労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会というとても長い名前の会合が開かれ、「人口減少下における雇用対策の検討について」議論が行われました。
具体的にはなにかというと、事務局から提出された「雇用対策法等の見直しに係る検討課題について(たたき台)」という資料の一部をご紹介しましょう。
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○ 新たな雇用政策の目的及び国の施策について
人口減少下において、より多くの者が社会を支えるという観点から、若者、女性、高齢者、障害者などすべての人の就業参加の実現を目的として雇用政策を展開することを明らかにするため、法の目的を改めるとともに、当該目的のために実施する国の施策としても明記すること等が考えられる。○ 事業主の責務
現行法において、(1)再就職の援助、(2)募集・採用時の年齢制限の是正、が事業主の努力義務とされているが、これらに、若者の能力、経験の正当な評価及び採用機会の拡大等を加えるとともに、国は事業主が適切に対処するために必要な指針を策定すること等が考えられる。
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○ 外国人労働者の雇用管理の改善、外国人雇用状況報告の義務化等
外国人労働者については、単純労働者は今後も受入れを認めないという基本方針は堅持しつつも、技能実習生、日系人等が国内労働市場において無視できない存在となりつつあることから、外国人労働者の雇用管理の在り方等について規定するとともに、規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)を踏まえ、外国人雇用状況の内容を拡充し義務化すること等が考えられる。
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全文ではありません。以上はすべて雇用対策法の関係で(雇用対策法関係ではこのほかに雇用対策基本計画の在り方の見直しが書かれています)、このほかに地域雇用開発促進法の改正に関するものもあります。
この日はこの資料および雇用対策法そのものの説明のあと、若年雇用、地域雇用、外国人雇用、女性労働、高齢者雇用、障害者雇用、非正規雇用の現状について事務局から広汎な説明があり、その後はフリーディスカッションという流れでした。もっとも、あまりに話題が広範囲にわたったため、フリーディスカッションといっても焦点が定まらず、また、労働サイドの委員がこの部会とは直接関係のない、均衡処遇がヘチマとか格差拡大が滑った転んだとかいう陳腐な議論を持ち出して事務局から「それは本部会の所轄ではない」とたしなめられるという一幕もあるなど、さほど実り多いものではありませんでしたが…。
私の印象ですが、目的及び国の施策に関しては、現行法には高齢者の記載しかないわけですが、現に若者や女性、高齢者に対してもさまざまな施策が事実上行われているわけで、雇用対策法にこれらが書いてないほうがむしろおかしかったということなら、書き込めばいいという話だろうと思います(おかしなことにならないように書き方には注意しなければいけませんが)。また、目的規定に「人口減少」「すべての人の就業参加」を定めるとしたら、それが定年制禁止のような極端な政策につながったり、引退の自由が制約されるようなことにつながらないよう警戒が必要だろうと思います。
「若者の能力、経験の正当な評価及び採用機会の拡大等」については、経団連も昨年、一昨年の経営労働政策委員会報告でこんな記述をしています。
・・・若年層の雇用促進のためには、まずは企業が若年者に対する有意義な雇用機会を増やすとともに、受け入れ体制を整える必要がある。特に、過去10年程度の「就職超氷河期」に学校を卒業した若年者については、かなりの素質をもちながら、やむなく派遣、アルバイトとして就業せざるを得なかった人も多いと考えられる。彼らのなかには、職業人として有益な知識、ノウハウ、就労観を保持している人材も相当数いるはずである。こうした人材を、一律に「フリーター」としてみるのではなく、人物本位で採用していくことも考慮すべきである。
(日本経団連(2004)「2005年版経営労働政策委員会報告」から)
「能力、経験の正当な評価」というのは、若者に限らず当たり前のことですし、これが「フリーターだからといって一律に門前払いしないでくれ」ということであれば、それは至極もっともなことだろうと思います。これが採用の強制とか、非正社員雇用の規制につながるようだとまずいでしょうが。
外国人労働者についても、経団連は2004年4月に出した提言でこんなことを主張しています。
…現在、指針(外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針)にとどまっている外国人雇入れ時の在留資格確認を義務化する。そして、外国人の労働条件の確保、社会保険加入状況の確認などを目的に、外国人の採用・離職時において報告する義務を雇用主に課し、その情報をもとに外国人雇用データベースを構築する。
(日本経団連(2004)「外国人受け入れ問題に関する提言」から)
ただ、これは外国人受け入れの拡大とセットで雇用管理の義務を負いましょうということなので、厚生労働省がいうように「基本方針は堅持」となると、単に手間が増えるだけの企業は難色を示すかもしれません。もちろん、義務化されると困るインチキな輩もいるでしょうから、そういうやつらを炙り出すにはいい施策かもしれませんが…。また、この「基本方針」を雇用対策法に書き込んでしまうのは、通商政策との関係でもまずいでしょう。もっとも、案外、そこが厚生労働省の本当のねらいなのかもしれませんが…。
いずれにしてもこれからの議論なので、しっかり検討したいものです。