東電よ、値上げするなら賃下げせよby河野太郎先生

自民党河野太郎代議士のブログに、代議士が提出した「電力料金の引き上げを求める前に東京電力がとるべき行動に関する第三回質問主意書」への政府の答弁書が掲載されていました。
http://www.taro.org/2012/05/post-1197.php
その中から、労働条件に関する部分を抜粋して備忘的に転載しておきたいと思います。


問い 東京電力の平成23年6月以降の管理職社員、一般職社員のそれぞれの平均年収をいくらと政府は認識しているか。また、ここでいう管理職社員、一般職社員、それぞれ何人いるか。

答え 東京電力によれば、平成23年6月以降、管理職社員の基準内給与及び賞与の合計(以下、給与等)は年間平均で約895万円であり、一般職社員の給与等は年間平均で約520万円であるとのことである。
 また、東京電力によれば、平成24年3月末時点で、管理職社員の人数は約5100人であり、一般職社員の人数は約33100人であるとのことである。


問い 東京電力及び原子力損害賠償機構が平成24年春に変更しようとしている東京電力の特別事業計画を認定する際に、政府は、電気料金の原価を構成する人件費については、常用労働者千人以上の企業平均値を基本に、類似の公益企業の平均値とも比較しつつ、査定を行うことが適当であると考えているのか。
 「徹底した合理化」に求められる人件費は、「常用労働者千人以上の企業平均値を基本に、類似の公益企業の平均値とも比較しつつ」決める程度の人件費でよいと政府は考えているのか。

答え 政府が平成24年2月13日に原子力損害賠償機構法に基づき認定した東京電力の特別事業計画について、東京電力及び原子力損害賠償支援機構(以下、機構)から変更の認定の申請が行われた場合には、法に基づき、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保を図る上で必要なものであること、経営の合理化のための方策が原子力損害の賠償の履行に充てるための資金を確保するため最大限の努力を尽くすものであること、円滑かつ確実に実施されるものであること等の観点から総合的に判断することとなる。
 人件費の削減についても、経営の合理化のための方策の一つではあるが、現時点において、変更の認定の申請が行われていないことから、人件費の削減に係る具体的な水準の適否についてお答えすることは差し控えたい。
 なお、電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議が平成24年3月15日に取りまとめた報告書において、電気料金の原価を構成する人件費については、「常用労働者千人以上の企業平均値を基本に、類似の公益企業の平均値とも比較しつつ、査定を行うことが適当である。」とされているが、これは、一般電気事業者から電気料金の値上げに係る認可申請が行われた場合に、一般に適用すべき基準として提言されたものであると認識している。


問い 今後、東京電力保有する福利厚生施設の減価償却費等が電気料金の原価に織り込まれるようなことがないことを政府は確認せよ。

答え 電気料金の原価に何を織り込むかについては、東京電力から電気料金の値上げに係る認可申請が行われた場合に、経産省において、電気事業法第19条第2項に規定する能率的な経営の下における適正な原価に基づくものかどうか等の観点から審査を行うこととなる。

解説 債務超過に等しい東京電力が、福利厚生施設の減価償却費を盛り込むことが能率的な経営になり得ると政府は考えているらしい。

http://www.taro.org/2012/05/post-1197.php

「管理職社員の基準内給与及び賞与の合計(以下、給与等)は年間平均で約895万円」というのは思ったより低いなという感じなのですが、「管理職社員の人数は約5100人であり、一般職社員の人数は約33100人」ということは8人に1人くらいが管理職ということで、現業部門の監督職とかも含まれているのかもしれません。そう考えればその他の「一般職社員の給与等は年間平均で約520万円である」というのも年間賞与4か月とすれば月給32.5万円で、平均年齢などにもよりますし残業すればもっと増えるわけですが、まあそんなものかなあという感じです。
で、河野代議士は「「徹底した合理化」に求められる人件費は、「常用労働者千人以上の企業平均値を基本に、類似の公益企業の平均値とも比較しつつ」決める程度の人件費でよいと政府は考えているのか。」と問い詰めておられるわけですがよいに決まってると私は思います。まあ河野代議士がユーザーに値上げを求める前に「徹底した合理化」が必要だと主張される趣旨はわかるのですが、同規模や同業並の労働条件を提供することは人材の確保や従業員の士気・意欲の維持向上に不可欠であり、合理化はもっぱら人員規模の縮小で実現することが好ましいのではないでしょうか。いや優れた原子力技術者が「こんな賃金じゃ東電で働く気にならないよ」ということになったら困るのはわれわれユーザーですし、福島第一の事故処理はやらないわけにはいかないところ東電(とか東芝とか)に必要な技術者が集まらずアレバやキュリオンに全面依存とかいうことになったら足元を見られて目も当てられないことになりかねないわけで、必要に応じた厚遇高給はむしろ必要なことではないかと思います。人員削減については東電のウェブサイトに資料があり(http://www.tepco.co.jp/company/corp-com/annai/gaiyou/subwin06-j.html)、それによればピーク時に較べれば5,000人くらいスリム化されているようですが、これはまあ元が多すぎたんだろうという印象を禁じ得ません(根拠のない感想なので東電の人は怒っていいです)。なお政府の答弁では「これは、一般電気事業者から電気料金の値上げに係る認可申請が行われた場合に、一般に適用すべき基準として提言されたものであると認識している。」とされていますが、これはこの基準が一般論であって個別判断もありうる(東電の申請に対して異なる考え方を取る余地はある)ということでしょう。まあ検討の結果一般論どおりということになるでしょうしそれが妥当とも思いますが。
さらに河野代議士は福利厚生施設についても「今後、東京電力保有する福利厚生施設の減価償却費等が電気料金の原価に織り込まれるようなことがないことを政府は確認せよ。」と求め、政府答弁に対して「債務超過に等しい東京電力が、福利厚生施設の減価償却費を盛り込むことが能率的な経営になり得ると政府は考えているらしい。」と不満を述べておられますがそりゃなり得るでしょう(必ずなるとは言わない)。
河野代議士としてみれば値上げ申請の前に福利厚生施設なんか全部売り払うべきだ、それが「徹底した合理化」だ、ということなのかもしれませんが、しかし福利厚生施設の中には著しい発汗や汚れと伴う職場や有害物質取り扱い業務における浴室・シャワー室など労働安全衛生法などの法令に基づいて設置されているものもあります(まあこれは福利厚生施設とは言わないかもしれないが)。あるいは東電が所有しもっぱら従業員が使用し、ときには地域住民にも開放している体育館というのがあるのではないかと思うのですが(単なる推測でウラは取っていません)、これも従業員のレクリエーションや健康増進を通じて生産性が向上し、さらには地域貢献にもなるというメリットを考えれば、東電ほどの規模の企業であれば専用のものを保有することも十分「能率的な経営になり得る」のではないかと思います。
全体としてとにかく値上げする以上は労働条件を引き下げろというトーンが非常に強く、まあ河野代議士の東電憎しの心情はわからないではないのですが、しかし国民にとってそれが本当にいいのかどうかはかなり疑問ではないかと思います。いや連合は本気で怒ったほうがと。