企業内保育所と通勤問題

先週金曜日の日経新聞夕刊生活面から。日本郵船の企業内託児施設の話題です。

…野間さんは日本郵船が同保育室利用者を対象に1月から導入した「マイカー通勤制度」の適用第1号。会社側が駐車場を3台分確保し、ガソリン代も負担する。4月に育児休暇から職場復帰して以来、車で通勤している。…
 保育室のもとには通勤の負担を訴える声が多く寄せられていた。利用も当初予想ほど伸びず、常時利用者は2002年4月の開所から今年1月までわずか1〜2人。「利用者ゼロになる危機感があった」とマイカー通勤導入の理由を、同社人事グループの好井千恵子さんは話す。
 利用対象を親族やOBなどに広げ、保育室のパンフレットを作るなど情報発信にも力を入れた。こうした利用促進策が奏功し、8月時点で常時利用者は6人に増加。
(平成18年8月25日付日本経済新聞夕刊から

日本郵船は企業内託児所の先駆けとして名を馳せましたが、実は利用者が少ないということも人事屋の間では広く知られていました。私は何年か前、昼休みの和田倉噴水公園で、日本郵船の託児所のスタッフがひとりの幼児を数人がかり(親やその同僚が含まれていたかもしれません)で遊ばせている場面に出くわしたことがあります。
この記事にもあるように、都心部の企業内託児所の最大のネックが通勤問題であることは明らかです。これが解決されない限り、こと都心部の企業では企業内託児所は難しいと考えるべきだろうと思います。そして、この問題がいかに解決困難かといえば、「子連れ通勤専用車両」といった夢物語が時折真剣に語られるくらいです。マイカー通勤奨励もいいかもしれませんが、駐車場3台ではしょせん効果は知れたものでしょう。かといって、交通渋滞や地球温暖化などのことを考えると、多数のマイカー通勤をあまりおおっぴらに奨励するのには抵抗があるでしょう。

  • それにしても、利用対象を親族やOBにまで広げるとなると、いったいなんのために託児所を持っているのかという気もするわけで、作った以上はなんでもいいから利用者確保が最優先、という印象がなくもありません。

となると、結局は短時間勤務とか時差通勤とかにならざるをえないわけで、記事にもこんな例が出ています。

…例えば衣料雑貨卸のエトワール海渡(東京・中央)が1977年から自社ビル内に開く「エトワール保育園」。3年ほど前から希望者が定員を超え抽選になるほどの人気だ。
 利用率の高い理由の一つは、開設当初から時短勤務を導入している点。「多くの社員は朝10時に子どもを預けて、夕方4時半までには迎えに来る」(人事部の関沢由紀子課長)ため、通勤ラッシュを避けることができる。同社は約900人の社員のうち7割を女性が占めており、全社員が本社のある日本橋周辺で勤務する。利用者が多いのも社員構成と立地によるところが大きい。

まさにそのとおりで、「利用者が多いのも社員構成と立地によるところが大きい」のだろうと思います。人件費の高くない女性パートを多数必要とする衣料卸という業種の特性、その確保が難しいという立地があるからこうした施設が必要になるわけで、一般的な企業が補助的業務に従事する短時間勤務の人のために託児所を準備するかどうかは微妙なところです。
やはり、住所地近くの保育所、あるいは送り迎えの容易な駅型保育所を増やすこと、そして保育時間などの使い勝手をよくしていくことが基本であり、企業内保育所に多くを期待するのはやめたほうがいいと思います。