日本労働研究雑誌特別号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌特別号(通巻703号)をお送りいただきました。ありがとうございます。日本労使関係研究協会(JIRRA)様からもお送りいただきましたが、これは会員で会費を払っているからかな。

内容は例年同様にJIRRAが昨年秋に開催した2018年労働政策研究会議の報告で、このブログでも3回に分けて紹介しております(https://roumuya.hatenablog.com/entry/20180620/p1https://roumuya.hatenablog.com/entry/20180621/p1https://roumuya.hatenablog.com/entry/20180710/p1)。当日参加できなかった部分も含めてあらためて復習したいと思います。

2019年版経営労働政策特別委員会報告/春季労使交渉・労使協議の手引き

経団連事業サービス様から、『2019年版経営労働政策特別委員会報告』(経労委報告)と『2019年版春季労使交渉・労使協議の手引き』をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

2019年版 春季労使交渉・労使協議の手引き

2019年版 春季労使交渉・労使協議の手引き

連合が発表直後にさっそく見解を発表しておりますが、それも含めたコメントは追ってエントリを立てて書きたいと思います。

梅崎修・田澤実『大学生の内定獲得』

梅崎修先生から、『大学生の内定獲得-就活支援・家族・地元をめぐって』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

編著者の両先生と(株)マイナビによる産学連携調査の結果をまとめた本ということで、2012年~2017年卒の大学生の内定獲得状況を、キャリア意識をはじめ、SNS利用、教員の関与、大学院進学、さらには親とのかかわり、地元志向、兄弟姉妹関係における位置づけ、結婚観などといった幅広い観点から分析しています。ざっと読んだかぎりでは結果は文系/理系、国公立/私立などによって多様なものとなっていて興味深く、研究書なので骨の折れるところが多そうですが、しっかり勉強させていただきたいと思います。

「労務事情」1月合併号座談会「“平成”の労務管理」

 もうひとつ、産労総研様の業界誌「労務事情」の2019年1月合併号の座談会「“平成”の労務管理-労働法制・労働行政等のトピックスと実務課題への対応」に登場しております。

 hamachan先生ことJILPTの濱口桂一郎先生の司会のもと、経営法曹の伊藤昌毅先生、元監督署長で特定社労士の森井博子先生とごいっしょに、中央大学ビジネススクール客員講師の肩書で参加させていただきました。冒頭の一節をご紹介させていただきます。

●濱口 本日は、平成の30年間(1989~2018年)を振り返りながら、企業の労務管理を巡る変遷を辿り、新しい時代における課題を展望してみたいと思います。まずは、平成という時代を、人事管理という視点で概観していただけますでしょうか。
●荻野 平成の30年は、経済環境が悪化するなかで構造改革が叫ばれてきたことが、企業の人事管理にも非常に大きな影響を与えた時代だったと思います。ただし、さまざまな変化はあったものの、昭和の時代に大切にしてきた日本的な人事管理というものは、かなり温存されていると思います。裏返せば、日本的な人事管理のよいところを守るべく労使で苦戦してきた30年という考え方もできるのではないでしょうか。
ひと言でいえば、社員の雇用を最優先して状況に応じた施策を講じてきたわけですが、結果として、その当時新卒で正社員就職できなかった人たちの問題は、新たな雇用の入口を狭めてしまったという点は否定できません。現在でもかなり尾を引いていますから、若い人たちにとっては、納得いかないところがあると思っています。

なお本座談会も倉重先生との対談も肩書は「客員講師」ですが、現在ではなぜか2階級特進して「客員教授」になっております(笑)。

倉重公太朗先生との対談

 昨日をもって中央大学ビジネススクールでの「キャリア管理論」の講義が無事終了しました。やれやれ。90分15回、まだまだ語り足りないところも残ってしまいましたが、多少なりとも受講者のみなさまのキャリア開発のお役に立つことができればと。いやまだ採点が残っているのではありますが、そうこうしているうちに1月も残りわずかになっておりますが今年に入ってエントリをひとつも書いていない件(笑)。いまさらながら本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 さて昨年末に第3回までご紹介した経営法曹の倉重公太朗先生との対談ですが、第5回をもってめでたく年内完了となっておりましたのでまとめて再掲します。hamachan先生にならって、ポイント部分の引用もご紹介します。
「日本型雇用はどこへ行く」第1回(同一労働同一賃金のゆくえ)

荻野:もちろん、それなりの理屈はあったのでしょうが、先生ご指摘のとおり、たとえば春の労使交渉のときに、まあいろいろ事情があってベアはこの回答だけど、それとは別に手当を増額しましょうとか、そういう一種の方便めいた使い方がされてきたという実態もたぶんあったと思うんです。

倉重:あとは賞与とか退職金の計算にも入らないですしね。

荻野:そうですね。割増賃金のベースに入らないということも考えたかもしれません。そういうところで、必ずしも厳格に合理的ではないような形で手当が拡大した部分もあったのではないかと思います。そして、いったん賃金制度に入れてしまうと、社会環境が変わっても手をつけにくい。そうしたものについて、今の時代に合理的なものかどうか、労使で整理してみるきっかけになるかもしれません。

「日本型雇用はどこへ行く」第2回(「転勤」とキャリアの現代的再考)

荻野:まあ、これは極端な想定ですし、この転勤がなければ前任者が同じ立場だっただろうともいえるわけですが、しかし一種の計画的偶発性理論ですよね。変化を起こして、変化を受け入れなければ偶然も起こらない。あるいは営業で、苦戦している地域に別の人を送り込んでみたら、たまたまその地域とは相性がよくて売り上げを伸ばしました、みたいな話もあるでしょう。企業にしても上司にしても従業員の潜在的な能力や可能性をすべて知っているわけではありませんし、それはなにかの機会を得て花開いて、目に見えるようになるわけです。ですから、従業員の側が自分のキャリアのために、その機会を転勤に求めたいと思っているときに、いや君それは効果がないから、行っても行かなくても同じだかずっとここにいなさい、まあここで仕事を変えるくらいのことは考えるけどさ、と言うかどうかなんですよ。

倉重:そうですね。それは、そうはなかなか言えないですし、本当に必要な転勤なら、むしろみんなそうやって希望するだろうという話ですよね。

「日本型雇用はどこへ行く」第3回(解雇法制はどうあるべきか)

荻野:これは非常に難しい問題で、ある意味、企業規模別ぐらいで割り切った整理をしたほうがいいと思っています。

倉重:なるほど。何か月じゃなくて。

荻野:大企業のメンバーシップ型の雇用の中には、協調性がないとか、技能が陳腐化してミスマッチになっているとかでパフォーマンスが落ちているローパフォーマーも、確かにいるでしょう。ただ、それは企業がキャリアを作ってきた結果でもあるので、本人にしてみれば「そんな私に誰がした」という話かもしれません。さらに、メンバーシップ型だと企業がローパフォーマーを作ることができてしまいます。簡単な話で、仕事を与えなければいい。仕事を与えなければ当然パフォーマンスも出ないから、簡単にローパフォーマーを作ることができます。それの最たるものが追い出し部屋で、外から見えない窓のない部屋にデスクと電話が置いてあって、今日からあなたの仕事は自分の転職先を探すことです、という奴ですね。そうやって作った「ローパフォーマー」に対して、この人はローパフォーマーだから所定の金員で解雇できますというのが正当かどうかは、かなり疑問でしょうね。

倉重:どんなケースでも一律にというわけにはいかないんじゃないかということですね。

「日本型雇用はどこへ行く」第4回(デジタル化する労働と労組の役割)

倉重:ゼンセンさんは結構、組織化の営業をしてきますからね。

荻野:でも、それは正解だと思っていて、やはり経営者の理解がないと組織化もなかなか進まないし、労使間のコミュニケーションだって、経営者が理解を示して、よし話を聞こうと言ってくれた方が、ずっとスムーズになるでしょう。

倉重:どっちにしろ組合ができるならスムーズな方がよいですね。

荻野:本当は聞きたくないけれど、法律で定められた義務だから誠実に交渉に応じます、というのに較べたら。

倉重:どうせ聞くんなら対立ムードではなくて。

荻野:経営者が、じゃあ話を聞きましょうといったときに、無責任な外部の第三者が入っている労組と、企業内労組と、これはどちらの話を聞きますかといったら、当然、目に見えていますよね。

倉重:違います。当たり前ですよね。

荻野:そういう意味で、これから労使関係を良くしていくためには、企業別労組が基本だろうと思います。そこに、今の労使委員会に持たせているようなルールづくりの役割を増やしていく。法律では基準を決めるけれども、団体交渉なり労使協議を通じて、どんどんオプトアウトをしていけるようなルールを増やしていけば、組織率の高い企業別労組との話し合いを通じて、自分たちの会社、経営にとって最適なルールが実現できるというふうにしていくと、これは経営にもメリットがありますよね。

「日本型雇用はどこへ行く」最終回(若者と高齢者と日本型雇用)

倉重:業種によっても、全く高年齢者の活用状況というものは違うでしょうからね。

荻野:最近、JILPTの調査による業種別のデータを見ましたが、やはり、なじみやすい所は進んでいる印象ですね。

倉重:ビル管理とか駐車場とか。

荻野:医療・福祉とか、教育・学習支援とかもそうですね。塾講師とかでしょうか。あとは運輸業とか、たぶん人手が足りないからでしょう。逆に、明らかに体力的に問題が出そうな製造業などは進んでいない。65歳以降となると、いろいろな面で一段と多様性が高くなりますから、いろいろな方法を考えて選択肢を増やすことも大事でしょう。同じ企業で雇い続ける以外の方法というのもあっていい。例えば、雇い続けなくても、一定のつなぎ年金を支払えばいいという考え方もあると思います。

倉重:そういうオプションということですよね。

荻野:アルバイト的な就労と、つなぎ年金を合わせて一定の収入を確保しながら、本格的な年金受給につないでいく、といったようなオプションがあってもいいのかなという気はします。

倉重:そうですね。その発想は面白いですね。

荻野:フリーランスでもいいとか。

倉重:さっきのフリーランスの議論とつながりますね。

荻野:一定量の仕事の発注を要件にするとか、考えられると思います。

倉重:なるほど。65を過ぎたら、もう業務委託的に使うのもOKとか。

荻野:それなりにきちんとしたルールやガイドラインを作って、その人のペースに合わせて発注することができるように。

倉重:確かに高年齢者の派遣は特殊なルールがあるわけですから、派遣だって特殊な法制ができるんだから、じゃあ業務委託だって、60歳以降の業務委託はちょっと別で考えますよと。

私自身としては、第4回の議論がいちばん強調したかったところです。

今年の10冊

 中央でのレクチャーが始まったうえに某シンクタンクの報告書(残念ながら非公開)の分担執筆が年末締切であり、さらに25日締切で対談1本と座談会1本のチェック・補加筆がある(対談の連載ははじまっております。第1回第2回第3回。何回になるかは実は知らない(笑))。というありさまでさすがにブログまでは手が回らない状況に陥っておりました。年末年始も講義の準備ですよとほほほほ。
 もちろん中央の教員になって良かったことというのもいくつかあってそのひとつが大学図書館を自由に使えることであり、公共図書館には入りにくい(まあ調布市図書館はかなりがんばっているとは思いますが)ような本でも中央の図書館ならまあ数か月待てば入ってくるのでまことにありがたいことこの上ない。ありがとうございますありがとうございます、ということで年末恒例のこれを。そう言ったわりに図書館で借りた本はあまり入っていないな(笑)。実は10冊だいたい決めていたところに首藤先生の本が突入してきたので1冊入れ替えという仕儀となりました。
 例年どおり著者1人1冊で、著者名五十音順です

浅倉むつ子・萩原久美子・神尾真知子・井上久美枝・連合総研編『労働運動を切り拓く-女性たちによる闘いの軌跡』

労働運動を切り拓く 女性たちによる闘いの軌跡

労働運動を切り拓く 女性たちによる闘いの軌跡

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大内伸哉川口大司『解雇規制を問い直す-金銭解決の制度設計』

解雇規制を問い直す -- 金銭解決の制度設計

解雇規制を問い直す -- 金銭解決の制度設計

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大竹文雄・平井啓『医療現場の行動経済学-すれ違う医者と患者』

この本は中央の図書館で借りました。1人待ちだったのですが前の人がなかなか返却してくれなくて参った(笑)。なるほど医療というのはリスクとリターンのシビアな判断が求められる場面も多いのでとりわけ行動経済学の知見が役立つ分野なのかもしれません。面白い本でした。

大屋雄裕『裁判の原点─社会を動かす法学入門』

まあ私は労働分野の人なので裁判所が法理を形成していくことには(他の分野の方々よりはたぶん)なじみがありますが、それでも司法と立法、司法と行政の関係にはモヤモヤしたものを覚えるわけです。この本はそのあたりの複雑な関係を読みやすく整理、解説してくれていて、非常に腹落ちするものがあり勉強になりました(なお1月刊で中央の教員になる前だったので買って読んだ)。

玄田有史『雇用は契約』

雇用は契約 (筑摩選書)

雇用は契約 (筑摩選書)

『30代の働く地図』も採りたかったのですが1人1冊でこちらにしました。
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小池和男企業統治改革の陥穽-労組を活かす経営』

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首藤若菜『物流危機は終わらない-暮らしを支える労働のゆくえ』

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濱口桂一郎『日本の労働法政策』

日本の労働法政策

日本の労働法政策

実はこの本だけはまだ全体を通読していないのですが(それでもあちこちそこそこ読んだ)、さすがにこれは外すわけには…。
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八代尚宏『脱ポピュリズム国家-改革を先送りしない真の経済成長戦略へ』

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脇坂明『女性労働に関する基礎的研究-女性の働き方が示す日本企業の現状と将来』

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 ところで中大図書館の話に戻りますと、読みたい新刊書のステータスが発注済になっているので今か今かと毎日チェックしていたらある日突然貸出中に変わるというのが2度ほどあり、まああれかないろいろ優先利用のルールがあるのかな。別に2週間が待てないわけではありませんし入庫するだけでありがたいのですが。
よいお年をどうぞ。

首藤若菜『物流危機は終わらない』

 立教大学の首藤若菜先生から、ご著書『物流危機は終わらない-暮らしを支える労働のゆくえ』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 一昨年末、小口貨物便の遅配が発生して社会問題となり、翌年の春季労使交渉ではヤマト運輸の労組が「宅配便の荷受量の抑制」を要求の一つに掲げ、従来から問題視されてきたその厳しい就労実態が広く認知されるきっかけになりました。その後、amazonなど大口顧客との価格改定、一般向け価格の引き上げなどと並行して、労使で大幅な増員や労務コンプライアンス強化などにも取り組んでいることは周知のとおりです。働き方改革の目玉の一つである長時間労働の抑制についても、実態を考慮して運送業は5年間の猶予期間が設けられましたが、逆にいえば5年という期限を切って労働時間の改善を約束したことになったのは画期的といえるでしょう。
 この本は、運送業界がこうした厳しい状況に置かれることになった理由を法制度や商慣行などの側面から解説し、その改善に向けた政労使の取り組みを紹介したうえで、現時点での課題を整理し、今後の方向性を提案した本です。入念な調査・取材をふまえてわかりやすく、説得的に書かれており、たいへん有意義な本だと思います。
 著者の提言の要点は、大雑把にまとめてしまえば集団的労使関係を通じて働き方の最低基準を定め、それが遵守される価格設定を実施することと、そのコスト負担を受け入れる消費者の意識改革の2点に集約されるように思われます。私もこの提言には非常に共感するものであり、ヤマト運輸の労使交渉の際にはこのブログでも「ヤマト運輸、労使で業務負荷を調整」というエントリを書きましたが(https://roumuya.hatenablog.com/entry/20170223/p1)、共通する部分が多いように感じられて心強いかぎりです。
 ただまあ道のりは険しいなと思わなくもなく、昨年10月、かつて送料問題で炎上案件(もっとも口の利き方は悪かったにせよ言っていることはむしろ正論だったわけですが)を発生させたZOZOTOWNが、利用者が0~3,000円の範囲で送料を任意に設定する「送料自由」を実施して話題になりました。でまあ1か月間の結果をしめてみると43%の利用者が「送料ゼロ円」であり、残る56%(送料を支払った利用者)の平均が96円という結果になったようで*1、これをみる限りは消費者の配送コストを負担するという意識が高くなっているという感じもあまりしないわけです。形のないサービスにはカネを払いたくないという意識はまだまだ根強いようで、まあ時間をかけて解決していくしかないのでしょうか。
 それはそれとして、やや表現などに気になる点はなくはないにしても、この問題の重要さや困難さ、国民をあげて解決に取り組む必要性などがたいへんわかりやすくまとめられた本であり、広く読まれてほしいと思います。

*1:ZOZOTOWNはこの結果をふまえて送料を一律200円(即日は550円)に設定し、ヤマト運輸が全面的に配送を手掛けているようです。もちろんこの200円そのままがヤマトに渡るということではないでしょうが。