郷に入りては

週末の新聞報道から。

 米スポーツブランド「リーボック」を扱うリーボックジャパン(東京・渋谷)の元部長の男性(45)が執拗(しつよう)に退職を強要され、うつ病になったとして、川崎南労働基準監督署が労災を認定していたことが、8日分かった。
 同日、記者会見した代理人の穂積匡史弁護士は「退職強要での労災認定は知る限りで前例がなく、画期的だ」と評価した。男性は「外資系だから仕方がないという認識を変えるいい機会になれば」と話した。
 男性は1989年に同社に入社し、営業企画担当の部長だった2004年8月、人事総務部長から呼び出され面談をした際に突然、退職を要求された。
 その後も退職を強要され続け、男性は拒否したが、同年10月の6度目の面談で、部長から主任への降格と、川崎市内の取引先の倉庫内への配転を命じられた。
 倉庫では運動靴の数量検査などの単純作業をさせられ、一千万円あった年収は六百万円まで減らされたという。
 男性は05年2月にうつ病を発症し、現在は休職中。今年5月に労災を申請していた。
 リーボックジャパンは「労災の認定については承知していないので、何もコメントできない」としている。
(平成18年12月9日付日本経済新聞朝刊から)

追加情報として朝日新聞の記事の一部も引用しましょう。

…8日記者会見した代理人の穂積匡史弁護士は「長時間労働ではなく退職強要によるストレスで労災が認められるのは異例。社員を追いつめて自ら退職させるようなやり方は許されない」と話した。
 穂積弁護士によると、男性は01年から本社の営業企画部長だったが、04年8月、組織改編で部がなくなるとして人事総務部長から「あなたの仕事がなくなった」と退職を促された。その後も6度の面談で退職を迫られたが、承諾しなかったところ、翌年1月に京浜工業地帯にある取引先の倉庫への配転を命じられた。
 部長から主任に3段階降格され、基本給は40%カット。暗くひと気のない倉庫で、積み上げられた商品の数を数えたり靴の左右をチェックしたりする単調な作業を毎日7時間半させられた。入荷の際以外は人と話すこともなく、2月にうつ病を発症。自殺願望が募るようになり、6月から仕事を休んで療養している。
(平成18年12月9日付朝日新聞朝刊から)

ふーむ、余談ですがさすが朝日新聞さんの記者は筆が立つというか、文学的な書きぶりですねぇ。それに較べると日経新聞の記事は冷静で、さすがは経済紙です(と珍しく持ち上げてみる)。
余談ついでにもうひとつ余談をいえば、正社員で労働時間は1日7時間半、おそらく残業はなしで、商品在庫のカウントや商品チェックなどの軽作業中心の、ほとんど人と話さなくてもいい仕事で年収600万円といえば、ぜひ自分と換わってほしい、と思うフリーターがたくさんいるのではないでしょうか。いやこれもまったくの余談ですが。
余談はさておき、「ポストがなくなったからクビ」というのはいかにも米国流ですが、労働市場というのはいたってローカルなものなので、郷に入ったら郷に従っていただかなければなりません。1年前に敏腕を売り込んで営業企画部長として採用された人が、使ってみたら期待はずれだったから解雇する、というのであれば、外資系に幹部として中途入社する以上は当然覚悟しておくべきリスクではないかと思いますが、この人の場合は16年以上勤続しており、営業企画部長も3年近く務めているわけですから、いきなりクビはさすがに論外というべきでしょう。まあ、業績の状況とか組織変更の必要性、当事者の能力や仕事ぶりなどがわからないのでなんともいえない部分は大きいのですが。
そういう意味では、降格、賃金引き下げについては、どうしても他にこの人にやってもらう仕事がなかったのでやむを得ない、という状況だったのかもしれませんが、記事を見るかぎり退職を拒んだことに対する報復的なものであるように思われ、だとすると配転も人事権の濫用として無効とされる可能性が高そうです。