ユニクロはどのくらいブラックなのか

さて上のエントリで柳井正氏のブラックぶりについて書いてきましたが、柳井氏はもともとそういう露悪的な発言をする人で、以前も書きましたが(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20051222#p2)やや辟易させられるところがあります。
いっぽうでユニクロは女性活用や非正社員の正社員登用などでは好事例・先進事例であったことも多く、障害者雇用の分野では有数の優等生ですし、今となっては隔世の感がありますが数年前の名ばかり管理職問題のときには店長を管理監督者扱いしながら長時間労働となっていない好事例とされていました。
ということもあり、現在は柳井氏のグローバル狂いでブラック化しているとしても、それはかつての成果主義騒ぎで右往左往した多くの企業同様、修正が働いてくるのではないかとも思うわけです。期待しすぎでしょうかね。
まあ期待しすぎかもしれませんが、ここではそういう観点もふくめて、上のエントリでスキップした世界同一賃金導入の記事を読んでみたいと思います。

 「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング柳井正会長兼社長は、店長候補として採用した全世界で働く正社員すべてと役員の賃金体系を統一する「世界同一賃金」を導入する考えを明らかにした。海外で採用した社員も国内と同じ基準で評価し、成果が同じなら賃金も同水準にする。
 すでに役員や上級部長らは実施し、今後、一部の店長まで広げる。企業のグローバル展開が加速するなかで、賃金体系の統一にまで踏み込む企業が出てきた。
 日本の働き手たちは、新興国や欧米の社員と共通の土俵で働きぶりが評価され、世界規模の競争を強いられることになる。新制度が根づけば、給与水準が全世界で均一化していき、比較的高い日本の給与が下がる「賃金のフラット化」につながる可能性もある。
 新制度では、欧米や中国など13カ国・地域で店長候補として採用した社員すべてと役員を「グローバル総合職」とし、職務内容で19段階に分けた「グレード」ごとに賃金を決めた。
 このうち上位7段階に入る執行役員や上級部長は、どの国でも同じ評価なら報酬や給与を同額にした。各グレードの賃金は日本より高い欧米の水準に合わせて統一した。最上位は柳井会長で4億円。将来は対象を2段階下の約60人いる部長級にも広げる計画という。
(平成25年4月23日付朝日朝刊から)

なるほど先進事例ではあると思いますが驚くほどのものでもないという印象で、連結で2万人弱の従業員のうち対象者は店長候補(グローバル総合職)5,000人弱で、しかも現実に「世界同一賃金」となったのはわずか51人、将来拡大しても100人そこそこという話にすぎません。世界一高い欧米の水準に合わせましたというのはたしかにちょっと驚くところですが、まあグローバル展開している企業ではそれほど珍しくないものだろうと思います。

 そのほかの「グローバル総合職」のうち、上位8〜14段階にあたるスター店長ら約1千人(海外採用は約300人)についても「実質同一賃金」にする。店長以上なので、残業代は出ない。国によって名目の額は違うが、それぞれの国の物価水準などを考慮し、実質的にはどの国でも同じ生活ができる水準にする。少なくとも各国の同業の上位企業の賃金水準までは引き上げる。調整が複雑なため、具体的な制度づくりには時間がかかる見通しという。

生活水準が同じになるように、ということで「実質」としたわけでしょうが、「調整が複雑なため、具体的な制度づくりには時間がかかる見通し」というのは、まあそうでしょうねえ。現実には記事にあるように「同業の上位企業の賃金水準」ということに落ち着くのではないかと思います。連結20,000人弱、グローバル総合職5,000人弱のなかの1,000人なので、まあ比率はやや高いような気もしますが、スター店長といえばたしか年収1,000万円で旗艦店の店長クラスなのでしょうから、まあ残業代は出ない=管理監督職扱いでもいいかもしれません。

 当面は「実質同一賃金」にしない社員も含め、「グローバル総合職」の約4900人(同約2200人)はすべて、評価基準を一本化した。国境を越えた人事異動をやりやすくするためで、職歴や将来目標など社員のデータも一括管理し、同じ基準で競わせる。

これもまあ評価基準なんてどの国で誰が作ってもそれほど大きく違うものにはならないはずで、いや人事考課(というか考課調整)を国境を越えてやろうとするとかなり骨の折れる仕事になりそうですが、基準の統一と情報の一括管理くらいの話ならむしろ効率が上がっていいくらいの話かもしれません。

 狙いは、「世界各国で優秀な人材を確保する」(柳井会長)ことにある。2020年までに店舗数をいまの4倍の約4千店に増やし、そのうち約3千店を海外店にすることを計画している。急拡大するには、高水準の給与を払い、新興国でも優秀な人材をひきつける必要があるとしている。

いずれにしても賃金は上がる話になるようなので、人材確保や士気意欲の向上にはいいんじゃないでしょうか。業績が伸びていて業容が拡大している企業の労働条件が改善するのはたいへんけっこうな話です。

 ただ現段階では、例えば中国で採用された店長は、米国や日本の店長になれば賃金を上げるが、逆の場合は賃下げはしない考え。

そうそう。ここが重要で、「実質同一賃金」をいうなら日本人が中国の店長になった場合は賃金も「生活水準が同じになる賃金」に変更すべきところ、そこまではやりませんという話ですね。まあ、そんなことしたら海外に行く日本人はいなくなるに決まっているわけで、結局のところ日本人駐在員とローカルスタッフの賃金差は温存されるということでしょう。もちろんこちらが当たり前のやり方です。

 だが、これまでのような高収益が確保できなくなった時は、新興国に比べ割高な賃金水準が下がる可能性について「今は考えていないが、理屈上はありうる」(山口徹人事部長)という。

ここも重要なポイントで、人事部長が「理屈上はありうる」と言ったらまあ「実際にやる気はない」という意味としたものでしょう。何度も書いていますが、「制度上ありうる」と「現実にそうする」というのは天地の差があり、制度上は降格や減給のしくみを持っている企業でも(例外は別として)実際に多数の降格減給を日常的に行っている企業はごくまれではないかと思います。

 新制度について、柳井会長は朝日新聞のインタビューで「世界どこでも、やる仕事が同じだったら同じ賃金にするというのが基本的な考え方」と話す。

ということで、まあ「グローバル総合職たるもの、世界中で活躍して、世界中の仲間と競い合うという気概で働こうじゃないか」という理念を示した制度だというまとめでいいんじゃないかと思います。柳井氏は意地でも(笑)強硬なことを言わざるを得ないのでしょうが(それが賢明とも思えませんが余計なお世話ですね)、現実にはリーズナブルな運用がされていくんじゃないでしょうか。上でも書きましたが、ブラック批判を受けてあれこれ対処が打たれているのではないかというフシもありますので、まあ今現在はまだ相当にブラックなのだろうとは思いますが、いずれは軌道修正して「ブラックだけど求心力のある経営者」を戴く普通の企業という感じになっていくのではないかと期待したいところです。