ニッポンの力

いきなりの日経ネタ(笑)ですが、日経新聞の今年年頭の特集は、日本経済の好調ぶりを反映して「ニッポンの力」となっています。

 バブル崩壊後の15年という時間の経過で再び確認できた日本の底力がある。新たに身に付けた力がある。そして失われた力がある。自己を相対化し、冷静に立ち位置を点検するところから次の15年が見えてくる。長い苦闘から反転した日本には、世界でも通用する経験と実力が備わったはずだ。国にとっても企業や個人にとっても、2006年は強い時代の始まりとなる。
(平成18年1月1日付日本経済新聞から)

いやそれは結構なんですけれど、ものの3年前には年頭の特集で「日本病を断つ」という自虐的きわまりない日本ダメだ論をかましていたことには頬かむりですかそうですか。
いや必ずしも頬かむりでもないようです。

 雨雲が現れた途端に悲観主義が支配し、晴れ間が広がると過剰な楽観主義がまん延する「日本病」。いま振り子は悲観から楽観へ振れ始めたかに見える。だが座して配当を受け取ることができる時代は終わった。
(平成18年1月1日付日本経済新聞から)

日本病キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!


おお…一応忘れてはおられないようだ。これで言い訳できたと思っているのですかそうですか。平成15年1月1日付の1面トップで、「世界が学ぶ反面教師」「根深い病根活力そぐ」などと派手な見出しで煽ったのもこれで免罪ですかそうですか。

日本国のカルテ
病名 日本病Nipponensis(ラテン語で「日本固有の」)
病根・症状

  • 先送り中毒 口先ばかりで改革を実行できない
  • 前例依存 システム硬直化。飛躍の芽を摘む
  • 危機意識欠乏 認識が甘く、政策・戦略が不十分
  • リスク過敏 失敗を恐れ、成長分野が育たない

(平成15年1月1日付日本経済新聞朝刊から(図表))

3年前には「日本病」とはこういうもんだと書いておられましたが、これは「雨雲が現れた途端に悲観主義が支配し、晴れ間が広がると過剰な楽観主義がまん延する」という意味だったんですかそうですか。だとすれば、とりあえず日経新聞自身が病膏肓の「日本病」で、今回の「ニッポンの力」も過剰な楽観主義ということですかそうですか。9面に並んでいる「新しい15年を開く異才たち」も飛躍の芽を摘まれたんじゃなかったんですかそうですか。

  • 私としては、新しい15年を開くのは少数の「異才」ではなく、大多数の普通の人たちの努力と頑張りだと思いますけどね。矢沢永吉が新しい15年を開くんですかそうですか。

まったくもって鉄面皮ということなのか、一応少しは恥ずかしく思っているということなのか、どちらなのでしょうね。ただ、少なくとも、「15年」を強調している以上は、日経が3年前に特集で警鐘を鳴らしたからよくなった、と強弁するつもりはないようです。
というか、こと雇用に関しては、7面の記事をみるとけっこう忸怩たるものはあるようです。

 終身雇用制、年功序列システムが徐々に崩れる中で、日本企業は時間をかけて過剰雇用を吐き出してきた。
 リストラは幅広い業種に及んだ。新日本製鉄は足元の従業員数を1987年の四分の一に相当する1万5000人まで絞り込んだ。大手電機各社も大型の人員整理を実施。電機連合の組合員数は96年の77万8千人からほぼ一貫して減少し、2005年には63万7千人まで減っている。
 こうした努力の結果、最近では大企業などで雇用の不足感すら出ている。05年12月発表の日銀企業短期経済観測調査(短観)によると、「過剰」と答えた企業の割合から「不足」の割合を引いた雇用人員判断指数はマイナス4(全規模全産業)と13年ぶりの「不足」圏内に突入した。
(平成18年1月1日付日本経済新聞朝刊から)

「徐々に崩れる」ですかそうですか。「時間をかけて」雇用調整をしたのは、長期雇用慣行(「終身」雇用「制」ではありません)を堅持しながら調整したからなんですけどね。オイルショックのときだって希望退職とかずいぶんやってましたよ。それから、新日鉄の従業員数が減ったのは断然分社化によるところが大きかったわけですし、退職する人の再就職先の斡旋もしっかり行われています(さすが新日鉄)から、雇用はきちんと守られています。電機各社の「大型の人員整理」もそのほとんどは海外法人の縮小や撤退ですし、そもそもこの「大型」というのも、アルバイトの打ち切りみたいなものまで含めて水ぶくれさせて数字を大きく作ったものでしょう。電機連合の組合員数が減ったのも、たしかに希望退職などの影響もあるでしょうが、正社員採用抑制と定年退職・管理職層昇格による自然減の影響のほうがはるかに大きいはずです。長期雇用慣行にはけっこう揺るぎないものがあります。
日銀短観も同じことで、なにも人員整理をしたから不足しているわけではなくて、売上が増えてきて足りなくなっているわけですから。
まあ、非典型雇用の増加などをもって「徐々に崩れる」と言えば言えるかもしれませんが、けっこう苦しいですね。なにせこの間には、長期雇用慣行の法的バックボーンたる解雇権濫用法理が労基法に明記されたりもしているのですから。