- 作者: 小倉千加子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2007/01/01
- メディア: 文庫
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著者の小倉千加子氏は心理学者で、「日本一芸のあるフェミニスト」であるそうだ。「結婚は『カネ』と『カオ』の交換」とか「男は仕事と家事、女は家事と趣味(的仕事)」などと喝破し、「この国の少子化対策はことごとくツボをはずしている」と断じて関心を集めた人である。この本はその著者による「結婚の条件」をめぐるエッセイ集であり、「それを言ったらおしまい」的なみもふたもない本音を次々と繰り出している。女性を中心に、一部男性の「結婚の条件」を、学生の意識調査や「VERY」「STORY」といった女性誌の分析、あるいは梅宮アンナや倉田真由美といった話題のタレントの分析などを動員して多角的に論じている(正直なところ、私には女性誌やタレントはピンと来なかったのだが、女性読者には面白いだろう)。なにかといえば、要するに女性も男性も高すぎる「結婚の条件」にこだわりすぎるということ。結婚が人生キャリアに大きく影響する最重要イベントのひとつであることは間違いないので、こだわるのも当然といえば当然の話だが、「はっきり言えば人にはみな価格がついており、自分の価格に応じた相手が購入できるのだが、みな自分に貼られた値札を見ることができにくく、従って、自分が思っている「適当な相手」というのが、他人から見ればしばしば高望みであったり、「適当」を通り越して「夢のように非現実」…であったりしても、当の本人は気づかないという滑稽なケースが頻発している」という指摘はまことに痛烈であるが、言いにくい本音をあえて言うことにはそれなりの値打ちがあるだろう。実際、著者が女子学生・男子学生に対し「結婚相手に求める3つの条件」を訊ねた調査結果が紹介されているが、たしかにまことに高望みのようだ。しかし、彼らがこだわるこの「結婚の条件」を考慮しない「この国の少子化対策はことごとくツボを外」すことになるのだ。
たとえば、世間では少子化対策として「仕事と家庭の両立」をいう。そしてそのために「結婚・出産しても仕事をやめなくていい」ようにしようとしている。しかし、著者によればこれがことごとく「ツボを外している」ということになる。大雑把かつ不正確にまとめると、結婚・出産後に就く仕事というのはどんな仕事であってもいいというわけではなく、就くに値する仕事でなければならない。そうでなければ専業主婦になるほうがよいし、家計のために就くに値しない仕事に就く(続ける)くらいなら結婚しないほうがよい。そして、就くに値する仕事をするために「働くことにお金を消費することが許される」のが「特等専業主婦」である。その例として、報酬以上の経費を費やしてフラワーアレンジメントの教室や紅茶のコーディネーターを持ち出しで続けている人が紹介されている。タレントの三浦りさ子さんもこのカテゴリに入るらしい。
この本は2002年から2003年にかけて連載されたものが2003年に単行本化され、昨年文庫化されたものである。したがってこれも2002年から2003年当時の話だが、今日でも少子化対策はキーワードこそ「ワーク・ライフ・バランス」に変わり、中身もあれこれ変わってはいても、「とにかく結婚・出産後の従前の仕事を続けられるように」という基本的な発想は変わっていないのではないか。もちろん著者の先見性には感心すべきであろうが、それ以上に、5年を経過しても「ツボを外し」続ける進歩のなさを嘆かずにはいられない気分になる。
ではどうするのかという話になるが、著者によれば男子学生が結婚相手に求めるのは「かわいい、賢い、家庭的、軽い(体重が)」の「4K」なのだそうだ。男子学生はそういう相手が現実にいるものと思っているのだが、著者はそれに対し4つもKを求めていては結婚できない、3つ求めるのでも自身過剰で、2つあれば御の字だと思いなさい、と助言しているのだとか。女子学生の求める「結婚の条件」はまた異なるものだろうが、話としては似たようなものだろう。分相応とか足るを知るとか、表現はいろいろありそうだが、おや、これって「キャリアデザイン」にもずいぶん通じる話じゃないのかな?