キャリア辞典「ダイバーシティ」(5)

「キャリアデザインマガジン」第73号のために書いたエッセイを転載します。


ダイバーシティ(5)

 わが国企業におけるダイバーシティの進展状況はどうだろうか。代表的な多様性として性別、年齢、国籍のそれぞれについてみてみたい。
 まず性別について、厚生労働省の「平成18年度女性雇用管理基本調査」をみると、女性の職域拡大や管理職登用などは総じて年々進展する傾向にあるようだ。たとえば、係長相当職(役員を含む)以上の管理職を有する企業の割合は、平成元年の51.6%から平成18年には66.6%に上昇しているし、同じく係長相当職(役員を含む)以上の管理職全体に占める女性の割合は平成7年の4.7%から平成18年には6.9%となっている。
 もっとも、これがダイバーシティ・マネジメントの一環として意識されて取り組まれたかというと、おそらく大半はそうではないだろう。むしろ、1999年に施行された改正男女雇用機会均等法ポジティブ・アクションに対する国の援助が盛り込まれるといったことが契機となっている可能性が高い。
 次に年齢についてみると、高齢者の就労状況をめぐる最近の変化には劇的なものがある。改正高年齢者雇用安定法が2006年に完全施行され、企業には原則として希望者全員を65歳まで継続雇用することが段階的に義務づけられることとなった結果、厚生労働省が平成19年10月19日に発表した「平成19年6月1日現在の高年齢者の雇用状況」によれば、改正高年齢者雇用安定法施行前(平成17年)に比較して、60〜64歳の常用労働者数は約78万人から約100万人に27%の増加、65歳以上の常用労働者数は約27万人から約39万人に47%の増加と、いずれも年齢計の8%増加と比較して大幅な伸びを示しているという。
 とはいえ、これもまたダイバーシティ・マネジメントの一環として取り組まれたものとはいえそうにない。いわゆる「2007年問題」にともなう技能伝承問題への対応や、法改正への対応といった側面による部分が大きいとみるべきだろう。実際、インターネット上のウェブサイトを広く渉猟しても、高齢者雇用について「ダイバーシティ」というキーワードで推進している企業の事例を多く見つけることはなかなか難しい。
 もうひとつ、国籍については厚生労働省の「外国人雇用状況報告(平成18年6月1日現在)の結果」でみてみよう。平成18年における直接雇用の外国人労働者数は222,929人で、平成12年の120,484人と較べて大幅な増加となっている。
 外国人労働に関しては、厚生労働省は「外国人労働者問題に関するプロジェクトチーム」による「外国人労働者の受入れを巡る考え方のとりまとめ」として、専門的、技術的分野については「我が国の経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から、受入れをより積極的に推進します」とする一方、単純労働者については「国内の労働市場に関わる問題を始めとして日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠です」との方針をとっている。しかし、現状をみると、生産工程作業員が125,921人で全体の56.5%を占めるほか、 販売・調理・給仕・接客員、建設土木作業員、運搬労務作業員をあわせると4分の3を超える。これらがすべて単純労働であるとはいえないだろうが、専門・技術・管理職が全体の19.1%にとどまっており、しかもこれらの比率が過去10年間それほど大きく変化していない(個別には、生産工程作業員が減少しているのに対して販売・調理・給仕・接客員が増えているという傾向的変化はあるが、これらに建設土木作業員、運搬労務作業員を加えると約7割前後、専門・技術・管理職が約2割前後という比率は10年間でほとんど変わっていない)ところをみると、厚生労働省の政策に沿った現状にあるとはいいにくそうだし、ダイバーシティ・マネジメントの考え方に合致しているかどうかも疑問が残る。