昨日、厚生労働省の「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」の第1回が開催されたようです。これがおそらく6月3日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20110603#p1)で取り上げた「社会保障改革に関する集中検討会議」の社会保障改革案の中にあった「非正規労働者の公正な待遇確保に横断的に取り組むための総合的ビジョンの策定」なのでしょう。毎日jpから。
厚生労働省は23日、有識者らでつくる「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」(座長・樋口美雄・慶応大商学部長)の初会合を開いた。非正規雇用に関しては、これまでパートや派遣など雇用形態ごとに対策を講じてきたが、正社員ではない働き手が増え続ける中、雇用の安定や処遇改善を共通の課題としてとらえ、対策を打ち出すことにした。年末をメドに対策を立てるのに必要な理念をまとめ、政策立案に生かす。
…いったん非正規労働者となると技術の習得が進まず、正社員になるのは難しい。10年の平均基準内賃金は、正社員・正職員が31万1500円なのに対し、それ以外は19万8100円。とりわけ15〜24歳層の非正規雇用が増えており、この層は生涯、待遇が悪いままとなる懸念がある。
非正規雇用労働者は、解雇や雇い止めで雇用調整の対象にされやすい▽時間あたりの賃金が安い▽職業訓練の機会が乏しい−−など共通課題も多い。懇談会では、委員から非正規雇用の問題点として「健康保険や厚生年金など国の制度は非正規労働者を雇用した方が(企業負担が少なく)企業に有利」「西欧と比べ日本では非正規から正規への転換が少ない」ことなどが指摘された。非正規雇用のあり方として「職業能力の開発の仕組みを議論すべきだ」との意見もあった。
http://mainichi.jp/select/biz/news/m20110624k0000m020048000c.html
さっそく、厚生労働省のウェブサイトに次第と資料が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ggjf.html
その中に「「非正規雇用ビジョン」(仮称)論点」という資料があって、この(仮称)というのはなんだろうと思ったところ「懇談会での議論により、ビジョンの名称を変更することも考えられる」との記載があり、さらに読み進めて行くと「ワーク・ライフ・バランスやディーセント・ワークの観点から、「典型的な正規労働者」と「非正規労働者」との中間に位置するような雇用形態をどのように位置付けるべきか。」と書いてあるではありませんか。
なるほど、非正規雇用というよりは、いわゆる中間形態、「多様な正社員」や5年超の有期労働契約などを議論しようというわけですね。
職種限定や勤務地限定など企業・業務への拘束度が低く、したがって雇用保障も典型的な正社員ほど高くない、いわゆる「スロー・キャリア」的な雇用就労形態の必要性については、このブログでもかねてから繰り返し書いていますし、雇用政策研究会報告でも言及されるなど問題意識は広く共有されていると言っていいでしょう。いや実はこの17日に開かれた労働条件分科会の「有期労働契約に係る検討の論点(契約期間中の処遇や雇用管理等関係)」という資料にも「意欲と能力のある有期契約労働者が不安定な地位のままで固定されないよう、正社員などより安定的かつ良質な雇用形態へ段階的に移行していけるような仕組みを構築していくべき」などと書かれていてほほおと思っていたのです。
その後に「雇用の安定性、処遇、職業キャリアの形成、セーフティネットといった観点から、どのような問題点や課題がみられるか」という論点もあげられていて、職業キャリアの形成が雇用の安定や処遇と並ぶ項目として取り上げられているのもまことに結構だと思います。できれば能力の向上もいれてほしかったかな。いずれにしても、何度も書いてますがキャリアが伸びて、能力が向上していけば雇用の安定も処遇の改善もおのずとついてくるわけで、非正規労働の問題の大半は端的にそのスタートであるキャリアの不在、労働条件分科会の資料にある「不安定な地位のままに固定される」ことによってキャリアも能力も伸びないところにあるわけです。現状では雇止め可能性を担保するために1年×3回での打ち切りをルールにしている例もありますが、これでは3年経ったら次の仕事、そこで3年経ったらまた次の仕事…という具合で不安定な地位のままに固定されてスキルが蓄積しません。5年×2回も1年×7回も可能になればそれだけ雇用は安定し、キャリアや能力も伸びやすくなるはずです。
資料はそのあとに「非正規雇用をめぐる問題への基本姿勢」として「価値観や生活様式が多様化し、企業が必要とする人材も多様化する中で、どのような働き方であっても、働くことが報われる社会、公正な見返りを得られるような社会を築くことが重要」と述べていますが、これも「多様化」が前面に出ていて好ましく感じます。あとは、賃金が高くないからすなわち報われていないとか、格差があるからすなわち公正でないといった短絡的な話にならないことを期待したいと思います。委員の顔ぶれをみれば大丈夫かなと思いますが。
記事にある「日本では非正規から正規への転換が少ない」との発言はキャリアを意識したものでしょうし、「職業能力の開発の仕組みを議論すべき」との発言も能力向上に着目している点ではいいと思います。能力開発の仕組みではなく、能力開発が行われるような雇用形態を議論する必要があるわけですが、これは記者の問題かもしれません。
たしかに、非正規労働の将来ビジョンを考えるのであれば、当然非正規労働以外の姿というのも大きく視野に入ってくるわけで、「非正規労働ビジョン」という名称にはならない、というのは考えてみれば当然かもしれません。それが「一律正社員化ビジョン」とか「基本原則は期間の定めのない直接雇用ビジョン」とかいったものではなく、「多様な雇用ビジョン」といった方向に進むことを大いに期待したいと思います。