江口匡太『大人になって読む経済学の教科書』

中央大学の江口匡太先生から、ご著書『大人になってから読む経済学の教科書−市場経済のしくみから考える』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

大人になって読む経済学の教科書

大人になって読む経済学の教科書

江口先生といえば、労働の法と経済学の分野では不完備契約理論による解雇規制の経済分析で名を馳せられ(http://www.roumuya.net/shohyo/kaiko.html)、前著『キャリア・リスクの経済学』では人事経済学による人事管理の経済分析を縦横に展開されていた(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100414#p1)わけですが、この本はミクロ経済学(と若干のマクロ)のテキスト、しかも書名に「大人になって」とあるように、忙しい・時間のない大人が(オビの惹句にもあるように)「さくさく読める」がコンセプトになっています。
そこで読みはじめてみると、なるほどさくさく読めること。会社に届いたので仕事中にパラパラと拾い読みしようとしたところ思わず読みふけってしまいそうになりました。危ない危ない。
さて特徴としては著者も書いているとおり数式がまったく使われていないこと、グラフもジニ係数の説明を除けば現実のデータを示すものばかりで、モデルを示すものは出てこないことがあげられるでしょう。数式が出てくるたびに立ち止まって鉛筆を手に「えーと」とやらなくてすむようになっているわけです。
構成においてもまず身近な社会問題をテーマとして提示し、それを経済学的に解説していくという手法が多く取られていて大変読みやすく、それゆえにどこから読んでも面白いのでパラパラ目を通すはずが読みふけることになるわけですが、世間で政策課題となっているテーマの相当数について経済学的に語ることができるようになるでしょう。。
ということでこの本は忙しい大人、特にビジネスパーソンには最適の本といえそうです。たとえば世間で好評の神取道宏『ミクロ経済学の力』は非常に面白くやはり読みふけってしまったわけですが、私のようなすれっからしでも優に1週間分の通勤時間を要したわけで、この本を読んだあとではあれも幅広いビジネスマン向けではないのかもしれないなどと思ってしまうわけです。
もちろん「さくさく読める」ゆえの限界もあるわけでしょうが、そこはそれこそ神取ミクロなどで勉強しましょうということでしょうし、時間のある学生さんは鉛筆片手にしっかり勉強しなさいというのも著者のメッセージなのだろうと思います。
ということで私ごときがエラそうに申し述べさせていただけば、大竹文雄『経済的思考のセンス』→本書→神取ミクロという路線はなかなかいい感じなのではないかと思います。