滴滴、共産党員1000人採用

 採用の話なので一応労働関連ということで(笑)。これも今朝の日経新聞からです。

 中国配車アプリ最大手の滴滴出行は顧客安全向上の一環として中国共産党員1000人の募集を始めた。滴滴は乗客の殺害事件が相次いだため、コールセンターなど社内の顧客サービス部門の人員を5000人から年内にも8000人まで増やす計画を示している。採用した共産党員は顧客の緊急安全サービス担当に配置する。
 滴滴によると、乗客殺人事件が2回発生してから、共産党や政府機関の指導を受けて安全対策を進めており、今回の党員募集もその一環。滴滴は全国の24支部に3750人の共産党員を抱えている。新規募集する党員は緊急安全対策の中核の役割を発揮することを期待しているという。
(平成30年10月19日付日本経済新聞朝刊から)

 滴滴では5月に運転手による乗客殺害事件が発生して一時サービスを停止し、その後まあ体制整備ができたということで1週間後から順次サービスを再開したものの8月に再度類似の事件が起き、あらためて深夜帯のサービスを停止して対策を進めてきたという経緯があるわけですね(一部サービスは現在も停止しているらしい)。
 そこで記事のような事態となったわけですが、しかしコールセンターの人員を増員するとか、共産党員を顧客の緊急安全サービス担当に配置する(そしてその中核の役割を発揮する)とかすると運転手による乗客への加害が減少すると言われても、なんだか不思議な感じはします。
 一応、滴滴の「緊急安全サービス」というのは「深夜帯は6カ月以上の期間に1000回以上のサービスを問題なく提供した運転手に限定」というソフト面と「乗客が緊急時にすぐに警察に通報できる仕組みや、緊急連絡先の登録、車内録音など」のハード面で構成されているらしく(日経オンラインhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO35468190Y8A910C1FFE000/)、まあこういう施策を運用するうえで共産党員だとなにかと有能だということがあるのかなあ。すでに3750人も党員がいるらしいので、それなりにご利益はあるということなのでしょうが。
 どうなんでしょう。誰か教えてくれないものかしら(笑)。

「実質値上げ」に厳しい消費者

 今朝の日経新聞から。タグ付けに迷って、結局日記タグにした(笑)

 価格を据え置いたまま容量を減らすなどの「実質値上げ」に対し、消費者の目が厳しくなっている。今春以降に実質値上げした主要10食品を調べたところ、7品目で値上げ後の販売額が前年同期比で減ったことが分かった。消費者は費用対効果に敏感なうえ、実質値上げは交流サイト(SNS)で広がってすぐに気づかれる。商品の量と価格設定について、メーカーは頭を悩ませそうだ。
 全国のスーパーなど1500店超のPOS(販売時点情報管理)データを集計する日経POS情報で、3月以降に実質値上げを発表した主要食品のうち、販売数量の多い10品目について来店客1千人当たりの売上高を調べた。7品目は値上げ後の販売額が前年同期比でマイナスだった。
…日本ではデフレが定着した1990年代から、メーカーや流通は消費者の買い控えを懸念して原材料価格の高騰などを単純に価格に反映するのは難しくなった。そこで価格は据え置いて量を減らす実質値上げが増えた。
東京大学の渡辺努教授によると、…「近年はSNSを通じて実質値上げの情報が拡散し、(減量を公表しない)ステルス値上げも気づかれやすい。原材料費高騰など値上げの必要性を、業界が連携して消費者に伝える努力が必要」…
…今春以降実質値上げした商品でも、減量と同時に店頭価格を引き下げた明治の「明治ブルガリアヨーグルト」や、値上げと同時に容量を増やしたよっちゃん食品工業山梨県中央市)の「カットよっちゃん」は前年同期比で2ケタ以上伸ばした。
 物価上昇率は政府が目指す年2%に届かず、賃金上昇のペースも緩やかだ。価格設定は本来、企業の経営判断だが、消費者が費用対効果を見極める目線はますます厳しくなっている。
(平成30年10月19日付日本経済新聞朝刊から)

 容量を変えずにストレートに価格変更(値上げ)した場合と較べてどうなのかが興味深いところですが残念ながら記事にはそこまでの記載はありませんでした。渡辺先生への取材にもとづいて書かれた記事だと思いますが、もう少しがんばってほしかったかなあ。
 さて値上げすれば売り上げが落ちるのは当然といえば当然なので、販売数量の多い10品目中7品目がマイナスということは3品目はプラスだったということなのでむしろ健闘していると言えなくもありません。
 さらに面白いのは「減量と同時に店頭価格を引き下げた明治の「明治ブルガリアヨーグルト」や、値上げと同時に容量を増やしたよっちゃん食品工業山梨県中央市)の「カットよっちゃん」は前年同期比で2ケタ以上伸ばした」というところで、明治ブルガリアヨーグルトについては明治乳業プレスリリースがあり(https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2018/detail/20180309_01.html)、それによると

 「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」および「明治ブルガリアヨーグルトLB81そのままおいしい脂肪0プレーン」については内容量450gにて展開を継続しておりましたが、近年の原材料価格や物流コストの上昇ならびにプレーンヨーグルト市場動向を踏まえ、内容量を400gに変更させていただきます。また、併せて、希望小売価格を260円から250円へと改定させていただきます。
「明治ブルガリアヨーグルトLB81」内容量変更および価格改定のお知らせ

…ということなのでグラム単価でみると0.578円から0.625円と8.1%の値上げであり、これで売り上げが2ケタ以上伸ばしたというのは、450gから400gへの変更でそこまで使い勝手がよくなるとも思えない(まあ容器がコンパクトになって冷蔵庫内のスペースを取らなくなるとかいうのはあるのかもしれないが)ので、価格改定しなかった同業に較べて値下げによる割安感があったということなのでしょう。厳しいのか厳しくないのかわからないな消費者。ただまあここから微かに示唆されるのは実質値上げにともなう売り上げ減というのは多分に懲罰的な買い控えなのではないかということで、渡辺勉先生のコメントもそうした意味合いを含んでいるように思われます。
 なおカットよっちゃんについては読者の方にはなじみのない方も多いのではないかと思いますが小袋で販売されている味付けイカの駄菓子であり、こちらは共同通信の報道によればこういう価格改定のようです。

 希望小売価格30円(税抜き)の10グラム入りと、60円(同)の25グラム入りの販売をやめ、15グラム入りの50円(同)に統一する。袋の裏に「あたり」の印刷があると、もう1袋もらえる「当り付き」(10グラム入り)は5月末で販売を終了する。
 「カットよっちゃん」は一口大のイカに魚肉などを加えて酢漬けにした商品。「よっちゃんイカ」の愛称で親しまれている。
「よっちゃんイカ」値上げ 不漁で、6月から

 こちらはグラム単価で見ると値上げ前は各3円、2.4円だったものを3.3円に値上げしており、さらに当たり付きを廃止しているので10%をかなり上回る値上げです。こちらはよくわかりませんが当たり付き10グラム入りを日常的に購入していた固定客が15グラム入りを買うようになって結果的に売り上げが伸びたというところでしょうか。荷姿の統一で相当のコストダウンになっているはずであり、こちらは販売戦略が奏功したというところかもしれません。
 ということで記事は「物価上昇率は政府が目指す年2%に届かず、賃金上昇のペースも緩やかだ」とさりげなく賃金にも触れていますが、まあ「消費者が費用対効果を見極める目線はますます厳しくなっている」中で、渡邊先生のコメントにもある「原材料費高騰」による値上げすら受け入れられない中では、人件費上昇を価格転嫁することはかなり難しいと考えざるを得ないでしょう。もちろん、過去繰り返し書いているとおり私個人としては当面投資先のない資金が企業部門に積み上がっている現状を考えれば、他に有効な使い道がないなら一部は従業員に配ってしまえと思っているわけであって賃金上昇の余地はまだいくらかはあるとも思いますが、とはいえ配り終わればそれでおしまいなわけでもあります。
 それに加えて、配ったところで一定程度は貯蓄が企業から家計に移るだけに終わる可能性も高く、もちろんこれは消費マインドの改善につながるという意味では好ましいのではありますが、いっぽうで企業の財務が優良であることが労働者の雇用の安心感につながっていた部分もあると思われ微妙な問題でしょう。いずれにしても、記事のような実態がある中ではシンクタンク等が「月例賃金(基本給)の引き上げは消費拡大の効果が大きい」という試算を発表しても企業としてはなかなかうのみにしにくいのではないでしょうか。

育休延長目的の「落選狙い」

今日(10月18日)の日経新聞朝刊に面白い記事が掲載されていましたので備忘的に。

 育児休業を延長したい人が「落選狙い」で保育所の利用を申し込む事例が目立っている。育休の延長には保育所に子供を預けられないことを証明する落選通知が必要だからだ。保育所を利用する気がないのに入園が決まり、本当に預けたい人が落選してしまうなどの混乱が出ており、厚生労働省保育所の手続きを見直す。申し込み時点で市町村が育休延長の意向を確認し、要件を満たす人には選考前に落選通知を出すようにする方針だ。
 育児休業を取得できるのは法律上は原則として子供が1歳になるまでだが、保育所に預けられない場合は最長2年まで延長できる。育休取得者には賃金の50~67%の給付金が雇用保険から支払われるため、延長するには勤務先を介して保育所の落選通知をハローワークに提出する必要がある。
 ところがこの落選通知を得るために、利用する気がないのに人気の高い保育所に申し込む事例が急増している。待機児童の多い地域で特に問題になっており、大阪市では今年、育休中の453人のうち4割弱が「落選通知のために入園を申し込んだ」と答えた。
 もともと預ける気がないのに入園が決まってしまうケースがあり、本当に保育所に預けたい人の障害になっている。
 こうした混乱を防ぐため、厚労省保育所入所の手続きを見直し、申し込みの段階で保護者に育休を延長する意向があるかを確認するよう市町村に求める。延長希望があり、申し込んだ保育所に空きがない場合には、その後の選考手続きは進めず落選通知を出す。
 保育所の定員に空きがあれば入園できるので希望があっても育休は延長できない。「やはり子供と一緒にいたい」などと入園を見送っても原則、落選通知は出さない。
 本当に保育所に預けたい人を優先しつつ、育休延長の要件を満たす保護者は、今までよりも速やかに落選通知が得られるようにする狙い。厚労省は10月下旬の地方分権改革推進会議の部会で見直しを説明する方針だ。
 厚労省は育休の延長を保育所に子供を預けられずに離職してしまう事態を防ぐための例外措置と位置づけている。「子どもと一緒にいたい」「給付金が欲しい」といった理由の延長は認めていないので、保育所の落選通知を確認する仕組みになっている。
 育休の延長期間は17年10月にそれまでの1歳半までから2歳までに延長された。これに伴い育休の給付金は2017年度に4780億円と前年度から200億円以上増えた。
 自治体からは通知がなくても2歳まで育休を取得できるよう制度改正を求める声も出ている。
(平成30年10月18日付日本経済新聞朝刊から)

 まあこの手の制度設計というのはなかなか難しいものだという話ですが、とりあえず制度利用者については(制度の趣旨には必ずしも沿わないにしても)制度的に悪いことをしているわけではないので責められないなとは思います。
 一方で厚労省の今回の対応は「預ける気のない人が当選し、その分預けたい人が落選する」という事態への対応にはなっていますが、「預けられるなら預けてください、預けられるのに預けないなら給付はしません」という制度趣旨に対する対応にはなっていないとは言わざるを得ないように思います。
 ただまあこれに厳格に対応しようとすると個別に「預けられる/られない」を判断する必要があってかなりの行政コストがかかるうえ、預けられる施設はあるけれど高いとかサービスの質が悪いとかでそこは利用したくないという人に対して「あそこを利用できるんだから給付はしません」ということを言わなければならなくなり、少なくとも少子化対策という大元の趣旨を考えるとあまり喜ばしい話でもないでしょう。
 ということで私個人の意見としては記事中の自治体と同様で通知がなくても2歳まで認めればいいじゃないかと思うわけですが(半年分ですし導入期なのでフルに効いているわけではないですが4580億円から4780億円なら思いのほか大きく増えてはいないとも思う)、まあこれまた「高いとかサービスが悪いとか言う理由で公的給付を受けるのは許さない」というのが国民の意思であるならまあどうしようもねえなという話です。こういう妙な「正義感」めいた感情がずいぶん世の中暮らしにくくしているんじゃないかと思うんですけどねえ。そうでもないのかな。

バイト時給、2.4%高

今朝の日経新聞で報じられていましたので備忘的に。新卒に限らず非正規の求人も活況のようです。

 求人情報大手のリクルートジョブズが15日発表した三大都市圏(首都圏・東海・関西)の9月のアルバイト・パート募集時平均時給は、前年同月比2.4%(24円)高い1036円だった。10月の最低賃金改定に向けて時給を引き上げる企業が増加。低時給が多い販売・サービス職で特に影響が大きく、時給は過去最高を更新した。
 販売・サービス職は同3.3%高い1031円だった。コンビニなどで引き上げの動きが広がった。百貨店などで年末商戦向けの募集も増えた。
 同業大手のパーソルキャリア(東京・千代田)が同日まとめた全国の9月のアルバイト・パート募集時平均時給は、同2.1%(21円)高い1042円だった。
(平成30年10月16日付日本経済新聞朝刊から)

 記事中に最賃引き上げの話が出てきますが、今年の目安は26円、3.0%とかなり大幅なものでした(時給方式に変更以降の最高額・率)。現状は、最賃引き上げが織り込まれつつある中でもなお依然として求人は活発だというところでしょうか。数字が動くタイムラグに違いがありますし、まあヤマ勘ではありますが、最賃引き上げは(大幅にもかかわらず)相当程度吸収できている、少なくとも今回に限っては雇用が減ったりするような悪影響は限定的になりそうだといえるのかもしれません(本当に山勘です)。もちろん、企業業績への影響などには留意する必要があるのでしょうが。
 ということで、最低賃金を上げるのであればやはり好況の人手不足時がスムーズであり、人手不足にともなう賃金水準の上昇を織り込む形で最低賃金の上昇をはかることが好循環につながるのではないかといういつもの話で、労働市場の実勢を踏まえずに最賃を上げてなにか動かそうというのはうまくいかなかろうと思うわけです。

売り手市場続く

 今朝の日経新聞で、新卒就職戦線の近況が報じられていました。

 日本経済新聞社が14日まとめた2019年度採用状況調査で、主要企業の大卒採用の内定者数(19年春入社)は18年春入社実績比で1.4%増だった。8年連続の伸びだが、業務の自動化を進める銀行は16.1%減だった。半数の企業で内定者数が計画を下回り、とくに陸運などサービス業は計画未達が相次ぐ。学生の売り手市場が続き、理工系人材が争奪戦になるなど人材確保はさらに難しさを増している。
(平成30年10月15日付日本経済新聞朝刊から)

 これに続いて業界別の状況が記載されているのですが、銀行が採用を減らしているという話が詳しく書かれているのに続いて「業種別で最も充足率が低かったのは陸運。…福山通運グループは計画の300人に対し、内定が57人と充足率は2割弱。」「百貨店・スーパーの充足率も0.4ポイント減の88.9%だった。食品スーパーのサミットといなげやはいずれも計画を4割下回った。」「外食・その他サービスも充足率が89.3%にとどまった。和食料理店を展開する木曽路の充足率は2割。」など、苦戦する業界の紹介が続いています。まあ、時期的に考えても採用力の高い業界・企業は早々に必要数を確保していて、公務員からの進路変更組や留学帰国組などの分を残してほぼ撤退していると想定され、現状も採用活動を実施しているのは基本的に厳しいところだというところでしょうか。いずれにしても学生さんには選択肢が拡大し良好なマッチングが実現しているということでしょうからご同慶です。
 企業面では理系人材が特に好調と書かれています。

 2019年度採用状況調査では、理工系の大卒内定者数が18年春入社実績比で約6%増え、7年ぶりに文科系を上回った。自動運転やあらゆるモノがネットにつながる「IoT」など次世代技術の広がりを背景に、大手製造業が理工系を積極採用する。好調な技術者派遣もけん引した。文科系は業務の自動化を進める大手銀が採用を絞っており、技術革新が採用の姿を変え始めた。
(平成30年10月15日付日本経済新聞朝刊から)

 ということで、日経電子版では理系の博士課程修了者も就職が好調だとも伝えられています。

 「博士、求む」――。理系の就職前線に変化の兆しが見えてきた。これまで博士の採用に消極的だった企業が、一転して採用へと動き始めている。グローバルな競争が激化し、新規事業などをおこすために即戦力となる優秀な人材が必要になってきたからだ。大学も10年ほど前から企業で博士にイノベーションを創出する能力を身につけさせる教育に力を入れてきたことも企業の採用を促している。分野にもよるが「博士に進むと就職できない」という声は、あまり聞かなくなってきた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36273030Z01C18A0000000/(有料ご容赦)

 これに続いて「大学も10年ほど前から企業で博士にイノベーションを創出する能力を身につけさせる教育に力を入れてきた」といった努力が紹介されているわけですが、まあやはり理系人材が不足しているという供給不足の要因が大きいのではないかという感はあります。学士、修士で充足できなければ博士にも手が伸びるというわけですね。もちろん大学や院生さんの努力で博士の就職力が高まっているということもあると思います。
 私として注目したいのは、これまで博士をあまり採用してこなかった企業が博士を採用することで、それに応じて人事管理が高度化していくのではないか、というところです。能力面でも意識面でも博士と修士はかなり異なるでしょうから、それに適した人事管理も違ってくるでしょう。ここのノウハウがうまく獲得・蓄積されて効率的な人材活用が可能になれば、この先も継続的に博士の就職が堅調に続くことが期待できるだろうと思われます。
 逆に、それでやはりうまくいかないということになると、景気が後退して研究開発投資を絞らざるを得なくなり、理系人材の採用も縮小のやむなしになった時に、博士から採用を減らすということになりかねないだろうとも思われます。おそらくは博士は修士より多様性も高いと思われ、そこへの対応がポイントになりそうな気がします。

「架空の労働者」

 朝日新聞DIGITALが昨日こんな記事を配信していたのですが…

 働き方改革関連法で企業に求められる「同一労働同一賃金」について、厚生労働省は10日、派遣社員の待遇を比較する派遣先の労働者の具体案を公表した。まずは同じ仕事などの正社員としたが、最終的に対象となる人がいなければ、派遣社員と同じ仕事をする正社員を雇ったと仮定した待遇の「架空の労働者」でもよいとした…
https://www.asahi.com/articles/DA3S13717540.html

 続きは有料(残り:358文字/全文:507文字となっておりますな)なのでなにが書いてあるかわからないのですが(笑)、まあこの具体案がすばらしいという話ではなかろうなとは思いますが…。
 さてこれは記事にあるように10日に開催された厚生労働省の第12回労働政策審議会職業安定分科会/雇用・環境均等分科会同一労働同一賃金部会という長い名称の会合に提出された「派遣先から派遣元への待遇情報の提供について」という資料について報じたものです。
 具体的には、改正労働者派遣法26条条7項・8項でこう定められています。

7 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第一項の規定により労働者派遣契約を締結するに当たつては、あらかじめ、派遣元事業主に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。
8 前項の「比較対象労働者」とは、当該労働者派遣の役務の提供を受けようとする者に雇用される通常の労働者であつて、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるものその他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるものをいう。

 ここで連呼されている「厚生労働省令で定めるところにより」をどう定めるのか、という提案になるわけですね。特に重要なのは8項の最後の「その他の当該派遣労働者と待遇を比較すべき労働者として厚生労働省令で定めるもの」であり、前段で例示されている「通常の労働者であつて、その業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が、当該労働者派遣に係る派遣労働者と同一であると見込まれるもの」は典型例として、「その他」をどうするのか、という議論になるわけです。
 これに関しては、前段で例示するような比較対象労働者が存在すればいいのですが、現実には多くの企業・職場ではここまで典型的な比較対象は存在しないだろうことは容易に想像されるところでしょう。一方でではいないから仕方ありませんで済ませることも政治的になかなか難しかろうというも思われるわけで、これに関しては過去このブログでも懸念を表明しておりました。

…特に「当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。」との定めについては国会審議の中で「比較対象労働者は存在しないということは認められない」との政府答弁があったようでかなり困るだろうと思います。現実にはいないものはいないわけですからねえ。
働き方改革関連法案、成立」2018-07-11

 さて実際の国会でのやりとりはどういうものだったかというと、具体的には5月18日の衆院厚生労働委員会でのこうしたやりとりです。

○高橋(千)委員 …派遣労働者の均等待遇の問題なんですね。…不合理な待遇差を解消するための規定の整備とありますけれども、派遣労働者と派遣先の労働者の均等・均衡待遇を実現するためには、派遣先事業主から比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報を得る必要があります。
 派遣先の企業は、情報の提供を拒むことはできません。拒むと派遣労働者を受け入れることができないというふうに書いています。だけれども、派遣先が、比較対象労働者はうちにはいないよというのを情報として提供した場合はどうなるでしょうか。
○宮川政府参考人 情報提供に係る比較対象労働者につきましては、均等・均衡待遇規定の実効性を高める観点からは、職務内容等が派遣労働者と近い者とすることが考えられますが、他方で、派遣就業は臨時的かつ一時的なものであるとして、職務内容が類似する派遣先の労働者が存在しないケースがあるなど、派遣労働の実情を踏まえたものにする必要がございます。
 比較対象労働者につきましては、厚生労働省令で定めることとしておりますが、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更範囲が当該派遣労働者と同一である者がいない場合に情報提供が不要になるわけではなく、そのような者がいない場合には、職務の内容は派遣労働者と同一であるが、職務の内容及び配置の変更範囲は異なる労働者ですとか、職務の内容は派遣労働者と異なるが、職務の内容及び配置の変更範囲は同一である労働者などに関する情報提供を義務づけることが考えられます。
 このため、お尋ねのように、派遣先が、比較対象労働者がいないという情報を提供することは認められないこととなると考えておりまして、いずれにいたしましても、比較対象労働者につきましては、改正法成立後に、労働政策審議会における議論を経た上で考え方を明確にすることとしておりますが、職務の内容等が類似する派遣先の労働者がいない場合にも、不合理な格差が解消されるよう取り組んでいきたいと思っております。
○高橋(千)委員 まず、認められないという答弁をいただきました。これは確認をしたいと思います。…
(国会会議録検索システム 衆 - 厚生労働委員会 - 20号 平成30年05月18日)

 ということで、政府答弁(当時の宮川晃厚生労働省雇用環境・均等局長)は「職務内容が類似する派遣先の労働者が存在しないケースがある」「職務の内容は派遣労働者と同一であるが、職務の内容及び配置の変更範囲は異なる労働者ですとか、職務の内容は派遣労働者と異なるが、職務の内容及び配置の変更範囲は同一である労働者などに関する情報提供を義務づけることが考えられます」と具体的に述べたうえで「比較対象労働者につきましては、改正法成立後に、労働政策審議会における議論を経た上で考え方を明確にすることとしております」と回答しており、まさにこの回答どおりのことが行われているといえると思います。
 それでもなお私などはいないものはいないよねえと思っているわけです。そもそも、労働者派遣の意義のひとつとして「社内には必要な能力を有する人がいない場合に、それを確実に持つ人材を迅速に確保できる」というマッチング効率化があるわけで、こうした場合には特に「比較対象労働者」といっても簡単ではないというのは見やすい理屈ではないかと思います。
 このあたりを整理したのが今回の資料ということと思われ、「比較対象労働者については、省令で次のとおりとする。」として、こう提案しています(例によって丸付数字(機種依存文字)は括弧付数字に変更しています)。

(1) 「職務の内容」並びに「職務の内容及び配置の変更の範囲」が、派遣労
働者と同一である通常の労働者
(2) (1)に該当する労働者がいない場合には、「職務の内容」が派遣労働者
同一であるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」は同一でない通常の労
働者
(3) (1)・(2)に該当する労働者がいない場合には、(1)・(2)に掲げる者に準ずる労働者
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 そして、(3)についてはさらに詳細にこう書かれています。

派遣労働者と「業務の内容」、「責任の程度」のいずれかが同一である通常の労働者
イ アがいない場合には、「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同一である通常の労働者
ウ ア・イがいない場合には、これらに相当するパート・有期雇用労働者
エ ア~ウがいない場合には、派遣労働者と同一の職務に従事させるために新たに通常の労働者を雇い入れたと仮定した場合における当該労働者
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 ということで資料には一切「架空」なる語は出てこないのですが、この「エ」をさして朝日新聞は「架空の労働者」と称しているのでしょう。まあたしかに実在するわけではないので架空には違いないとは言えますが、しかしさすがにそこは厚労省もさるものであってこう注記しています。

…当該労働者の待遇は、派遣先の待遇の実施基準に従って決定したものであり、派遣先の通常の労働者との間で適切な待遇が確保されている必要がある。
…労働者の標準的なモデル(新入社員、勤続○年目の一般職など)を比較対象として選定することが考えられる。
派遣先から派遣元への待遇情報の提供について

 つまり、必ずしも賃金に限った話ではありませんが、賃金を例にとれば、通常の労働者に適用されている賃金制度を適用し、同一の職務に従事させる場合に想定される雇用管理区分・勤続年数における標準的なモデルの賃金、ということになるでしょう。人事管理の実情からすれば一般的にはむしろ勤続年数ではなく企業内資格を使うのが実態に即しているかもしれません。
 もちろん、ほとんどの場合は責任の範囲やキャリアの見通しなどについては通常の労働者とは相違があるでしょうからそれをふまえた均衡判断ということになるわけでしょうが、しかしこれ実在のパート・有期を比較対象にするより有利なんじゃないかなあ(もちろん実在のパート・有期を比較対象にする場合には通常の労働者との均衡が確保されていることが前提になっているわけですが)と思わなくもない。まあないものをどうしても出せと言われればこうでもするよりないよなという話であり、架空といえば架空ですがなにも資料に使われてないことばをあえて使って報じるようなことかとは思う。というか、実在者の労働条件を開示するよりモデルのほうがはるかにマシという部分もあるのであり、当然ながら今回の一連の議論でも実在者の処遇を開示する際には個人情報としての取り扱いに十分に注意すべきみたいな話は繰り返されてはいるわけですが、しかし職場レベルのミクロな話であって簡単に特定できてしまうケースというのも多いんじゃないかと心配にはなるわけです。もちろん労働条件のすべてが開示できないわけではなく、求人情報としての労働条件はむしろ正確かつ幅広く開示することが望ましいというのが世の中の流れだと思いますが、しかし個人レベルとなると話はまったく別なわけで。この話とは直接関係ありませんが説明義務との関係では人事評価の結果まで開示しなければならないのかとか、実務家は心配しているんじゃないかなあ。
 ということでバックグラウンドにある諸般のあれこれを考慮すれば今回の厚労省の資料は概ね妥当だろうと思います。思いますが、しかし「派遣先との均等・均衡」という筋悪な道に踏み込んでしまったせいで不要な手間がすいぶんかかる破目になっているなあともしみじみ思う。「派遣元での均等・均衡」という本来あるべき筋にとどまっていれば、これもこれ以外のあれこれもみんなしなくてすんだ苦労なわけですよ。まあ派遣労働者にしてみれば気になるのは実際に就労している派遣先職場の人たちでしょうし、したがって政治的にこうならざるを得なかったのだというのもよくわかる話なので、誰を責めるというつもりもないのですが…。

「設備投資か外国人か」フォロー

 読者の方から、10月9日のエントリ「現実は「設備投資か外国人か」ではないのでは?」でご紹介した自動調理機「ロボシェフ」が、なんと同じ日(10月9日)のNHKの朝のニュース「おはよう日本」で報じられていたとの情報をいただきました。ありがとうございます。

ベテラン料理人の味 “助っ人マシン”が再現(動画へのリンクもあります)。

 私は朝はテレ東のモーニングサテライトを見ているのでおは日は見ないのですが、ウェブで見るかぎりではその後の配膳機の話もふくめて大変わかりやすい情報提供と思いました。まあ、先日書いたようにロボシェフは遅くとも2007年に展示会に出品されていてそれほど新しいものではなく、配膳の自動化に至ってはすでに天下の加賀屋が1981年と1989年に導入している先進事例として有名)わけなのでなんか今更だなあという気もしますが、まあ外食産業が人手不足対策としてバックヤードの機械化を進めているということは世間ではあまり知られていないのかもしれません。できればユーザーだけではなくメーカーも紹介してくれるといいのになあとは思うのですがそこは時間の関係で仕方ないのでしょうか。
 それはそれとして私がおやと思ったのはロボシェフを入れているのが大阪王将だというところで、えっと大阪王将ってアレじゃなかったかしらと思って調べてみたらやっぱりそれでした。2014年9月の記事なのでもう4年以上前ですが、日経新聞のサイトにまだ記事が残っていました。

 人手不足に直面する外食各社が外国人アルバイトの活用を増やすため、教育・研修体制の拡充に乗り出した。中華料理店「大阪王将」のイートアンドは1カ月間有給で教育する制度を導入。牛丼店「すき家」のゼンショーホールディングスは外国人専用の研修施設を設けた。…
大阪王将の外国人アルバイト比率は現在15%。「都市部の直営店に限れば今後30%まで高まる」(同社)とみる。育てた外国人アルバイトは人材確保に悩むフランチャイズチェーン店や「他の飲食店にも紹介する」と文野直樹社長は話す。
…ただ、外国人アルバイトの採用を強化する企業は少数派。…
https://www.nikkei.com/article/DGKDASDZ19HHJ_Z10C14A9TJ2000/(有料ご容赦)

 まあ4年前の記事ですが現状どうかというと、FNNのウェブサイトで10月3日と4日に配信された記事(テレビ放送があったかどうかは不明)でも大阪王将の機械化の話が紹介されていました(https://www.fnn.jp/posts/00402329CXhttps://www.fnn.jp/posts/00402329CX)。大阪王将の広報がんばってるなと思うわけですがそれはそれとして、おは日でも登場した大阪王将の林淳司スーパーバイザーも登場されていて、どうやら大阪王将の外国人活用路線はさらに強化されており、そのための機械化という面もあると説明されています。

(10月3日配信)

 3日のランチタイムも大盛況だったのは、中華の人気チェーン店「大阪王将」。
 人気メニューの1つ、「チャーハン」。
 実は、普通のチャーハンとは違いが。
 ランチ客「おいしいですよ、すごい。(最新のハイテクマシンで作られたんですけど)そうなんですか。これ、鍋で料理人が作ってないの?」、「普通に手で作ってると思いました」…
…これまでは、通常5人から6人で営業していたのが、3人から4人で切り盛りすることが可能になったという。
 大阪王将スーパーバイザー・林淳司さん「都内で言いますと、だいたい8割から9割が外国人の方(スタッフ)で構成されています」
 ハイテク化により、外国人スタッフも即戦力として働いてもらえるようになった。
“職人レス”ハイテク進む 飲食店人手不足に対応

(10月4日配信)

 中華チェーン「大阪王将」で提供される、おいしそうなチャーハン。
 作ったのは、中華なべを自動で振ってくれる装置、その名も「チャーハンマシン」。
 あらかじめ味つけされた食材を鍋に投入するだけで、およそ2分でチャーハンが完成する。
 これまで、5~6人で営業していたが、マシンの導入などで3~4人で回るようになった。
 さらに、もう1つのメリットが。
 大阪王将スーパーバイザー・林淳司さんは「都内で言うと、(従業員の)8~9割が外国人で構成されてます」と話した。
 まだ日本に慣れていない外国人スタッフでも、簡単に調理することができるため、即戦力として働けるようになったという。
 ベトナム出身・勤務歴8カ月のトゥアンさんは「超簡単です。(失敗したことは?)失敗はないです。(完璧?)はい、完璧」と話した。
飲食チェーン“ハイテク化”で対応 増える外国人労働者

 でまあFNNの記事の下にはごていねいにバイトルドットコムの求人広告のバナーがあり、リンク先を見ると「We will assign a job fits you.」「More than 50% are foreigner.」などと呼びかける大阪王将志木店の求人情報などが出てきたりするわけですよ。ほらね、やっぱり現場で起きているのは「設備投資も外国人も」なんですよ。
 この先は同じ話になりますので長々とは繰り返しませんが、要するに大阪王将の餃子1人前241円(関東甲信越エリア)というのはこうやって実現しているわけです。消費者に絶対にそれしか払いたくありません値上げしたら買いませんといわれたら企業も経営者もどうしようもないということは、政策を考える際にも外してほしくないところだとは思います。