私の手元に「ソニー人事開発綱領」と題された古い資料がありますのでご紹介したいと思います。まずは転載しましょう。
【ソニー人事開発綱領】
- 社員一人ひとりの人生は、ソニーで働くことがすべてではない。しかし少なくともソニーでの仕事は、社員の人生を豊かにし、また人間としての成長を約束するものでなければならない。
- 社員が人間的な誇りを持ち、のびのびと力を発揮できる風土がソニーの中に作られねばならない。
- ソニーに貢献することに強い意欲を持ち、努力する社員は、充分な自己啓発の機会を与えられねばならない。
- 優秀な能力を持ち、しかも仕事に高い意欲を持つ社員は、将来のソニーのために特別の育成計画を受けねばならない。
- 優秀な能力と高い意欲を潜在的には持ちながら、管理環境の不備のために埋もれている人材があることを会社は絶えず反省すべきである。そのような人材は評価を受けなおす機会が与えられなければならない。
- 会社の見落としや評価の間違いを修正する意味で、社員の側から会社の配慮、または再評価を求めるアッピールの手続きが定められるべきである。
- 優秀な社員の数がソニーの将来を決める。従って入社志望者のレベルを他社以上まで高める条件の探究と、ソニーに最も適した人材をできるだけ多く選ぶ選衡方法の研究開発は鋭意進められなければならない。
私自身は2000年前後に開催された研究会でソニーの人事の人に教えてもらったのですが、これ自体は1980年代のもののようです。たしかに2000年当時のソニーは多くの優秀な入社志望者が集まる企業であり、すでに「入社志望者のレベルを他社以上まで高める」という企業ではありませんでした。実際、その当時にソニーの他の人事担当者に聞いてみたところ「そういえばそんなものもあったねえ」という反応で、そのときは「ソニーでは変化に対する柔軟性を損ねないように固定的な理念はつくらない」というように説明してもらった記憶があります。なるほど、ソニーのウェブサイトをみても「愉快ナル理想工場ノ建設」などで有名な設立趣意書は掲載されていますが、あとは見るからにCSR/IRニーズで作りましたという行動規範があるだけのようです。それはそれで立派な見識だろうと思います。
したがってそういうものとして見ていただく必要があるわけですが、これが設立趣意書にあるところの「真面目ナル技術者ノ技能ヲ最高度ニ発揮セシムルベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」に大いに通じるものであることは申し上げるまでもないでしょう。意欲があって努力する社員には「充分な自己啓発の機会」で、優秀で意欲がある社員には「特別の育成計画」と言っているのはなかなかにあけすけでソニーらしくも思えますが、それに続く5.と6.がなるほど「真面目ナル」社員の能力を「最高度ニ発揮セシムルベキ自由闊達ニシテ愉快ナル」会社をつくる上で枢要なポイントをとらえていてさすがという感じがします。こうした方針に沿ってつくられた風土が多くの若者を引き付けたのかもしれません。
残念ながら現在ではほとんど忘れられた存在に近いらしく、昨年某所でこれを紹介したいと思って現在のソニーの幹部の方に問い合わせたところ「知りません」とのお答えでした。ウェブ上をあれこれ検索してみてもヒットせず、しかしながらこのまま埋もれてしまうのもあまりにも惜しく感じたので、だったらこの際1件くらいはヒットするようにここでご紹介した次第です(笑)。上記のような経緯ですので私のご紹介も趣旨や内容などに誤りがある可能性もあり、もしこれに関する事情をご承知の方がいらっしゃいましたらぜひともお知らせいただければとお願い申し上げます。