働き方Next(6)

なかなか追いつかないなあ(笑)。日経新聞の標記特集へのコメント、今日も何日分か一気に書き飛ばしたいと思います。まずは1月7日掲載分から、メインのお題は「「ロボット失業」怖くない――人の仕事のトモダチだよ。」となっておりますな。
となっているのですが、なにしろこの記事はロボットを擬人化した書きぶりが気持ち悪くてしょうがないので引用はしません。ただまあ一点だけ申し述べておきますとロボットにとって代わられない・人間ならではの仕事して和倉温泉の老舗旅館「加賀屋」の接客係を上げているのは文体以上に悪趣味というか。まあ確かにロボット化(とかIT化とか)が進めば1泊7万円の高級旅館に宿泊する人と、その人にサービスする接客係(もちろんその仕事のクオリティとプライドは大いにアプリシエイトしますが)という形で格差が拡大するというのは、まあ放置すれば本当にそうなるかもしれませんが、「だから心配いらない」と言われてもなあ、という感じはします。
他面にある解説記事もそれほど目新しい話ではないので記事へのコメントはこのくらいですが、記事を離れて一言だけ感想を書きますと、機械が人間の雇用にとって代わるのであれば、往々にしてディーセントさを欠きがちなデッドエンドの仕事こそそうなってほしいなあと思います(もちろん現実にも相当程度そうなってきたとは思いますが)。そのためには自動化投資が合理的になる水準まで賃金が上がることが必要なわけで、結局はいつもどおり適切な経済・金融政策を通じてマクロ成長と人手不足状態の継続を実現すべきとの話になるわけですが、それに加えて、こうした仕事に安易に外国人を入れるべきではないという話にもなると思います。ということで(どういうことだ?)人事管理という感じの内容でもないのでタグを変更しました。

働き方Next(7)

1月8日付の記事です。メインのお題は「すきまワーカー150万人――主婦・シニアを切り札に。」これはなにかと問題含みです。まず引用します。

 ブログの開設からデータ入力、ブランドのロゴ作成。スマートフォンスマホ)の画面をのぞくと、「求人中」の仕事がずらりと並んでいた。
…「今日はこの仕事に決めた」。大塚が選んだ仕事はデータ入力作業。インターネットを使って企業の資本金などを調べて打ちこむ。約2000社分のデータを4日以内に入力すれば、6500円の報酬を受け取れる。
…ネットを駆使し、空いた時間に自由に働く「すきまワーカー」。その数は仲介業界の推計で約150万人に達し、…働き手の主役は専業主婦やシニアたちだ。
平成27年1月8日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

記事によると千葉市の人とのことですので、地域別最賃は1時間798円ということになります。報酬が6,500円ということは、最賃の8時間分強ですね。それで2,000件のデータ入力ということは、1件あたり14.7秒という計算になります。もっぱらテンキーだけを使う伝票算みたいな入力作業なら15秒弱でそれなりのデータが入力できるかもしれませんが(それでも50バイトも入力できればかなり速いのではないかと思いますが)、記事によれば「インターネットを使って企業の資本金などを調べて」入力するということであり、仮に企業名はデータセットに入力済だとしても、資本金とさらに最低もう一項目(ないと「など」にならない)、おそらくは数項目を入力するわけですね。ということで企業情報検索サイトに社名を入力→資本金ほか必要なデータを表示→それを入力→誤りがないか目視で確認、ということだとまあ安く見積もって1件30秒はかかるでしょう。となると2,000件を1,000分で6,500円、時給390円という計算になりました。ブラックですね。いやもちろん請負などの形態で最賃の問題はないようにしているのでしょうし、自宅で・半端な空き時間を利用して・データ検索と入力というきれいな仕事なので、本人も納得ずくなら文句を言う筋合いではないかもしれません。ただまあ1,000分というと16時間40分であって4日間でやるにしても日当たり最低4時間以上ということなのでどこが「すきま」だという話であり、もはや何かの間違いじゃないかというレベルです。それでも配偶者に十分な稼得のある専業主婦相手ならまだしも、相手次第では新手の貧困ビジネスじゃないのとか思わなくもなく。影響力の大きい全国紙がこれを格好いいもの・先進的なものとして持ち上げるのは問題含みのように思います。
さて続きを読みますと、

…主婦や高齢者など非労働力人口は約4500万人。すきま時間を使って彼らが働けば、人手不足時代に貴重な戦力に変わる。それを「昔の『主婦の内職』と同じ」ととらえるのは早計だ。すきまワーカーの働き方は、普通の会社員の人生も変えうるからだ。
 「会社は頼れないが、いきなり独立するのもリスクが高い。まず自分の時間を使って試したい」
 生活雑貨通販のエンファクトリー(東京・渋谷)に勤める山崎俊彦(32)は、平日の昼間は会社で働き、帰宅後や週末は愛犬グッズの販売サイトの経営者に変わる。
…山崎には勤め先の倒産で失業した経験もあり、収入源を2つ持つ働き方を選んだ。…副業を認める社長…は「成長して独立してもいい。…」と語る。
 「社員と会社は一心同体」「人材は自前主義で」という発想はもはや幻想に近い。…大企業でも新規事業の実行チームをつくるとき、人材選びは社内にこだわっていない…そこに、すきまワーカーが増えていく余地があるが、現実はそう甘くはない。

まあ正社員であっても空き時間にスマホで半端仕事を見つけてそれをやるなら「すきまワーカー」かもしれません。ただまあそこからネットビジネスを立ち上げるまでは相当の距離があるように思われ、それを例に「普通の会社員の人生も変えうる」と言われても本当かなあという感じです。
なおこの社長さんはたいした疑問もなく副業を容認しているようですがいい度胸だなと思わなくもありません。まああれかな、この事例の場合は通販サイトの経営なので問題は少ないということで容認しているのかな。ちなみに多くの企業が慎重にも社員の副業を制限しているのはおよそ「社員と会社は一心同体」とかいった理由ではなく、一つは社員の健康管理、安全配慮上の理由です。たとえば兼業先で徹夜で働いた後に出社してきた人が疲労でふらついて機械に巻き込まれたりしたら、という心配ですね。もうひとつはこのブログでも何度か書いているように労働基準法の労働時間通算原則で、兼業先で8時間働いた後に出社してきた人にはいきなり割増賃金を支払わなければならない上に36協定の上限時間にも簡単にひっかかるだろうという話です。
ということなので副業を認める例が出てきたことから「社員と会社は一心同体」「人材は自前主義で」という発想はもはや幻想」という話に展開するのはすでに理屈が破綻しているわけですが、「「人材は自前主義で」という発想はもはや幻想」」という話は単独ではそうなんだろうなとは思います。ただそこから「大企業でも新規事業の実行チームをつくるとき、人材選びは社内にこだわっていない…そこに、すきまワーカーが増えていく余地がある」と展開していくという飛躍ぶりには到底ついていけません。いや大企業が新規事業の実行チームをつくるときに社外人材を加えるなんてのは昔からふつうの話であり、総合商社とか大手広告代理店とかはそれをご商売のひとつにしているわけです。それはおよそ「すきま」でやれるような質・量・密度の仕事ではなく、あるいはそれに携わる人がその「すきま」で他のことを大々的にやれるような仕事でもないでしょう。
いやまあだから「現実はそう甘くはない」ということなのかと思ったら、こう続いていくのですからもはや茫然とするよりありません。

 時給にして60円。こんな苦い体験を四国在住の専業主婦、武田早苗(47)は告白する。ウェブ制作を請け負っているが、「最初は仕事に慣れていなかったせいか、30分かけて仕上げても代金は30円にしかならなかった」。当初の期待が吹き飛んだからこそ、武田は「高い報酬をもらえるだけの実力をつけたい」と話す。

え?と思って読み返してみましたが、30分かけて仕上がって代金30円のウェブ制作ってどんな仕事なのさ。代金30円を手数料216円払って銀行振り込みしたのかね。どういう取材をしているのか知りませんがちゃんと書いてほしいなあ。
でまあ前の話との脈絡もつながりもわかりにくいわけですが、まあれかなあ、代金が安いことも多いってことはわかってますよという言い訳をしたかったのかなあ。それで最後の決め台詞がこれなのですが、

 契約社員やパートなど非正規労働者数(推計)は初めて2千万人を突破した。すきまワーカーは非正規労働の究極形にすぎないのか。自由な働き方なのか。会社に頼らない働き手たちの心がまえが試される。

いや非正規労働の究極形だからこそきわめて自由な働き方たりうるんだろう。要は「会社に頼らない」を主張したいんでしょうがしかしこんな調子で「心がまえが試され」てもなあ。この記事は大いに失敗しているように思います。

働きかたNext(8)

続いて1月10日の記事です。メインのお題は「求ム「ホワイト企業」――使い捨てれば若者離れる。」となっています。求むを求ムと書くのは時々みかけますが一種の流行りみたいなもんなんでしょうか。さて。

…従業員の大量退職で昨年2月以降、100店以上で一時休業や営業短縮に追い込まれたすき家。運営するゼンショーホールディングスはバイトの時給を上げ、深夜の1人勤務を廃止した。だがインターネット上で「ブラック企業」のレッテルを貼られた同社から、働き手は一気に遠のいた。
 長時間労働の常態化、残業代未払い、パワハラの横行。使い捨てるように過酷労働を強いる企業に「ノー」を突き付ける若者が増えている。
…人口減で人手不足が強まれば働き手が会社の色を塗り分ける構図は強まる。
…企業は「黒」に色分けされることを避けようと必死だ。厚生労働省が13年度に始めた「若者応援企業」の認定事業。…「ホワイト企業」の看板で若者を採用しようと認定を得た事業所はすでに7千を超えた。
 若者が敏感になったのは売り手優位の雇用情勢だけが理由ではない。戦後日本で続いてきた「暗黙の雇用契約」が崩れてきたことも背景にある。
 「長時間労働や転勤を受け入れる代わりに、安定雇用を享受する日本の正社員モデルは幻想になりつつある」。神戸大大学院教授の大内伸哉(51)は指摘する。終身雇用と年功序列が怪しくなり、「サービス残業は割に合わない」と感じる若者が増えてきたのだ。
…「安定」の代わりに若者に何を与えられるのか。日本企業は問いかけられている。
平成27年1月9日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

どうなんでしょうかね。若者が特段鈍感だったとか敏感になったとかいう話ではなくて、不況で就職先がない時期には「ブラックかもしれないけど仕方がない」だったのが、人手不足になったことで「ブラックだからいやだ」になったということではないかと思うのですが。こうした直近の変化を「日本の正社員モデルは幻想になりつつある」という中長期的な動きと結び付けるのは難しいのではないかと思います。
「日本の正社員モデルは幻想になりつつある」というのも、大内先生がどういう文脈でおっしゃられたのかわかりませんが、ゼロになるという意味ではないでしょう。まあ確かに製造業の海外移転などもあって典型的な正社員モデルの人は減っているだろうと思いますが(そもそもそれほど多数派だったのか、実は少数派ではなかったのかという議論も別途ある)、今後もそれなりの割合で存続していくと思われます。実際問題、そのように長期的に雇用していく良好な人材がほしいから各社「ホワイト企業」認定に血道を上げているのではないかと思料するところ。
でまあ若者の意識にしても、諸調査結果によればむしろ若者の安定志向は高まっているのが実態と言われているわけなので、この議論も破綻しているよなあと思わなくもありません。本当に「終身雇用と年功序列が怪しくな」っているのだとしたら、その価値が上がることはむしろ自然ではないかと。
結局のところ安定的な「正社員モデル」が一切提供できなくなるなどということは安定的に継続している企業であれば考えにくいわけで、欲しい人材が安定を求めているのであれば安定を提供するしかないでしょうし、安定なんか要らないからカネが欲しいという人が必要であればそういう処遇を提示するということになるのだろうと思います。その企業で働いたことで転職市場で高い値段がつくのであれば、箔を付けるために低賃金・不安定雇用で働こうという若者もいるでしょうし。
さて同じ日の他の面にある「「ブラック」生む価格頼みの競争―高付加価値モデル課題」という関連記事もご紹介したいと思います。

 「ブラック企業」と批判される企業が生まれる背景の一つに過度な安売り競争がある。参入障壁が低く競合が次々と現れる飲食や小売りなどの業界は構造的に価格競争に陥りやすい。人件費も圧迫されるので一般に労働時間が長く、雇用も給料が安い非正規労働者が多い。
 長く続いたデフレを外食などは低コスト、低価格の戦略で生き抜いてきた。労働問題に詳しい東京駿河台法律事務所の玉木一成弁護士は「消費者でもある若者の収入が減り、結果的に企業は自分の首を絞めた」と指摘する。
 対照的に労働時間や給料が安定しているのは電気、ガスといった規制業種や製造業だ。ただ製造業の就業者は工場の海外移転などで年々減少。日本の雇用構造の中心は非正規が主体のサービス業にシフトしてきている。そして、そのサービス業の生産性の低さが、厳しい労働環境を生む要因の一つになっている。
…それでも、仕事のスキルを高める20歳代に心身をすり減らしてつまずく若者が増えれば、日本は将来にわたる貴重な労働力を失ってしまう。サービス業が安売り依存から脱する付加価値の高いモデルを創ることができるかどうかが今後の若者の働き方に大きく響く。

ここに限らず随所で日本のサービス業の生産性が低いと指摘されるわけですが、従業員の賃金を上げ、サービスの価格も上げて、それで同じようにサービスが売れればサービス業の生産性も上がるわけです。そこで、サービスは一般的に価格弾力性が低いとされているわけですので、サービスの買い手の購買力が確保されればサービスの価格上昇は受け入れられやすいと考えていいのではないでしょうか。サービス業内部での賃上げ→値上げの自己循環では限界がありそうなので、サービス業以外の産業で購買力を高めることが重要なように思われます。ところが、現実には生産性が高いとされている製造業の海外移転を放置してきたわけであり、ここに大きな問題があったのではないでしょうか(ということだとすれば、そもそも購買力が小さいサービス業従事の若者の賃金が抑制されたことをもって「「消費者でもある若者の収入が減り、結果的に企業は自分の首を絞めた」と指摘する」のはかなりトンチンカンだということになりそうです)。
そう考えると、アベノミクスで製造業の業績が好転しているのはいい兆候で、まあ雇用が戻るのはそれほど期待できないかもしれませんが、製造業で賃上げが実現して購買力が上がれば、サービス業も同様に賃上げして価格転嫁するという動きがとりやすくなるのではないでしょうか。もちろん、それに加えてより魅力的な商品を開発、提供するなどの経営努力が加われば、生産性も向上していくのではないかと思います。

働きかたNext(9)

だいぶ終わりに近づいてきた(笑)。記事の内容のほうはますます薄味になってきております。この日のお題は「真の「人財開国」を―外国人阻む壁を砕く。」というものですが、まあ日本は専門技術や知識を持つ外国人には働きにくいという話です。

 「専門技術や知識を持つ外国人を招いて日本経済の底上げを」。政府は旗を振るが、日本は働きやすい環境なのか。取材班は外国人に直撃した。
…日本で働く外国人72万人のうち、経営者や研究者など「高度人材」は13万人とわずか。保守的な研究風土は、野心的な海外の若者には魅力に乏しい。資金と人材が集まる米国など海外に流れる動きが止まらない。
…東京のIT(情報技術)企業を辞めてシンガポールに移った。英語が通じない生活環境を家族が嫌がったからだ。
 シンガポールは高度人材から見た「アジアで最も魅力的な国」。英語も通じ、生活も仕事もしやすい。スイスIMDによる魅力度調査で、日本は世界60カ国中48位。生活環境の充実でも日本は後手に回る。世界で人材獲得競争が激化するなか、問われるのは国を挙げて「来ていただく姿勢」(内閣官房幹部)だ。医療、教育、住宅、年金。日本人と同じ生活者として受け入れる態勢が要る。
…医師の国家試験を受けるには、日本の6年制医大卒と同等の知識が必要。…外国人の就労をはばむ強固な「岩盤」。国は学歴や収入に応じて5年の在留を認める「高度人材ポイント制」を2012年に始めたが、認定は2千件にとどまる。「そんな制度、聞いたことない」との声も少なくない。
…心の壁を取り払い、真の同僚として向き合う。外国人が活躍できる国になるには、一人ひとりの働き手の意識変革も問われている。
平成27年1月9日付日本経済新聞朝刊から)

前々から申し上げているとおり(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090305)私はこの手の話で「人財」という表記が出てきたらゴミ箱に入れることにしており(もちろん個別企業が意志と定義をもって使う分にはご自由です)、残念ながら今回もああやっぱりねという内容のようです。ただまあ「外国人に直撃」と書いてあるわけで5人の事例が列記されていますので。「そういう人がいる」という情報としては有意義かと思います。
さて「保守的な研究風土」については、「東京大学博士課程で物理学を研究するオーストラリア人」が「若いうちから自由に研究し世界で勝負したい」ということで「マックス・プランク研究所と契約し今春、日本を離れる」という事例が紹介されています。まあ日本の研究風土が保守的だというのはそのとおりなのかもしれませんが(私にはよくわからない)、「若いうちから世界で勝負したい」オーストラリア人なら日本の大学で学んだあとはまた違う国で就職するのは自然なことでしょう。これはとりもなおさず世界で勝負したいオーストラリア人が日本の大学を選んだという事例でもあるわけですね。
「英語が通じない生活環境を家族が嫌がった」という話については「医療、教育、住宅、年金。日本人と同じ生活者として受け入れる態勢が要る」というわけですが、まあどこまでやるかにもよりますがコストとの兼ね合い次第のような気はします。というか海外高度人材は日本の年金に加入したいのかな。まあグローバルにみれば手厚い方なのでインドの方(省略しましたがインド人の事例です)は入りたいかな。
なお「スイスIMDによる魅力度調査で、日本は世界60カ国中48位」というのが見慣れない数字だったのでちょっと調べてみたところ、これはIMDの2014 World Competitiveness Yearbook Rankingの中からLabor Market - Availability of SkillsのForeign High-Skilled Peopleの順位を引っ張り出しているのですね。ただこれは全部で328あるクライテリアの一つにしか過ぎず、しかもEconomic PerformanceやInfrastructureのように統計データで算出したものでもなく、おそらくはアンケート調査の中で1問割り当てられている程度のものではないかと思います(激しく自信がないのでご存知の方ご教示いただければ幸甚です)。まあ無意味とは言いませんが大々的に記事にするような数字でもないでしょう。この手の調査は多岐にわたるクライテリアが重層的に積み上げられたレベルにおいて大きな意味があるのではないでしょうか。
「心の壁を取り払い、真の同僚として向き合う」は多様性受容のためには重要な心構えだと思います。日本人に限った話ではないでしょう。

働きかたNext(10)

ようやく最後まで来た(笑)。ということで1月11日の記事で一応このシリーズは一段落ということになったようです。また第2弾があるのでしょうが、とりあえず当面最後のお題は「「待てない世代」走る―下積みより今のやりがい」となっております。

…「待てない世代」。入社まもなく企業を飛び出す若者が多い。新卒採用の大卒は毎年約40万人。約3割が3年以内に辞める。脱・大企業志向は就職戦線にも表れている。…「優秀な若者が企業に背を向け、起業やNPOベンチャーに向かっている」(慶大大学院特任教授の高橋俊介=60)
 大企業に入れば一生安泰。若いうちの我慢がいずれ報われる。大企業の相次ぐ破綻やリストラを見てきた若者にそんな「神話」は通用しない。新たな魅力を示せなければ、若者はためらわずに企業社会から飛び出す。
…長い下積みを経た後で任される大仕事よりも、目の前の確かなやりがいを求める。そんな「待てない世代」とどう向き合うか。…
 タクシー大手の日本交通(東京・北)。山本智也(28)は13年の新卒入社後すぐに車載機器の企画、開発の責任者に抜てきされた。取締役会にも出る社長直轄の「特命サラリーマン」だ。東大で航空宇宙工学を学び、…「自分の強みを発揮できる世界で仕事したい」と日交を選んだ。…
 外に飛び出て壁に当たった若者を再び受け入れた企業も。村田健一(仮名、29)は昨夏、大和証券に2年半ぶりに復帰した。創業間もない情報技術ベンチャーに転職したが、知識や経験が足りないと痛感していたときに古巣と縁があった。…
 若者は自らの手で次の働き方を創り出そうとしている。変化を恐れず前に進もう。それはすべての働き手へのメッセージでもある。
平成27年1月11日付日本経済新聞朝刊から)

「新たな魅力を示せなければ、若者はためらわずに企業社会から飛び出す。」というわけですが、「ためらわずに企業社会から飛び出」した若者というのがどのくらいいるかというと、まあ飛び出さない若者に較べたらずいぶん少ないんじゃないかと思います。
実はそれは当然の話で、日経新聞さんは「大企業に入れば一生安泰。若いうちの我慢がいずれ報われる。」というのが大企業の魅力だと思い込んでおられるようですが(まあ確かにそのとおりであればそれはそれでけっこうな話だが)、しかしそれが大企業の第一の魅力だと思っている若者というのも少数ではないかと思います。仕事を通じて成長できるとか、社会の役に立てるとか、世界を相手にスケールの大きい仕事ができるとか、まあいろいろな魅力にひかれて企業を選んでいるのでしょう。日経さんのお考えになる「古い魅力」とは違った「新しい魅力」を企業はとっくに示しているわけですね。
でまあ大組織は肌に合わないとか、もっと厚遇の会社があるとかいうことで転職するというのも非常に自然なことでしょう。チャンスがあるならそれをつかむことは大事だと思います。加えて、昨年の夏に日経「経済教室」でも紹介されていたと思いますが(平成26年8月15日付、竹内規彦早大准教授)、米国では3年くらい働くととにかく転職したい、違うことをやりたいということで転職するという「変動的キャリア」という類型が出てきているとのことで、私の周囲にもあああの人そうだよねという方もいらっしゃいます(https://twitter.com/roumuya/status/500201982116630528)。なるほど小さいものの変化はあります。
そこでまあ最後は「若者は自らの手で次の働き方を創り出そうとしている。変化を恐れず前に進もう。それはすべての働き手へのメッセージでもある。」と美しい自己陶酔で終わるわけですが、しかしその事例としてあげられている特命サラリーマンも古巣への復帰も企業がやってくれたことであって若者が「自らの手で次の働き方を創り出」したわけじゃないよねえ。ということでなんともしまらない幕切れとなったのでありました。やれやれ。
正直成り行きでここまでつきあってしまってかなり疲れたわけですが、全体の感想を簡単に書いておきますと、最初にも書いたとおりですが事例紹介が中心で、面白い事例はあるのですが、しかしそれを通じて全体として整合性のある理屈の通った提言に結びついているかと言うと全くそんなことはないかなと。ただまあ従来型長期雇用も主要かつ重要な一部として活用しつつ多様化をはかっていくという考え方とは比較的親和的な部分も多いように思われ(まあその意図があるかどうかは不明ですが)、だいぶ現実的なようにも感じました。