倉重公太朗先生との対談

 昨日をもって中央大学ビジネススクールでの「キャリア管理論」の講義が無事終了しました。やれやれ。90分15回、まだまだ語り足りないところも残ってしまいましたが、多少なりとも受講者のみなさまのキャリア開発のお役に立つことができればと。いやまだ採点が残っているのではありますが、そうこうしているうちに1月も残りわずかになっておりますが今年に入ってエントリをひとつも書いていない件(笑)。いまさらながら本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 さて昨年末に第3回までご紹介した経営法曹の倉重公太朗先生との対談ですが、第5回をもってめでたく年内完了となっておりましたのでまとめて再掲します。hamachan先生にならって、ポイント部分の引用もご紹介します。
「日本型雇用はどこへ行く」第1回(同一労働同一賃金のゆくえ)

荻野:もちろん、それなりの理屈はあったのでしょうが、先生ご指摘のとおり、たとえば春の労使交渉のときに、まあいろいろ事情があってベアはこの回答だけど、それとは別に手当を増額しましょうとか、そういう一種の方便めいた使い方がされてきたという実態もたぶんあったと思うんです。

倉重:あとは賞与とか退職金の計算にも入らないですしね。

荻野:そうですね。割増賃金のベースに入らないということも考えたかもしれません。そういうところで、必ずしも厳格に合理的ではないような形で手当が拡大した部分もあったのではないかと思います。そして、いったん賃金制度に入れてしまうと、社会環境が変わっても手をつけにくい。そうしたものについて、今の時代に合理的なものかどうか、労使で整理してみるきっかけになるかもしれません。

「日本型雇用はどこへ行く」第2回(「転勤」とキャリアの現代的再考)

荻野:まあ、これは極端な想定ですし、この転勤がなければ前任者が同じ立場だっただろうともいえるわけですが、しかし一種の計画的偶発性理論ですよね。変化を起こして、変化を受け入れなければ偶然も起こらない。あるいは営業で、苦戦している地域に別の人を送り込んでみたら、たまたまその地域とは相性がよくて売り上げを伸ばしました、みたいな話もあるでしょう。企業にしても上司にしても従業員の潜在的な能力や可能性をすべて知っているわけではありませんし、それはなにかの機会を得て花開いて、目に見えるようになるわけです。ですから、従業員の側が自分のキャリアのために、その機会を転勤に求めたいと思っているときに、いや君それは効果がないから、行っても行かなくても同じだかずっとここにいなさい、まあここで仕事を変えるくらいのことは考えるけどさ、と言うかどうかなんですよ。

倉重:そうですね。それは、そうはなかなか言えないですし、本当に必要な転勤なら、むしろみんなそうやって希望するだろうという話ですよね。

「日本型雇用はどこへ行く」第3回(解雇法制はどうあるべきか)

荻野:これは非常に難しい問題で、ある意味、企業規模別ぐらいで割り切った整理をしたほうがいいと思っています。

倉重:なるほど。何か月じゃなくて。

荻野:大企業のメンバーシップ型の雇用の中には、協調性がないとか、技能が陳腐化してミスマッチになっているとかでパフォーマンスが落ちているローパフォーマーも、確かにいるでしょう。ただ、それは企業がキャリアを作ってきた結果でもあるので、本人にしてみれば「そんな私に誰がした」という話かもしれません。さらに、メンバーシップ型だと企業がローパフォーマーを作ることができてしまいます。簡単な話で、仕事を与えなければいい。仕事を与えなければ当然パフォーマンスも出ないから、簡単にローパフォーマーを作ることができます。それの最たるものが追い出し部屋で、外から見えない窓のない部屋にデスクと電話が置いてあって、今日からあなたの仕事は自分の転職先を探すことです、という奴ですね。そうやって作った「ローパフォーマー」に対して、この人はローパフォーマーだから所定の金員で解雇できますというのが正当かどうかは、かなり疑問でしょうね。

倉重:どんなケースでも一律にというわけにはいかないんじゃないかということですね。

「日本型雇用はどこへ行く」第4回(デジタル化する労働と労組の役割)

倉重:ゼンセンさんは結構、組織化の営業をしてきますからね。

荻野:でも、それは正解だと思っていて、やはり経営者の理解がないと組織化もなかなか進まないし、労使間のコミュニケーションだって、経営者が理解を示して、よし話を聞こうと言ってくれた方が、ずっとスムーズになるでしょう。

倉重:どっちにしろ組合ができるならスムーズな方がよいですね。

荻野:本当は聞きたくないけれど、法律で定められた義務だから誠実に交渉に応じます、というのに較べたら。

倉重:どうせ聞くんなら対立ムードではなくて。

荻野:経営者が、じゃあ話を聞きましょうといったときに、無責任な外部の第三者が入っている労組と、企業内労組と、これはどちらの話を聞きますかといったら、当然、目に見えていますよね。

倉重:違います。当たり前ですよね。

荻野:そういう意味で、これから労使関係を良くしていくためには、企業別労組が基本だろうと思います。そこに、今の労使委員会に持たせているようなルールづくりの役割を増やしていく。法律では基準を決めるけれども、団体交渉なり労使協議を通じて、どんどんオプトアウトをしていけるようなルールを増やしていけば、組織率の高い企業別労組との話し合いを通じて、自分たちの会社、経営にとって最適なルールが実現できるというふうにしていくと、これは経営にもメリットがありますよね。

「日本型雇用はどこへ行く」最終回(若者と高齢者と日本型雇用)

倉重:業種によっても、全く高年齢者の活用状況というものは違うでしょうからね。

荻野:最近、JILPTの調査による業種別のデータを見ましたが、やはり、なじみやすい所は進んでいる印象ですね。

倉重:ビル管理とか駐車場とか。

荻野:医療・福祉とか、教育・学習支援とかもそうですね。塾講師とかでしょうか。あとは運輸業とか、たぶん人手が足りないからでしょう。逆に、明らかに体力的に問題が出そうな製造業などは進んでいない。65歳以降となると、いろいろな面で一段と多様性が高くなりますから、いろいろな方法を考えて選択肢を増やすことも大事でしょう。同じ企業で雇い続ける以外の方法というのもあっていい。例えば、雇い続けなくても、一定のつなぎ年金を支払えばいいという考え方もあると思います。

倉重:そういうオプションということですよね。

荻野:アルバイト的な就労と、つなぎ年金を合わせて一定の収入を確保しながら、本格的な年金受給につないでいく、といったようなオプションがあってもいいのかなという気はします。

倉重:そうですね。その発想は面白いですね。

荻野:フリーランスでもいいとか。

倉重:さっきのフリーランスの議論とつながりますね。

荻野:一定量の仕事の発注を要件にするとか、考えられると思います。

倉重:なるほど。65を過ぎたら、もう業務委託的に使うのもOKとか。

荻野:それなりにきちんとしたルールやガイドラインを作って、その人のペースに合わせて発注することができるように。

倉重:確かに高年齢者の派遣は特殊なルールがあるわけですから、派遣だって特殊な法制ができるんだから、じゃあ業務委託だって、60歳以降の業務委託はちょっと別で考えますよと。

私自身としては、第4回の議論がいちばん強調したかったところです。