鴨桃代さん

 今朝の読売新聞に、全国コミュニティ・ユニオン連合会全国ユニオン)の鴨桃代会長のインタビューが掲載されていました。意見の異なるところにコメントしていきます。

 ――非正規労働者の生活を、どう支えるか。

 「非正規労働者は、今や雇用者の3人に1人以上。年間2000時間働いても年収200万円に届かない低賃金だ。働いても生活できない、自立できないのはおかしい。改正パート労働法に『差別禁止』が盛り込まれたが、対象はパート全体の5%程度。彼らの職場には、労働組合がない場合が多いため、法的な規制が非常に重要だ。賃金底上げのための法整備が必要だ」
(平成20年6月4日付読売新聞朝刊から、以下同じ)

労組がないから法的規制、というのは労働運動の理念から考えれば正論とはいえないのではないかと思いますが、まあ組織化→交渉→協約化などといった悠長なことは言っていられない、ということでしょうか。「働いても生活できない、自立できないのはおかしい」ことへの対策としても、賃金底上げもその一つかもしれませんが、やはり大切なのは、それを必要とする人が「生活できる、自立できる」賃金を稼得できるような職をふやし、それに就けるように支援していくことではないでしょうか。

 ――賃上げの財源は、どう確保するべきか。

 「労働分配率を見直し、労働者の取り分を増やすことが大前提だ。先進諸国と比べて企業の取り分が多すぎる。労働者の取り分を増やした上で、非正規労働者への配分を多くすれば、待遇改善につながる。だが、労働者間での配分見直しだけでは限界がある。今は、企業の利益が労働者に回っていない。働いた分、例えば残業代も払わない企業がまかり通っているのはおかしい。企業には、社会的責任を果たしてもらいたい」

前提が違うからどうしてもこういう話になってしまう。もちろんどのような分配が適正か、現状はどうなっているかという議論も必要ですし、私自身もこれ以上投資家への分配を増やすよりは勤労者は設備投資、研究開発投資に分配したほうがはるかにマシだと思っています。いっぽう、それ以上に、働く人のスキルを上げ、企業の生産性を高めて付加価値を増やすことで財源を確保することのほうが望ましいのではないでしょうか。労働者への分配が少ないとのご主張ではありますが、それでもゼロというわけではなく、7割弱は労働者に分配されているのですから。

 ――少子化について。

 「最大の原因は、女性が働きながら子供を産み育てようと思える職場環境が整っていないことだ。出産した女性の7割が職場を去っている。生計維持のため子育て一段落前に復職するが、主にパートだ。男性は長時間労働。何とか1人は産んでも2人3人なんて考えられない。また、非正規同士のカップルは、将来設計を描けない雇用不安にさらされ、自分たちが今を生きるのに精いっぱい。子供を産み育てることを考える余裕はない。仕事と子供、家庭を両立できる職場づくりと、ワーキングプアへの生活・雇用の安定が実現しなければ、少子化の解決は難しい」

これはそのとおりで、働き続けたい人は続けられる、いったん休みたい人は復職しやすい、といった環境づくりが大切でしょう。休まず働き続けたい人(に限らず、誰もが利用できることが本当は望ましいわけですが)にはリーズナブルな負担で利用できる保育サービス、いったん休みたい人には、同じ企業でなるべくキャリアがつながるような形での再就職機会の拡大といったところが重要でしょうか。生活・雇用の安定に関しては、夫婦共働きで十分な収入を確保し、失業リスクを分散する(一方が失業してももう一方の収入でしのげる)ことも考えられそうです。

 ――超高齢時代の社会保障改革に必要なものは。

 「すべての国民が、1日8時間働き、8時間眠り、8時間自由な時間が持てる安定した雇用と生活が保障されることが基本だ。今のまま、非正規労働者が高齢化していったら、保険料や税を納めることもままならず、年金も医療も制度が成り立たなくなるのでは。あらゆる働き方の労働者が、老後の保障も確保できる社会にしなければならない」

あのー、私は「1日8時間働き、8時間眠り、8時間自由な時間が持てる」なんてのはいやなんですけど、すべての国民がそうしなくちゃいけないんですか?すべての国民にそれが「保障されることが基本だ」って、言うのは簡単ですけど不可能でしょうし、無理やり実現しても灰色の世界が待っているだけのような…。非正規雇用への社会保障の拡大が必要というのは同感です。老後の保障は労働者に限らず必要で、その水準や方法論(社会保険か福祉=生活保護か)にはさまざまな議論がありましょう。

 ――消費税率の引き上げも欠かせないのでは。

 「北欧では消費税率は高いが、すべて自分たちの生活を守るために使われていると実感でき、国民は負担をいとわない。だが、日本では政府への信頼がなく、何に使われるかわからないという不信感がある。これまで消費税や増税で生活が良くなった実感はなく、搾り取られているだけのような気がするからだ。消費税率を上げるなら、生活に生かされていると実感できる政策を実行してほしい」

たしかに、あまりにあからさまなムダ遣いがあることも事実なので、そういうのを放置しておいて増税なんてとんでもない、という不信感があるのはよくわかります。ただ、鴨会長の年齢であれば、とりあえず中長期のレンジで「生活が良くなった」実感はあるでしょう。で、それは「消費税や増税」ではなく、不正確な俗論ではありますが、経済成長による増収と、それで足りない分は国債などで実現してきたわけです。いま、社会保障支出が増加することが確実な中、財政再建は喫緊の課題であり、まずはプライマリーバランスを、という議論がされていて、そのために「消費税や増税」も議論されているという部分が大きいわけです。「それで私の生活が良くなった実感がない」「搾り取られている」というよりは、すでに私たちの生活は税負担以上によくなっているのであり、国庫を搾り取っているといったほうが正確かもしれないのです。
ただ、こういう「実感」のほうが国民の受けがよく、感覚に一致していることも間違いないわけですから、「消費税や増税」もいいでしょうが、それに配慮した施策としていくことが必要です。具体的には、勤労所得税額控除などは大いに検討に値するのではないかと思います。
労働運動は大衆運動ですからリーダーの発言がある程度大衆迎合的になるのはむしろ当然でしょうし、相対的に不利な立場におかれることの多い非正規雇用の代弁者としての機能も大切とは思いますが、現状認識も今後の方向性もややステロタイプで、多様性への視点を欠いているところが気になります。