日経ビジネスのウェブサイト、NBonlineの「日経情報ストラテジー発ニュース」で、きょうのニュースとして「日本郵船、船員育成体制をグローバルに強化」という記事が掲載されていました。
日本郵船が輸送能力の増強に備えて、船員の育成体制を強化している。同社は2010年に保有船舶を現在の50%増やし230隻を運行する計画である。これに伴い船員は2010年には世界で1.5倍で年間3320人の有資格者が必要になるという。
そこで、世界で船員の早期育成を図るための体制作りに2005年から着手している。世界に7カ所の教育拠点を設置したほか、研修プログラムの標準化を進めている。さらに新たな試みとして2008年度中に訓練専用の船を4隻投入し、実践的な教育訓練の場作りを進める。
従来の教育体制は、正社員雇用する日本人の船員だけを想定してきたが、近年は外国人だけで運航するケースが増えた。既に船員のうち日本人は約10%にすぎないという。海外の船員は、乗船期間だけの契約社員である。契約社員である外国人船員に対していかに日本人と同様の教育プログラムを提供できるか焦点になる。契約社員を想定するとなれば、長期間の教育体系は実態に合わず、短期間で必要なことを教える体制作りも必要だ。
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さらに、将来一等航海士など幹部候補生になるフィリピンなどの商船大学に通う学生を対象に、訓練専用のコンテナ船を2008年12月までに4隻導入する。3カ月間インストラクターとともに乗船し、実際の航海上で発生する事象を体験してもらう。2009年以降も、原油タンカーの専用船を2010年に導入するなどして、2012年までに6隻の練習船を配備する予定だ。
研修を担う日本郵船の子会社、MTI(東京・千代田)の平野利秋取締役は「昔は日本人の正社員を20年かけてOJT(職場内訓練)中心で一等航海士に育てた。いまは契約社員であり国籍もばらばら。教育体系を抜本的に見直さないと、船員を十分に確保できない」と取り組みの背景を話す。
(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20081105/176298/)
「船員」といっしょくたにされていますが、典型的な外航船舶には、海技士資格を持つ「職員」が8人乗務することが業法で定められており、他に資格を持たない「部員」が13〜16人、計21〜24人の「船員」が乗務しているようです。もちろん、日本国籍の船舶には日本の海技師資格保有者が乗務するわけですが、現実にはフラッキング・アウトが進んで便宜置籍船が増えたことから、国際海事機関(IMO)の「船員の資格証明等に関する条約(STCW条約)」締結国の海技士資格は事実上国際的に通用するようになっているようです。そこで、日本の海運会社が外国人職員の育成に乗り出す…という構図が出てきます。
記事にも少し出てきますが、日本の海運会社の外航船舶ではフィリピン人船員が多数就労しています。全世界の外航船員の45%がフィリピン人であるという話もあるのだそうで、船員の派遣はフィリピンの基幹産業の一つといえそうです。そこで日本の海運大手はそれぞれマニラに現地財閥と合弁でフィリピン人船員の採用・育成を行う会社を設立し、船員の確保をはかっています。日本郵船であればNYK-Fil Ship Management Inc.、商船三井であればMagsaysay-Mitsui O.S.K. Marine Inc.といった具合で、これらは「配乗管理会社」と称されているのだとか。これらの会社が自社船舶をフィリピンの海員学校の実務実習に提供し、成績良好な人を「部員」として採用する、という構図になっており、さらに海技士資格の取得・「職員」への昇格をも支援しているのだそうです。この記事は、日本郵船がこうした体制をさらに強化する、ということでしょう。
外航船舶の船員は、日本に寄港はしても上陸・入国して就労するわけではありませんので、日本船籍の船舶で就労していても「外国人労働者」とはなりません。とはいえ、こうした日本船籍の船舶で就労する外国人船員の相当割合は日本の労組である全日本会員組合に「非居住特別組合員」として組織されているくらいで、多分に「外国人労働者」に近い位置づけにあるといえましょう。その一方で、日本国内を航行する内航船舶には、約3万人の船員が乗務しているといわれていますが、これについては外国人の乗務は禁止されています。
まあ、外航船舶は英語が共通語なのに対して、内航船舶では当然日本語が使われるわけですから、コミュニケーションの問題はあります。しかし、日本の海運会社が経営する配乗管理会社であれば、フィリピン人船員に日本語を教育し、内航船舶での乗務に必要なスキルを身に付けさせることも可能ではないでしょうか。そのような外国人船員に対してであれば、内航船舶への乗務の門戸を開いてもいいのではないでしょうか?
もちろん、それには需要があることが大前提で、当然ながら日本人船員3万人の雇用が脅かされることがあってはなりません。通常のいわゆる外国人「高度人材」のような人数無制限の受け入れではなく、日本人の雇用に影響を与えないような数量規制は必要でしょう。諸外国で行われているように、まずは国内で適正な労働条件の求人を出し、充足されない場合に限って外国人の就労を認める「労働市場テスト」の採用も検討に値するでしょう。
もちろん、外国人労働者の受け入れは非常に難しい課題であり、諸外国の例をみてもあまりうまくいっているとはいえないのが実情でしょう。わが国の現状をみても、高度人材の受け入れが必ずしも進んでいないのに対し、良好とはいえない就労環境・労働条件で働いている外国人が相当数いるのが実態で、そうそう安易に外国人労働を増やしてもいいという状況にはないのだろうと思います。ただ、現実にフィリピンのように労働力の送出が国家経済を支える産業になっている国もあります。今のところ、看護師や介護士などの受け入れは始まっており、あまり進展していないのが実情なので、時期尚早という感もなきにしもあらずですが、少なくとも中期的には、グローバル化が進展しているこんにち、きちんと品質保証された外国人労働力であれば、国内の労働需給や労働条件、あるいは社会的諸事項に悪影響を与えないような適切な規制のもとに、一定の受け入れを考えてもいいのかもしれません。その規制のあり方がまた難しいわけですが(とりわけ社会的影響に配慮した在留期間や出国管理のあり方などは)…。