労働政策研究会議(続2)

間があきましたが6月18日に開催された労働政策研究会議の感想です。午後は小杉礼子先生の司会、明治の永野仁先生、慶応の太田聰一先生、JILPTの堀有喜衣先生、明治学院の両角道代先生のパネルで「若年雇用をめぐる政策課題」が論じられました。
まず永野先生から明大のキャリア研究グループによる調査結果が紹介されました。大卒者に関する企業に対するアンケート調査で、2009年2〜3月というリーマン・ショック後の最悪期に行われているという特色があります。
結果をみると、新卒採用を行った企業が80%超、採用人数も平均25人と最多であり、やはり新卒が正社員採用の中心となっていますが、キャリア(中途)採用も75%で行われており、非正規からの正社員登用も42%で実施されています。時期を考えると、いずれもかなり高い数字のように思われます。
新卒のみ、新卒とキャリア、キャリアのみといった採用形態の組み合わせと企業の属性の関係をみると、「キャリアのみ」は売上高増加指数と、「新卒のみ」は正社員数と、新卒とキャリアは正社員数と売上高増加指数の両方と正で有意という納得のいく結果が出ています。
今後の採用に関する意見をみると、「今後も新卒中心」「キャリア採用は必要最小限」といった設問に肯定的な回答が多く、「不況でもできるだけ新卒採用は継続」「不況期こそ採用のチャンス」にも肯定的な回答が多くなっています。キャリア採用に積極的な回答はこれらに較べると大幅に少なくなっています。
最後に個別企業の17社のインタビュー調査の結果が紹介され、新卒は自社のカラーに染めやすいという「白い布採用」そのものの見解が複数紹介されているほか、「人を育てる環境や雰囲気が整ってこそ企業は成長できる」「新卒はある程度のの人数をコンスタントに採用していないと良い人材が採れない」「キャリア採用は業務を決めて採るので次のステップに行けない人が多い」などの見解が紹介されています。最後に個性的・多様な人材の採用や、事務系における学業成績・専門性考慮、インターンシップ採用などの新たな動向・試みが紹介され、マッチング向上の観点から採用選考前提の長期のインターンシップに注目しているとの提案がされました。
私の感想としてはやや「白い布仮説」が強調されすぎのような感がありましたが、これはおそらく新卒採用とキャリア採用という対比の中で「なぜ新卒」という聞き方をされたせいだと思われます。新卒と既卒の2年め3年めとの対比という聞き方であれば、おそらくは私が常々強調している「新卒は手付かず」という側面も出てきたのではないかと思うのですが(往生際が悪い)。
なおインタビュー調査について「業種が偏っているのではないか、企業選択の基準はどのようなものか」と質問した人がいてそりゃ行けるところに行ったに決まっているでしょうごむたいなと思ったことでした。採用に限らず人事管理というものにはどうしても本音と建前がつきものであって、ある程度人間関係を作り、信頼関係ができた相手でなければこういう面白い話は聞けないわけです。永野先生も「外資を入れなければいけないな、というくらいは考えましたが」と苦笑いしながら回答しておられましたが。
ちなみに就職につながる長期のインターンシップといわれると私は即座に「ものつくり大学」と申し上げたくなるのですが、しかし実態はどうなのだろうか。まあかなり特殊な例かもしれません。
次に、太田先生から先生が就職率と進学率の関係について1998年以降の学校基本調査を分析された結果が紹介されました。
その結果は、まず求人倍率は就職率に対して強く有意であり、景気動向が就職率に大きく影響しています。大卒求人倍率が一定であれば進学率の1パーセントポイントの上昇は就職率を0.2パーセントポイント有意に引き下げるという結果が出ており、さらに私大比率が就職率にマイナスで有意になっていることから、進学率上昇にともなう大学生の平均的資質の低下が就職率を引き下げていることが示唆されるとのことでした。さらに詳細に分析すると、進学率の効果は国公・私大間の就職率格差に集中的に表れていること、もっとも進学率の上昇による就職率の引き下げ効果は小さく、進学率上昇の悪影響はあったとしても大きなものではなかったと結論づけられています。
まあ世間には就職難の原因は大学生が増えすぎたからだという議論が間々あるわけですが、この結果をみるとなくはないかもしれないが大きな影響はないということでしょうか。いずれにしても循環要因に較べたら微々たるものだということはいえそうで、若年雇用対策には供給サイド対策より需要サイド対策が重要、という主張をサポートする結果ではないかと思います。なおこの調査に対しては東大の中村圭介先生や学習院今野浩一郎先生から、学校基本調査は卒業後進路についてはあまり信頼できないのではないか(進路が確認できず不詳となっている人の多くは実は就職できている)などとの指摘がありました。だいぶ時間もたっていますがさらに続きます。