日本労働研究雑誌1月号

 ブログ一時閉鎖中のいただきもの御礼、遅くなっており申し訳ありません。
 (独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌1月号(通巻714号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。

日本労働研究雑誌 2020年 01 月号 [雑誌]

日本労働研究雑誌 2020年 01 月号 [雑誌]

 今年の色はライトブルーですね。
 さて今号の特集は「行動経済学と労働研究」「AIは働き方をどのように変えるのか」のふたつで、ともに近年注目を集めている分野であり、たいへん意欲的な編集といえそうです。
 行動経済学の知見はキャリア管理の改善にもかなり有用そうに思われ、スキルが陳腐化したらサンクコストにこだわらずに職種転換したほうがいいのになかなかそうできない、というのはいかにもありそうですし、就職先や転職先を考慮するときにカリスマ経営者の存在や就職人気ランキングや身近な人(アスレチッククラブの会員とか)の評判とかに引っ張られて判断してしまうとか、転職先の倒産の危険性を過大に見積もってしまうとか、いろいろありそうな気がします。本号の論考は賃金や労働時間といったものが中心ですがキャリアに関係する調査も探して勉強してみたいと思います。
 AIについては論考ではなく、実務家の実践報告の講演を研究者が聴取し、その後全員で座談会を実施するという形式になっていて非常に読みやすいものでした。まだまだ発展途上で未成熟な技術分野であり、その技術的インパクトについてもかなり大きく見積もった(そして時期も相当に早く見積もった)議論が先行している感があり、それだけに(いなば先生のご著書のような歴史に立ち返った議論とともに)こうした実践にもとづいた丁寧な議論が必要なのだろうと思います。
 まあ私のような人には先々どうなるかはわかりませんとしか言えないわけではあるのですが、正直座談会参加者に較べるとやや楽観的になれない感は残りました。ひとつはAIは評価者にはなれても上司にはなれないという話で、これは参加者の間ではコンセンサスだったようですが、どこまで一般化が可能なのか。参加者のみなさまの上司になるようなAIはなるほどなかなか出てこないでしょうが、私の上司なら務まるAIが出てくるのではないか。そのときにAI上司に使える人とそうでない人の分断が発生するのではないかと、これはいなば先生のご著書の主要な問題意識の一つではなかったかと思います。
 もうひとつはより実務よりの話で、上司の技能もそうですし、後段ではベテランの技能も置き換えられないという話も出てくるわけですが、それではその「置き換えられない技能」がこれまで同様に形成できますかという問題です。もし、これらの技能の形成に「それに較べれば高度でない仕事」の経験の積み上げが必要であるとすれば-現状ではOJTを通じて形成される部分が相当あることを考えるとそのようにも思えるわけですが-そこがAIに置き換わってしまっていたらそれを超えた技能の形成はできなくなってしまうことになるのではないか、という懸念です。このとき、高度技能の形成のために一部の仕事はAIでなく選ばれた高度技能人材候補のために(当座は非効率となっても)割り当てるということになるのか、それとも不便にはなるけれど高度技能はなしで済ませるのか、あるいはやはり高度技能を学習できるAIを開発することになるのか。これはけっこう悩ましい問題のように思えるのですが、まあこれは私の考え過ぎなのかなあ。そうかもしれませんというかそうであってくれるといいのですが。