最も幸せな日本人像は

立て続けに大竹先生ネタになりますが、今朝の産経新聞1面トップで、大阪大学の筒井義郎・大竹文雄・池田新介各教授が実施した日本人の「幸福感」に関する調査結果が紹介されていましたので取り上げたいと思います。(記事はこちら。大阪版で、東京版より記事が充実しています。)

 男性よりも女性、高齢層よりも若年層のほうが幸せを感じているが、所得の高さと幸せは必ずしも比例しない−。大阪大学社会経済学研究所が全国の六千人を対象に行ったアンケートで、日本人の考えるこんな「幸福感」が浮かび上がった。…調査データをもとに「日本で最も幸せな人物像」も浮かび上がらせており、同研究所では「一部のデータは国民の幸福を追求する政策にも生かせるのでは」としている。
(平成17年11月18日付産経新聞朝刊から)


この記事から結果を要約するとこんな感じでしょうか。

  • 性別:男性より女性が幸
  • 年齢:30代が最も幸福でその次が20代、年齢が高いほど不幸
  • 職業:学生、管理職、専門技術職、専業主婦の幸福度が高い
  • 所得:高いほど幸福だが、年収1700万円以上になると幸福度が低下
  • 居住地域:大規模都市ほど幸福
  • 嗜好:非喫煙者のほうが幸福、ギャンブルをしない人の方が幸福、飲酒は関係なし
  • 宗教心:ある人のほうが幸福
  • 意識:他人の生活水準が気になる人より気にならない人のほうが幸福

なかなか、生活実感に一致した結果ではないでしょうか。とりわけ、「他人の生活水準が気になる人より気にならない人のほうが幸福」という結果には考えさせられるものがあります。
なお、この記事は年齢と幸福度の関係についてこう書いていますが、

 年齢別では30代(平均値6.6点)が最も高く、次に20(6.4)が続いたが、40代以降は加齢とともに不幸になり、60代では6.2点に落ち込んだ。この結果は、海外の大学が行った調査と比べると逆の現象。アメリカやイギリス、ドイツでは30歳代が最低で加齢とともに幸福度が増しており、若者に甘く高齢者に厳しい日本社会の傾向を表したともいえる。
(平成17年11月18日付産経新聞朝刊から)

この「若者に甘く高齢者に厳しい日本社会の傾向を表したともいえる。」との論評は著者のものではなく、記者のものだと思われます。調査結果の詳細は大阪大学社会経済研究所ディスカッション・ペーパーNo.630で見ることができますが、ここでは年齢別幸福度の結果について記事とはまったく異なる分析・解釈が行われています。この記事を叩きたい人は、記者だけを叩くようにして、うっかり筒井教授らまで叩かないように気をつけましょう(笑)。
ちなみに、筒井教授の語る「最も幸せな日本人像」は、

「都市部在住の30代女性で文系大学卒。職業は専業主婦か事務職、専門職で転職は考えていない。健康で配偶者にもめぐまれ、社宅か一戸建てに住む。所得や資産もしっかりあり、うらやましいことに自分の生活程度を高いと評価し、子供のころの生活態度も高かった思い出があるが、他人の生活は気にならない。『質素な生活をしたい』と思ったことはないが、『お金をためることが人生の目的』とも考えない。信心深く、たばこは吸わない。のんびり屋で、細かなことは気にかけないおうようさがある」
(平成17年11月18日付産経新聞朝刊から)

というものだとか。まあ、まったくこのとおり、という人は滅多にいないでしょうが、しかし、うーん…これはかなりの程度まで私の配偶者にあてはまるような気が…なんていったら怒られるかな。いっぽう、オリジナルのディスカッション・ペーパーにはこんな「不幸な日本人像」が書かれています。

 このような分析の結果、浮かび上がってきた不幸なあなたの姿は、
 鄙びた村に住む年寄りで中学校卒。職業は販売職、年のせいか健康に優れず、結婚はしなかった。所得も資産も少なく来年増える見込みもないので、借家住まいである。貧しいせいではないが、他人はもちろん親しい人にもお金をあげようと思ったことはない。他人の生活が気になり、「質素な生活をしたい」と自分に言い聞かせ、「お金を貯めることが人生の目的だ」が信条。無宗教でヘビースモーカー、そしてかなりせっかちで心配性かも。
(筒井義郎・大竹文雄・池田新介(2005)「なぜあなたは不幸なのか」大阪大学社会経済研究所ディスカッション・ペーパーNo.630,p48,p50。)

こりゃたしかに不幸かも。でも、こういう人もいるかもしれません。
まあ、これはあくまで「そういう傾向がある」ということでしょうし、努力してそういう人になれば幸福感を感じられるようになる、というものでもないでしょうが、それにしても日頃の生活や気持ちを思い出して考えさせられるものがあります。
それはそれとして、このペーパーをみると、分析結果は必ずしも記事のようには単純ではないことがわかります。ここでも後日ご紹介したいと思っていますが、ぜひご一読をおすすめしたいと思います。