大阪ダブル選挙

維新の会の勝利という結果はともかく、投票率が高かったのには驚きました。まあ愛知県知事・名古屋市長選と同じで、既存政党に対する不満・批判の受け皿がポピュリスト政党だったというところでしょう。既存政党に対する不満が高いなら政党色を消して無所属で立候補するというのが一般的ではないかと思うところ、自民党から共産党まで一緒になってのオール既存政党(公明党は自主投票だったようですが)で対抗したわけですからこうなることは目に見えていた、と結果論を書いてみる。
さて橋下氏は「大阪市役所は税金を食いつぶすシロアリ」とまで発言しているそうで、ポピュリストの言説には「公務員は仕事が非効率なのに給料が高すぎるのでもっと人を減らして給料も下げるべき(そうすれば減税できる)」とか言った論調が往々にしてみられます(橋下氏がそう言っているというわけではない)。まあそれはそれで問題ではありますが、しかしそれで本当に問題が解決するかといえば現実に起こるのは行政サービスの低下であって生産性向上ではないでしょう。
菊地達昭著『キャリア妨害』という本があります。横浜市大における横浜市職員(書中では一応Y市・Y大となっていますが)の信じられない*1非効率ぶり・非常識ぶりを詳細に描き出した本です。

キャリア妨害

キャリア妨害

極度の形式主義や前例主義のために掲示板にポスターを貼るのにも起案書と決裁が必要とか、講演の講師に出すペットボトル入りミネラルウォーターの調達にも見積もりが必要とかいった非効率が放置されていたり、職員の能力不足(とりわけITスキル)のために事務処理が人海戦術で行われている一方で卒業生のまともな名簿すらなかったり、まことに珍妙な実態がこれでもかと詰め込まれています。まあ多少の誇張はあるのかもしれませんが、私が承知するかぎりでは菊地氏は非常に誠実な人物であり、他の著作をみても誇張などとは無縁ですから、まずまず実態どおりと考えてよいものと思います。
こうした実態でも職員にはけっこうな額の給料が支給されているわけで、菊地氏も「税金の無駄づかい」と書いていますが、いっぽうでこれはシステムの問題であることも正しく指摘しています。人事評価が減点主義なので、失敗を恐れて新しいことに取り組まず、前例踏襲になりがちなこと、問題が起きたときの言い訳のために形式にこだわること、短期間での人事異動が繰り返されるため問題があっても自分の任期中だけやり過ごせばいいという考え方になること、人事異動がランダムで人材育成のポリシーがないため専門家がまったく育たないこと、などなどが指摘されています。
そこで橋下氏に戻りますと、大阪府教育基本条例案に隠れて影が薄い「大阪府職員基本条例案」の人事評価の項目などをみると、まあ一応は業務の質と職員の能力の向上を意図したものになっていると言っていいと思われます(まあ見るほどにツッコミどころの豊富な代物でもあるのですが)。ちなみにこの条例案については大阪府の人事部局との意見交換なども複数回行われており、維新の会が府議会で多数を占めるにもかかわらずまだ採決されていないなど、「ハシズム」「独裁」とか言ってるわりには口ほどにもなく(笑)けっこうまともな手続きを踏んでいるようにも見え、案外ソツなくやってるなという印象です。それやこれやで名古屋の人に較べるとかなり上手かなという感じもこらこらこら。まあポピュリズムに違いないとは思うんですけどね。

*1:なおこれはレトリックで、私の感想はまあさもありなんというものでした。