新卒採用ヒートアップ

日曜日の日経新聞に、同社が実施した新卒採用計画調査の結果が報じられていました。

 日本経済新聞社がまとめた二〇〇八年度の採用調査では、自動車や電機をはじめとする主力製造業が前年度を上回る採用を計画し全体をけん引している。特に国際的な開発競争や内外での生産拡大をにらんで技術系の採用を増やす動きが目立つ。銀行など非製造業でも大量採用が続き、幅広い業種で人員確保を急ぐ動きが鮮明になってきた。
(平成19年3月18日付日本経済新聞朝刊から)

本日の日経各紙は、この調査をうけて、各業界の状況を一斉に報じています。

 日本経済新聞社がまとめた二〇〇八年度採用計画調査(一次集計)では、自動車や電機以外にも、造船や機械など幅広い分野で採用数が伸び、大卒採用では製造業が全業種でプラスになった。非製造業でもガスや電力などエネルギー業界のほか、外食、百貨店など最終消費関連の業種も採用を大幅に拡大する計画だ。
 業種別(大卒)に見ると、全四十三業種のうち、前年度実績を上回ったのは三十八業種。伸び率が高かったのはガス(六六・七%)や電力(一九・八%)などエネルギー関連。造船(二四・七%)や窯業(二六・六%)、機械(一八・三%)といった製造業も伸びた。
(平成19年3月19日付日経産業新聞から)

 日本経済新聞社がまとめた二〇〇八年度の新卒採用計画調査(一次集計)によると、流通・外食業(百八十四社)の大卒採用数は三月上旬時点で〇七年度実績見込み比一八・七%増となった。前回調査の最終集計(〇六年四月時点、三二・九%増)より伸び率は鈍化した。ここ数年、高水準の採用計画をたてながら思うように人員を確保できない企業も多い。採用意欲は根強いものの他業界との採用競争が激しく、堅めの計画をたてる傾向が強まっているようだ。
 短大、専門学校、高専、高卒などを含めた総合計も一二・四%増で、前回の最終集計(同、二八・六%増)より低下した。〇七年度の大卒の採用実績は前年度実績比七・六%増と、計画を大幅に下回っており、流通・外食業にとって採用環境は楽ではないことがみてとれる。
(平成19年3月19日付日経流通新聞MJから)

 日本経済新聞社がまとめた二〇〇八年度採用計画調査(一次集計)で、金融機関全体の新卒採用人数は二万千七百十六人で、前年実績(二万千九十二人)並みの大量採用が続く見通しだ。三大銀行グループが公的資金を完済するなど、攻めの経営への転換が採用計画にも反映。団塊世代の退職金の取り込みといった金融機関の垣根を越えた競争激化も各社の採用意欲を後押ししている。
 大手銀行は、〇七年春の大幅な人員増強の反動で採用を減らす三菱東京UFJ銀行を除き、前年同様の大規模採用を計画している。競争が激化するリテール(小口金融)を始め、各分野での営業力強化を急ぐ。

 保険業界は二〇〇八年度も人材を求める動きが旺盛だ。生命保険、損害保険業界ともに保険金の不払いが問題化。保険金支払い査定などの精度を上げなければならず、事務体制の強化を迫られている。このため事務を担当する一般職を中心に女性の採用に力を入れる会社が多い。

「貯蓄から投資へ」の流れを受け、大手証券会社も〇八年春の新卒採用で高水準の採用姿勢を継続する。野村証券は大卒採用を七百人、大和証券グループ本社はグループ全体の採用を千三百人それぞれ予定している。
(平成19年3月19日付日経金融新聞から)

これはどうも、新卒者にとってはバブル期の再来かというような売り手市場の到来といったところで、とりわけ、労働条件が高い「日経金融新聞」業界の採用の活発化は、この業界が技術者の採用にも力を入れていることもあり、他業界に大きな影響を与えそうです。まだしも技術的専門性のある「日経産業新聞」業界は多少はましでしょうが、「日経流通新聞」業界にはかなりの打撃であることは容易に想像でき、それが「堅めの計画をたてる傾向」というところにつながっているのでしょうか。まあ、人数規模を考えると、まずは業界内の競争が激しすぎるというところかもしれませんが…。
また、90年代末には「日経金融新聞」業界の多くが採用を絞り込み、かつ新卒者にとってもあまり魅力的な就職先ではなかったこともあって、同業界を志望しながらも就職できなかった(しなかった)人も多かったはずです。今となっては業績も改善し、採用も拡大しているわけで、当然ながら同業界への転職をはかる人も増えるかもしれません。これまた、他の業界にしてみれば脅威となるでしょう。
さてこの状況、「就職超氷河期」に就活で苦戦した世代からみたらまことに不公平このうえないということになるのは情においてよくわかるところで、そういう意味では日経新聞のこの主張はうなずけるものがあります。

 バブル経済崩壊後、企業は正社員を減らして非正規社員で補い、コスト削減を進めてきた。十五―二十四歳で働いている人のうち、非正規が占める割合は五割近い。今は行きすぎた非正規化を修正する過程だろう。若い人たちに働く機会が増えたことは喜ばしい。
(平成19年3月18日付日本経済新聞朝刊から)

もっとも、記事は90年代の厳しいリストラの反省から、「会社によっては再び正社員の比率が高くなりすぎないよう、非正規社員の処遇を改善する必要もあるだろう。」と述べることも忘れておらず、要するに経団連がかねてから主張しているように、適切な自社型雇用ポートフォリオを実現することが大切だということではないかと思います。
日経新聞は同じ日のコラム「春秋」でもこう主張しています。

▼大手企業の多くで来春入社の新卒採用を今年よりさらに増やす。内定前倒しによる囲い込みも過熱しそうだ。有名大の現役学生を一定数そろえるのが採用担当者の評価につながるからだろうが、もったいない話だ。例えば一九九〇年代半ば以降に社会に出て、不本意非正規社員生活を続ける若者も大勢いるのに。▼普通に就職していれば相応の戦力になった原石も多いはずだ。非正規社員を正社員に転換するユニクロのような試みが、もっと広がってもいい。彼ら彼女らの非正規社員としての発想や経験を生かせれば、企業にとってもプラス。今こそ新卒にこだわらない採用に転換する好機ではないか。
(平成19年3月18日付日本経済新聞朝刊から)

これまたまことにもっともな話です。現実には、長期育成(投資)・長期回収を基本的な人材戦略におく企業においては、やはり少しでも長期の育成・回収が可能となる新卒者が採用上有利にならざるを得ないわけですが、それでも新卒が足りないとなれば第二新卒、さらには未経験者の中途採用に向かう企業も多いでしょう。全員が正社員になるというのは無理かつ非現実的ですが、非正社員比率が低下する中で雇用全体が拡大すれば正社員雇用が伸びることは間違いなく、「不本意非正規社員生活を続ける若者」のチャンスも確実に拡大することでしょう。
それにしても、「有名大の現役学生を一定数そろえるのが採用担当者の評価につながるからだろうが」というのは、日経新聞の採用方針をはからずも示していて面白いですね。