混迷深まる同一労働同一賃金(続)

昨日の続きでさる2月23日に開催された第5回一億総活躍国民会議の資料を同一労働同一賃金の観点を中心にみていきたいと思います。

増田寛也議員提出資料

同一労働同一賃金関係の資料はあと3つ残っており、最初は元岩手県知事・元総務相増田寛也議員提出資料になります。増田議員のここでのタイトルは東京大学公共政策院教授客員教授となっておりますな。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai5/siryou6.pdf
さて増田議員のキャリアから考えてここで期待されている役割は「地方」関連だろうと思ったのですが、資料をみるとこの日のアジェンダである「非正規雇用労働者の待遇改善、高齢者の就業促進、若者の就業促進、障害や難病のある方の就業促進について」のそれぞれに触れられたようです。以下見ていきましょう。

1.非正規雇用労働者の待遇改善(同一労働同一賃金を含む)
○2015年度、最低賃金は全国平均で18円引き上げられ798円となったが不十分。1000円を目指し、継続的に引き上げていく。
○正規・非正規の処遇格差では、賃金格差の是正も重要だが退職給付制度(一時金、企業年金)の有無が大きい。非正規への導入促進をはかりつつ、雇用の流動化も踏まえたポータブル化を促進する。

「(同一労働同一賃金を含む)」と書かれてはいますが資料では直接の言及はありません(何度も言いますが席上口頭では言及があったことと思いますが)。
まずは最低賃金の引き上げが出てきましたが、私も非正規雇用労働者の処遇の引き上げを意図するのであれば、少なくとも同一労働同一賃金原則を使うよりは最低賃金引き上げのほうがはるかに筋はいいと思います。とりわけ、現状では全体的には非正規雇用の需給が逼迫している状況にあり、時給も上昇していますので、それに歩調を合わせて最低賃金を引き上げていくのは政策プロセスとしても理にかなっていると思います。もちろん最低賃金はその性質上いったん引き上げると下げることはなかなか難しいことには慎重に配慮すべきなのですが、非正規の処遇改善が政策的課題となっている現状ではあまり慎重になりすぎる必要はないものと思います。最低賃金引き上げは救貧政策としてはあまりたちがよくないということは繰り返し書いてきましたが(その点白河議員がシングルマザーの生活困窮対策として最低賃金引き上げを資料に書かなかったのは立派なものだと思います)、今回は配偶者や世帯全体の所得状況にかかわらず非正規の処遇を改善したいということでしょうから、そこの問題はないことになります。「1,000円をめざし」については、基本的には労働市場の需給や現実の時給の動向をふまえて検討すべきものであって固定的な金額目標を置くものではないとは思いますが、「1,000円まで引き上げられるよう適切な経済・金融政策を講じる」という意味であると受け止めたいと思います。
退職給付制度については重要な指摘であり、労働条件はパッケージであって賃金のみを単独で見るだけでは不十分というのはご指摘のとおりと思います。
まず退職金については、これを非正規にも導入すべきという考え方は有力だろうと思います。ただし悩ましいのは退職金というのは基本的には賃金の後払いであり強制貯蓄でもあるというところで、そう考えるとこれを導入することで月々の賃金、時給が減少することは当然受け入れられなければならず、最低賃金が引き上がる中ではなかなか容易ではないと申せましょう(さすがに支払の確定していない退職金まで含めて最低賃金を上回ればよいとはできないでしょう)。ただ、退職金制度は多分に長期勤続奨励の性格があることを考えると非正規雇用労働者への拡大にはハードルが高く、ここで普及に向けて重要だと思われるのが雇止め法理との関係ではないかと思います。一定水準以上の退職金を支給した場合には疑問の余地なく雇止めが成立するといったセーフ・ハーバー・ルール的な制度を導入することが効果的なのではないかと思うわけです。考えようによっては一種の金銭解決になるので労働サイドには抵抗感があるかもしれませんが、現場の労使にはwin-winになりうるしくみではないかと思います。なお退職金は退職の都度支払われるというのが自然かつ当然だろうと思いますので、これをポータブル化して複数勤務先で通算するのはさすがに無理ではないかと思います。
企業年金については、非正規雇用労働者についても企業型DCにおける事業主拠出や厚生年金基金の加算適用の対象者とするかどうか、という話になるのでしょうか。これらについても退職金と同様(というか企業年金は多分に退職金でもあるわけで)、実務上は賃金とのトレードオフは避けられないという問題はあるでしょう。また長期勤続奨励の意味は退職金制度と同等以上に強いものと思われますし、加算適用については厚生年金の被保険者全員を対象とすることが望ましいとは私も思いますが勤続の長くない非正規雇用労働者にとっては金額的にさほどのものともならないことが想定されますので、実際問題としてはあまり現実的でないような気がします。やるならむしろ個人型DCを強化するといった方向ではないでしょうか(私に具体的なアイデアがあるわけでもないのですが)。
続けて高年齢者の雇用促進策が提案されます。

2.高齢者の雇用促進
○定年後も一律に企業に縛り付けるのではなく、個人の志向に合わせて多様なキャリアを選択できるようにする。
○特に地方は質・量ともに人材が不足しており、高齢者が活躍できる余地は大きい。高齢者が地方にUターン、Iターンすることで大都市における若者との職の奪い合いも回避できる。農業であれば健康年齢を伸ばす効果も期待できる。

これはまさしく地方の観点からの主張で、基本的には大いに賛同できるものです。ここで期待されているのは知識や技能を蓄積した高年齢者が地方で活躍するということであり、まあ下世話な邪推で申し訳ありませんが実勢として定年後であれば非正規雇用で賃金も低くてすむというのも大きな利点なのでしょう。上で非正規雇用の処遇改善を求めているわけなのでそれでいいのかという気もしなくはありませんが、まあそれとこれとは別の話ということでしょう。
具体的な制度設計は難しいところもありそうですが、現在グループ会社等に限定されている継続雇用先の要件について、地方での継続雇用を促進するような形で拡大するという考え方はありそうです。たとえば定年時の雇用主が一部負担するなどして定年時と同等程度の賃金を保証する、移転が困難な地方は認めないなど、労働者の保護に欠けないような条件を満足すれば、グループ会社等でない地方企業についても継続雇用先として認めるとともに、移転費用や移転先の住宅などについては国が支援する、といった枠組みです。企業としても継続雇用先の範囲が拡大するメリットがあるのでその分継続雇用後の賃金の一部負担も可能でしょうし、受け入れに意欲のある自治体が別途の追加的な支援策を講じることも期待できそうなので、十分検討に値する提案のように思われます。
最後は若者の就業促進、障害や難病のある方の就業促進です。

3.若者の就業促進、障害や難病のある方の就業促進
インターンシップ制度の見直し。日本の場合、短期無給が多いが、欧米では長期有給が主流。グーグルやフェイスブックではインターンの月給が50万円以上と言われている。学生が実践的な知識やスキルを身に着けるしくみとして機能している。
ワーキングプア解消に向けて若者無業者、フリーターの就労・就学支援を強化する。子どもの貧困率が20年間で2.6倍に悪化という研究(戸室健作・山形大准教授)も発表されているが、不登校になると就職も困難になる。これを未然に防ぐよう教育現場において支援を行う。
○障害や難病のある方の就業促進はIT活用が鍵。デザインなどの仕事は、対面で業務を行わなくても可能。クラウド上で働くことで、障害者であることを知られずに就労することもできる。健常者と対等の収入も見込める。

インターンシップ制度の見直しは検討課題だろうとは思いますが、米Googleや米Facebookインターンシップを担ぎ出すのはここでの若者の就業促進というテーマからは浮いてるんじゃないかなあ。たしかに米Googleや米Facebookインターンシップは長期間かつそれなりの金額の報酬をともなうわけですが、どんな人がインターンをしているかというとたとえばアイビーリーグのMBAホルダで他社でのマネージャー経験もありますとかいったまあ稀少なエリートであって、そういう人たちを取り込む(そして取り込まれた後はインターン時のさらに数倍のサラリーを払う)ためのインターンシップなわけですね。Googleは日本法人でも同様なインターンシップを実施しているらしく、その対象者は当然日米の相違を反映して米国とは異なるだろうとは思いますが、いずれにしても就業促進のための政策的支援の対象者ではなかろうとも思います。
若者無業者、フリーターの就労・就学支援についてはもっともな話で、ここではそれ以上の具体的な政策提案はない(当日は口頭で補足されているのだろうと思いますが)のでこれ以上のコメントもありません。障害や難病のある方の就業促進にはIT活用が重要だという指摘もそのとおりと思います。これも資料では具体的な政策提案はないのですが、たしかに身体的ハンディキャップの影響を受けにくい職業ではあり(もちろん人によって多様ですが)、そうした困難を有する方がITスキルを学ぶための機会や費用を助成するといったことになるのでしょうか。

樋口美雄議員提出資料

樋口先生はまさに労働の専門家かつ経済学の専門家という役回り、というか今後これを投げられるであろう労政審会長という要職にあられるわけなのでまさに当事者の重要な一角を占めておられるわけです。ということで以下労政審会長を連呼してうるさかろうと思いますがお詫び申し上げます。資料はA4版1枚の非常にシンプルなものなので少々コメントしにくいのですが、順次見ていきたいと思います。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai5/siryou7.pdf
上半分は同一労働同一賃金に関するものです。

同一労働同一賃金の実現>
○ 正規労働者と非正規労働者の処遇の格差を是正するために、日本の雇用慣行を踏まえて、「同一労働同一賃金」について検討。
○ 欧州も、一般的には「同一労働同一賃金」「均等待遇」と言われているが、賃金差を正当化する客観的な理由が認められている。欧州の事例などを参考に、どういうものが合理的か、どういうものが不合理なのか、ガイドラインなどで明確にする。
○ 欧州の事例の収集を行い、専門的、法的な論点を整理するため、法律家などの専門家による検討の場を設ける。

ということでまあほぼ水町先生と同じです。当日もここについては水町先生の述べられてとおりということで相当程度スキップされたのではないかという気がします。まあさきのエントリでも縷々書いたように「日本の雇用慣行を踏まえ」るほどに「処遇の格差」の縮小は限定的なものにならざるを得ないので非正規の処遇改善のために同一労働同一賃金を使うのは筋が悪いわけですが、しかし官邸から決定事項として非正規の処遇改善のために同一労働同一賃金を使いたいんだけど何か言えと言われたら労働の専門家としてはこんなことでも言うよりないんだよという話なのかもしれません。
そこでまあ樋口先生は「法律家などの専門家による検討の場を設ける」と書いておられて、労政審に投げる前に専門家による研究会をやれと主張しておられるわけですね。これは非常にもっともな指摘で、「どういうものが合理的か、どういうものが不合理なのか、ガイドラインなどで明確にする」というのは簡単としても実際の作業は膨大なものになるはずで、それこそ水町先生がいくつか挙げられていましたが、それ以外にもさまざまな要素があり、しかも多くの個別案件はそれらが複合的に関係しているわけですから、さまざまなケースを想定した上でそれぞれに「これは合理的、これは不合理」というのをギリギリと検討する必要があり、およそ用意ならざる話です。そうなると専門家による論点整理なしに労政審に突入したら収拾がつかないだろうというのは労政審会長としては非常にもっともなご懸念であり、いや労政審会長でなくてももっともであって私もまずは法学者に限らず人事管理や労働経済の専門家なども交えてしっかりと検討していただき、その上で労使が参加する労政審で議論を尽くして結論を得る必要があろうと思います。そう考えるとどう考えても年単位の期間が必要なテーマでありましょう。まあ「ニッポン一億総活躍プラン」は5月には策定するという話のようですが、できれば「労政審で検討」くらいにとどめていただいてあまり具体的なことまでは書き込まないでほしいなあと思います。
さて下半分は高年齢者雇用と障害者雇用の話になります。

<高年齢者雇用>
○ 高年齢者雇用安定法において、65歳までの雇用確保措置が義務づけられているが、現実には、定年の廃止や定年の引き上げを行っている企業は2割足らずで、8割以上の企業は継続雇用制度を導入している。
○ 一方、60歳代前半の就業率は6割程度まで高まっていることから、次の対応として、65歳までの定年引き上げや65歳以降の雇用継続を行う企業を支援し、実態を変えていくことによって、将来的に定年を引き上げる環境整備を図るべき。
○ 高年齢者雇用安定法改正案に、地域において高年齢者の雇用就業機会の確保・提供を図るため、自治体と関係機関からなる協議会の設置等が定められることから、こうした協議会を活用して、様々なニーズに応じた就業機会の提供を図るべき。
障害者雇用
精神障害者が2018年より法定雇用率に算入されることを踏まえ、「障害者就業・生活支援センター」や「ジョブコーチ」の拡充を図るべき。

ということでまあ高年齢者雇用に関しては先般の建議のとおりということになるのでしょうが、建議であれだけ力が入っていたシルバー人材センターの話が入っていないのはやや意外の感があります(何度も書きますがもちろん口頭では触れられたものと思いますが)。65歳定年延長については2012年の高齢法改正で65歳継続雇用が義務化されてすでに5年を経過しており、安定的に運用されるようになってきたのであればそろそろ労組が数年後くらいをめざしたロードマップを作りましょうとかいった議論を持ち出してもいい時期なのかもしれません。その場でそれぞれの現場に適した配置や労働条件のあり方を労使が議論して決めていけばいいのだと思います。そうやって個別労使が協議しながら進めればそうそう変な話にもならなかろうと思うわけで、行政としても個別労使の取り組みを促すような支援こそが必要になるだろうと思います。樋口先生も「実態を変えていくことによって」と書かれていますが、実態を変えるのは草の根の個別企業労使であって、その取り組みが進展して大半の企業で65歳定年が実現したら法的な対応も考えるというのが(繰り返し書いていますが)望ましいプロセスだろうと思います。とりあえず今回の建議でも年金とか社会保障とかいうことは書かれていないのでそういう方向性なんだろうと思っておきます。

土居丈朗議員提出資料

同一労働同一賃金がらみでは土居先生の資料が最後になりますが、土居先生のこの会議での役回りはどういうものなのでしょうか。私の土居先生のイメージは財政の専門家というものなので、財務省あたりの推薦で入ってこられたのでしょうか。資料のほうは樋口先生と同じくA4版1枚でさらにシンプルな感じです。タイトルは「「同一労働同一賃金」に向けて必要な取組み」ということでもはや規定事項として考えておられるようですね。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/dai5/siryou8.pdf
ということで全文を一気に。

●現状の問題点
非正規雇用=有期雇用、正規雇用=無限定的な無期雇用という不幸
 無期雇用という雇用の安定性を得るには無限定的な働き方しかできない。あるいは、無限定的な働き方をしたくなければ、非正規雇用となり有期雇用で雇用の安定性が得られない。
 労働時間の選択など限定的な働き方が可能な無期雇用という雇用形態が一般的でない。
●現存する障害を取り除く着眼点
・合理的理由のない場合の差別的取扱いの禁止を運用厳格化
 合理的理由の立証責任は使用者が負担
  → 有期雇用か無期雇用かだけの理由で賃金差は生じなくなる
正規雇用の無限定性を緩和
 有期雇用か無期雇用かだけでの差がなくなることで、緩和を容易に。
 特に、労働時間の無限定性を緩和し、労働時間を限定した無期雇用という選択肢を積極活用。

  育児期介護期前 育児期介護期 育児期介護期後
現状 無限定的な無期雇用 退職あるいは有期雇用 有期雇用(無期雇用に戻りにくい)
改革後 無限定的な無期雇用 労働時間が限定的な無期雇用※ 無限定的あるいは限定的な無期雇用

※ 育児・介護休業(休暇)の併用を含む

まず「現状の問題点」に関しては「非正規雇用=有期雇用」って断言するけど期間の定めのない非正規が600万人もいるんだよねえ(これは工藤議員提出資料にもありましたね)600万人もいるのに「一般的でない」とか言い切れるのかしらとか思わなくもないですがまあ基本的な問題意識としてはまずまずそのとおりだと思います。
そこで「現存する障害を取り除く着眼点」ですが、方向性としては多様な正社員・限定正社員を志向するものであって興味深い提案ではないかと思います。
まず「有期雇用か無期雇用かだけの理由で賃金差は生じなくなる」というのは、「かだけの理由」なのでまあ雇用期間の有無以外に一切の違いがないのであれば賃金差を許さないという趣旨なのだろうと思いますしあり得る考え方だと思います。ただまあ、労契法改正(有期上限5年)もあって長期にわたって育成活用することを意図しているのであればわざわざ期間の定めをおく必要もないのも現実なので、まあ実務的には「ほかに一切の違いがない」などということはまずありえなかろうとは思いますが。
さてここからがこの資料のたいへんに不思議なところで、まあ何度も書きますが口頭での説明があったものとは思うのですが、資料をみるかぎりではこの後の具体策には「有期雇用か無期雇用かだけの理由で賃金差は生じなくなる」と直接関係ありそうな部分が一見見当たらないのです。
上記にもあるように、現状においては育児期介護期は退職あるいは有期雇用、育児期介護期後は有期雇用という整理がされているので「有期雇用か無期雇用か」という議論は大いに関係あるわけですが、土居先生の言われる改革後においては育児期介護期もその後も無期雇用なので、有期か無期かという議論が入り込む余地がありません。もちろん有期がなくなるわけではないわけですが、しかし上記のように無期の人が長期にわたる育成活用を意図されているのであれば「かだけ」以外に大いに理由があるわけですから、やはり土居先生のいわゆる「有期か無期かだけの」という議論はあてはまりません。
ということで一見見当たらないのですが、考えらえるのは土居先生が育児期介護期およびそれ以降の活用を考えておられる「労働時間の無限定性を緩和し、労働時間を限定した無期雇用」とは長期的な育成活用を意図しないものなのだ、と考えれば土居先生の所論を理解することはできそうです。それならたしかに、「有期か無期かだけ」の違いしかないということはあり得ます。実際、昨日も書いたように現状でも600万人いるとされる期間の定めのない非正規雇用の中には、仕事そのものはこの先ずっとあるだろうから期間の定めはないけれど、しかし同じ仕事をずっとやり続けていくという(主にパートタイマーが多いのではないかと思いますが)人もいるでしょう。この仕事よりずっと大事なことがあるから仕事ではあまり労力を費やしたくないという人も一定数いるのではないかと思います。
ただまあそれって究極のマミートラックだよねえとは思うところであり、それを主体的に選択したい人には可能な選択肢として提供してもいいとは思いますが、私としてはそれは結構ですねえぜひ大いに推進しましょうとは言いにくいものがあります。もちろん私も繰り返し書いているようにマミートラックの問題点はそれが女性に固定されるところにあり、男性も同様に活用しうるマミー・アンド・ダディ―トラックであれば多様なキャリアの一形態として評価すべきと思っています。ただし、それはやはり、比較的ゆっくりとしたものになることは当然としてもそれなりの技能の蓄積やキャリアの向上、労働条件の改善をともなう働き方であるべきだとも思っているわけで、そういうスローキャリアな働き方を拡大することは私は大いに推進すべきだと思います(まあいつもの話でそうそう簡単でもなさそうだとも思うわけですが。なお以下限定的な無期雇用は無限定的な無期雇用に較べて雇用保護の程度も異なってくるだろうなどの論点は省略)。
繰り返しになりますが、これはゆるやかではあっても長期にわたる育成と活用を意図した働き方ではあるので、やはり「有期と無期だけの」違いしかない、ということにはならないことも当然です。ただ、非正規雇用との比較という意味においては、無限定的な無期雇用にくらべればかなりベンチマークしやすい働き方でもあろうかと思うわけで、均衡処遇の考え方がなじみやすくなるという面はかなり大きいように思います。結局のところ、ここでも同一労働同一賃金ではなく均衡処遇の考え方のほうがずっと大切だということになるのですね。
ということで残る5人の提出資料は同一労働同一賃金には触れていないようですのでコメントも割愛させていただきます。全体を通じてみても、同一労働同一賃金についてぜひあれこれ言いたいという感じなのは水町先生だけであり(まあそのために呼ばれたわけですが)、議員の皆様の中では正面からコメントしているのも水町先生と樋口先生だけです。触れているのは工藤議員、白河議員、増田議員、土居議員と4人いらっしゃいますが、基本的にはご自身のおっしゃりたいことを言う中で一応言ってみましたというのが工藤議員と増田議員、自分の言いたいことの根拠として活用しようとしたけれどはかばかしくありませんでしたというのが白河議員と土居委員ということになるでしょうか。宮本議員は生計費を非常に重視しておられるのでかえって同一労働同一賃金とは言いにくかったのかもしれません。
5月には「ニッポン一億総活躍プラン」を取りまとめるというスケジュール感らしいのでこのテーマについてはこれ以上の議論はないのでしょう。まあ振り上げたこぶしは下ろさざるを得ないのでしょうが、それにしてもたとえば「非正規雇用労働者の処遇の改善にむけ、同一労働同一賃金について労働政策審議会などで議論を深める」くらいの記述にとどめていただいて、あとは労使の現実的な議論に委ねていただくようお願いしたいものです。