まさに今日、労働条件分科会が開催されているわけですが、これはきのうの日経産業新聞から。
在日米国商工会議所(ACCJ)は6日、事務系従業員(ホワイトカラー)の給与を労働時間ではなく、仕事の成果で決める「自律的労働時間制度(日本版ホワイトカラー・イグゼンプション)」の創設を求める意見書をまとめた。ACCJは「同制度は優秀なホワイトカラーにやる気と自信を与え、日本の国際競争力も向上する」と主張している。
同制度は働く人が仕事の繁閑に応じて労働時間を自由に決められる。忙しいときは深夜まで働く一方、暇なときは早退することも可能。仕事の成果や組織への貢献度で給与を決めるので、残業しても給与は増えない。米国では年収2万3,660ドル(約270万円)以上のホワイトカラーが対象。ACCJは日本では年収8百万円以上を対象とすべきだと提言している。
厚生労働省は2007年の通常国会で同制度の法制化を目指している。日本経団連は導入に賛成している。
(平成18年12月7日付日経産業新聞から)
「日本経団連は導入に賛成している」って、それだけじゃなくて、連合は反対している、とか書いてあげてほしいなぁ(笑)。もっとも、ACCJは昨年の労働契約法制の研究会報告が出たときに、労働契約法制の必要性やその性格、履行確保措置などについては賛成の姿勢を打ち出して、経団連や日商などとは異なる見解を示していましたから、「今回は経団連とも意見が一致した」という趣旨なのかもしれません。まあ、労働契約法制に関しても、各論については反対が多く、全体では経団連と共通している部分の方が多かったと思いますが。
さて、この記事ではなんといっても「800万円」という具体的な数字が出てきたのが注目されます。その根拠は大いに気になるところです。
この意見書はhttp://www.accj.or.jp/document_library/Viewpoints/VP_WhiteCollar.pdfで公開されていますが、その中にこう記載されています。
賃金要件に関する厚生労働省の指針では、業務内容にかかわらず、一定の賃金額を満たす労働者を自動的に対象者とする最低金額を定めるべきである。中規模の企業における中間管理職の賃金水準と同等の金額に設定するのが妥当と考えられる。
賃金要件は、以下のような条件付きとすべきである。
・業務要件を満たす職務類型にはすべて、最低賃金保証があることとすべきである。労働時間規制の適用除外となる労働者は、厚生労働省が定める一定金額を上回る金額の給料制とする。
・賃金が一定額(例えば給与・賞与を合わせて年間800万円)を超える賃金水準の高い労働者は、原則として対象者とする。
賃金要件については、賃金水準の高い労働者(例えば給与・賞与を合わせて年間800万円以上)は、自動的にホワイトカラー・エグゼンプション制度の対象者とすべきである。その点を比較すると、米国でホワイトカラー・エグゼンプションの対象となる主な3種類の職種(管理職・事務職・専門職)に適用される賃金要件は、実際に行った業務の質や量による減額がないという前提で、わずか週455米ドルまたは年間23,660米ドル1である(給料制の要件)。この金額では少なすぎて日本の労働市場には見合わないが、年収約7万ドル2以上という目安は、日本の賃金要件として合理的な水準ではないかとACCJは考える。
なるほど、「中規模の企業における中間管理職の賃金水準と同等の金額」ということですか。中規模というと300〜1,000人くらいか、あるいはもっと小さいか?というところでしょうか。中間管理職といえばまずは課長でしょう。それで800万円というのは、そんなものなのでしょうか?私の手元にある生産性本部の『活用労働統計(2006年版)』のC-21表「職階別にみた年齢別平均所定内給与及び年間賞与」によると、100〜499人規模の大卒の課長の年収は平均で約713万円(所定内×12+年間賞与)となっていますから、そんなものなのかもしれません。まあ、米国企業の日本法人、日本支社といえば世間に較べて賃金はかなり高いというイメージがあります(根拠なし)ので、800万円以上であればACCJ会員企業が適用除外したい人はだいたい含まれるのでしょう。
ちなみに、AJCCとしては本人同意や労使協定・労使委員会決議などの手続要件は設けるべきではないとの主張のようで、年収要件と職務要件だけのシンプルな制度とすることを求めています。
日本の業務要件においても、米国の業務要件に倣い、合理的に考えて次の職種は対象者とすべきである。
・事務職 − 主たる業務が管理または事業運営全般に直接関連するオフィス業務または非肉体的労働(経営幹部への助言、会社の代理またはバックオフィス業務の実施など、事業運営の支援または事業部門に対するサービスなど)で独立した判断と自由裁量を行使する者。例えば経理、広告宣伝、監査、予算管理、コンピュータネットワーク、インターネットおよびデータベース管理、福利厚生、財務、人事、保険、労務、法務・コンプライアンス、マーケティング、購買、資材調達、渉外、調査、品質管理、安全衛生および税務といった業務を担当する者など。
・専門職 − 資格・免許または大学院の学位が必要な専門職(弁護士、医師、エンジニアなど)で、厚生労働省が定めた専門業務型裁量労働制の対象となる19業務を含む。
・2種類の特定の職種−フルタイムでコンピューター関連のサービスを提供する労働者および外回り営業を担当する労働者。
これはたしかに「米国に倣って」かなり幅広く、いわゆる総合職のホワイトカラーであればほぼあてはまるのではないでしょうか。外回り営業は、営業をさぼってパチンコ店や競輪場に行っていてもわからない、ということで日本でもみなし労働時間制の対象になる可能性がありますが、出来高払いが中心の営業職は成績不振だと年収要件を下回ってしまう可能性が高いので、どこまで使えるかどうか。
なお、健康確保についてはこう述べています。
ホワイトカラー・エグゼンプション制度を批判する者は、過労死を助長しかねないと主張している。しかしながら、ACCJはむしろ、日本の現行制度に基づき労働時間規制の対象となっているホワイトカラー労働者から、より効果的に、より生産的に働く意欲を引き出すことができるのではないかと考えている。労働者の健康と安全については別に規制が行われており、日本の各企業の健康・労働安全保護のための制度に従って使用者による運用に委ねられるべきである。
これはまことに同感で、長時間労働をさせたくないなら労働時間そのものを規制すればいいわけであって、なにも割増賃金を払わせるなどというまどろっこしい方法にこだわる必要はないわけです。
どうやら、労働条件分科会では年収要件の具体的水準については結論は出せないようで、政省令事項にして法成立後の検討に先送りされそうになっているようですが、ここで具体的な水準をともなう意見書が出てきたことは注目されます。