転倒社説

さて、政労使合意については、毎日が面白い社説を書いているのであわせて紹介したいと思います。題して「政労使雇用対策 「名ばかり合意」にはするな」。

 政府と労使代表は23日「雇用安定・創出の実現に向けた合意」をまとめた。雇用対策がズラリと並ぶ政労使合意を絵に描いた餅としないためには、それぞれが合意実現に向け責任を果たすことだ。言葉だけで実体が伴わない「名ばかり合意」にしてはならない。
 合意では、まず「雇用の安定は企業の社会的責任」とし「雇用維持に最大限の努力を行う」と書き込まれた。「努力」という表現では弱いが、3者は重く受け止め、雇用の安易な切り捨てに歯止めをかけるべきだ。
 合意のポイントは日本型ワークシェアリング(仕事の分かち合い)の推進▽職業訓練中の生活保障、住居、就職支援の拡充・強化▽医療、介護、環境など成長が見込まれる分野における雇用創出などだ。
 ワークシェアについて労働側は当初、「休業分の賃金カットなど、労働条件の引き下げとなる」として積極的ではなかった。02年の政労使協議でも、ワークシェアの定義で合意したが、実際には普及しなかった。
 今回の3者合意では「残業削減、休業、出向などにより雇用維持を図る」ことを日本型ワークシェアと位置づけることにし、連合も乗った。しかし、中身は雇用調整助成金(雇調金)の支給の迅速化や内容を充実させて雇用維持を図るものだ。これは従来型の雇用調整の仕組みであり、全く新味はない。端的に言えば、企業に助成金を出して雇用を支える手法なのだが、目先を変えるためにワークシェアを持ち出した。これは成果を強調したい政労使の思惑が一致したものだ。
 政労使合意に注文がある。解雇を行わないことを雇調金の助成要件とするというが、非正規労働者の雇用を守らない企業には助成の制限を考えてはどうか。非正規を解雇しておいて、正社員の雇用は国の助成で守るというのでは公正さを欠く。逆に、正社員より労働条件が低い、非正規の雇用を守る企業には助成を厚くするなど、雇調金の新たな仕組みを考えるべきだ。
 失業者の生活保障としては失業手当と生活保護があるが、その間を埋める「第2のセーフティーネット」として、欧州の失業扶助制度と同じ仕組みが検討されている。職業訓練中に毎月10万円を3年間支給するものだが、訓練を充実させて就職に結びつけることが大前提だ。仕事と失業を繰り返す人が増えれば、雇用は安定しないからだ。
 ワークシェアには緊急避難型だけでなく、オランダモデルが有名な多様就業促進型など四つの型がある。今回は雇調金を利用する緊急型だけの議論で終わった。幅広く議論し、将来につなげることができなかったのは残念だ。
 政労使協議はこれで終わりではない。同一賃金・同一価値労働の実現、派遣など非正規雇用の見直しなど、課題は山積している。
(平成21年3月24日付毎日新聞朝刊「社説」、http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090324ddm005070003000c.html

「「努力」という表現では弱い」といいますが、しかし「最大限の努力」以上のなにをしろというのでしょう?法律で義務付けろとでも?それで経営が立ち行かなくなって倒産ともなれば、結局全員が失業することになるわけですが…。そうなったら国有化すればいいということでしょうか。まあ、祖国ソ連邦が理想だというならそうかもしれませんが…。
で、とりわけすごいのが「解雇を行わないことを雇調金の助成要件とするというが、非正規労働者の雇用を守らない企業には助成の制限を考えてはどうか。非正規を解雇しておいて、正社員の雇用は国の助成で守るというのでは公正さを欠く。逆に、正社員より労働条件が低い、非正規の雇用を守る企業には助成を厚くするなど、雇調金の新たな仕組みを考えるべきだ」というくだりです。まず、毎日は「解雇を行わないことを雇調金の助成要件とするというが」と書いていますが、今回の政労使合意、あるいはそれに至るまでの労使共同宣言や共同要請、共同提言などをみても、「解雇を行わないことを雇調金の助成要件とする」という趣旨の内容は見当たりません。まあ、誰かがどこかでそんなことを言っていて、私が知らないだけかもしれませんが…。とはいえ、現状でも雇い入れ助成については一般的に「事業主都合による離職を過去6ヶ月間出していない」といった支給要件がありますが、雇用調整助成金にはそうした要件はありません。まさに解雇が行われようかという状況下でそれを極力抑制するための助成金なのですから、事業主都合による離職のないことを支給要件にすることは適切ではないでしょう。また、雇用調整助成金の対象労働者は「雇用保険の被保険者については全員、被保険者意外については雇用期間が6ヶ月以上」ということになっていて、この要件にあてはまれば正規・非正規を問わず助成されます(まあ、洩れ落ちる人はほぼ非正規雇用でしょうが…)ので、「(非正規は守らず)正社員の雇用は国の助成で守る」ということにもなりません。雇用調整助成金の趣旨からして、どのような形でも雇用が維持されることが重要なのですから、その支給に「正社員」「非正規雇用」といった色をつけるのは筋が違うでしょう。ということで「正社員より労働条件が低い、非正規の雇用を守る企業には助成を厚くするなど、雇調金の新たな仕組みを考えるべきだ」というのも、気持ちはわかるのですがちょっと…。実効性という面でも、現に仕事のなくなった非正規労働者を雇い止めしようとしている事業主が、多少の助成金がつくからといって仕事のない非正規労働者を雇い続けようとするかといえば、あまり期待できないのではないでしょうか。まあ、雇い止めが予定されている非正規労働者に事業主が職業訓練を行う場合に、それに対する助成を行うといったことは考えられるでしょうが…。
さて、社説は最後に「政労使協議はこれで終わりではない。同一賃金・同一価値労働の実現、派遣など非正規雇用の見直しなど、課題は山積している」と結んでいますが、「同一賃金・同一価値労働」とわざわざ?ひっくり返しているのが面白い。ざっと探してみたかぎりでは類例はなさそうなのですが、なにか意味があるんでしょうかね?ちょっと、見当がつきませんが…。
で、結局、「名ばかり合意」ってなんですか?