「ジャーナリストの政策論」フォロー

先月、「ジャーナリストの政策論」http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170224)というタイトルで第8回働き方改革実現会議に提出された白河桃子議員の資料についてコメントしたのですが、その中で「白河氏が引用元に上げた井上伸氏という方は国公労連の関係者らしい」と書いたところ、読者の方から「国交労連ではなく国公一般ではないか」とのご指摘をいただきました。
当該部分を再掲します。

 …なにかというと白河桃子議員提出のこの資料です。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/siryou4.pdf
 いや内容的にはけっこう大切なことを多く含んでいるとは思うのです。思うのですが、問題はそれをこうした政策を議論する場に持ち込むときの資料としてどうなのかということです。逐次見ていきましょう。
 氏はまず教員の長時間労働問題を取り上げられ、これは多方面で問題視され関心を集めている時宜にかなう問題提起だと思うのですが、その根拠として、資料5ページ(なぜか右下のナンバリングは11になっているのですが、前ページが4で後ページが6なので5ページということではないかと思う)の見出しで「昨年度までの10年間に死亡した46人の新人教師の死因を調べたところ、20人が自殺(2016年12月23日 NHK報道)」と大々的に主張されるわけです。
 もちろんこれは事実ではありますが、「46人の新人教師の死因を調べたところ、20人が自殺」ということで43.5%が自殺で死亡しているわけですが、平成19年から毎年発表されている『自殺対策白書』に記載されている20〜24歳の死因を見ると、最も古い平成19年版に掲載されている平成18年のデータでは自殺が43.9%、最新の平成28年版に掲載されている平成26年のデータでは自殺が50.8%となっていていずれも他の死因をしのいで最多になっています。つまり教員だけが特に自殺が多いといえるかどうかはやや疑わしく、たとえば公務員の正規職員で就職した人にしては明らかに高いとか、そういう検証が必要でしょう。いやもちろんこれはNHK報道の引用なので一義的にはNHKの問題であり、きちんと検証されているというのであれば失礼をお詫びしますが、こういう場にこうした資料を無批判に提出するのはどうかと思います。同じページの下半分の資料は文科省の資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/088/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2012/02/24/1316629_001.pdf)を孫引きしたものらしく、やはり一義的には文科省の問題ですが、精神疾患の患者数の伸び率と教員の精神疾患による病気休職者の伸び率を比較するのもどれほど意味があるのかという気はします。つか調べれば簡単に元ネタに到達できる資料をわざわざ孫引きするのってどうよ。白河氏が引用元に上げた井上伸氏という方は国公労連の関係者らしいのですがあるいはそれに意味があるのかしら。
「ジャーナリストの政策論」http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170224

上記「国交労連」が正しくは「国公一般」だということで、まさに私の単なる誤りであり、さっそくエントリにその旨を追記して井上氏はじめ関係者のみなさまにお詫びをしたわけですが、それにあたって件の資料を再確認したところ、なんと当該ページがそっくり削除されていることを発見しました。ほへー
現時点で官邸のウェブサイトに掲載されている資料はこちらです。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/siryou4.pdf
私が当該エントリを書いた際に参照した資料は、Googleのキャッシュに残っていました。
http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:D9-o-zz1lwoJ:www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/siryou4.pdf+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp
これもそのうち消えてしまうでしょうから、Gyazoスクリーンショットを記録したのがこちらです。
https://gyazo.com/97436800283abd2fd9fd90acc618183b
キャッシュなので図が飛んでしまっていますが、アドレス(http://editor.fem.jp/blog/?p=1078)が記載されているのを読み取ることができ、その引用元(井上伸氏のブログ)はまだ見ることができます。その元ネタである文科省の資料もまだ見ることができますね。為念井上氏のブログのスクリーンショットも貼っておきます。
https://gyazo.com/8281a33a0c01a7c5c53273b9f4272666
率直に申し上げてこのページがなくてもそれなりに話は通じますので、問題があるということであれば削除するのはよろしいのではないでしょうか。善意の原則に則って事務局(ウェブサイト管理者)が誤った資料を掲載してしまったのだと解釈しておきます。
でまあこれを見るとその後はどうなっているのだろうと気になって確認してみたところ、私のエントリhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170224)の次の記載に関して、

 少し飛んで8ページ(ナンバリングはありませんが7と9の間)では「イギリス「教員がやるべきでない仕事」1998年」という見出しでその内容が列挙されているのですが、…
…このページにはさらに疑問があり、「日本の教員がこれを読んで「自分の業務の8割だ」と落胆」したと主張しているのですね。困ったことにこれはこの資料内で自己撞着を起こしており、資料4ページには日本の教師の週労働時間は平均53.9時間との記載があり、6ページには日本の教員が授業に費やす時間は平均17.7時間との記載があるわけですね。もちろん統計が違うので限界は大きいですが大雑把な概況をつかむことはできると思われ、17.7/52.9≒33%というのが、まあ教員の労働時間全体に占める授業時間の平均的な割合に近いと思っていいと思います。となると、「自分の業務の8割」というのは、もちろんそういう人がいたのだろうと思いますが平均とはかけ離れており、そういう人がいることをもって政策を論じるというのもあまり説得力がないように思います。つか英国のリストをみても授業そのものとその準備、教育や教授法に関する調査研究といったものは教員のやるべき仕事の範疇とされていると思われ、それらが2割を切っている教員というのは、授業を持たない校長先生副校長先生くらいではないかという気もするのですが(まあこれは気がするだけです)。いや「数だけではなく役割分担が大事」という指摘は重要だと思うのですよ。思うからこういうずさんな根拠づけは残念だなあと思うわけで。
「ジャーナリストの政策論」http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170224

私がここで「「日本の教員がこれを読んで「自分の業務の8割だ」と落胆」と引用した部分について、現時点で掲載されている資料(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/siryou4.pdf)では「「自分はこの8割をやっている」と落胆」となっているのですね。しかしやはりGoogleのキャッシュをみると、やはり私が当該エントリを書いた際には間違いなく「自分の業務の8割だ」となっていたようです。やはりスクリーンショットを貼っておきます。
https://gyazo.com/2b559bf84b17847c0b227f54f4527de8
ちなみにこれに関してはごていねいにも実現会議の議事要録http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai8/gijiroku.pdf)においても白河氏は「特に教師については、英国で決められた教師がするべきでない仕事の8割を、日本では教師が担っています」と発言されたとなっています。ということで、やはり私は善意の原則に則って、私がエントリ作成当時に参照したのは事務局が誤って上げたものであり、実現会議当日には現在掲載されている資料が提出され、議事要録にあるように発言がされたのだと解釈しておきます。繰り返しになりますが誤りが正されるのは広く国民の正確な理解に資することであってたいへんにけっこうなことと思います。
とはいえ、何もしないと私の当該エントリが意味の解らない・誤った理解のもとに書かれたもののように読めてしまいますので、それもかなわんなということで解説のエントリを書かせていただきました(だから日記タグにした)。ただまああれだな、私の中では白河氏はそのような不運に見舞われる方だという位置付けにはなりましたね。やれやれ。