ホワイトカラー・エグゼンプションで賃金は下がるか

本ブログ、このところホワイトカラー・エグゼンプション(WE)ブログと化していますが、なにしろ世間ではWEが誹謗中傷罵詈雑言の雨嵐にあっていることもあり、この際ですからFAQ形式でWEについてまとめて書いて行こうかと思います。
まずは賃金編です。

結局、WEが導入されると、私の賃金は下がるのでしょうか?

WEのことを民主党菅直人代表代行は「残業代ピンハネ法案」と言っています(平成19年1月12日付朝日新聞朝刊)。社民党の福島党首に言わせれば「残業代不払い法案」だそうです(平成19年1月6日付読売新聞朝刊)。朝日新聞なども、あたかもいま支払われている残業代がゼロになり、その分減収になるかのようなキャンペーンを張っています。しかし、これらはすべてデマに近いものです。
賃金引き下げのような労働条件の不利益変更については、合理性がなければ無効であるという判例法理があります(これは、今般の労働基準法改正とセットで−セットでなくても−提出されようとしている労働契約法で定められる見込みです)。その合理性は不利益の程度、代償措置、必要性、労使協議などの手続の状況を総合的に勘案して判断するとされています。したがって、WEを適用するという理由だけで賃金を大幅にダウンさせることは、不合理であるとして無効になる可能性が高いでしょう。賃金の引き下げは、それほど簡単にできるものではありません。
現実にWEが導入される場合には、企業は対象者の賃金を従来の「基本給(12ヶ月分)+残業代(同)+賞与(年間)」から「基本給+WE手当+賞与」に改めることが多くなるだろうと思います。WE手当は、平均的な残業時間や残業代などを参考に(おそらくは少し高めに)設定され、合計で年収要件(900万円といわれています)を上回ることを保障するようなしくみになるでしょう。まあ、年俸制のようなものだと言えるのかもしれません。したがって、あなたが自社の平均を大きく上回る残業をしている場合は若干年収が下がる可能性はあるかもしれませんが、大きな影響はないと思われます。
なお、WEの適用には本人同意要件がありますし、同意しない場合の不利益取り扱いも禁止(同意しなかったから賃金を下げる、ということはできない)されますので、仮にWE移行で大きく賃金が下がるのであれば、同意しないことでほぼ従前の賃金が確保できるものと考えられます。

WEを導入すると、生活残業(収入=残業代目当てに行われる不要な残業)がなくなるのでしょうか?

公明党太田昭宏委員長は「残業代が生活に組み込まれる現実があ」ると述べ、はしなくも生活残業の存在を容認する考えを示すとともに、それがなくなるからWEに反対との見解を表明しました。しかし、これは実務家にも勘違いをしている人がけっこういるようなのですが、いま提案されているWEには生活残業をなくす効果はあまり期待できません。
実際、人事管理の現場では「生産性が高い人が効率よく働いて短時間で仕事を仕上げた場合より、生産性が低い人が同じ仕事を効率悪く働いて残業したほうが賃金が高くなるのはおかしい」という実務実感が広く共有されており、WEによってその理不尽を解決することを期待する実務家も多いものと思います。
しかし、今回のWEはかなり高い年収要件が設定されますので、そもそも生活残業を繰り返す人がほとんど対象にならないものと思われます(そういう人に年収900万円以上払っている企業はあまりないでしょう)。また、本人同意要件がありますので、どうしても生活残業をしたい人は同意しなければいいことになります。太田委員長にはご安心いただけそうです。
なお、生活残業対策としては、きちんと残業時間のガイドラインを示して守らせるといった正攻法の取り組みとともに、賃金面では賞与の評価を低くしたり、昇給の抑制や昇進の見送りなどで中期的に基本給を抑制していくといった方法で対処するのが基本ではないでしょうか。WEは生活残業対策というよりは、仕事に対するモチベーションの高い人が時間規制にとらわれずに自由に働けるようにしていくための制度と考えていくのが基本ではないかと思います。