働き方改革実行計画(1)

ということですったもんだのあげくに28日の働き方改革実現会議で「働き方改革実行計画」がめでたく決定されたようです。まずはご同慶です。
働き方改革実行計画(案)
当初からこんなもんこの短期間に全部やりきれるわけないだろうと懸念していたところ案の定であり、前半戦は同一労働同一賃金をめぐる不毛な議論で費やされ、後半戦は例の電通第二事件が起きたこともありほぼ長時間労働、特に上限規制の話に終始して、他の案件は一応はテーマアップして、まあひとことかふたことは話が出たという程度に終わったという印象です。
ところがこの実行計画を見てみると案外たいして議論してない部分で興味深い記載があるので、そのあたりを中心に少しコメントしてみたいと思います。
ということなので前半はやはり不出来であり、各論に入る前の総論部分である「1.働く人の視点に立った働き方改革の意義」は、まあ労働も人事もあまりよくわかってない人が書いたなという感じです。一点だけ言えば老若男女一人残らず意欲と生産性高く働けばいいってもんじゃねえんだよというところでしょうかねえ。
もう一つ気になるのは今後の進め方ですが、「コンセンサスに基づくスピードと実行」を主張しているのですが、続けて「ロードマップに基づく長期的かつ継続的な取組」「フォローアップと施策の見直し」となっていて、後の方にくっついている工程表のスケジュールを見ても、たとえば同一労働同一賃金については2017年度中には「実行計画に基づき関連法案を国会に提出」となってはいるものの、それ以降は2027年度以降まで「施行準備・改正法の施行・施行後5年を経過した後適当な時期において、見直しを行う」となっているのみなので、まあ2017年度中になんとか振り上げたこぶしを下ろして、あとは十分な周知期間、準備期間、移行期間を取って漸進的に進められるようにはなっています。本文ではいたく権威主義的に労政審は言うことを聞け(意訳)と書いているのですが、まあ労政審は上手にやってくれるものと思います。労政審会長の樋口美雄先生も提出資料の中で「労働界、産業界等はこれを尊重し、本実行計画を前提にスピード感を持って審議を行うよう、自分としても労働政策審議会会長として努めていきたい。」と書いておられますが、やはりうまく舵取りしていただけるでしょう。つかこの資料8行しかないものをわざわざ提出しているわけで見るからに書かされたんだろうなあという感じがあからさまにこらこらこら。いずれにしても、やるにしても十分に時間をかける、具体的には以前から書いているように「5年無期転換」で、同一労働同一賃金ベンチマークになるジョブ型のスローキャリアな無期雇用が増えて定着するのを待ちながら進めるということです。
あと「特に、国民一人ひとりの経済活動・社会生活に強い影響力がある企業には、積極的な取組が期待される」という記載も興味深く、要するに大企業が頑張れということですね(特に電通が念頭にあるのかも知らん)。まあ後の方を読んでも結局のところ(これは以前も書きましたが)大企業の非正規に賞与を支給させたいとか、大企業に下請けの利益を保証させて中小の賃上げをしたいとかいう発想が強い(一概に悪いというつもりもありませんが)とは言えそうです。
続く同一労働同一賃金の話は、まあ最初から筋が悪いので相変わらずどうしようもないなという感じです。特に派遣労働に関する部分のジタバタぶりはもはや見苦しいという域で、まあ仕方ないというのもわかるので上手に収拾してほしいものだと思います。
ここで興味深いのは本文中では完全にスルーする一方で後ろの工程表の方ではこんな記述をもぐりこませていることで、

(国家公務員の非常勤職員の処遇改善)
・2017年度から新たにハローワークを含む都道府県労働局の非常勤職員に対する期末手当の支給を開始する。引き続き、国家公務員の非常勤職員に関する実態調査や民間における同一労働同一賃金の実現に向けた取組も踏まえながら、非常勤職員の処遇について検討を進める。
(地方公務員の非常勤職員の任用・処遇改善)
・非常勤職員制度を整備し、任用・服務の適正化と期末手当を支給可能とすることを一体的に進めるため所要の法改正を図る。また、新たな制度に基づき、民間における動向や、国家公務員に係る制度・運用の状況等を踏まえ、また、厳しい地方財政の状況にも留意しつつ、各地方公共団体における適正な任用・勤務条件の確保を推進する。

これは要するに非常勤公務員にも期末手当(賞与)を出しますということでしょう。時と場合によっては民間準拠はどうしたという話かもしれませんが、まあ今回は官自ら率先して民間に範を垂れるということいいんじゃないでしょうか。一応「いや民間もやるはずなんだから」ということでしょうし。正直なところデフレ脱却とか消費活性化という側面から考えれば民間が賃金を上げようとしないなら公務員だけでもあげればいいじゃねえか(暴論)とも思わなくもないし。地方経済では公務員の購買力がばかにならない地域というのも多いのではないかと思う。なお賞与以外の部分での常勤/非常勤公務員の同一労働同一賃金はどうするつもりでしょうかね。たぶんあまり考えてないんだろうな。
次の「3.賃金引上げと労働生産性向上」は最賃引き上げと賃上げの話なのですが「生産性向上に資する人事評価制度や賃金制度を整備し、生産性向上と賃上げを実現した企業への助成制度を創設」ってすでに実現したなら助成の必要はないだろう。どういう制度にするつもりかしらん。表彰制度とかならわかるんですけどねえ。
そして「4.罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」ということになるわけですが、早々に「「自分の若いころは、安月給で無定量・無際限に働いたものだ。」と考える方も多数いるかもしれないが、かつての「モーレツ社員」という考え方自体が否定される日本にしていく」とかいう記述が出てきて激しく脱力する。それ自体は別に悪いわけでもないのですが(というかそれが望ましいしすでに相当程度そうなっているとも思うわけですが)、しかし「若いころは、安月給で無定量・無際限に働いた」から、中高年になってからはそれに相応した処遇を受けるというのが長期雇用慣行における年功的賃金なわけですよ。だから「無定量・無際限に働」くわけではない人と、同じような仕事をしているから同一労働同一賃金だ、という話には金輪際ならないわけで、つまり前段の同一労働同一賃金ガイドラインのかなりの部分を自ら骨抜きにしてしまっているわけです。いや骨抜きでいいんだが。逆にこれに影響されない部分はそれなりに使えるという話でもあります。
なおこれに関連して、例の時間外労働と休日労働の話について、水町勇一郎先生が提出資料で解説を書いておられるのも目を引きます(2.労働時間の上限規制と休日労働の関係について )。以前も書きましたが実務担当者には常識に類する話なのですが。
さてこれ以降も興味深い記述があるのですが、今日のところは時間切れで後日に回したいと思います。