八代尚宏『脱ポピュリズム国家』

八代尚宏先生から、最新著『脱ポピュリズム国家−改革を先送りしない真の経済成長戦略へ』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

現政権の政策について、政権の長期維持を目的に短期的な利益を国民にアピールし、長期的な利益のために必要な(一部の国民に短期的な不利益をともなう)政策を先送りする「ポピュリズム」と断じ、労働市場社会保障改革、官製市場改革、経済のオープン化などについて幅広く論じられています。
労働政策については具体論の最初に1章をさいて論じられていますが、現政権の「働き方改革関連法案」については日本型雇用慣行下にある労働者に配慮した「雇用ポピュリズム」であるとの評価です。裏返せば従来型の日本的雇用を縮小せよということであり、例えば賃金については従来型の年功賃金の見直しによる中高年正社員の賃金抑制と供給不足による非正規雇用の賃金上昇が相殺されているから「人手不足でもなぜ賃金が上がらないのか」という状況になっていて悪いことではないとの主張です。
同一労働同一賃金や高年齢者雇用の拡大については、大筋では仕事がなくなる・できなくなったときに解雇の金銭解決が可能なジョブ型雇用を主流にするという方向性です。労働時間法制については、日本型雇用と長時間労働が離れがたく結びついていることから、その縮小につながる罰則的上限規制の導入を高く評価する一方、高プロ制度についてもその必要性を訴えています。労働基準監督行政の民間活用による体制強化も主張されています(私個人としては労働基準監督業務のうち民間で従事可能な部分はかなり限られていると考えていますが。「公務員を増やすことまかりならぬ」ってのも相当なポピュリズムだと思うなあ)。
外国人労働については別の1章を立てて論じておられ、基本的には現行のポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に変更せよとの主張なので拡大方向ではありますが、しかしネガティブリストの中に「職種ごとに日本人と同等以上の賃金が支払われていない場合」が含まれていますので、低賃金目的の外国人労働は排除されることになり、むしろ実態からは縮小する方向なのかもしれません。