若者ほど格差を容認

連合総研が実施した意識調査で、若年層ほど格差を容認する傾向があることがわかったそうです。

個人の収入格差が5年前より拡大したと感じている労働者が6割を超えることが連合総合生活開発研究所連合総研)の調査でわかった。ただ格差の受け止め方は世代間で分かれており、20代で4人に1人が「拡大してもよい」と回答するなど、若い世代ほど格差を是認する傾向がうかがえる。
 調査は首都圏と関西圏に住む民間企業に勤める20−50代の男女900人に質問票を送付し、3月31日から4月10日までに781人から回答を得た。
 個人の収入格差が5年前より「拡大した」と答えた労働者は63.6%で、「縮小した」は5.9%だった。
 格差が広がった理由(3つまで回答)は「パート・派遣労働など非正規雇用が増えた」の答えが51.5%で最も多く、「失業や就職難などで収入のない人が増えた」(43.7%)、「企業間の業績格差拡大で賃金の差が広がった」(42.5%)が続いた。
 収入格差について「今後どうなるのがよいか」の問いには、35.0%が「縮小すべき」と回答した。ただ「縮小すべき」の回答は50代の48.3%を最高に世代が下がるにつれて減り、20代は21.8%で、「拡大してもよい」(25.8%)を下回った。
(平成18年5月7日付日本経済新聞朝刊から)

調査結果は連合総研のホームページに掲載されています。
http://www.rengo-soken.or.jp/houkoku/kinroukurashi/enquete/No11/KurashiGaiyo11.htm


まあ、これから成功するチャンスのある若い人が格差を是認し、挽回が難しくなる高齢層ほど否定的になるのはよくわかる話です。「拡大+現状のまま」と「縮小」との比較では、40代ですでに38.8%と37.2%と「縮小」が少数派となり、30代では47.3%と32.4%、20代では48.7と21.8%という大差となっています。連合(総研)としてはもっと「縮小すべき」が多数を占めるものと考えていたのではないかと勝手に想像するのですが、意外にも格差縮小を求める声は多数派とはなっていないようです。
広がった理由は記事では3つ紹介されていますが、これに「成果主義的な賃金制度の導入などで賃金の差が拡がったこと」(35.4%)と「株や不動産投資などで大きな収入を得る人が増えたこと」(35.0%)を加えた5つが多くの回答を集めています。選択肢の中には「収入格差の大きい高年齢層の比率が増えた」という「正解」も含まれていて良心的なのですが、これを回答した人は12.9%にとどまっていて、やはりイメージや感覚で「格差が拡大した」と思っている人が多いようです。もっとも、連合としては多数の支持を集めるだろうと考えていたであろう(と勝手に想像する)「規制緩和による企業間競争激化で賃金が引き下げられた」との選択肢も14.9%の支持しか集めていないのではありますが。
また、格差拡大の理由として「非正規雇用が増えた」が最多の支持を集めたわけですが、それでは正社員・非正社員間の格差は今後はどのようになるのがよいかを聞いた設問に対しては、賃金については「拡大+現状のまま」が44.5%に対して「縮小」が27.5%、教育訓練についても45.1%と28.7%と、縮小すべきとの意見はかなりの差がある少数派となっています。非正社員だけの結果をみても、賃金ではさすがに25.9%と39.6%と「縮小」が多くなっていますが、教育訓練では33.6%と30.2%とわずかながら「縮小」が下回っています。連合は正規・非正規の格差縮小に熱心に取り組んでいますが、働く人はそれほどまでには考えていないようです。
もうひとつ興味深いのは、税による所得再分配政策への支持で、支持する割合が高いのが「高所得層に対する所得税の負担増」(79.1%)、「消費税のもつ逆進性の緩和」(76.4%)、「低所得層に対する所得税の負担減」(73.3%)などなのに対し、不支持の割合が高いのは「相続財産への課税強化」(50.4%)、「資産性所得への課税強化」(38.5%)という結果が出ているという点で、「相続財産への課税強化」は不支持が支持を上回っています。まあ、所得税の累進性を高めるという回答が多いのは「自分より所得の多い人がたくさん税を負担すべき」という本音の現われとみればいいのでしょうが、資産所得や相続への課税に否定的なのはなかなか理解しがたいものがあります。資産所得や相続は勤労者からみればほとんど不労所得のはずで、働いて得た所得より重課税してしかるべきと考えるのが素直だと思うのですが、どんなものなのでしょうか。資産所得や相続のほうが、勤労所得よりずっと格差が大きいのではないかと思いますし。相続については不支持の方が多いということは、実は相続を期待している人がけっこう多いということなのでしょうか?というよりは、おそらくは実感として痛税感の強いものが支持を集めたということかもしれません。
連合総研の調査ですから、回答者も連合の政策に配慮した回答をしがちというバイアスが働くのが普通と思います。それでもなお、こうした結果が出たというのは、かなり意外な感があります。案外、勤労者の格差に対する受け止めには冷静なものがあるということなのかもしれません。