職場の回覧で週刊東洋経済が回ってきたところ副業が大々的に特集されている件(笑)。ということで前回のエントリのフォローです。先日は「働き方改革で副業拡大」について法制度面からいろいろ難しい問題があるんだけど解って言ってるのかねという観点からあれこれ書いたところ、読者の方から「長時間労働の是正と副業の拡大ってなんか矛盾しませんか?」というおたずねを頂戴しました。
なるほど、前回ご紹介したロート製薬の例をみても明確に「条件は、本業に支障をきたさないもの。(就業時間外・休日のみ可能)」となっていたわけですから、副業をやるためにこれまでやってきた残業や休日出勤をやりませんという話はあり得るとしても、しかし働く時間はかなり増えるだろうと思われます(ちなみに週刊東洋経済で紹介されている例をみても平日は企業で普通に働いて休日に副業していますという感じのものが多く、働く時間は相当長い印象を受けます)。一企業での長時間労働はいけないけれど副業なら長時間労働していいというのはたしかに一貫していないように見えます。
おそらく、ロート製薬さんがそうかは別問題として、少なくとも「働き方改革」においては「本業に支障のない範囲」という建前とは別に「本業に支障が出たら出たでかまいません」という本音があるのではないかというのが私の推測です。
前回ご紹介した朝日新聞の記事にも「「働き方改革」を掲げ、柔軟な働き方への移行を目指す政府内には、一つの企業に定年まで勤める終身雇用を背景に「大企業が優秀な人材を抱え込みすぎだ」との見方が強い」という記述があります。これはそのとおりで、長期雇用の今日における最大の問題点のひとつは人材育成の効率が良すぎて必要以上に人材を育成してしまうという点であり、結果として高い能力を持ちながらそれを発揮する機会のない人というのが相当数いること(そしてその活性化に各社苦心していること)は事実でしょう。これは中高年が中心でしょうが、決して中高年だけの問題ではありません。かなり若い世代でも、企業組織が拡大しない中で、成長につながるような仕事を得る機会は限られるようになってきているように思われます。
とはいえ、わが国では転職にともなって賃金が下がることが多いわけで、とりわけ中高年には転職や起業のリスクはとりにくいものと思われます。そこで、リスクを極力抑制しつつ社外での能力活用をはかる方法として副業・兼業が使えるのではないか…という発想ではなかろうかと思うわけです。冒頭ご紹介した東洋経済の特集には正社員から週3日の契約社員に変わって、残る4日で副業していますという人が紹介されていますが(この人自身は中高年という年齢ではなさそうですが)、いま十分活用しきれていない人材がそういう方向に向かってくれるのは企業にとっても悪い話ではないし、社会にとっては活用されていなかった能力が活用されるわけですからメリットがあります。東洋経済によれば「労働力不足の解消策として…実現可能性が高いのは高齢者の就労促進、そしてより高い生産性を働き盛り世代に発揮してもらうことだ。政府が勤労世代の副業に関する議論を始めたのにも、社会全体の労働力を維持したいという観点がある」とのことだそうです。理想的には、そうした人たちが(基本的に企業内で育成されたそれなりに優秀な人たちですから)新興企業やベンチャー起業で活躍して経済を活性化する、というシナリオになるのでしょうが、もちろん、より若い世代でも、副業すれば成長につながる仕事ができる機会は増えるでしょう。ただまあこれは結局のところはたくさん働けば成長や活躍の機会が増えるというある意味当たり前の発想にとどまっているともいえるわけで、依然として長時間労働抑制との相性はよろしくないように思われますが…。
さて、そううまくいくでしょうか。副業奨励というからには副業してるから賃金を下げますとも言えないでしょうから、労働者の側から(東洋経済の事例のように)副業のために週4日とか1日6時間にしてくださいと言ってくるのを待つしかないでしょう。まあ、そういう場合には育児短時間勤務のように時間割で賃金を減額することは認める(副業短時間勤務制度とでも言うのか?)、そういう制度を導入することを奨励するといった政策は考えられるかもしれません。業務に支障のない限りは副業のみを理由とする不利益取扱いの禁止とかもあり得るのかな。まあ、いろいろ議論はされてもいいように思います。だからこんなん数か月でどうこうできるような話じゃないと何度言ったら(ry