育休延長目的の「落選狙い」

今日(10月18日)の日経新聞朝刊に面白い記事が掲載されていましたので備忘的に。

 育児休業を延長したい人が「落選狙い」で保育所の利用を申し込む事例が目立っている。育休の延長には保育所に子供を預けられないことを証明する落選通知が必要だからだ。保育所を利用する気がないのに入園が決まり、本当に預けたい人が落選してしまうなどの混乱が出ており、厚生労働省保育所の手続きを見直す。申し込み時点で市町村が育休延長の意向を確認し、要件を満たす人には選考前に落選通知を出すようにする方針だ。
 育児休業を取得できるのは法律上は原則として子供が1歳になるまでだが、保育所に預けられない場合は最長2年まで延長できる。育休取得者には賃金の50~67%の給付金が雇用保険から支払われるため、延長するには勤務先を介して保育所の落選通知をハローワークに提出する必要がある。
 ところがこの落選通知を得るために、利用する気がないのに人気の高い保育所に申し込む事例が急増している。待機児童の多い地域で特に問題になっており、大阪市では今年、育休中の453人のうち4割弱が「落選通知のために入園を申し込んだ」と答えた。
 もともと預ける気がないのに入園が決まってしまうケースがあり、本当に保育所に預けたい人の障害になっている。
 こうした混乱を防ぐため、厚労省保育所入所の手続きを見直し、申し込みの段階で保護者に育休を延長する意向があるかを確認するよう市町村に求める。延長希望があり、申し込んだ保育所に空きがない場合には、その後の選考手続きは進めず落選通知を出す。
 保育所の定員に空きがあれば入園できるので希望があっても育休は延長できない。「やはり子供と一緒にいたい」などと入園を見送っても原則、落選通知は出さない。
 本当に保育所に預けたい人を優先しつつ、育休延長の要件を満たす保護者は、今までよりも速やかに落選通知が得られるようにする狙い。厚労省は10月下旬の地方分権改革推進会議の部会で見直しを説明する方針だ。
 厚労省は育休の延長を保育所に子供を預けられずに離職してしまう事態を防ぐための例外措置と位置づけている。「子どもと一緒にいたい」「給付金が欲しい」といった理由の延長は認めていないので、保育所の落選通知を確認する仕組みになっている。
 育休の延長期間は17年10月にそれまでの1歳半までから2歳までに延長された。これに伴い育休の給付金は2017年度に4780億円と前年度から200億円以上増えた。
 自治体からは通知がなくても2歳まで育休を取得できるよう制度改正を求める声も出ている。
(平成30年10月18日付日本経済新聞朝刊から)

 まあこの手の制度設計というのはなかなか難しいものだという話ですが、とりあえず制度利用者については(制度の趣旨には必ずしも沿わないにしても)制度的に悪いことをしているわけではないので責められないなとは思います。
 一方で厚労省の今回の対応は「預ける気のない人が当選し、その分預けたい人が落選する」という事態への対応にはなっていますが、「預けられるなら預けてください、預けられるのに預けないなら給付はしません」という制度趣旨に対する対応にはなっていないとは言わざるを得ないように思います。
 ただまあこれに厳格に対応しようとすると個別に「預けられる/られない」を判断する必要があってかなりの行政コストがかかるうえ、預けられる施設はあるけれど高いとかサービスの質が悪いとかでそこは利用したくないという人に対して「あそこを利用できるんだから給付はしません」ということを言わなければならなくなり、少なくとも少子化対策という大元の趣旨を考えるとあまり喜ばしい話でもないでしょう。
 ということで私個人の意見としては記事中の自治体と同様で通知がなくても2歳まで認めればいいじゃないかと思うわけですが(半年分ですし導入期なのでフルに効いているわけではないですが4580億円から4780億円なら思いのほか大きく増えてはいないとも思う)、まあこれまた「高いとかサービスが悪いとか言う理由で公的給付を受けるのは許さない」というのが国民の意思であるならまあどうしようもねえなという話です。こういう妙な「正義感」めいた感情がずいぶん世の中暮らしにくくしているんじゃないかと思うんですけどねえ。そうでもないのかな。