東洋経済「給料はなぜ上がらない!」(6)

これで最後ですのでもう一日だけお許しください。東洋経済の特集「給料はなぜ上がらない!」の引っ張りです。最後は、経営評論家の田坂広志氏のインタビュー記事です。

 労働組合が労働者の権利を守るということは、即物的な賃金や待遇の改善を要求することだけではない。働く時間を短くして高い賃金を得るだけで、人は幸せになるわけではない。マルクスが提起した労働疎外の問題のように、仕事とは、ただの苦役ではなく、本来、人間にとって大きな喜びであったはず。されば、労組は賃金や待遇などの「目に見える報酬」だけでなく、働きがいや成長などの「目に見えない報酬」にも目を向けるべきだろう。
 近年、生産性向上を目指し市場原理や成果主義を導入した結果、労働は商品と見なされている。だが労働は単なる商品ではない。競争原理の導入は必要だが、賃金や役職といった「目に見える報酬」を競わせるだけで生産性が上がると考えるのは間違いだ。また、経営者が「生き残り」を叫んでも、それは短期的なカンフル剤にしかならない。競争をあおるだけでは、同僚との情報の共有はなくなり、上司は部下を育てなくなる。営業は顧客の信頼を損ねても成績を求める「焼き畑農業」の仕事に堕し、職場は疲弊していく。
 では、重視すべき「目に見えない報酬」とは何か。四つだ。
 第一は「仕事の働きがい」。…
 第二は「職業的な能力」。…
 第三は「人間的な成長」。…
 第四は「仲間との出会い」だ。

 社員が、その「目に見えない報酬」を得ながら、生き生きと仕事に取り組むならば、おのずと生産性は上がる。生産性は本来、目的とすべきではなく、結果として得られるものだ。
 賃金という報酬は企業の限られた収益を取り合うゼロサムだから、労使が闘ってもよい。しかし、労使交渉の第2ラウンドでは「目に見えない報酬」を論じてほしい。働きがい、能力、成長、出会いは、限りがないプラスサム。それは、労使が協調して取り組むことができる課題だ。(談)
(「東洋経済」第6135号(2008年3月29日号)から、以下同じ)

カネだけが報酬ではない、さまざまなインセンティブについて労使で議論しよう、という趣旨はまことに同感できるものです。ただ「給料はなぜ上がらない!」という特集キャッチコピーや、「賃上げで内需拡大」とかの議論とはあまり関係ないような気はしますが。