働きかたNext(9)

だいぶ終わりに近づいてきた(笑)。記事の内容のほうはますます薄味になってきております。この日のお題は「真の「人財開国」を―外国人阻む壁を砕く。」というものですが、まあ日本は専門技術や知識を持つ外国人には働きにくいという話です。

 「専門技術や知識を持つ外国人を招いて日本経済の底上げを」。政府は旗を振るが、日本は働きやすい環境なのか。取材班は外国人に直撃した。
…日本で働く外国人72万人のうち、経営者や研究者など「高度人材」は13万人とわずか。保守的な研究風土は、野心的な海外の若者には魅力に乏しい。資金と人材が集まる米国など海外に流れる動きが止まらない。
…東京のIT(情報技術)企業を辞めてシンガポールに移った。英語が通じない生活環境を家族が嫌がったからだ。
 シンガポールは高度人材から見た「アジアで最も魅力的な国」。英語も通じ、生活も仕事もしやすい。スイスIMDによる魅力度調査で、日本は世界60カ国中48位。生活環境の充実でも日本は後手に回る。世界で人材獲得競争が激化するなか、問われるのは国を挙げて「来ていただく姿勢」(内閣官房幹部)だ。医療、教育、住宅、年金。日本人と同じ生活者として受け入れる態勢が要る。
…医師の国家試験を受けるには、日本の6年制医大卒と同等の知識が必要。…外国人の就労をはばむ強固な「岩盤」。国は学歴や収入に応じて5年の在留を認める「高度人材ポイント制」を2012年に始めたが、認定は2千件にとどまる。「そんな制度、聞いたことない」との声も少なくない。
…心の壁を取り払い、真の同僚として向き合う。外国人が活躍できる国になるには、一人ひとりの働き手の意識変革も問われている。
平成27年1月9日付日本経済新聞朝刊から)

前々から申し上げているとおり(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090305)私はこの手の話で「人財」という表記が出てきたらゴミ箱に入れることにしており(もちろん個別企業が意志と定義をもって使う分にはご自由です)、残念ながら今回もああやっぱりねという内容のようです。ただまあ「外国人に直撃」と書いてあるわけで5人の事例が列記されていますので。「そういう人がいる」という情報としては有意義かと思います。
さて「保守的な研究風土」については、「東京大学博士課程で物理学を研究するオーストラリア人」が「若いうちから自由に研究し世界で勝負したい」ということで「マックス・プランク研究所と契約し今春、日本を離れる」という事例が紹介されています。まあ日本の研究風土が保守的だというのはそのとおりなのかもしれませんが(私にはよくわからない)、「若いうちから世界で勝負したい」オーストラリア人なら日本の大学で学んだあとはまた違う国で就職するのは自然なことでしょう。これはとりもなおさず世界で勝負したいオーストラリア人が日本の大学を選んだという事例でもあるわけですね。
「英語が通じない生活環境を家族が嫌がった」という話については「医療、教育、住宅、年金。日本人と同じ生活者として受け入れる態勢が要る」というわけですが、まあどこまでやるかにもよりますがコストとの兼ね合い次第のような気はします。というか海外高度人材は日本の年金に加入したいのかな。まあグローバルにみれば手厚い方なのでインドの方(省略しましたがインド人の事例です)は入りたいかな。
なお「スイスIMDによる魅力度調査で、日本は世界60カ国中48位」というのが見慣れない数字だったのでちょっと調べてみたところ、これはIMDの2014 World Competitiveness Yearbook Rankingの中からLabor Market - Availability of SkillsのForeign High-Skilled Peopleの順位を引っ張り出しているのですね。ただこれは全部で328あるクライテリアの一つにしか過ぎず、しかもEconomic PerformanceやInfrastructureのように統計データで算出したものでもなく、おそらくはアンケート調査の中で1問割り当てられている程度のものではないかと思います(激しく自信がないのでご存知の方ご教示いただければ幸甚です)。まあ無意味とは言いませんが大々的に記事にするような数字でもないでしょう。この手の調査は多岐にわたるクライテリアが重層的に積み上げられたレベルにおいて大きな意味があるのではないでしょうか。
「心の壁を取り払い、真の同僚として向き合う」は多様性受容のためには重要な心構えだと思います。日本人に限った話ではないでしょう。