同一労働同一賃金ガイドライン

ほほお来ましたか。

 同じ仕事なら非正規労働者にも正規労働者と同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の実現に向け、「不当な賃金格差」の事例を示すために政府が年内にもまとめるガイドラインの概要が判明した。通勤手当や病気による休業、社内食堂の利用などは正規社員と同じ取り扱いを求める一方、職務内容に関連性が高い基本給などは、合理的な理由があれば差を認めるとしている。ただ、ガイドラインは法的根拠が乏しいため、どこまで実効性が担保されるかは不透明だ。
 政府は、パート労働法、労働契約法、労働者派遣法の3法を改正し、2019年度の施行を目指している。ガイドラインは法施行までの間、各企業への自主的な努力を促すために策定する。
 概要では、通勤手当や社内食堂の利用などは同じ職場で働く人にとって等しく必要なものとし、正規・非正規間で差を付けることを「不当」とした。…
 一方、基本給などは仕事の中身との関連性が強いため、経験や資格など合理的な理由があれば差を認める方向だ。退職金や企業年金などの取り扱いについては、勤続期間が同じであれば非正規に正規と同様の扱いを求めることも検討する。
…「ニッポン1億総活躍プラン」では、非正規労働者の賃金水準を正規の約6割から欧州並み(正規の8割程度)とすることを目指している。法改正には時間がかかるためガイドラインを策定するものの、現時点では法的な裏付けがないため、早期の実現は容易ではなさそうだ。【阿部亮介】

同一労働同一賃金ガイドラインの骨子
<合理的な理由があれば差を認める>
・職務内容に関連性が高い基本給
・勤続期間に応じた退職金、企業年金
<同様の取り扱いを求める>
通勤手当
・社内食堂の利用
・病気休業
毎日新聞ウェブサイトhttp://mainichi.jp/articles/20160615/k00/00m/040/138000c?fm=mnmから

前々から繰り返し書いているように労働条件はパッケージなので、こうやって細分化して個別に議論するのもなかなかうまくいかない印象はあるのですが、まあガイドラインを作らなければならないとなれば「パッケージです」ではすまないというのもわかる話です。
現実のガイドラインはさらに詳細なものなのだろうとは思いますが、とりあえず記事をもとに考えてみますと、「職務内容に関連性が高い基本給」は「合理的な理由があれば差を認める」となるようです。当然ながらこれは何をもって「合理的な理由がある」ことになるかによるわけですが、従来どおり期待役割や想定キャリアの相違が考慮されるのであれば大きな混乱は避けられそうです。これも何度も書いてありますが、非正規雇用労働者の処遇を改善したいのであれば(それは望ましいことだと私は思いますが)、労働需要に応じた職業訓練とか、より直接的には最低賃金の引き上げとか、さらにはそれらのための環境整備などによるべきであって、同一労働同一賃金の理屈を利用するのは筋が悪いということであり、ここで「手ぬるい」などと批判してもあまり建設的ではなかろうと思います。
「勤続期間に応じた退職金、企業年金」というのはさらにそうした性格が強く、いずれも現行の人事管理においては多分に長期勤続奨励・報償型の制度になっているのではないでしょうか(もちろんこれらはいっぽうで企業による強制積立という性格も持っていて賃金の一部でもあるわけですが)。したがって非正規雇用であっても企業が一定の勤続(1年とか3年とか)を期待しているケースでは、年金はともかく退職金類似の制度を持っている例が多いことは以前も紹介しました。いずれにしても非正規であっても退職時になんらかの給付があることは望ましいので、勤続に応じた退職金制度は企業としてもおおいに考慮されていいのではないかと思います(もちろん強制貯蓄としての意味も持ちますので月々の賃金は相応に減少することになるでしょうが)。企業年金については、現実には退職金の一部を年金として支給するという形をとる企業が多いと思われますので、勤続がそれほど長くならない有期契約労働者については退職金が年金化するほどの金額になることは考えにくいでしょう。長期にわたって勤続するパートタイマーなどをどうするかは、退職金とあわせて上手に制度設計する必要がありそうです。
通勤手当、食堂の利用、病気休業などについては正規非正規を問わず同一にするということのようで、これって同一労働同一賃金だよねえなどと思うわけですが戯言はさておき、通勤手当については当面は非正規雇用の採用は近距離からにとどめるという対応になりそうで、これは一応通勤時間の短い仕事を望むという非正規雇用の多くの要請とも一致するものではあろうと思います。遠距離からしか人手が確保できないというのであれば、つまるところ通勤費を支給するか、しないのであれば時給を上げるかするしかないわけで、案外実務にはそれほど大きな影響はないのかもしれません。ただこれは以前も書いたように通勤手当そのものの見直しの契機になる可能性はあります。そもそも居宅をどこに構えるかは通勤時間をはじめ通勤のコストと、価格や環境など住宅のコストとを勘案して判断するわけですから、そこで企業が遠距離通勤への補助金を出すのがいいのかどうかは議論がありそうです。ワークライフバランスが重視される昨今通勤時間のコストは上昇しているはずで、少なくとも持家居住の人に対する長時間通勤奨励的な通勤手当は廃止し、転勤など会社都合によって通勤経路が変わった場合のみ補助するという方向性かもしれません。
従業員食堂については利用まで認めている例は少ないように思いますが、採算度外視の価格設定になっている(事実上の補助が発生している)例は少なくないように思われます。まあ「社員食堂の利用」ということであれば、利用が認められれば価格差までは問わないということのように思われますが…。
病気休業というのは、年次有給休暇とは別に有休の、あるいは無給でもそれ以上の不利のない病気休業の制度を持っている企業も多いので、それも同様に、ということでしょうか。ここで問題になるのは時間比例的にできるかどうかでしょうが、さすがに週2日勤務の人も週5日の人と同じ年間10日、というのも変な話なので、これは時間比例ないし日数比例ということになるように思います。
まだ情報量が限られているので何とも言えないところが多いのですが、細かい技術的なところをていねいにつぶして明らかにしておかないと紛争も増えるでしょうし実務家も困るわけで、そのあたりは労使が加わる審議会プロセスでしっかり議論されることを期待したいと思います。