日経にかまけていて遅くなりました(笑)。昨年末に話題になり、このブログでも取り上げた日本テレビの内定取消事件ですが、アナウンサーとして入社することで和解が成立したとのことです。まずもって円満解決がはかられたようでご同慶です。
ホステスのアルバイト歴を理由に日本テレビからアナウンサーの内定を取り消された東洋英和女学院大4年の笹崎里菜さん(22)が8日、アナウンサーとして4月1日に同局に入社できることになった。笹崎さんは昨秋、地位確認を求めて東京地裁に同局を提訴。当初、日本テレビ側は争う姿勢を示していたがこの日、笹崎さんの採用を促す東京地裁の和解勧告を受け入れ、和解が成立した。
前代未聞の訴訟は、笹崎さんの完全勝利となった。和解内容は、笹崎さんの求めた「アナウンサーとしての4月入社」を認めたもの。日本テレビ側が事実上、「ホステスのアルバイト歴は清廉性に欠ける」とした判断の誤りを認めた形だ。
笹崎さんは内定取り消しを不服とし、地位確認を求めて昨秋に日本テレビを東京地裁に提訴した。当初、日本テレビ側は争う姿勢を示していたが、昨年12月26日に東京地裁から出た和解勧告に合わせるかのように態度を軟化した。今月7日には、日本テレビ側が採用を前提にした和解案を出し、この日、あらためて東京地裁が和解案を双方に提示。同局が笹崎さんを「アナウンス部配属予定の総合職採用内定者の地位に戻す」ことで和解が成立した。
…同社関係者は和解について「彼女の将来を考えて、なるべく早めに解決できればと考えた」と話したが、報道機関として、「内定取り消し」に高まる批判的な世論に反応したといえそうだ。
(平成27年1月9日付日刊スポーツから)
…笹崎さんは当初の予定通りの今年4月入社を求めて、日本テレビを相手に「地位確認請求」の訴訟を起こした。昨年11月14日に第1回口頭弁論が行われ、同12月26日には和解勧告の1回目の話し合いが行われた。「アルバイトの虚偽申告」については、一昨年9月の内定の時点では、笹崎さんは就職セミナー用の書類のみで、正式な採用選考書類を提出していなかった。同局側も昨年12月の時点で「虚偽申告はなかった」と認めていたこともこの日、判明した。
「清廉性」については、15日の口頭弁論で同局が主張すると思われたが、急転直下の和解となれば論議されずに終わる。緒方弁護士は「清廉性は企業の好みの問題。企業カルチャーとしてあるのはいいが、事前に掲げていなかったから問題が起きた」と指摘した。
(平成27年1月8日付日刊スポーツから)
以前書いたように(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20141118#p1)法的にはなかなか難しい論点が含まれており、特に内定取消無効・入社のあとアナウンサー以外に配属されて「アナウンサーとしての就労を求めて再提訴」という展開になると極めて興味深い事件になったと思うのですが、もちろんこれは当事者(特に原告)の負担が非常に重いので、興味関心はともかく入社式に間にあうタイミングで早期に解決がはかられたことは喜ばしく思います。
もっとも上記8日付記事にあるように「「アルバイトの虚偽申告」については、一昨年9月の内定の時点では、笹崎さんは就職セミナー用の書類のみで、正式な採用選考書類を提出していなかった。同局側も昨年12月の時点で「虚偽申告はなかった」と認めていた」ということなので、さすがにこれでは日テレに勝ち目はないことは明らかです。
となると、なぜ日テレは勝ち目のない内定取消を行い、法廷でも一転和解に応じるまでは強硬な態度を取り続けてきたのか、かなり不可解なものがあります。
以下は私の全くの想像ですが、日テレの不可解な態度の理由を推測しますと、まず内定を取り消した段階では、おそらく原告がここまで強硬に出てくるとは想定せず、泣き寝入りしてくれるだろうという手前勝手な期待があったものと邪推します。ここまではまあ安易ではありますが、失礼ながら不可解ということはないかもしれません(いや本来不可解でなければいけないのですが)。
しかし、先日のブログ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20141118#p1)でも紹介しましたが、「緒方弁護士によると、当初は日テレ側と内密に内定取り消しの撤回を折衝。日テレの代理人に仮処分の手続きを提案したが「仮に採用内定の決定が下っても従わない」と返答されたため「何らかの形で解決するしかない」と訴訟に踏み切った。」という展開はかなり不可解に思えます。さすがに「内定取り消しの撤回を折衝」という段階では日テレ側でも顧問弁護士なりの専門家が関与しているはずで、であればこの時点で「出るところに出たら勝ち目はない」ことは日テレ内部でも明らかになっていたはずです。もちろん強く出続けたところで原告の翻意=泣き寝入りはもはや期待できず、騒ぎが大きくなるだけだということも明白ですから、なぜこの段階で手を打って内々におさめてしまわなかったのでしょうか。まあそれでもなお「原告の言動はブラフであっていつか泣き寝入りしてくれるのではないか」という安易な甘い希望にすがっていたという可能性もなくはないですがさすがにそこまで間抜けではないでしょう。
ということで私が邪推するに、ホステス歴および客との集合写真はあるとしてもそれ以上のものは出てこないということを確信するための時間が必要だったのではないかと想像するわけです(どういう方法で確信したかまで邪推に邪推を重ねることはしませんが)。
どういうことかというと、日テレとしてはもちろん負け戦は承知の上で行くところまで行って泥沼化させ、最終的に負けた後で採用しない形での和解に持ち込むという選択肢はあることはあるわけですが、道義的な問題はもちろん、コストもかかれば風評リスクも大きい(もうひとつ重要なリスクがありますが後述します)わけで、できればやりたくないと考えるのがふつうでしょう。
いっぽうで、これも先日のエントリで書きましたが日テレとしてはホステス歴そのものよりは「ホステス歴のある人はスキャンダルが出てくる危険性が高い」(根拠があるのかどうか知りませんが)ということで内定を取り消したのではないかと思われるわけで、まあ取り消し時点ではホステス歴そのものにもびくびくしていたかもしれませんが、この話が外に出た11月以降の展開をみれば今回明らかになってしまったホステス歴そのものは容認されそうなことも確認できていたわけです。
となると、「もうこれ以上ない、大丈夫」ならは採用もむしろウェルカムなわけですから和解に応じるのが得策であり、さすがにそこまで意図してはいないと思いますが結果的に内々におさめて入社後に第三者に暴露されるよりははるかに軽いダメージですんだという見方すらできるかもしれません。逆にいえば仮に「他にもぞろぞろ出てくるようだ」という話だったら日テレはあえて泥沼の道を選択した危険性もあったわけで、今回そうならなくて本当によかったということでしょう。
さてもうひとつ邪推しますと、今回和解に応じた背景には「清廉性」という採用要件を守るというものがあるのではないかと思います(それを喪失するのが上で書いた「もうひとつ重要なリスク」にあたります)。9日付記事には「日本テレビ側が事実上、「ホステスのアルバイト歴は清廉性に欠ける」とした判断の誤りを認めた形」と書いてありますが「事実上」ということは正式に認めたわけではなく、むしろ8日付の記事で「「清廉性」については、15日の口頭弁論で同局が主張すると思われたが、急転直下の和解となれば論議されずに終わる」とあるように「清廉性」について判断されることから逃げたというところではないかと思います。
というのは、原告はたいへんな逸材であるとの評判もあり、これも先日のエントリで書きましたが「わが社は日テレさんのような「清廉性」は求めないので日テレさんが内定を取り消すならわが社が採用します」という局が1局くらいあってほしいと思ったわけですが、残念ながらそういう展開にはならなかったわけです。これは、やはり残念ながらどうやら「アナウンサーには「清廉性」が必要」というのはかなりの程度業界共通の価値観であるらしいということを示唆しているように思われます(なおさらに邪推すれば原告の場合は法的手段に訴えたことが他局に疎んじられたという可能性も否定できず、だとしたらそれもまた情けない話ですが…)。
やはり記事にありますが、原告代理人弁護士が「「清廉性は企業の好みの問題。企業カルチャーとしてあるのはいいが、事前に掲げていなかったから問題が起きた」と指摘した」ように、「清廉性」を採用要件とすること自体は現時点では否定されていないわけで、日テレとしては裁判所に「「清廉性」をアナウンサーの採用要件とすることはまかりならぬ」という判断を示される(かどうかはまた別問題ですが)ことで自社が困るだけではなく業界全体にご迷惑をかけるという事態は避けたかったのではないでしょうか。日テレも今年は「事前に掲げ」るんじゃないかなあ(さすがにそのままではないにしてもなんらかの形で)。
ということで、ウェブ上をみると「日テレが内定を取り消したのはけしからんが、和解に応じたのは社会的責任を果たしており立派である」といった論調が間々見られるるようですが、私としては本件についての日テレに対する評価は端的に間抜けであるの一語に尽きます。結果オーライだからといってあまりほめないほうがいいと思うなあ。フジテレビの亀山社長は本件について「うちだったら内定を出した以上は採用する」と述べたそうですが、邪推を重ねた後ではこれも「うちはそんなヘマはしない」と言ってるように聞こえるわけでして。