首藤若菜『物流危機は終わらない』

 立教大学の首藤若菜先生から、ご著書『物流危機は終わらない-暮らしを支える労働のゆくえ』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

 一昨年末、小口貨物便の遅配が発生して社会問題となり、翌年の春季労使交渉ではヤマト運輸の労組が「宅配便の荷受量の抑制」を要求の一つに掲げ、従来から問題視されてきたその厳しい就労実態が広く認知されるきっかけになりました。その後、amazonなど大口顧客との価格改定、一般向け価格の引き上げなどと並行して、労使で大幅な増員や労務コンプライアンス強化などにも取り組んでいることは周知のとおりです。働き方改革の目玉の一つである長時間労働の抑制についても、実態を考慮して運送業は5年間の猶予期間が設けられましたが、逆にいえば5年という期限を切って労働時間の改善を約束したことになったのは画期的といえるでしょう。
 この本は、運送業界がこうした厳しい状況に置かれることになった理由を法制度や商慣行などの側面から解説し、その改善に向けた政労使の取り組みを紹介したうえで、現時点での課題を整理し、今後の方向性を提案した本です。入念な調査・取材をふまえてわかりやすく、説得的に書かれており、たいへん有意義な本だと思います。
 著者の提言の要点は、大雑把にまとめてしまえば集団的労使関係を通じて働き方の最低基準を定め、それが遵守される価格設定を実施することと、そのコスト負担を受け入れる消費者の意識改革の2点に集約されるように思われます。私もこの提言には非常に共感するものであり、ヤマト運輸の労使交渉の際にはこのブログでも「ヤマト運輸、労使で業務負荷を調整」というエントリを書きましたが(https://roumuya.hatenablog.com/entry/20170223/p1)、共通する部分が多いように感じられて心強いかぎりです。
 ただまあ道のりは険しいなと思わなくもなく、昨年10月、かつて送料問題で炎上案件(もっとも口の利き方は悪かったにせよ言っていることはむしろ正論だったわけですが)を発生させたZOZOTOWNが、利用者が0~3,000円の範囲で送料を任意に設定する「送料自由」を実施して話題になりました。でまあ1か月間の結果をしめてみると43%の利用者が「送料ゼロ円」であり、残る56%(送料を支払った利用者)の平均が96円という結果になったようで*1、これをみる限りは消費者の配送コストを負担するという意識が高くなっているという感じもあまりしないわけです。形のないサービスにはカネを払いたくないという意識はまだまだ根強いようで、まあ時間をかけて解決していくしかないのでしょうか。
 それはそれとして、やや表現などに気になる点はなくはないにしても、この問題の重要さや困難さ、国民をあげて解決に取り組む必要性などがたいへんわかりやすくまとめられた本であり、広く読まれてほしいと思います。

*1:ZOZOTOWNはこの結果をふまえて送料を一律200円(即日は550円)に設定し、ヤマト運輸が全面的に配送を手掛けているようです。もちろんこの200円そのままがヤマトに渡るということではないでしょうが。