八代尚宏『「政府の失敗」の克服』

 昭和女子大の八代尚宏先生から、最近著『「政府の失敗」の克服ー規制改革をどう進めるかー』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 八代先生は1998年に当時の規制緩和委員会の委員に就任されて以来、総合規制改革会議や経済財政諮問会議などの場でわが国の規制改革を先導してこられました。その活躍ぶりについては、このブログでも何度か取り上げてきました。例えば有名な「信仰告白」発言をご紹介したエントリが以下になります。
福井秀夫「官の詭弁学−誰が規制を変えたくないのか」 - 労務屋ブログ(旧「吐息の日々」)
 その活躍ぶりは、上記エントリでもご紹介している医療関係の規制緩和に否定的な国会議員から質問主意書でいいかげん降ろしてくれあーこらこらこら、いやこんな批判を受けるくらいであったわけです。

 宮内氏(引用者注:関連会議体の長を長く務めたオリックスの宮内義彦氏)以外に鈴木良男氏、神田秀樹氏、八代尚宏氏が、規制緩和や規制改革に関する会議の委員等を長期間務めている。同じ人物が長期にわたり委員等を務めることは問題ではないのか。政府の見解を示されたい。
第165回国会(臨時会)質問主意書質問第三〇号 政府における政策決定の補佐を行う政策会議等に関する質問主意書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/165/syuh/s165030.htm

 ちなみに答弁書はこれな。まあ当然だ。

 お尋ねの三委員は、それぞれ規制緩和の推進について専門的な知識を有する者、規制改革に関し優れた識見を有する者、規制改革・民間開放に関し優れた識見を有する者として選出され、結果として御指摘の委員会等において委員を務めたものであり、問題があるとは考えていない。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/165/touh/t165030.htm

 八代先生は関連公職を降りられて以降も精力的な活動を続けられ、2023年には制度・規制改革学会を設立されて初代会長に就任されていますし、このブログでも繰り返しご紹介している『ビジネスガイド』誌の連載「経済学で考える人事労務・社会保険」でも毎月発信しておられます。
 本書は『ビジネスガイド』誌の版元である(株)日本法令から刊行されていますが、連載をただまとめただけではなく、まずは制度・規制改革の底に横たわる「政府の失敗」(まさに書名でもある)について解説し、続けて過去40年程度の歴史的経緯を紹介した後に、各論を再整理して論じることにより、現時点における制度・規制改革の全体像が理解できる本になっています。規制改革がこれまで相当の成果をあげてきたことは論を待ちませんし、本書で取り上げられている課題についても方向性は(本書でも示されているとおり)概ね判明していると思われるわけですが、それでも進まない理由というのもある(もちろん本書でも指摘されている)わけで、(やはりまさに書名でもある)その「克服」は大変な難事なのでしょう。激変を避けつつ、漸進的に粘り強く取り組むことが必要であり、八代先生には引き続きそのアイコンとして支えていただきたいと願うところです。

水町勇一郎『労働法第11版』

 早大の水町勇一郎先生から、『労働法』第11版をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 学部向けのテキストとして最良のものの一つとされていると思いますが、第3版以降は西暦偶数年に着実に改訂を重ねられ、今回が第11版となりました。その勤勉さに敬服です。今回は第10版と構成の変更はなく(表紙カバーも第10版の色違い)、最近の立法と裁判例(判例集未搭載の裁判例も数例あり)を多数反映しつつ全体のボリュームはほとんど増えていないことにも関心させられます。
 

日本労働研究雑誌4月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』4月号(通巻789号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 今年も例年どおり4月号はエッセイ特集になっており、今年のテーマは「初学者に語る労働問題」となっています。AI、関税、人的資本経営、ウェルビーイング、フリーランス、移民などなど、時宜を得た論点がそろっていて初学者ならずとも非常に興味深いものがあります。機構研究所長のhamachan先生も自ら出馬されて、今や先生の代名詞となった感すらある「ジョブ型」を解説しておられますね。
 さて今回のテーマ「初学者に語る労働問題」というのは見覚えがあるな…?と思って調べてみたところ、2010年4月号のテーマがこれでした。数年前だったような気がしていたのですが、時の経つのは速いものだ。
 そこで2010年の目次を見るとこうなっていて、当時タイムリーとされていた論点が多く含まれています。
日本労働研究雑誌 2010年4月号(No.597)|労働政策研究・研修機構(JILPT)
 較べてみると、やはり16年の月日は短いものではないなという感を覚えるのは私だけでしょうか。ちなみに執筆者の顔ぶれもガラッと一新されていて、そんな中で唯一両方に登場されている先生はどなたなのか、探してみると面白い(失礼)かもしれません。

日本労働研究雑誌2・3月号

 (独)労働政策研究・研修機構様から、『日本労働研究雑誌』2・3月号(通巻788号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

日本労働研究雑誌 2026年 03 月号 [雑誌]

日本労働研究雑誌 2026年 03 月号 [雑誌]

  • (独)労働政策研究・研修機構
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 例年2月・3月は合併号で、3年ローテーションで分野別の学会展望が掲載されていますが、今回は労働法のターンとなっています。労働法分野については別途毎年11月号に「ディアローグ労働判例この1年の争点」の特集が掲載されて注目裁判例がレビューされているわけですが、こちらは3年分の書籍・論文を回顧して「労働法理論の現在」を論じる座談会になっています。今号は合併号にしても「厚さ」が目立ちますが、これは50ぺージ以上を費やして「労働法主要文献目録(2022~25年)」が掲載されているからのようです。なるほどAIを活用すればこうした資料も効率的に作成できるのかもしれません。特集は2023年からやはり2・3月号に掲載されている公募論文特集で、今回のテーマは「フレキシブルな働き方の実態・影響・課題」となっています。

ビジネスガイド4月号

 (株)労務行政様から、『ビジネスガイド』4月号(通巻968号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 本号の特集は「総務担当者が押さえておきたい令和8年度税制改正のポイント~年収の壁、食事支給、マイカー通勤手当等~」と「実務に直結!令和7年 重要労働裁判例」の2本です。前者は、給与担当者には税務も重要な業務になるわけで、時宜を得た特集といえそうです。後者は毎年千葉大の皆川宏之先生が執筆しておられますが、例年、裁判例のチョイスに唸らされます。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務・社会保険」は昨今話題の「高市政権の「働きたい改革」」がテーマで、ともすれば感覚論・感情論に陥りやすい「労働時間規制の適用除外」についてわかりやすく解説しておられます(まあこの問題に関しては自説に固執して聞く耳を持たない人もまま見受けられますが)。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」では、今回は「スポットワーク」を取り上げ、近年拡大している「タイミー」などのプラットフォームを通じたスポットワークについて幅広く解説されており、特に複数事業場での労働時間通算に関する所論は興味深いものがあります。

八代ほか『成果主義人事管理オーラルヒストリー』

 共編者の先生方から、八代充史・牛島利明・梅崎修・島西智輝・南雲智映・山下充編『成果主義人事管理オーラルヒストリーー90年代以降の富士通NECの制度改革』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 このところ、濱口桂一郎先生の『管理職の戦後史』(https://roumuya.hatenablog.com/entry/2025/11/19/154727)、『外国人労働者政策』(https://roumuya.hatenablog.com/entry/2026/01/15/153412)と、私の個人的な経験から非常に感慨深く読ませていただくことが続いたのですが、この本はさらに深い感慨とともに拝読させていただきました。
 これまでの本シリーズの登場人物は、『能力主義管理』がIHIの浅澤氏は富士鉄(まだ八幡との合併前)の田中氏、日産の野田氏といった、私にとっては仰ぎ見る「伝説の労担」、『新時代の「日本的経営」』は旧日経連の事務局幹部(まあこれは局内のプロジェクトだったのでそうなる)でしたが、今回は旧日経連や経団連、生産性本部などの委員会や部会などで実際に議論した方々であり、特に最初に登場する富士通の三宅龍哉氏は某研究会で20年以上ご一緒して議論を重ねてきた間柄なので、その間のあれやこれやを思い出しては感慨にふけることしきりでした。同じメーカー(今や富士通NECはメーカーなのか、という議論はありますが、少なくとも当時は)であっても電機と自動車は置かれた事業環境がかなり異なっていることから、同じ論点でも正反対の結論になったりしたものです。典型的な例としては、本書でも富士通の方は「就社ではメガ・コンペティションには勝てない」と言っておられるわけですが、自動車産業からすると「就社ならグローバル競争に勝てるかも」だったわけですね。
 一つだけ感想を書きますと、両社(特に富士通)ともに新しい人事管理のフロントランナーとして先進的な施策に取り組み続けたことはもちろんすばらしいことですが、私としては、うまく行かない、特に「行き過ぎた」と判断すると、迷わずに取り下げて修正をはかっていることが最重要ではないかと思います。絶対評価にする、シングルレートにする、成果だけで評価する、といったことが行き過ぎであったと見ると、相対評価に戻す、ブロードバンドにする、プロセスも考慮するといった、見ようによっては「後戻り」と言われかねないことも、それを恐れずに実行しているわけで、これは現実にはなかなか難しいことではないかと思うわけです。
 ということで思わず一気読みしてしまいましたが、少し冷ましてから再度ゆっくり熟読玩味したいと思っております。

ビジネスガイド3月号

 (株)労務行政様から、『ビジネスガイド』3月号(通巻967号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

 本号の特集は「改正労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法・女性活躍推進法・労働安全衛生法 省令・指針と実務対応」の一本です。例年、4月1日は改正法の施行が集中する時期であり、今年もその例には漏れないようです。毎度の感想ですが本当に実務担当者は大変だ。
 八代尚宏先生の連載「経済学で考える人事労務社会保険」は「病院の経営問題」がテーマで、昨今話題になっている病院の経営難に対する対策として、混合診療規制緩和や、大規模病院と小規模診療所の制度的な不均衡の是正、医療人材のタスクシフトなどを解説されています。大内伸哉先生のロングラン連載「キーワードからみた労働法」では、今回は「休憩付与義務」を取り上げ、乗務員等の特別規制を中心にその法的論点を多角的に論じられています。