働きかたNext(10)

ようやく最後まで来た(笑)。ということで1月11日の記事で一応このシリーズは一段落ということになったようです。また第2弾があるのでしょうが、とりあえず当面最後のお題は「「待てない世代」走る―下積みより今のやりがい」となっております。

…「待てない世代」。入社まもなく企業を飛び出す若者が多い。新卒採用の大卒は毎年約40万人。約3割が3年以内に辞める。脱・大企業志向は就職戦線にも表れている。…「優秀な若者が企業に背を向け、起業やNPOベンチャーに向かっている」(慶大大学院特任教授の高橋俊介=60)
 大企業に入れば一生安泰。若いうちの我慢がいずれ報われる。大企業の相次ぐ破綻やリストラを見てきた若者にそんな「神話」は通用しない。新たな魅力を示せなければ、若者はためらわずに企業社会から飛び出す。
…長い下積みを経た後で任される大仕事よりも、目の前の確かなやりがいを求める。そんな「待てない世代」とどう向き合うか。…
 タクシー大手の日本交通(東京・北)。山本智也(28)は13年の新卒入社後すぐに車載機器の企画、開発の責任者に抜てきされた。取締役会にも出る社長直轄の「特命サラリーマン」だ。東大で航空宇宙工学を学び、…「自分の強みを発揮できる世界で仕事したい」と日交を選んだ。…
 外に飛び出て壁に当たった若者を再び受け入れた企業も。村田健一(仮名、29)は昨夏、大和証券に2年半ぶりに復帰した。創業間もない情報技術ベンチャーに転職したが、知識や経験が足りないと痛感していたときに古巣と縁があった。…
 若者は自らの手で次の働き方を創り出そうとしている。変化を恐れず前に進もう。それはすべての働き手へのメッセージでもある。
平成27年1月11日付日本経済新聞朝刊から)

「新たな魅力を示せなければ、若者はためらわずに企業社会から飛び出す。」というわけですが、「ためらわずに企業社会から飛び出」した若者というのがどのくらいいるかというと、まあ飛び出さない若者に較べたらずいぶん少ないんじゃないかと思います。
実はそれは当然の話で、日経新聞さんは「大企業に入れば一生安泰。若いうちの我慢がいずれ報われる。」というのが大企業の魅力だと思い込んでおられるようですが(まあ確かにそのとおりであればそれはそれでけっこうな話だが)、しかしそれが大企業の第一の魅力だと思っている若者というのも少数ではないかと思います。仕事を通じて成長できるとか、社会の役に立てるとか、世界を相手にスケールの大きい仕事ができるとか、まあいろいろな魅力にひかれて企業を選んでいるのでしょう。日経さんのお考えになる「古い魅力」とは違った「新しい魅力」を企業はとっくに示しているわけですね。
でまあ大組織は肌に合わないとか、もっと厚遇の会社があるとかいうことで転職するというのも非常に自然なことでしょう。チャンスがあるならそれをつかむことは大事だと思います。加えて、昨年の夏に日経「経済教室」でも紹介されていたと思いますが(平成26年8月15日付、竹内規彦早大准教授)、米国では3年くらい働くととにかく転職したい、違うことをやりたいということで転職するという「変動的キャリア」という類型が出てきているとのことで、私の周囲にもあああの人そうだよねという方もいらっしゃいます(https://twitter.com/roumuya/status/500201982116630528)。なるほど小さいものの変化はあります。
そこでまあ最後は「若者は自らの手で次の働き方を創り出そうとしている。変化を恐れず前に進もう。それはすべての働き手へのメッセージでもある。」と美しい自己陶酔で終わるわけですが、しかしその事例としてあげられている特命サラリーマンも古巣への復帰も企業がやってくれたことであって若者が「自らの手で次の働き方を創り出」したわけじゃないよねえ。ということでなんともしまらない幕切れとなったのでありました。やれやれ。
正直成り行きでここまでつきあってしまってかなり疲れたわけですが、全体の感想を簡単に書いておきますと、最初にも書いたとおりですが事例紹介が中心で、面白い事例はあるのですが、しかしそれを通じて全体として整合性のある理屈の通った提言に結びついているかと言うと全くそんなことはないかなと。ただまあ従来型長期雇用も主要かつ重要な一部として活用しつつ多様化をはかっていくという考え方とは比較的親和的な部分も多いように思われ(まあその意図があるかどうかは不明ですが)、だいぶ現実的なようにも感じました。