城繁幸氏が貧困ジャーナリズム特別賞を受賞されたとのお知らせを読者の方からいただきました。いや正直驚いた。
私の認識は貧困ジャーナリズム大賞とは単なる身内褒めで朝日くらいしか記事にしないシロモノだというもので、まあ城氏についても「特別賞」扱いになっているのは身内じゃないんだぞということだろうと思います。で、選評はこうなっております。
J-CASTニュース 会社ウォッチ「ザ・シミュレーション生活保護2030」
有名芸能人の母親が生活保護を受給していたことが大きな社会問題になったとき、「いま何が進行しているのか」を、ネット上で批判している人たちに届く言葉で書いた秀逸な逸品。城氏はジャーナリストではないが、ジャーナリストや学者には書けない、きわめてジャーナリスティックな仕事。読んだとき「そう!こういうのが必要なんだよ」と膝を叩かせてくれた。
http://antipoverty-network.org/award/award2012/
ということで、「ジャーナリストではない」と仲間はずれにしつつも、まあ絶賛と申し上げていいでしょう。ということで、この「ザ・シミュレーション生活保護2030」という作品を読んでみたのですが、いつもどおりのネタでした。まあ城氏のやることだから致し方ないとしたものでしょう。とはいえ読み物としてはたいへんに面白く、なるほどこういうのが反貧困ネットワークの人に「「そう!こういうのが必要なんだよ」と膝を叩かせ」る「ネット上で批判している人たちに届く言葉で書いた秀逸な逸品」なのかと妙に納得してみたり。ま、知的水準が高い反貧困ネットワークの皆様から見れば、ネット上で有名芸能人を批判している人たちにはこういうのがぴったりだということなのでしょうな。
もちろんこれは勝手に選ばれた城氏にはなんの責任もない話ですし、この作品はネタではありますが十分に一読の価値はあると思いますのでリンクをはっておきます。
http://www.j-cast.com/kaisha/2012/06/04134359.html
というのも生活保護についての基本的な考え方は非常にまともであって、保守おやじではあっても権威主義ではないリベラルである私もまったく同感するところだからです。まあ「夫婦別姓にすると日本の家族制度が崩壊する」とか主張する権威主義者の方々はまた違うご意見でしょうし、それはそれでご自由とは思いますが。
そこで、ちょっと関心をひかれて探してみたところ産経のこんな記事を発見しました。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/120629/trd12062908010006-n1.htm
やべえ城氏まともすぎ。いやこれは本当に一読すべき記事と思います。とりわけ「生活保護制度はどうあるべきか」と問われて「敷居を低くして、必要な人は確実に保護を受けられるようにすべきだ。その代わり働ける人には就労を後押しして保護の状態から押し出すのが基本だ。そのためには、生活保護の支給をする市町村と職業安定所を一体にするといいだろう。生活保護を受けている人に職業を紹介する。斡旋(あっせん)した仕事は断らせない。そのようにして自立を促せばいい」と答えているところなど、きわめてまっとうな意見と申せましょう。「最低保証年金月7万円」というのも今の国保の水準と大きくは異ならないので、まあそれほどバラマキ・大きな政府路線でもなさそうですし。不正受給オッケーみたいなことを言ってしまっているのは勇み足でしょうが、それを除けば私も大筋で賛成できる意見ばかりです。どうやら城氏は自分で書くとウケを狙ってネタに走ってしまうのかな。インタビューだとそれがなくなってかえっていいのかもしれません。いや見直したぜ(本件に関しては)。
- ときにここでの城氏の主張(職業紹介を断ったら給付打ち切りとか最低保証年金は月7万円でいいとか)はおそらく反貧困ネットワークの皆様には不満な部分もあるのではないかと思うのですが、まあそうでもないのかなあ。
- なお「子どもがガッツリ稼いでいるなら親の面倒くらいみろよ」という批判がそうしたケースにおける生活保護受給の牽制になること自体は私は必ずしも全否定はしません。まあそう思う人がいるならいるでそれは仕方ねえよなと。それでも受給する人は受給すればいいわけですし。要するに城氏の受賞作にあるように絶対そうすべきだ、そうしなければならないという話にすることは極めてまずかろうという話です。
- (8月25日追記)記事の中の「斡旋した仕事は断らせない」に対して「労働条件・就労環境が劣悪な仕事を紹介された場合にも断れないのはおかしい」という趣旨のメールをいただきました。この方にはお返事を差し上げましたが、ブックマークコメントでも同様のものがいくつかありましたのでフォローしておきます。まあ記事も言葉足らずなので誤解を生むのも致し方ないのですが、海外の事例などをもとにした現時点の議論では、仕事のあっせんは複数の選択肢が提示されるという前提になっています(たとえば3回断ったら給付を停止する、いわゆる「ストライクアウト方式」など)。また、「就職してみたらブラックだった」という場合にはもちろん退職すればいいわけで、事務のはずなのに事実上営業だったとか、残業月20時間のはずが実際には45時間だったとか、あるいは上司に暴言を吐かれたとか、それなりに説明がつけばペナルティはない、という議論がされていると思います。城氏がこのあたりまでご承知の上で答えられたのかどうかはわかりませんが、しかし記事全体のまともさを考えると今回はご承知だったのではないかと推定しておきたいと思います。
ちなみに城氏は本件受賞について別の記事で率直に喜んでおられます。
実は先日、本連載コラムの「ザ・シミュレーション生活保護2030」によって、「貧困ジャーナリズム大賞2012」の特別賞を受賞させていただいた。素晴らしい! 社会保障の話としてはごくごく入門編的な内容ではあるが、そういうことすら知らない国会議員のセンセイ方も日本にはおられるようなので、よい教材になったのではないか。
http://www.j-cast.com/kaisha/2012/08/15142919.html
いや反貧困ネットワークは国会議員のセンセイじゃなくてネット上で有名芸能人を批判している人たちにはよい教材になったと評価しておられるようですが。で、同じ記事で続けて
その会場で行われたシンポジウムでの話。相変わらず朝日新聞系の識者の面々が「規制緩和で終身雇用を壊したから格差が拡大した云々」というのをおっしゃっておられた。… 聞いたことないような駅弁大学や、5浪とかした27歳学部卒とか、面接ですらまともにコミュニケーションが成立しないような人材を、天下の朝日新聞社は新人として受け入れ、現場に配属できるのか。
http://www.j-cast.com/kaisha/2012/08/15142919.html
などとおちょくってしまう城氏もまあおちゃめというかなんというか。まあ城氏から見たって身内じゃないことは間違いないわけなのでまあそうなりますかね。
なおリンク先をお読みいただければわかりますが残念ながら?この記事もネタです(笑)。ただ面白いところを突いているなと思うところもあり、城氏もかなりのキャリアを積んできてそれなりに勉強もされているようですし、ネタとはいえ筆も立つわけですから、そろそろ「人事コンサルタント」の看板を下ろして経済評論家とかフリーライターとかに転じられたらどうかなあ(いやとっくに転じられているかもしれないが)。そろそろ怨念も薄れてきたのではないかと思いますし、なにがなんでも「長期雇用憎し」の一つ覚えからうまく足抜けすれば、反左翼の評論家としてけっこうイケるんじゃないかと思うのですが。いや余計なお世話ですけどね。
余談ながら片山さつき衆院議員については、日本の家族制度云々というよりは、元大蔵キャリアとして生活保護の使われ方が許せないという事情が大きいのではないかなあと思いました。