ときおり、就活中の学生さんと思われる方から就活について電子メールで助言を求められることがあります。先日もそんなメールをいただいたのですが、その中にこんな内容(もちろんメールの文面そのままではありません)があって、少し驚きました。
「面接では、自分のあれこれをアピールすることよりも、相手の話を聞くこと、それも有り体に言えば、相手に気分よく話させることの効果の方がずっと大きい」と聞いたのですが、どうすれば面接官に気分よく話させることができるのでしょうか?
「キャリア・コンサルタント」にあれこれ言われてかえって迷ってしまう…ということも多いようですし、中にはこういうことをいう人もいるんだろうなあ、それにしても誰が言ってんだそんなことと思って検索してみたら、経済評論家の山崎元氏のブログがヒットしました*1。
http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/fe254814827b3478d84d31ecd6d57aed
山崎氏は獨協大学*2で教鞭を執っておられるそうですので、就活も身近、というか当事者に近くなっているのでしょう。また、ご自身も面接員を務められたご経験があるようで、エントリを読んでみても、まずはこう書かれています。
…Twitterで、大学生の就職事情が厳しいことについて同情的なツイートを書いたら、ある方から「自分がどうありたいのか、とことん本気かどうか?あがいているか? 」というツイートが返ってきた。私は、これは学生に対するアドバイスあるいは、意見であろうかと解釈して、「自分探しよりも、会社を知ることが大事。自分にではなく、会社・仕事に興味のある人を会社は採る」と返信した。
(http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/fe254814827b3478d84d31ecd6d57aedから、以下同じ)
まず「自分探しよりも、会社を知ることが大事」というのは、まったくそのとおりだろうなあと私も思います。ひょっとしたら、このあたりは採用面接員を経験した人には案外共有されている感覚なのかもしれません。
ただ、それは自分探しなんかどうでもいいということでもなくて、もちろんそれはそれで大切だけれど、そちらばかりが強調されるのは問題ということです。企業としては会社・仕事に興味のない人を採らないのと同様、自分に興味がないという人を採っても仕方がないわけで。採用試験では「なぜこの会社に入りたいのか、ここでどんな仕事をしたいのか」というのは何らかの形でほぼ必ず問われるわけですから、それに対して社会的な意義と自分自身にとっての意義の両面からそれなりに説明できることは必要なのでしょう。
ただ、しょせん新卒の段階で「自分が本当にやりたい仕事は何か」とか「自分にはどんな仕事ができるのか」とかいったことがはっきりわかるわけもなく、現にたいていの場合はここは「はっきりとわかっているわけではありませんが」で許されるわけでもありますので、あまりこれに時間と費用をを費やすのは効率的ではないでしょう。
それに対して、社会にはどのような仕事があって、どんな仕事が必要とされているのか、といったことを知ることも同じくらい、あるいはそれ以上に大事なことのはずなのですが、こちらはあまり強調されていません。これは思うに、「自分を知る」のほうはキャリア・コンサルタントがあれこれとツールや研修を売りやすい分野なのに対し、「社会を知る」のほうは図書館とかで相当程度対応できるからという違いがあるのではないかと根拠もなく推測しているのですが、いや邪推ですよ邪推。まあ、「社会を知る・仕事を知る」を「やりたくてやりたくて仕方ないこと」といった「自分探し」にヒモづけることで300万冊のベストセラーを飛ばす出版社もあるわけですが。
さて、これに続けてくだんの文面が出てきます。
思うに、面接では、自分のあれこれをアピールすることよりも、相手の話を聞くこと、それも有り体に言えば、相手に気分よく話させることの効果の方がずっと大きいような気がする。
…受ける側から見た面接の成否は、面接官が、相手に好感を持つかどうかで決まる。人相風体や身体の動きに表れる印象も重要だろうが、会話にあっては、「あなた(=面接官様)の仰っていることを、私はよく理解しました!」という印象を与え続けて、「あなたとあなたの会社に興味と敬意を持っています」という気分を伝えることが、有力な手段になる。
部活動で活躍した話とか、アルバイトでのエピソードなどは、学生本人にとっては唯一で貴重な経験であっても、面接官にとっては関心の湧かない「みな同じ」に聞こえやすい話だろう。まして、自分が何者であるかについてとことん考えた話など聞きたくもないにちがいない。面接は、体験告白や人生相談の場ではない。
また、初対面の相手に突然やる気や積極性などをアピールされても鬱陶しいとか、痛々しいと思うだけだろうし、アピールに変な意外性があると(人間は「意外性」を警戒する生き物だ)「使いにくい部下(かも知れない)」だと思うかも知れないし、そう思われると多分それだけで致命傷だ。
うーん、まあ、ここまで来ると「山崎氏はそう考えて面接、選考してたんでしょうねぇきっと」としか申し上げようがありません。『「あなた(=面接官様=山崎元様)の仰っていることを、私はよく理解しました!」という印象を与え続けて、「あなた(=山崎元様)とあなた(=山崎元様)の会社に興味と敬意を持っています」という気分を伝え』た人を山崎氏は合格と判定したと、こういうことでしょう。これをそれ以上に一般化するのは少々危ないような気がします。もちろん山崎氏が特別に変わっていると考える理由もありませんし、実際山崎氏のような考え方で判断する人もいるでしょうから、これはこれで有益な事例情報とはいえます。「あなたと」はともかく、それに続く「あなたの会社に興味と敬意を持っていますという気分を伝える」ことは、これは大抵の場合必須でしょうし。
同様に、「部活動で活躍した話とか、アルバイトでのエピソードなどは…面接官にとっては関心の湧かない「みな同じ」に聞こえやすい話」とか「自分が何者であるかについてとことん考えた話など聞きたくもない」とか「初対面の相手に突然やる気や積極性などをアピールされても鬱陶しいとか、痛々しいと思うだけ」というのも基本的にはへー山崎さんってそうなんだという話だろうと思います。
新卒正社員(大卒の幹部候補生、主に文系)採用試験というのは、出題範囲を決めて試験をやって採点して合計点の高い順に合格させるという大学入試とはまったく異なる試験です。それがけしからんのだ、採用試験も大学入試と同じようにすればどんなに楽なことか、したがってそうすべきだ、という意見は、情においてまことに無理からぬものがあるとは思いますが、しかしそれでは企業が求める人材を適切に確保するという目的は達成できないのでしょう。
わが国の新卒正社員採用は、基本的には未熟練で適性や能力も不確実な新卒者を敢えて採用し、適性・能力をある程度の時間をかけて見極めながら熟練者へと育成していくという人事戦略の一環です。単に職業訓練という意味でも、学校の教室でのトレーニングより企業の現場で仕事を覚えたほうが効率的なのに加えて、中長期的にどんな人材が必要となるかが必ずしも明らかでない中では、いずれこんな人材が必要になるだろうとの不確実な見通しのもとに外部の学校などで技能形成するよりは、企業内で日々の変化をみながら必要な技能を見極めて育成していくほうが柔軟性の面でも優れています。現在の新卒採用の方法も、こうした人事戦略が必要とする人材を集める方法として、長年かけて試行錯誤して出来上がってきた(もちろん問題もあって、完成しているとはとてもいえませんが)ものなので、今後も変化はするでしょうが今すぐに大きく変えられるものとも思えません。
ここで重要になるのが人材の「多様性」です。たとえば、いわゆる「体育会系」がいかに有用な人材であるにしても、体育会系で100%固めた組織がうまくいくとは思えない*3という直観はおそらく大きくは間違っていないでしょう。体育会系もある程度は必要だけれど、学究肌もいたほうがいい。ちょっと軽いけど社交性があるなとか、暗い感じだけど綿密さに優れているなとか、さまざまな多様な人材を採用して、その適性や能力をみながら時間をかけて適材適所に近い人材育成ができるのが望ましいわけです。その上で、各企業の業種・業態や経営ポリシー、あるいはその時点や先行きの経営環境(見通し)などによって、どんな人材がどのくらいの割合を占めるのかは企業により年により異なってくるでしょう。
多数の多様な人材を採用しようとするなら、面接員も多様であることが有効*4であろうことも、比較的みやすい理屈ではないかと思います。実際、とりわけスクリーニング段階の選考においては、面接員は一通りの共通のクライテリアを共有してはいるでしょうが、しかし個別の合否は面接員の総合的な判断に委ねられている部分が多いのではないかと思われます。
山崎氏の例でいえば、山崎氏を面接員に起用するということは企業の「山崎氏が合格させる人材はわが社にとって必要(な可能性が高い)だろう」という判断によるものであり、それはつまり山崎氏が合格させるような人、つまり「山崎氏に気分よく話させる」「「山崎氏の仰っていることを、私はよく理解しました!」という印象を与え続ける」「「山崎氏と山崎氏の会社に興味と敬意を持っています」という気分を伝える」ことができる人材を山崎氏の会社が必要としているということでしょう。ですから、山崎氏以外の面接員の中には、「部活動で活躍した話とか、アルバイトでのエピソードなど」に興味を覚える人もいるでしょうし、「自分が何者であるかについてとことん考えた話」に耳を傾ける人もいるでしょうし、「やる気や積極性などをアピール」されることで相手に関心を持つ人もいるでしょう。
こうしてスクリーンされた応募者は、また次の段階では別の人の別の見方で選抜され、さらに次の段階ではまた別の人…と、まああまり段階が多いのも考えものですが、それなりに複数の人が、前の段階での面接員の意見も尊重し参考にしつつ判断していくことで、最終的に多様な優れた人材が揃ってくるわけです。ということで、外部からみればなんでこんな妙なやり方しているんだろうと思われるのかもしれませんが、毎年毎年の採用実務を通じてそれなりに合理的なものになっているわけですね。
さて、当然、何段階かのステップがあると、目立つ個性があるだけという人は残りにくくなる傾向はあるわけで、山崎氏はそのあたりをこう表現したのでしょうか。
学校名を伏せて面接を行っても、高偏差値の大学の学生が採用されやすい事実は、おそらく言葉のやりとりの的確さにある。そして、その背景に、頭の良し悪し(この場合、主に理解力と論理性)や国語力の違いがあるのではないだろうか。
ということで、これ以降の山崎氏のアドバイスも、面接員が山崎氏の場合はこうだという留保をしっかりつけた上で、おおいに参考とすればいいのだろうと思います。もちろん、このアドバイスに従ったけれど結果が悪かったからといって山崎氏の責任を追及するのは筋違いです。あなたを落とした面接員は別人なんですから。
採用する側から見ると、どちらかといえば「頭がいい」部下を採りたいだろうが、より直裁には「使いやすい部下」、「役に立つ部下」を採りたいと思っているはずだ。この感情に素速く合わせることができるのが真に頭のいいキャンディデート(候補者)ということになるだろう。
あまり細かなテクニックを言っても気になるだけかも知れないが、面接では、先ず、「相手の言語」に素速く且つ最大限合わせることに注力すべきだ。
面接官が使う言葉のスピードや響き、語彙の傾向などを把握して、なるべくこれに合わせようとするだけでも印象が違う。
これは、一般的なビジネスにもいえることで、たとえば相手が使う外来語の頻度やレベルなどを素速く把握して、相手のボキャブラリー・セットに合わせて話すと効果的だ(たとえば、相手が外国語に興味を持っていないのに、原語の発音風のカタカナ語を会話に混ぜると、「有能すぎるバカ!」だと思われて上手く行かない)。
そして、最初の二、三分で面接官が得た印象がその後の話によって大きく変わることは稀だから、最初に集中しよう。
面接官の質問の意味を正確に聞き取って、これに答えることが大切なのはいうまでもないが、面接官にも話をさせるように仕向けるといい。聞き役ばかりを続けているのは、結構疲れるものだから、自分も少しなら話をしたいと思っている面接官は少なくないはずだし、相手に対する興味や敬意を表すには質問が効果的な場合がしばしばある(勿論、次から次へと質問するのは「やり過ぎ」だ)。
面接官が気持ちよく話すことのできる話題に持ち込むことができればラッキーだが、やりとりのテンポが良ければ、無理をする必要はない。
最近の就活事情は詳しく知らないが、訪問先の会社については、ホームページで分かる程度の予備知識で十分だと思う。知らないと誠意を疑われるような常識的なことは知らないとまずいが、細かな業務内容や制度については知らなくてもいいだろう。新卒採用の場合、会社側は「素材」を採るという意識のはずであり、細かな知識は求めていないはずだ。
ほとんどの場合、相手が欲しがるのは「(自分の言うことをよく分かる)感じのいい部下」だ。「僕は感じのいい部下になりそうだから、面接官はきっと気に入るだろう」と自己暗示をかけて、「やっぱりそうだ!」という気分で相手の目を見て、相手のテンポに合わせて話を始めよう。
面接の時間はあっという間に過ぎる。
このあたりはおそらく、山崎氏のご経験をもとに書かれているのでしょう。山崎氏はたぶん「金融経済の専門家」としての目利きを期待されていたのでしょうから「部下としてどうか」という見方*5をしたのは目的にかなっています。実際、大企業の採用では最初のスクリーニング段階では入社2〜3年めの若手が選考にあたることがよくあるようですが、これは年齢や世代が近いということもさることながら、とにかくその企業に適応して2〜3年は勤続した人が「この人といっしょに働きたいか?」「この人はわが社で3年後に自分のようになるだろうか?」といった視点でチェックをするという意味でも非常に有益なわけで、きちんと理にかなっているわけです。それにしても、「感じのいい部下」を演じるというのもなかなか大変ではないかと思いますがね…。
山崎氏は転職回数をタイトルにした本を出しておられるくらいで、ご自身も何度も面接を受けた経験をお持ちなのかもしれません(まあ、山崎氏くらいの専門家になれば、面接を受けるどころか三顧の礼で引き抜かれるのかもしれませんが)。山崎氏ご自身がこの作戦で成功を収め続けてきた経験をお持ちなのであれば、それはこの作戦が効果的であることの有力な傍証となりましょう。ただ、それは山崎氏が特に巧みであった(場数をこなしておられるわけですし)からであって素人がマネしてもうまくいかない危険性は認識しておく必要がありそうです。また、特に新卒採用の場面では、面接員によってはそういう応接を好まない人もかなりいそうなので、そういう面接員に当たってしまったら観念するしかないというリスクも念頭におくべきでしょう。「質問にまともに答えずに、逆に質問しかえして逃げている」と思われないように十分注意しないといけませんし、中には質問するのは俺であって貴様じゃないんだぞと考える面接員もいるかもしれませんし。まあ、どこまでいっても応募者と面接員の「相性」というのは多かれ少なかれあるわけで、常にリスクはあります…それを考えるとあまり無理するよりは自然体のほうがいいような気が私などにはするわけですが。
さて、さらに山崎氏は続けて手の内を明かしているのですが、
私は新卒の面接をそうたくさんやったわけではないが、質問のパターンをほぼ決めていた。
(1)学生時代は何を専門に勉強されたのですか?内容を分かりやすく説明して下さい。
(2)当社を志望された理由は何ですか? 他社と比較して当社のことをどう思いますか。
(3)もし当社に入社されたら、どんなことがしたいですか?
基本的な質問内容はこの三つだけだ。
まあなんか非常に普通というか、就活マニュアル本に書いてありそうな内容というか。で、山崎氏としてのそのココロはというと、
質問(1)に的確に答えられるかどうかで、採否に必要な情報の8割は分かる。自分が勉強した内容を、分かりやすい言葉で大人に説明できるのはかなり頭のいい学生であり、この意味で頭のいい学生は、問題達成に対する意欲が高いので、有能な社員になり得る。相手が学生といえども、クイズを出題して頭の良し悪しを探る、というのは相手に対して失礼というものだろう。クイズなど出さなくても、話を聞けばビジネスに使う種類の頭の良し悪しは十分分かる。
質問(2)は、学生の志望動向に関する情報収集(内定を出したら、採用できるだろうか?、どこと競合しているのだろうか?)と、「社会性」のチェックを兼ねている。第二志望だろうが、第三志望だろうが、(嘘が交じっても)破綻のない理由を的確に言うことができるかどうか、を確かめている。
質問3は、敢えていえば「意欲」のチェック項目だが、学生は、まだ社員として働いたことがないし、会社の中についてよく知らないはずだから、感心するような答えが返ってくることを期待してはいない。こうした無理な質問にどう答えるかで、学生の意欲や工夫の上手下手がある程度分かる。ここで、話を上手にできる学生は、意欲があるのと共に、かなりコミュニケーション能力が高いといえる。
ふーん、山崎さんってそういう人なんだ。
*1:上の文面はこのエントリをそのままコピペしたもので、別に確認したわけではないので別人かもしれません。
*2:ちなみにどうでもいいことですが、城繁幸氏によれば獨協大学は嘘つきが教壇に立っている教育機関としての自覚のない大学だそうです(笑)。http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/6d0713908f0e40daa4b0497d3d250eba。いや別に山崎氏とはなんら関係ない話ですが。
*3:もちろん企業も多様であって、体育会色の濃い企業もあれば薄い企業もあるでしょうし、成功するかどうかは確率の問題ですが。
*4:採用規模が小さければ、十分にコミュニケーションのとれる少人数で面接を行うほうが効果的になるでしょう。二次選考、三次選考と絞られるに従って面接員も減るのも同じ事情と思われます。
*5:私たち人事屋が面接をすると、この人はどう成長するだろう、とかいったことを考えますが、これも採用業務の役割分担、段階の違いといったものでしょう。