大内伸哉先生から、最近著『労働法で人事に新風を』をご恵投いただきました。ありがとうございます。
- 作者: 大内伸哉
- 出版社/メーカー: 商事法務
- 発売日: 2016/01/12
- メディア: 単行本
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ただまあ私にはそもそも論的にこの本の建付けに抵抗感があり、もちろんこれは私の純然たる個人的感想であってこの本の価値とは無関係ですが、ひとつはこういう体裁だと法律はきちんと守りましょうという話にしかならないわけで、したがってお話がコンプライアンスの観点から勧善懲悪的に進んでいる分にはいいぞやれやれもっとやれという感じで愉快に読めるいっぽう、そうはいってもこれ法律のほうがおかしいよねえという話は懲悪される側の言い分にならざるを得ず、読み手の頭に残らないのではないかという気がするわけです。
もうひとつは「人事に新風を」という話の部分で、企業が行う人事管理の高度化ということになるのでしょうが、これは第一義的には企業が(労働者と協議しながら)利益をあげ成長していくために取り組むものであって、法律がこうだからそうしなければならない、というものではないだろうということです。コンプライアンスは当然のことですし、この本で描かれているような知識不足・情報不足の企業も多いでしょうから周知啓発活動も大事だろうとは思いますが、しかしながらそれを超えた部分まで企業の人事管理や労使関係に法がバリバリと介入してくるというのは私としては率直に申し上げて余計なお世話だと思います(もちろん、人事担当者としてやりたいことに経営の理解が得られない場合などには、それを法律で義務化してくれるのはむしろ歓迎というケースもありますので手前勝手な言い分であることは否定はしません)。それと関連してこのお話では集団的労使関係の存在感が非常に薄く、労働者代表・労使協定のほかにはトラブルとしての(しかしその割には妙にものわかりのいい)合同労組が出てくるだけです。まあ(特にこの規模の企業では)それが実情だろうと言われればそのとおりなのかもしれませんが、しかし人事管理の高度化をいうのであれば落とすべきでないポイントだと思うのですが…。
あと、これはまあ大方のみなさまには無関係な話ですが、ネタバレになるので詳しくは書きませんがこの本のオチはかなりブラックなもので、それ自体はまあ古くから懸念されていて実際に実現してもきたリスクであって、こういうことにも気をつけなければいけませんよという話だろうとは思うのですが、しかし人事担当者(しかも社労士でもあるという設定の)にこれをやらせますかねえ。もちろんお話を面白くするため(実際話としては面白いと思います)であって著者にそんな意図はないでしょうが、これじゃこの主人公も愛知県のイカレた社労士さんとたいして変わらないんじゃないかなどと思うことしきり。この本を読んだみなさまに世の中の人事担当者とか社労士さんとかいうのはこういうものだと思われてしまったら、一人事担当者OBとして残念に思います。