年末進行より過密な7月進行(謎)。ひどく間が開いてしまいましたが6月17日に開催された標記会議の感想の続きです。午後のパネルディスカッションは「従業員の発言システムをめぐる現状と政策課題−労働者代表制を手掛かりに」をテーマに開催されました。
まず、運輸労連中央書記長の小畑明さんから、運輸労連内での労働者代表制に関する議論について報告がありました。小畑さんは労働者代表制の解説書を発行されるなどこの問題については労働界の第一人者です。
運輸労連は加盟単組474組合中過半の248組合が組合員数30人以下と、組織数では中小規模が主体となっていて(組合員数では大手6組合で7割を超えるようですが)、その組織化の力量にまず驚くわけですが、それだけに企業規模別にまた異なる議論の様相があるようです。また、今般の働き方改革の中でも時間外労働の上限規制に猶予が設けられているように、長時間労働の問題を構造的に抱えた産別であるという特徴もあります。
具体例を見ますと、400人規模の未組織企業においては、長時間労働の放置、年休取得の停滞(10年間1度も取得していないなど)が顕著であり、賃金交渉は行われておらず(会社が一方的に決定)、36協定なども形骸化している実態が示されました。労働者代表制については「ルールをはっきりさせるためには必要なように思えるが、誰一人考えたことがないので何とも答えようがない」との回答だったのこと。派遣労働者へのヒヤリングでは、派遣元では労使の力関係が大差なので派遣先労組がどれだけ派遣労働者の面倒を見るのかが重要だとの見解が示されたようです。
300人規模の中堅労組では「労働者代表制は会社の傀儡組織となるだけ」ということで、労働者代表制の機能を拡大するほどに「会社に押し切られる範囲が拡大し傷口が広がる」ことから、やはり労働組合が主体となるべきという実態が紹介されました。
1,200人規模の労組からは、従業員代表と労組の併存による混乱を懸念すると同時に、労組ですら争議などを行っているわけではない現状、会社からの便宜供与を受ける従業員代表の限界は大きく、便宜供与は制限しつつ従業員代表に対する研修が必要との意見があったとのこと。
30,000人規模の大手からも、まずは組織拡大の徹底が優先であるにもかかわらず、組合費負担のない従業員代表を導入することは「組合費のかかる労組よりいい」という組合員を増やしかねず組織拡大を阻害するとの懸念が示されたとのことです。従業員代表は労組ほどには使用者との力関係が対等ではなく、そこに多くの機能を付与すると(それによって受益する)使用者が便宜供与などの支援を強化するのではないかというわけです。
ということで、やはり労組と従業員代表の併存というのは難しい問題のようであり、連合案は過半数労組があれば従業員代表は置かないということになってはいるのですが、同一企業内でも過半数労組が過半数を組織している事業所では労組、組織していない事業所は労働者代表という形で併存する可能性は否定できないという問題があるとのことです。また、連合案が派遣労働者を非対象としていることには当面は妥当で、分科会や小委員会の活用が有効だろうとのことでした。
労働者代表の機能拡大や便宜供与についてはかなり懐疑的で、その機能は労働基準法など法定基準の解除のみで良しとするようです。未組織企業に集団的協議の場ができる以上は労働条件などについても話し合いたいところではあるものの、やはり力関係などを考えると労働条件切り下げ提案などへの対処は難しく、やむを得ないとの判断のようでした。また、労使の対等性の確保という観点からは便宜供与は抑制的であるべきであり、連合案よりさらに制限することも必要とのことでした。
また、労働者代表制が独り立ちするまでは行政や労働組合のサポートが重要であり、連合案を上回る支援の制度化や体制整備が必要と訴えていました。
続いて、早稲田の竹内(奥野)寿先生から労働法の観点から報告がありました。まずは現行法における過半数代表者や労使委員会の位置づけについて概観され、過半数代表の選出が実態として十分な代表制を確保できていない例が多いことや、常設でない(労使協定の締結が必要なときに都度選出すれば足りる)ことといった問題点を指摘されました。労使委員会についても、常設ではあるものの(労働者)委員の選出にはやはり代表性確保の面で問題があるとされました。加えて、労働組合も含めて、活動にかかる費用負担についての定めがないことも指摘されました。
従業員代表制に関しては、そもそも法定最低基準の逸脱を合法化する機能は独、蘭、仏などでは労働組合に限定されていて従業員代表がこの機能を担うことは例外的であり、また就業規則の変更にかかる意見聴取が事実上労働条件決定への関与となっている現実を考えると、使用者との対等性を確保すべく従業員代表制の整備が必要とされました。具体的には、常設であること、多様性を反映した複数委員による代表性の確保、活動保障(就業時間中の有給活動や使用者の経費支援など)の確保と不利益取扱いの禁止が必要とされました。また、過半数労組が存在する場合は当該労組をもって従業員代表とすべきだが、非組合員の意見聴取など代表性確保の規定が必要と述べられました。
野田先生のご報告は中小企業の労使コミュニケーションと従業員組織の効果に関する分析で、大阪府内の31〜300人規模の企業を対象とした調査が用いて、主として従業員組織と離職率との関係に着目しています。
結果は非常に興味深く、まず退職金制度の存在と定期昇給制度の存在が有意かつ大きく従業員の離職と負の相関を示しているのは納得いくところです。そして、これらほどではないにしても従業員組織の存在も有意に離職と負の相関を示しています。「助け合いの雰囲気」や「会社を盛り立てる雰囲気」がやはり有意に負の相関を示しているのも納得できます。もうひとつ、効果は弱いのですが創業以来の年数というのがやはり有意で、これは歴史の長い企業のほうが制度的に充実していることの反映でしょうか。逆に、経営者が創業者であることは退職金や定期昇給を上回る強さで有意に離職と正の相関があるのは面白いところです。
従業員組織の存在との関係では、人事評価制度と「助け合いの雰囲気」が従業員組織の存在と有意に正の相関を示す一方で、経営者が創業者または創業者の親族である場合には有意に負の相関を示していて、どうやら創業社長というのは社員の声を制度的に聞く必要性を低く評価していて、それが離職に結び付いているのではないか…という解釈を示されました。
久本先生は「ドイツにおける従業員代表制の現状と課題」と題して報告されました。従業員代表制といえばドイツというのが世間相場ではありますが、その実態については知らなかったことが非常に多く、たいへん勉強になりました。
たとえば従業員代表にも事業所組織法にもとづく事業所委員会のほかに法律によらない従業員代表機関があること、事業所委員会は原則として設立が義務となっているものの罰則がないため、小規模企業での設置率は非常に低く、501人以上の企業でも8割程度にとどまっていることなどが紹介されました。使用者にメリットが乏しいこと、事業所委員会の設置や活動を面倒だと考える従業員も多いことがその理由となっているようです。
労働条件決定への関与についても、共同決定できるのは労働時間でも6割弱であり、採用・配転、解雇で5割程度、賃金制度となると3割にも届かないというのが実態のようです。人数も二桁に達するのは1割に満たないとのことでした。
したがって労組は事業所委員会の設置に尽力しており、それを組合活動の足場としているだけではなく、事業所委員への研修の提供なども行っているようです。
続いてディスカッションに移りました。もうだいぶ古い話なので省略させていただきたいと思いますが、一つだけ書きますと、やはり従業員代表制を導入した場合の労働組合との関係についての議論が盛り上がったのですが、労働組合との競合を避けるために従業員代表の機能は法定基準の解除など限定的なものとして、労働協約の締結(労働条件の決定)などは労働組合に限るべきだとの意見が多かったのに対し、久本先生は「従業員代表にも労働条件決定機能を持たせてもよい。労働組合と、どちらがよりよく機能するのかを見極めて、有効なほうを利用すればよいのではないか」と主張されたのが印象に残りました。
なお私個人としては労働者代表制の法定化には懐疑的で、特に必置義務化には否定的です。詳しくは過去書きましたので繰り返しませんが、私としてはやはり対等性の面でも交渉力の面でも労働組合に期待したいところだからです。久本先生が触れられていましたが、使用者にもメリットを積極的に付与し周知していくことで、労働組合組織の拡大は十分に期待できると考えているからです。本田一成先生の最近著『オルグ!オルグ!オルグ!』はゼンセン同盟を中心に労組組織化の実態をまとめた本ですが、これを見てもやはり成功したオルグというのは経営者の理解を得ていることが多いように思われます。
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