「実質値上げ」に厳しい消費者

 今朝の日経新聞から。タグ付けに迷って、結局日記タグにした(笑)

 価格を据え置いたまま容量を減らすなどの「実質値上げ」に対し、消費者の目が厳しくなっている。今春以降に実質値上げした主要10食品を調べたところ、7品目で値上げ後の販売額が前年同期比で減ったことが分かった。消費者は費用対効果に敏感なうえ、実質値上げは交流サイト(SNS)で広がってすぐに気づかれる。商品の量と価格設定について、メーカーは頭を悩ませそうだ。
 全国のスーパーなど1500店超のPOS(販売時点情報管理)データを集計する日経POS情報で、3月以降に実質値上げを発表した主要食品のうち、販売数量の多い10品目について来店客1千人当たりの売上高を調べた。7品目は値上げ後の販売額が前年同期比でマイナスだった。
…日本ではデフレが定着した1990年代から、メーカーや流通は消費者の買い控えを懸念して原材料価格の高騰などを単純に価格に反映するのは難しくなった。そこで価格は据え置いて量を減らす実質値上げが増えた。
東京大学の渡辺努教授によると、…「近年はSNSを通じて実質値上げの情報が拡散し、(減量を公表しない)ステルス値上げも気づかれやすい。原材料費高騰など値上げの必要性を、業界が連携して消費者に伝える努力が必要」…
…今春以降実質値上げした商品でも、減量と同時に店頭価格を引き下げた明治の「明治ブルガリアヨーグルト」や、値上げと同時に容量を増やしたよっちゃん食品工業山梨県中央市)の「カットよっちゃん」は前年同期比で2ケタ以上伸ばした。
 物価上昇率は政府が目指す年2%に届かず、賃金上昇のペースも緩やかだ。価格設定は本来、企業の経営判断だが、消費者が費用対効果を見極める目線はますます厳しくなっている。
(平成30年10月19日付日本経済新聞朝刊から)

 容量を変えずにストレートに価格変更(値上げ)した場合と較べてどうなのかが興味深いところですが残念ながら記事にはそこまでの記載はありませんでした。渡辺先生への取材にもとづいて書かれた記事だと思いますが、もう少しがんばってほしかったかなあ。
 さて値上げすれば売り上げが落ちるのは当然といえば当然なので、販売数量の多い10品目中7品目がマイナスということは3品目はプラスだったということなのでむしろ健闘していると言えなくもありません。
 さらに面白いのは「減量と同時に店頭価格を引き下げた明治の「明治ブルガリアヨーグルト」や、値上げと同時に容量を増やしたよっちゃん食品工業山梨県中央市)の「カットよっちゃん」は前年同期比で2ケタ以上伸ばした」というところで、明治ブルガリアヨーグルトについては明治乳業プレスリリースがあり(https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2018/detail/20180309_01.html)、それによると

 「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」および「明治ブルガリアヨーグルトLB81そのままおいしい脂肪0プレーン」については内容量450gにて展開を継続しておりましたが、近年の原材料価格や物流コストの上昇ならびにプレーンヨーグルト市場動向を踏まえ、内容量を400gに変更させていただきます。また、併せて、希望小売価格を260円から250円へと改定させていただきます。
「明治ブルガリアヨーグルトLB81」内容量変更および価格改定のお知らせ

…ということなのでグラム単価でみると0.578円から0.625円と8.1%の値上げであり、これで売り上げが2ケタ以上伸ばしたというのは、450gから400gへの変更でそこまで使い勝手がよくなるとも思えない(まあ容器がコンパクトになって冷蔵庫内のスペースを取らなくなるとかいうのはあるのかもしれないが)ので、価格改定しなかった同業に較べて値下げによる割安感があったということなのでしょう。厳しいのか厳しくないのかわからないな消費者。ただまあここから微かに示唆されるのは実質値上げにともなう売り上げ減というのは多分に懲罰的な買い控えなのではないかということで、渡辺勉先生のコメントもそうした意味合いを含んでいるように思われます。
 なおカットよっちゃんについては読者の方にはなじみのない方も多いのではないかと思いますが小袋で販売されている味付けイカの駄菓子であり、こちらは共同通信の報道によればこういう価格改定のようです。

 希望小売価格30円(税抜き)の10グラム入りと、60円(同)の25グラム入りの販売をやめ、15グラム入りの50円(同)に統一する。袋の裏に「あたり」の印刷があると、もう1袋もらえる「当り付き」(10グラム入り)は5月末で販売を終了する。
 「カットよっちゃん」は一口大のイカに魚肉などを加えて酢漬けにした商品。「よっちゃんイカ」の愛称で親しまれている。
「よっちゃんイカ」値上げ 不漁で、6月から

 こちらはグラム単価で見ると値上げ前は各3円、2.4円だったものを3.3円に値上げしており、さらに当たり付きを廃止しているので10%をかなり上回る値上げです。こちらはよくわかりませんが当たり付き10グラム入りを日常的に購入していた固定客が15グラム入りを買うようになって結果的に売り上げが伸びたというところでしょうか。荷姿の統一で相当のコストダウンになっているはずであり、こちらは販売戦略が奏功したというところかもしれません。
 ということで記事は「物価上昇率は政府が目指す年2%に届かず、賃金上昇のペースも緩やかだ」とさりげなく賃金にも触れていますが、まあ「消費者が費用対効果を見極める目線はますます厳しくなっている」中で、渡邊先生のコメントにもある「原材料費高騰」による値上げすら受け入れられない中では、人件費上昇を価格転嫁することはかなり難しいと考えざるを得ないでしょう。もちろん、過去繰り返し書いているとおり私個人としては当面投資先のない資金が企業部門に積み上がっている現状を考えれば、他に有効な使い道がないなら一部は従業員に配ってしまえと思っているわけであって賃金上昇の余地はまだいくらかはあるとも思いますが、とはいえ配り終わればそれでおしまいなわけでもあります。
 それに加えて、配ったところで一定程度は貯蓄が企業から家計に移るだけに終わる可能性も高く、もちろんこれは消費マインドの改善につながるという意味では好ましいのではありますが、いっぽうで企業の財務が優良であることが労働者の雇用の安心感につながっていた部分もあると思われ微妙な問題でしょう。いずれにしても、記事のような実態がある中ではシンクタンク等が「月例賃金(基本給)の引き上げは消費拡大の効果が大きい」という試算を発表しても企業としてはなかなかうのみにしにくいのではないでしょうか。