ホワイトカラー・エグゼンプションは誰のものか

経団連の「年収400万円」が効きすぎたのか(というよりは、それを利用してのマスコミの喧伝が効いたのでしょうが)、ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)をめぐる世間の議論をみていると、あたかもホワイトカラーのあらかたがWEを適用されるかのような議論がみられます。しかし、これもたいへんな誤解といえましょう。
きのうのエントリで紹介した、労働条件分科会報告のWEに関する部分をみると、タイトルが「自由度の高い働き方」となっており、続いて「ホワイトカラー労働者」とあります。そして、文中に典型例として「管理監督者の一歩手前に位置する者が想定される」があげられています。その上で、職務要件が「労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者」「業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者」「業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者」と3点あげられています。
実務的にいえば、まず、「管理監督者の一歩手前」ですから、管理職候補であるということがあげられます。将来、課長クラス、さらには部長クラスに昇格していくことが想定されている人、ということです。そのような出世の見込みのない人はWEの対象にはなりにくいでしょうし、いっぽうで、たとえばキャリア官僚のように出世確実な人であれば、世間でいう主任クラス程度であってもWEの対象になりうるでしょう(すでに実態は事実上そうだという話もありますし)。
働き方としては、上司から「この仕事をいつまでに、こんな感じで」といった包括的な指示を受け、要所では経過報告とか相談などはするものの、中期的なスケジュールや仕事の段取り、日々の労働時間の配分などについてはおおむね任されている、というものでしょうか。要するに民間企業で一般的に「この仕事を任されている」という状態ではないかと思います。これはすなわち、今日はデートの約束があるからテキパキと働いて8時間で切り上げる、今日はそこそこゆったりとマイペースで働いて2時間残業する、といった自由度もある働き方です。
加えて、仕事の仕上がり具合についてもある程度の自由度がある働き方でもあります。上司の指示で期待されているレベルにはこの程度の仕上がりで足りるのだけれど、自分として納得したいとか達成感を得たいとか興味があるからとか、勉強になるからとか能力が伸びるからとか、上司の期待以上のものを出して高い評価を得たいとかいった理由で、よりハイレベルな仕上がりをめざすことが許されている、ということです(もちろん無際限にではなく、現状では、経営上の要請で決められた残業時間の上限で打ち切っている、という実態が多いのではないかと思われます)。
こうした人は、翌月の残業代よりも早い昇進(あるいは権限の拡大、面白い仕事の獲得など)のほうによほど関心があるでしょうから、賃金が時間割で支払われないことにそれほど抵抗はないでしょう(一定の高い水準が確保されていればなおさら)。
このような、幹部候補であり、かつ仕事のペースや仕上がり具合についての自由度がある人が対象となるように、実態をよく知っている事業所労使の委員会による決議、および本人の同意という集団的・個別的手続を設定すると同時に、間接的担保としての年収要件、つまり、このくらいの収入があれば、幹部候補としてそれなりに自由度のある働き方をしている可能性が高いでしょう、と推定する要件も設定されているわけです(年収要件には、これだけの年収があれば時間割で賃金を支払わなくても保護に欠けないでしょう、という側面もあります)。
具体的にはどんな人たちでしょうか。もし年収要件が厚労省のいうように900万円になるとすると、これはかなりの高水準で、ほとんどの企業ではいわゆる管理監督者として労基法41条2号で労働時間規制の適用除外になっているのではないかと思われます。そのほか、高度技能熟練工やトップセールスは年収900万円を超えてもそもそも職務要件で対象外となるでしょう。となると、年収900万円のホワイトカラーで管理監督者ではない、というと、賃金水準の高い大企業で管理監督者に近づいている人、たとえば都銀や証券大手・商社大手の上級スタッフ専門職、製薬大手の上級技術者といったあたりに限られてきそうです。こうした人たちには、WEに反対という人は少ないのではないでしょうか。