社民党党首ではありません(笑)。さて政労使会議の直前にこんな記事が報じられていたわけです。YOMIURI ONLINEから。
日本銀行は26日、2014年度の職員給与について、基本給を一律に0・2%引き上げるベースアップ(ベア)を実施すると発表した。
ベアは19年ぶり。日銀は大手銀行や企業を参考に給与水準を決めている。今春にベアを行う企業が相次いだため、実施を決めた。
5月と11月に支給の賞与(ボーナス)は前年比で5・8%上げる。この結果、年収は1・5%増となる。
一方で、職員の退職手当については、民間の水準を参考に、来年4月から平均で12%程度引き下げる。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20140926-OYT1T50122.html
日銀は霞ヶ関と較べて相当に高給であるというウワサはかねてから耳にするところですが、「大手銀行や企業を参考に給与水準を決めている」ということならきっとそうでしょう。「参考に」というのは「そのとおり」とは違うわけで。
それでも上げるのかと目くじらを立てる人というのもいる(のか本当に)のではないかと思うのですが、まあ、これも過去何度か書きましたが、日本銀行が必要とする人材を競合(たしかに大手都銀とか有名大企業とかだろうと思います)に負けずに調達するためにその労働条件が必要だというならそれでよろしかろうと思います。その人材が過去なにをしてきたかという問題はありそうですが今現在はよく頑張っていただいていると思いますので。
ということでデフレ脱却、2%インフレを目指す日銀としては賃金上昇にも率先して取り組む必要があるということでそうしましたということならまあけっこうな話だろうと思います。
さてみずほの話ですがこちらは政労使会議の直後にこんな記事が出ていたわけです。再度日経ウェブサイトから。
みずほフィナンシャルグループは30日、人事制度改革の一環として全職員一律で0.5%の賃上げに踏み切る方針を固めた。グループの銀行や信託銀行などの約3万人が対象で、春に続く異例の今年2回目の賃上げになる。国際競争が激しくなるなかで、行員の待遇を改善して優秀な人材を確保したい考えだ。
賃上げは11月から実施する計画で、10月1日に労働組合に提示する。一般的なベースアップ(ベア)と違い、今回は組合要求ではなく経営判断として実施を決めた。従業員のやる気を高め、顧客サービスの向上につなげる狙いもある。
銀行業界はバブル崩壊後、ベア凍結や賞与削減などで賃金を引き下げてきた。しかし業績回復を受け、今年の春闘では3メガバンクが19年ぶりに0.5%のベア実施を決めた。みずほが2回目の賃上げに踏み切るのは、他の2メガバンクに比べて給与水準が1割程度低いことも背景にある。
賃上げと同時に、02年のみずほ発足以来初めて人事制度を体系的に見直す。例えば、来年7月に支店長級と副支店長級の社内資格を統合し、30代後半の若手行員を支店長に登用しやすくする。優秀な社員には年100万円程度の手当を支給する制度も新設する。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF30H16_Q4A930C1MM8000/
これは人事担当者(経験者)であればははーんという話で、同業他社に負けているという事情はあるのでしょうしひょっとしたら政府の意を受けてという意味もあるのかもしれませんが、現実のところは「人事制度を体系的に見直す」ことで結果的にベアが実現したというのが実情ではないかと思われます。
人事制度、特に賃金制度を見直すと、それで賃金が上がる人、下がる人というのが当然出てきます。とはいえ、上げるのは誰も文句は言わないでしょうが、下がるのは当然困るわけで、労組との協議の過程で、どうしても「上がる人は上げるけど下がる人は下げない」という方向に進みがちになります(もちろん経過措置、激変緩和措置など実施するわけですが後述します)。となると、どうしても制度変更は企業の持ち出しにならざるを得ない、すなわち賃金総額は増えざるを得ないわけで、それはすなわち(賃金総額が増えるわけですから)ベアにほぼ等しいということになるわけです。ましてや同業に負けているとかいう事情があれば0.5%程度ならいいだろうという話になりやすいということも容易に想像されます。
でまあ隠しベアが叩かれていた20年前であれば当然こんなことをこんな形で公表することはなかったわけですが、いまや人事制度見直しを「ベアやります」と公表するというのですから時代も変わったものだと妙な感慨にふける私。まあけっこうな話だと思いますがこれも。
さてすでにお察しのとおりこれが上の記事で別途書くといっていた話で、賃金制度を見直さないと賃上げが続かないのではなく、実務的には賃上げが続かないと賃金制度の見直しが難しいということになるわけです。賃金制度変更にともない賃金が上がる人と下がる人が出てきますので、前述のとおりなんらかの経過措置、激変緩和措置を講じるのが一般的です。具体的には、上がる人は数年かけて段階的に上げていく、それを原資にして下がる人も数年かけて少しずつ徐々に下げていく、といった具合です。このとき、ベースアップがあれば、それをこうした激変緩和措置の原資に使うことが可能になります。たとえば、賃金制度見直しで5%賃金が下がる人がいたとして、それを5年間で段階的に実施する場合、ベアが毎年2%あれば、額面上の賃金を下げることなく新賃金制度に移行することができるわけです。それでもまあこの間インフレがあれば(ベアがあるということはインフレがある可能性が高いわけですが)実質賃金は下がる可能性が高いわけですが、それでも額面で下がることがない、むしろ上がっているとなれば抵抗感はかなり緩和されるでしょう。逆にベアゼロが続くと、漸進的かつデフレ下では実質賃金は確保される可能性もあるとはいえ、やはり額面を下げざるを得ないわけで、そちらの抵抗のほうがはるかに大きいことは容易に想像がつくでしょう。ということで、デフレは企業の賃金戦略上も迷惑だ、という話も過去書いたと思います。