吾妻橋氏@大機小機

長くなってきたので続きは明日以降に回したいと思いますが、29日の「大機小機」欄に「吾妻橋」氏が登場されました。例によって明快かつ的確な議論を展開しておられますので、備忘的に転載しておきます。

 ギリシャ旧政権による、国家財政の大幅な粉飾決算が明らかになったことで、共通通貨ユーロが揺らいでいる。国際通貨基金IMF)などによる緊急融資が決まったが、ギリシャの経済危機が解決できる保障はない。
 1997年の東アジア経済危機では、IMFの緊急融資を受けた国々は生活水準の引き下げを受け入れ、その後立派に再生した。特にIMFの厳しい管理下に置かれた韓国では、そうした屈辱を二度と繰り返さないためにも、構造改革への合意が形成された。
 賃金の引き下げには、どの国の労働者も抵抗する。しかし、変動為替レートの下で、自国の通貨が大幅に減価することには誰も反対できない。その結果、他国と比べた賃金水準が低下し、対外競争力が回復すれば輸出主導で経済や生活水準も改善できる。
 だが、経済再生に最も有効な手段がギリシャでは活用できない。共通通貨制度の下では為替切り下げという政策手段が奪われているからだ。国内の価格や賃金を引き下げるしかないが、国民は賃金や年金の引き下げなどを伴う改革を断固拒否しており、政府は十分な統治力を欠いている。
 他国が際限なき援助を続けない限り、抜本的な解決方法は共通通貨制度からのギリシャ離脱しかない。その結果、ギリシャ国債保有する欧州銀行が多額の損失を被るとしても、追い貸しで不良債権が際限なく膨らむよりましだ。ギリシャの通貨価値は暴落するだろうが、それなくして経済は再生できないのである。
 ギリシャ危機は、欧州通貨制度をまねた、鳩山由紀夫総理のアジア共同体構想の非現実性を明らかにした点でも有益である。日本の財政赤字9%、国内総生産(GDP)比の政府債務残高200%(いずれも2010年、経済協力開発機構OECD=見通し)の現状は、欧州通貨統合への加盟最低基準の3倍強。仮に日本が欧州の端にあっても、共通通貨に加盟できない。
 日本政府も、国民に甘言をろうして破綻状況になったギリシャの教訓から学ぶべきだ。にもかかわらず、財政刺激で需要が増えれば、公的債務が累積しても中期的な経済成長が可能という空想的論理がはびこっている。経済成長戦略の基本は、財政依存ではなく、企業の活力を生かすための制度や規制の改革だ。これを妨げている利権集団との戦いは本来、民主党の表看板であったはずだ。

全文引用して終わりでは著作権上まずいかとの思いもあり若干の稚拙な感想を書きますと、まあ、ごく単純に考えれば、公的債務が累積するということは国民全体でみれば国の実力以上の豊かな暮らしをしているということなのでしょう。もちろん、それは全体でみればであって、ギリシャで噴出しているように、その是正をはかろうというときには分配のあり方が大きな問題になるのでしょうが…。
いずれにしても、わが国の場合は財政の惨状が周知されている(と信じていいんですよね?)点においてはギリシャよりかなりマシであり、国民負担率も国際比較上はそれほど高い部類には入らない(増税の余地がある)という点でもまだ再建の可能性はあるわけですから、分配論に時間を費やすよりはまずは全体の負担増を先行させる(要するに消費税を上げる)ことが重要なのではないかと思うのですが、違うのでしょうか。もちろん、実際に増税するとなれば並行して勤労所得税額控除などの施策を実施する必要はあるでしょうが…。