「生活対策」への労使の反応

例によって同じネタで引っ張って申し訳ないのですが(笑)、「生活対策」に対する労使の反応をチェックしてみましょう。
まず連合ですが、「生活対策」が発表された翌10月31日、さっそく事務局長談話を発表しました。

 10月30日、政府・与党は合同会議を開催し、事業規模26.9兆円の「生活対策」を決定した。同対策では、生活者への対策を第一の柱に置くなど、これまでの対策に比べて家計部門に配慮しているが、それらの多くはこれまで連合や野党が主張してきた政策を取り入れたものである。
 現在の世界同時金融危機は、アメリカの住宅バブル崩壊に起因する。その源流を遡れば、1980年代にレーガン政権が推進した「小さな政府」政策に辿り着く。この政策は日本でも、小泉政権下において推し進められた。その結果、資本の暴走を助長し、格差が拡大したことは周知の事実である。
 現在の危機に直面し、グリーンスパンFRB議長が反省の弁を述べるなど、世界はこの政策の誤りを認め、政策を転換しようとしている。麻生総理の会見が、淡々と現状と対策を説明するだけに終始し、政府の責任についての言及がなかったことは、政権党総裁としての自覚に欠けるとの誹りを受けよう。
 「生活対策」では、金融資本市場の安定確保を最優先課題として、(1)生活者の暮らしの安全、(2)金融・経済の安定強化、(3)地方の底力の発揮を重点分野と位置づけた。また、財源を赤字国債に依存せず、安定財源確保に向けた中期プログラムを年末までに策定することとした。
 麻生総理は会見で安定財源として3年後に消費税を上げることに言及したが、社会保障国民会議や政府税調の議論を待たずして、消費税増税との結論をつけることは、民意を軽視していると言わざるを得ない。
 さらに問題なのは、具体的施策において、雇用保険の料率引き下げを検討するとしている点である。連合はこの政策に反対する。雇用失業情勢が下降局面にある中で、料率の引き下げを行うべきではない。不況期になれば給付費は現在の何倍にも膨らみ、積立金もつるべ落としのごとく減少する恐れがある。保険料率を引き下げることよりも、給付を手厚くし不安を取り除くことこそが今求められていることである。
 この件に関連して、財政審などで雇用保険の国庫負担を削減する方向で議論が行われている。しかし、国庫負担の削減は国の失業に対する責任の放棄を意味するものであり、断じて認めることはできない。
(以下略、http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/danwa/2008/20081031_1225442229.html

「これまで連合や野党が主張してきた政策を取り入れた」というのはそのとおりでご同慶ですが、「金融危機は、アメリカの住宅バブル崩壊に起因する。その源流を遡れば、1980年代にレーガン政権が推進した「小さな政府」政策に辿り着く。この政策は日本でも、小泉政権下において推し進められた。その結果、資本の暴走を助長し、格差が拡大した」というのはどうなんでしょうか。グリーンスパン氏が非を認めたのは「金融緩和の行き過ぎが米国の住宅バブルを招いた」「金融機関に対して過度に放任した」という金融政策の誤りについてであって、なにもその他の規制緩和とか再分配の縮小とかについてまで反省の弁を述べてはいないでしょう(というか、FRB議長が金融政策以上のことに責任を持てるわけがないわけで)。低金利はともかく、金融の規制緩和はたしかに「小さな政府」路線とイデオロギー的に親和的かもしれませんが、金融政策の失敗をもって「小さな政府」路線がすべて誤っているかのような言い方をするのはやや行き過ぎのような気がします。まあ、このあたりは連合の主義主張からすればそういうことになるのかもしれませんが。ただ、小さな政府に批判的な路線をとるのであれば、消費税増税に否定的な立場をとることは理屈としては矛盾しているのではないでしょうか。消費税増税しても社会保障や福祉を充実するというのが「大きな政府」路線ではないかと思うのですが…。まあ、これは「社会保障国民会議や政府税調の議論を待たずして」という手続きを問題にしているのだ、ということかもしれませんが。
さて、「これまで連合や野党が主張してきた政策を取り入れた」という一方、「さらに問題なのは、具体的施策において、雇用保険の料率引き下げを検討するとしている点である。連合はこの政策に反対する。」とわざわざ明言しているのは、さすが労組と申せましょう。「雇用失業情勢が下降局面にある中で、料率の引き下げを行うべきではない。不況期になれば給付費は現在の何倍にも膨らみ、積立金もつるべ落としのごとく減少する恐れがある。」というのは、まことにもっともな指摘です。「保険料率を引き下げることよりも、給付を手厚くし不安を取り除くことこそが今求められていることである。」というのは、本当にそれでいいのかとか、その原資はどうするのかとか、手厚くしたとしてもいずれは打ち切られる失業給付の拡充にどれほど不安を取り除く効果があるのか、といった議論はいろいろとありそうですが。いっそ「保険料率をむしろ引き上げて、給付を手厚くし…」と書けば潔かった(?)のではないでしょうか。余談ながら、これは被雇用者(と企業)から失業者への再分配の効果がありますから、「大きな政府」路線に沿ったものでもあります。
さて、経済界のほうはどうかといいますと、やはり10月31日に経団連が御手洗会長のコメントを出しています。

 現下の極めて厳しい経済情勢を踏まえ、総合的な対策が迅速に取りまとめられたことを歓迎する。
 内容をみると、雇用・中小企業対策、個人消費の喚起、住宅投資の促進、環境対応の設備投資促進、証券市場の活性化、金融市場の安定化など、非常に幅広く、景気の下支え効果が期待できるものとなっている。
 さらに、社会保障の安定財源確保などに向けた、税制改革の中期プログラムの「基本骨格」が示されたことも評価できる。国民の将来不安の解消につながることが期待される。
 今後は「生活対策」に盛り込まれた施策の実施に、スピード感をもって取り組んでほしい。国民生活を最優先に、与野党が協力し、関連法案の審議を速やかに進めてほしい。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/comment/2008/1030.html

だいたい経団連の会長コメントはこのような手短なものが多いのですが、それにしてもこれはずいぶん簡単なコメントで、内容も表現振りも連合の事務局長談話とは対照的です。要するに「この際やれることは頑張ってどんどんやってくださいね」というような意味でしょう。政府・与党がスピード感をもって「経済界に対する賃金引上げの要請」に取り組んだ際に、経済界としてどう対応するつもりなのか、これだけでは読み取れませんが…。