比較的小規模な企業が多数林立する業種に適し、タクシーや調剤薬局などにその例が見られるという。本書はその、おそらくは本邦初の手引き書であろう。著者は自らも酒販業界において17社の連続M&Aによるロールアップを成功させており、その経験を踏まえて体系化されたノウハウはまことに説得力に富み、また、著者苦心の多数の図表の数々は読者の理解を容易なものとしている。
 第1章では、まず成熟産業での連続M&Aとは何か、その意義、類型、事例が解説される。それ以降は、M&Aの段階を追って、そのノウハウが示される。第2章は業界の選定である。その業界が連続M&Aに適しているのか否かの判断について述べ、適しているとなった場合の準備、体制づくりについて解説される。第3章ではいよいよM&Aの実行となる。合併相手の選定にはじまり、相手経営者の説得に向けたビジョンづくりや不安払拭、相手企業の従業員や顧客先への働きかけ、外部専門家による資産査定の受け入れから競合対策まで、合併成功に向けたノウハウが惜しみなく開示される。第4章は事業統合手法の検討にあてられ、「ファミリー企業のM&A」の特性に適した手法が提示される。第5章は連続M&Aの出口戦略とその後の経営についての解説となる。
 本書の利点は数多いが、ここでは2点紹介したい。1つは、本書が「人」の視点をきわめて豊かに有していることだ。M&Aというと、事業分野や営業地域などの補完性や管理部門の効率化といった、俗に言う「シナジー」が注目されがちだが、現実にその成否を分けるのは多くは従業員の融和であろう。評者の専門は人事管理論だが、本書で語られる業務部門の中核人材や旧創業家の処遇のあり方、従業員に関する心配への対処、被買収先オーナーの心情に配慮した統合手法の選択などは、M&Aの場面に限らず、広く人事管理一般に対する示唆にも富むものと感じた。
 もう1つ挙げたいのが、本書の豊かなストーリー性だ。本書は実務書ではあるが、そこには連続M&Aの入口から出口に至るさまざまなドラマがあり、専門外の評者も、あたかも小説を読むかのように通読してしまった。M&Aに携わる人以外にとっても有益で楽しい一冊であり、多くのビジネスパーソンに一読を勧めたい本である。